第177話 『ヒャッハー式英才教育:卒業試験②』
投稿ペースぐっだぐだやんけ……
「(なんかアイツとんでもない事言わなかったか……?)」
「(あぁ、私も聞いた。聞いたが、その上で何言ってるか分からないぞ……?)」
「(いや、狙いは分かる。分かるけど……感覚が違い過ぎる)」
サクラの盾使わない発言に、もはやドン引き……というか理解出来ないモノを見るような視線を向けるヒャッハー共。
普段はそういった視線を向けられる側である彼等が向ける側に立っている。
それだけで、この状況が如何に異常事態か伝わるだろうか。
『ーーーーーーーーー』
ヒャッハー共が戦いている間も、当然時間は止まることなく進み続けている。
ズズズズズズ……と重い音を響かせながら、ロックゴーレムがサクラ目掛けて2度目の拳を放つ。
「よーし。ばっちこい!っおぅ!」
きもち1度目よりも大きく振りかぶられたその一撃を、サクラは宣言通り盾を使うこと無く受け止める。
鎧の効果で押し込まれる事は無かったが、さすがにまだ盾も構えずにフィールドボスの一撃を無傷で耐えられるほどの域には達していなかったようで、サクラのHPは3%ほど削られている。
軽攻撃とは言え、フィールドボスの一撃をノーガードで受けてHPの減少が3%だけというのは、事情を知らない他のプレイヤーが見たらバグかチートを疑うレベルの異常事態であるが、当の本人にその自覚はない。
それにはもちろん理由がある。
サクラは、ここ1週間レベルアップによるステータスの上昇ではなく、雑魚相手にタンクとしての動き方の練習をメインにしていた。
それでも、塵も積もれば山となると言うことわざもあるように少しずつ蓄積された経験値によってレベルをふたつ上げてレベル30に到達していた。
単純なステータスの上昇に技術の向上などで着実に防御力を高めているが、サクラは未だにトーカ達の攻撃を防ぎ切るまでには至っていないのだ。
というか、ヒャッハーに片足突っ込んだサクラの防御力を全身までどっぷりとヒャッハーに浸かった彼等は平然とぶち抜いて来る。
そんな、『遥かに強力な存在』を知っているどころか、その『遥かに強力な存在』であるトーカ達からの攻撃を頻繁に受けていたサクラは、『攻撃』という概念に対する基準値が並外れて高い。
つまり、サクラに『攻撃』と認識される為に必要な最低威力のハードルがとても高い。
それこそ、盾を使わずに受けてようやくHPを3%ほど削るような攻撃は、攻撃の内に入らないーー少なくとも脅威とは感じないーーという感性が育ってしまう程度には人外魔境に身を置いていたサクラはヒャッハー共に染まってしまっているのだ。
そして、そんな防御力お化けを生み出してしまった当の本人達も戦慄しているのだから始末が悪い。
可愛い妹分が《EBO》を始めると聞いて、嬉しくなったヒャッハー共が気合いを入れて鍛え上げた結果がこれである。
ロックゴーレムは、自身のHPが減らないどころか相手が動かないために行動パターンが一切変わらず、サクラが防御をせずに受けてようやく少しだけダメージを通せる様な弱い攻撃(普通のプレイヤーにとっては十分脅威)をひたすらに繰り返している。
「殆ど効かないとは言え、さすがに無防備で殴られ続けるのはあんまり気分よくないなぁ」
自身の数倍の巨体を待つロックゴーレムにガスゴスと重く鈍い音を立て殴られ続けながら、苦笑気味にそんな事を言ってのけるサクラの姿は、正直に言って不気味だった。
そうしてしばらく殴られ続け、サクラのHPがようやく半分ほど減少した頃。
「あちゃー、もう防御しなくても平気になっちゃったかぁ」
ついに、『耐久者』の効果によって上昇し続ける防御力は、ノーガードでもHPが一切減らなくなってしまうまでに到達した。
ロックゴーレムの小攻撃ではサクラのHPは減らず、サクラも『防御は最大の攻撃』の効果によって攻撃出来ないためロックゴーレムのHPを減らせない。
つまり、互いのHPを含めたあらゆる状況が一切変動しなくなってしまったのだ。
「さすがにこの状況は良くないよね」
ごすんっ、ごすんっと殴られる度に重く鈍い音を鎧で奏でていたサクラも望まない状況の膠着に危機感を覚え、状況を変えるべく動き出した。
それは、ロックゴーレムに向かって歩みを進めるという単純な行動だった。
しかし、その小さな変化が戦況に大きな動きを作り出すことになる。
「動いてる時は【不動の大樹】の効果は発動しないから、ロックゴーレムが拳を振りかぶってる時にだけ前進する……っと」
必要な対策を口に出して言う事で改めて確認しながら、サクラは自身の言葉通りの行動を取る。
ロックゴーレムが腕を振りかぶっている間に前進し、振り抜き始めたら停止する。
ロックゴーレムの拳をノーガードどころか意に介する様子もなく受け止め、再び振りかぶりのモーションに入ったら歩みを進める。
生来の素直さゆえか、そんなちまちましたパターンを丁寧になぞりながら、サクラはロックゴーレム目指して進んで行く。
どんなに攻撃しても止められない敵対存在がゆっくりと近付いてくる……
ロックゴーレムに自我と呼べるようなものがあったとしたら、この状況にとてつもない恐怖を抱いた事だろう。
耐久中に時折使用していた『挑発』の効果によって、ロックゴーレムのターゲットは既にサクラに固定されているため、自我のないロックゴーレムは狙いを変えることも出来ず愚直にサクラへと効かない拳を振るい続ける。
だいぶ前から暇そうにしているトーカ達をよそに、サクラとロックゴーレムのHPが一切変動しない戦闘は続く。
そんな戦闘とも呼べない『ナニカ』を繰り広げながら、サクラはそこまで離れていない距離をーー攻撃を受ける度に立ち止まらなければならない為にーーそこそこの時間をかけて進み切った。
現在、ロックゴーレムとサクラの間に間隔はほとんどなく、サクラが手を伸ばしきらずともロックゴーレムの足に触れられる程に1人と一体は接近している。
そして、そこまで来ればさすがにロックゴーレムの行動パターンも変化する。
今までは無造作に拳を振るうだけだったロックゴーレムが、その足を振り上げてサクラを蹴り付ける。
拳と同じように重鈍な一撃だが、その質量と物理法則によってその蹴りはかなりの勢いを持ってサクラに襲いかかった。
「うごっ……!さすがにこれはちょっと怖い……!」
岩の巨人に至近距離から蹴り付けられるという、普通ならトラウマものの攻撃を、しかしサクラは『ちょっと怖い』で済まし腕をクロスして防御する。
至近距離からの蹴りはさすがに雑に振るわれた拳よりは威力が高かったようで、時間をかけて防御力を高めさらに防除姿勢をとったサクラのHPを僅かに減少させる。
人間くらいならピンボールのように吹き飛ばされてもおかしくない一撃を、1歩も引くことなく少量のダメージで耐える。
その光景は、防御力だけ見れば平均以下のヒャッハー達の頬をさらに引き攣らせたが、幸か不幸かその様子はサクラの視界には入らなかった。
「おわっ、うおっ、うはっ」
蹴り、踏み付け、叩き潰し。
蹴りを防がれても止むことのない足元に陣取った敵へ繰り出されるロックゴーレムの猛攻を、さすがに防御姿勢を取ったがサクラはそれでも余裕を持って耐え続ける。
ロックゴーレムの攻撃を一撃受ける度に、僅かにサクラのHPは減少するものの、その減少量は決して多いとは言えない。
それでも、少しづつ少しづつサクラのHPは削られていき、戦闘開始からかなりの時間をかけて、それこそ『耐久者』や【遅咲き】など時間経過で効力の増していく能力が完全に発動しきるまでの時間をかけて、ようやくサクラの残りHPが10%を切った。
「ふぅ。やっとここまで来た。そろそろ潮時だよね【ガードアップ】」
そうつぶやくと、サクラはタンクでは無いサクラのもうひとつの顔……神官としての能力で、自身のVITを上昇させる。
ヒャッハーに染まりかけているタンクとは違い、まだまだ神官としては未熟なひよっこのバフをひとつ盛っただけ。やったことはたったそれだけだ。
しかし、その『たったそれだけ』によって、ただでさえ辛うじて通用していたロックゴーレムの攻撃が完全に通用しなくなる。
「防御力が高過ぎるって言うのも考えものだなぁ。コレはそこそこに削ってくれなきゃただの飾りだしね」
そして、未だ無意味に攻撃を続けるロックゴーレムを半ば無視しながら、手に持っていただけだった大盾を構え直す。
そして、大きく振りかぶりーー
「バイバイ。【仕返し】」
ーー勢いをつけてロックゴーレムを殴りつける。
ゴッ……っと、これまでのロックゴーレムの攻撃とは比べるべくもない地味な音と共にサクラの一撃はロックゴーレムを捉えた。
しかし叩き出したダメージはそれこそロックゴーレムの攻撃とは比べ物にならないほどの威力を孕んでいる。
時間経過で効力を高める能力の全てを引き出す程の長時間かけて蓄積されたその破壊力は、『防御は最大の攻撃』の効果によって1.5倍に増幅されている。
そこに加えて、池の主戦で新たに取得した『窮鼠猫を噛む』という『自身のHPが10%以下の時、敵に与えるダメージが2倍になる』という効果を持つ新たな称号。
つまり、今のサクラの【仕返し】には、この戦闘が始まってから今の今まで蓄積されたダメージの3倍の威力が込められているのだ。
そんな凶悪極まりない一撃を受けたロックゴーレムがどうなったのか。
それは、頬を引き攣らせながら絶句しているヒャッハー達と驚きと困惑の入り交じった表情をしているサクラの顔。そして、サクラの脳内に鳴り響くレベルアップのファンファーレという状況を見れば語るまでもないだろう。
本編中に差し込む余裕が無かった情報の補足コーナー!
①称号『大金星』の効果
本来なら勝てないような圧倒的強敵に打ち勝った証
自分よりレベルが高い相手との戦闘時ステータスが2倍になる
『ジャイアントキリング』を持った状態で、さらに戦力差のあるボスキャラを討伐する(味方ありの場合は討伐に必要不可欠な活躍をする)事で『ジャイアントキリング』が変化する
②池の主戦前のリーシャとサクラの途切れ途切れの会話
実はあの会話の中でサクラを気に入ったリーシャが『劣水竜の逆鱗』(VIT+50)をプレゼントしてます
こっそり水系統の小耐性があるので池の主戦での流れ氷柱の防御にも役立ってたり(劣火竜は火系統、劣地竜は土系統、劣風竜は風系統に小耐性がそれぞれある)
本文中に回想で入れようとしてたけどキャラが勝手に動いた結果そんな余裕は亡くなったよ
……次回はおそらく島編になるかと島探索だけで編って区切るほど続くかはヒャッハー共と未来の作者次第
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