第176話 『ヒャッハー式英才教育:卒業試験①』
お久しぶりです
このコロナ騒ぎで生活パターンが変わってしまってどうも執筆感覚が狂う……
いつもは行き帰りの電車内で書いてたのですが、それが無いだけで妙に取っ掛かりにくいんですよね
何から何まで異質なサクラの《EBO》デビュー初日から早1週間。
池の主の最期についてリーシャの説明を受けた後、理解不能な事柄から逃げるようにログアウトし眠りについたサクラはその翌日から1週間かけて、『普通』のタンクとしての動きを練習していた。
ヒャッハー共も初日から飛ばし過ぎた自覚はあるようで、2日目以降はぶっ飛んだ方法ではなく普通に付き添いをしている。
元々、ヒャッハー共のおかげ(せい?)で特殊なスタートダッシュを決めて防御力だけならヒャッハーに片足突っ込んだサクラは、普通の初心者タンクよりもタンクとしての動きの練習だけに専念出来た事も大きいだろう。
自身のHP管理を含めた耐久を初日に強行軍でその身に叩き込んだサクラは、それ以降の時間を全て自身の耐久を活かして他者を守る動きの特訓につぎ込めたのだ。
この一週間、様々な特訓が行われた。
様々な雑魚敵を相手に棒立ちするトーカ達が攻撃されないように立ち回ったり、トーカの純粋な破壊力やリクルスの果ての無い連撃、カレットの凶悪な魔法にリーシャの正確無比な遠距離狙撃、メイのゴーレム軍団による一対多の戦闘、そしてリベットの堅実な動きを相手に自身の命を守ったり(成功率1割未満)。
そんな諸々の特訓が功を奏したのか、最終的には初日の行動や称号達の影響で純粋なタンクというよりはカウンター型のタンクに近い戦闘スタイルに落ち着いたものの、この1週間でサクラの力量は飛躍的に向上していた。
そして、キリよく開始1週間目となる今日。
彼女はヒャッハー式英才教育とでも言うべきこの一週間の特訓の最後の試練に向き合っていた。
「サクラ、この一週間色々なヤツと戦って来たが、最後はコイツだ。このロックゴーレムを俺達を守りながら1人で安定して倒せれば1人前だろう」
そう言うトーカの後ろにいるのは、岩石で出来た巨体を持つ異形の人型。
先の池の主戦でメイが使役していたゴーレムと似ているが、明らかに格が違う。
ヒャッハー共には鉱山だのロッ君だの柔らかサンドバッグだの言われているが、それ以外のいわゆる中堅プレイヤーは未だに苦戦ないし長期戦を免れない強大な敵。
『長閑な草原』のフィールドボス、ロックゴーレムである。
言わずもがな、普通のタンクはソロでフィールドボスと戦ったりしないのだが、幸か不幸かこのヒャッハー共は揃いも揃ってロックゴーレムを鼻歌交じりにソロマラソン出来てしまう者ばかりだ。
そのため、彼等の中でロックゴーレムは1人で狩れて当たり前の存在になってしまっている。
ロックゴーレムのソロ討伐が彼等のプレイヤーの実力としての一区切りの目安になっている、あるいはなってしまっているのだ。
これがヒャッハーの英才教育であり、さらに言えば凶育ですらあるのだが、そんなものはヒャッハー達に自覚は無い。
ロックゴーレムをタンクに1人で倒せと言ったトーカだけでなく、リクルスとカレットも出来て当然とでも言わんばかりに頷いている。
ちなみに、リーシャとメイは秘境鉱床に素材集めに、リベットは今日はログインしていないため3人は不在だ。
「それは、難しいんじゃ……」
だが、まだヒャッハーに染まり切っていないサクラにとっては明らかに硬く強いボスを独力、しかも3人を守りながらと言われても怖気付いてしまう。
「そうか?サクラなら行けると思うぞ」
「うむ!サクラなら余裕だろう」
「たしかにロッ君は見た目からも分かる通り、高い防御力に高いHP、さらに高い攻撃力を有しているが、同じく見た目通り行動が遅い。よく見て防御すればサクラなら大丈夫だろう」
兄とカレットのサラッとした言葉と、トーカの根拠付きのお墨付き。
どちらがよりサクラの不安を払拭したか語るまでもないが、3人にそう言われてサクラは覚悟を決めたようだ。
「……分かった。やってみる」
そう力強く頷き、サクラはトーカ達を背にかばいながらロックゴーレムへと向かって1歩踏み出す。
『ーーーーーーーー』
そんなサクラに反応した訳では無いが、タイミングよく攻撃圏内にまで4人を捉えたロックゴーレムがズズズズズ……と、石臼を擦るかのような重低音を響かせながら拳を振りかぶる。
人間の数倍のサイズを誇る巨体が拳を振りかぶる様子は、分かっていても拭えない原始的な恐怖を呼び起こす。
しかし、それ以上の恐怖を知っているサクラは一切怯むことなく拳を振りかぶったロックゴーレムの前に立ち塞がる。
と、そこで気付く。
ロックゴーレムが狙っているのは、重装備を着込み明らかに硬そうなサクラではなく、最も防具が少ないリクルスだ。
ロックゴーレムに相手の防具の差で対象を選ぶ性質があるのか、それとも全くの偶然なのか、それは分からないが、そんな事はどうでもいい。
今ここで重要なのは、巨体ゆえに攻撃範囲の広いロックゴーレムの標的になったのが、前に立つサクラではなく後ろに待機するリクルスだったという事だ。
いかに高レベルのプレイヤーとは言っても、リクルスは攻撃特化で紙装甲の軽戦士。極端に鈍い代わりにそれ以外のスペックが高いロックゴーレムの一撃をもろに喰らえば、即死は免れないだろう。
そんな致死の攻撃が自身に狙いを付けているというのに、リクルスはまるで対応する様子が無い。
防御も回避もなにもせず、ただ突っ立って成り行きを眺めている。
そして、それで問題は無かった。
「キミの相手は私!『挑発』!【仕返し】!」
そう言ってサクラは敵のヘイトを自身に集めるタンク御用達のスキルである『挑発』と、サクラの基本スタイルである【仕返し】を発動する。
そうすれば当然、既に腕を振りかぶっていたロックゴーレムの標的が、リクルスからサクラに移る。
自身の数倍のサイズ、重量に至っては数十倍にもなろうかという岩石で出来た巨体から放たれる拳を、サクラは1歩も引くこと無く『大盾【桜吹雪】』で受け止める。
ゴズンッ。という重く硬質な音を立ててぶつかり合ったサクラの盾とロックゴーレムの拳。
そして、攻撃を受けたサクラは……
「うっ……ん?あれ、全然効かないや」
呆気に取られた様な軽い声で、そんな気の抜けた事を言っていた。
軽量な装備のプレイヤーなら吹き飛び、重装備でも押し込まれる事は間違いないその超質量の一撃を受けてなお、サクラの身体はその場から全く動いていないのだ。
これは、全身鎧の『千年桜の鎧』に付与された【不動の大樹】の効果により、装備者の望まない強制移動ーー今回の場合はロックゴーレムの攻撃による押し込みーーが無効化されているからこその結果だ。
だが、特殊な効果に頼ったのはそれだけで、一切減少していないHPバーは自前の防御力の成果だと言うのはさすがヒャッハーの卵と言ったところか。
「(うわぁ、何あの防御力。絶対敵に回したくねぇ……)」
「(今はまだ対物理の方が得意だが、そのうち魔法にも対応出来るようになると思うと気が重いな……)」
「(なんか、とてつもない者を生み出してしまった気がするのは気の所為だろうか……)」
余裕で耐えるのは想定していても、一切HPが減らないのはさすがに想定外だったのだろう。
サクラの尋常ではない防御力を目の当たりにして、さすがのヒャッハー共も若干引いたようにコソコソと言葉を交わしている。
先輩として負けていられない。これからももっと強くなろう。そう、ヒャッハー共は頬を引き攣らせながら決意を固めた。
「うーん。出来ればHPはある程度減らして貰った方が都合がいいんだけど……試しに盾を使わないで受けてみようかな?」
彼等には背を向けているため、後ろで立っているヒャッハー共の様子など知る由もないサクラは、そんな普通じゃありえない呟きでさらにヒャッハー共の頬を引き攣らせた。
サクラちゃんはどこに行こうとしてるの……?
感想&アイディアをいただけると作者は泣いて喜びます
あとアレですね、下の方にある『☆☆☆☆☆』を『★★★★★』にして頂けるとさらに狂喜乱舞します
(そういえば評価のお願いって初めてした気がするぞ……?)




