第175話 『ヒャッハー式英才教育:《池の主》了』
お久しぶりです
いやー、今回は難産でした
えぇ、本当に。どうしてキャラって勝手に動くんでしょうね?
レベルが11から28への超アップを果たしたサクラの受けた衝撃は大きかった。
彼女の感覚で言えばこの戦闘は殆ど何もしておらず、せいぜい最後に少し足止めした程度でしかない。
なのにこんなに経験値を貰ってもいいものなのか……
大量レベルアップの驚きもだが、今のサクラはそんな申し訳なさでいっぱいだった。
「そっか、お前レベル低かったもんな。どんくらい上がったん?俺でも2つ上がるくらいだから相当上がってるよな」
「えっと……11だったのが28になったよ」
サクラの叫び声に反応したリクルスが興味深そうに聞いてくる。
心の中になんとも言えないもやもやを抱えたサクラの返事の声が小さくなってしまったのは意図してのことでは無かったのだろう。
それでもやはり、真っ当に戦っていたリクルスが2しか上がっていないのに自分はこんなに……と思ってしまう。
普通に考えれば2『しか』上がっていないではなく、2『も』上がったなのだが、初日にしてはありえない強敵との連戦でレベルがハイペースで上がっていたこともあり、サクラの中でのレベルの上昇速度のイメージは普通と比べてだいぶズレていた。
それに加えて、たとえおなじ量の経験値を得たとしても自分は低レベルでリクルス達は高レベルであるためレベルアップへの要求量にも大きな差がある。
そんな諸々の事を失念してしまう程度には、激戦直後の大量レベルアップの混乱は大きかったのだ。
……が。そんな事で悩んでいたのは彼女1人だけだった。
「おお!すげぇじゃん!おめっとさん」
「サクラは大活躍だったからな!更に強くなって頼もしい限りだ」
「池の主との遭遇があったとはいえ初日で28か……凄い成長速度だな」
むしろ、その報告を聞いてリクルス達は喜び、祝ってくれている。
「でも……私今回なんにも出来てないし……邪魔してばっかりで……」
そんなお祝いムードがどこか心地悪くて、絞り出すような声でサクラが呟く。
「「「「「え?」」」」」
「えっ?」
しかし、そんなサクラの言葉を聞いた5人から返ってきたのは「何言ってるんだ?」というような反応で、サクラは呆気に取られてしまう。
「何言ってんだお前」
実際に口にも出された。
「あー、何うじうじしてんのかと思ったらそういう事か。最後ぶっ倒れてて覚えてないのかも知んねぇけどさ。それ以外でもお前役に立ちこそすれ邪魔なんて事はねぇぞ?」
続けてリクルスの口から出てきたのは、そんな呆れたような雰囲気をまとった言葉だった。
「最初に池の主引っ張り出して来たのはお前。俺達が戦闘してる中で戦えないメイの側にいて流れ弾から守ってたのもお前。最後の最後で俺が焦って全部無駄にしかけた時にフォローしてくれたのもお前。むしろMVPだぞ?」
「……え?………………え?」
リクルスの言っていることが飲み込めなくて、他の4人の顔を見渡しても、誰一人としてその言葉に不満を持っているような顔はしていなかった。
足を引っ張っていた申し訳なさでいっぱいになっていたところでそんな事はないしむしろMVPだなんて言われて、サクラは処理しきれずに頭にはてなマークが乱立していた。
そんなサクラの様子を見て、リーシャが何かを思い付いたようにサクラに話しかける。
「そうだ。サクラちゃんがリクルス庇ったあと何があったか教えてあげるよ。あの後ね……」
そうしてリーシャが語り始めたのは、サクラが覚えている最後の光景……リクルスの拳が池の主を捉えた直後の話だった。
◆◆◆◆◆
『キシュィァァァァァァァィッ!!!!』
今考えうる強化を最大限に乗せたリクルスの一撃は、カレットの【白龍砲】を受けてなお6割近く残していたHPの全てを消し飛ばした。
耳を劈くような絶叫と共に、HPバーと身体をガラス細工のように、あるいは大きな氷像のようにに砕け散らせてていくその光景は、どこか幻想的ですらあった。
「よっしゃぁ!決まった!」
ついに本気で放つ事の出来た『壱打確殺』の成果に、より正確に言えばライバル視していたカレットの【白龍砲】よりも多いダメージを出せた事に最大級の喜びを感じながらリクルスがガッツポーズをする。
「むぅ……」
「……ほんと、負けず嫌いだよなお前ら」
そんなリクルスを、リクルスが叩き出したダメージを見て悔しげな様子のカレットを見て、トーカが微笑ましげに苦笑を浮かべる。
「綺麗……だけど勿体ないような……」
美しく幻想的な散り際を見せる池の主に、その光景に心奪われつつも生産職としての性なのか素材としても見てしまっているメイ。
皆が全てが終わったような雰囲気を出している中、1人だけ散り行く池の主を訝しげに眺めている者がいた。
「んー?なーんか引っかかるなのよねぇ……うーん……」
リーシャである。
言語化できない、自分でもよく分からない違和感に従って池の主の崩壊を観察し続ける。
だからこそ、彼女が最初に気付くことが出来た。
「っ!みんな!まだ終わってない!」
砕け散る池の主の巨躯。
そう。砕け散っているのだ。
光の粒になって霧散するのではなく。
そして、リーシャのその声にみんなが反応するよりも一瞬早く、それは始まった。
ピシリと、池の主の崩壊が停止する。
氷が砕けるようにバラバラになって行ったHPバーすら再び凍り付いたように静止し、そのまま歪なHPバーとして再び機能し始める。
からっぽになって砕けたHPバーの破片のひとつずつを満たすように、HPバーが氷色に満たされる。
通常の緑色のHPバーとは違う、明らかに異質なソレに、感じたことの無い不気味さが湧き上がってくる。
HPバーの復活に呼応するように、池の主の身体の崩壊も停止し、離れた欠片同士を繋ぐように薄い氷の膜が張る。
ピシリピシリと音を立てながら、歪な氷の巨像となって再生していく池の主に、もう終わったような空気になっていたトーカ達が驚き、しかし次の瞬間には臨戦態勢を整えていた。
つい先程放った『壱打確殺』のデメリットが発動してるリクルスと、元々自分自身では戦闘能力からきしのメイ、そして氷の巨腕の下敷きになっているサクラの3人は戦えないため、今戦えるのはトーカとカレット、リーシャの3人だけだ。
これでは苦戦は免れないだろう。
「まぁ、やれるだけやってみるとしよう。まだMPは残っているしな」
「あぁ、正直こんなギミックがあるなんて予想外だ。厳しいとは思うが、抵抗しない理由にはならないな」
トーカとカレットが、覚悟を決めて各々の武器を握り直す。
こうして、池の主戦第2ラウンドが幕を開けーーー
「ん?何あれ。『扇撃ち』」
パシュン。
パキャン。
『キシュィァァアアァ……!』
なかった。
氷の巨像となった池の主の身体の一部に、不思議な光を放つ氷色のバスケットボール大の塊を見つけたリーシャが何とはなしにそれを撃ち抜くと、今までの変化が嘘のように砕け散ったのだ。
HPバーと池の主の本来の身体であるパーツは光の粒となって溶け消え、池の主が生み出した氷はバラバラに砕けてはらはらとダイヤモンドダストのように降り注ぐ。
「「「「……………………」」」」
「………………てへ?」
あまりにあっけない最後に、リーシャ以外の4人は絶句し、トドメを刺したリーシャは困惑したようにとりあえずと言った感じて呟いた。
こうして、池の主戦は幻想的な光景とは裏腹になんともスッキリとしない幕引きとなった。
◆◆◆◆◆
「ってな事があってね?」
「え?どういう……え?………………なんか、もう。今日は帰って寝たい」
元から混乱していたサクラに更に追い討ちのように与えられた新しい訳の分からない情報は見事にトドメとなったようだ。
限界に達したサクラは……思考を、放棄した。
「……だな。今日は解散にするか」
そして、そのサクラの言葉を受けてトーカがそう言い出した事で、この場は解散となった。
もしかしたら、このなんとも言えない結果をどう伝えるか迷ったリーシャはこうなる事を見越してこのタイミングで結果を教えたのかもしれない。
元々迷っていたんですよ
『壱打確殺』が乗った【天討】で池の主を倒しきるか、あるいはそれを食らってもギリギリ耐えるか復活するかして戦闘続行してサクラちゃんに【仕返し】で倒させるか
最後の最後まで迷った結果、作者が迷ってる隙にリーシャが美味しいところかっさらって行きました
今後その場のノリで色々なスキル(複合スキル含む)や称号、武器防具アイテムを増やしていくと思うので何かアイディアがあればお願いします!
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