第173話 『ヒャッハー式英才教育:ボス戦編《池の主》⑨』
サクラちゃんの新装備!(え?早いって?暇で時間あったら作っちゃうよね!)
メイの驚いたような声に、飛んできた氷柱を大盾で受け止めたサクラが返事を返す。
「気付いたらなんか倒れてて!」
「それでサクラちゃんがガードしててくれたんだ、ありがとうね。【魂無き軍団】、試作体だけどいっか。追加で3体!」
メイが新たに呼び出した3体のゴーレムは、試作体と言うだけあって今も尚守ってくれているゴーレム達よりも一回り小さいが、確かに姿形が似通っている。
「サクラちゃん、こっちこっち」
メイに手招きされたサクラは、試作体ゴーレム達と入れ替わるようにしてメイの方に行く。
どうやら『常在工房』は解除してあるようで、メイのすぐ側までよってもあの張り詰めた空気は感じられなかった。
「じゃーん。これがサクラちゃんの新しい装備だよ!」
今まではどっちかって言うと攻撃よりの装備が多かったから、珍しい防御特化装備で張り切っちゃったよ!と言いながら渡された装備は、確かにメイの言う通りに、そしてサクラの望み通りに防御……特に長時間耐久特化の性能をしていた。
どのくらいの品質なのかは比較対象を初期装備しか知らないサクラには正確に推し量る事は出来ないが、初期装備とは比べ物にならない程に高い性能を持っている事は確かだ。
「ささっ、早速装備してみてよ」
少し興奮気味に催促され、サクラは早速渡された新装備を身に纏っていく。
メイが作成したサクラの新装備は4つ。
今まで出番を大盾に奪われ全く活躍の機会が無かった攻撃武器枠の『小太刀【切落】』
逆に防御どころか攻撃にも酷使されていた為に常に働き詰めだった大盾枠の『大盾【桜吹雪】』
酷使無双されていた大盾と並ぶタンクの最重要部分である鎧枠であり全身鎧の『千年桜の鎧』
他の3つの作成時にインスピレーションが湧いたからと作ってくれたアクセサリー枠の『生命の花弁《桜》』
所々に葉桜を思わせる若草色の装飾が付いた桜色の全身鎧を身に纏い、桜色の鞘と柄、そして微かに桜色づいた刀身を持つ小太刀を腰に下げる。
そして、吹き荒ぶ風と桜の花びらのレリーフが刻まれた桜色の大盾を構え、仕上げに桜の花びらをイメージしたイヤリングを耳に着ける。
そうすれば、そこには元々の髪や瞳の色も相まって、全身桜色1色に染まったサクラの姿があった。
それでもくどく感じないのは、所々に桜色を映えさせる様に散らされた葉桜の若草色と、濃淡を使い分けた桜色のおかげだろうか。
「これが……新しい、装備……」
「うん。サクラちゃんの為に作ったサクラちゃんだけの装備だよ。どう?気に入ってくれた?」
「うん!すっごく可愛くて、でもかっこよくて、最高!」
「うんうん。そう言って貰えて何よりだよ。デザインの要望を聞き忘れちゃたからボクのイメージで作ってみたけど、気に入って貰えたならよかったよ!」
自分が作った装備一式を身にまとったサクラの姿を見て、そして何よりサクラの反応を見て、嬉しそうにメイは頷く。
「本当なら最初のうちは初心者装備1式でも十分だから、初日に新しい装備ってのは早すぎるんだけど……まぁサクラちゃんは例外だしね」
言外に普通じゃないと言われて、サクラは少し傷付きそうになったものの、普通じゃないってことは少しはみんなに近付けてるって事だよね!と思い直した。
全力解放されていない現実でとはいえ、ヒャッハー達ときょうだいのように育ってきた彼女の感性は、新しい装備一式に浮かれているという事を考慮してもなお、やはりどこか、ズレていた。
「それで、この装備の効果はね……」
特に指定が無かったため完全に自分の感性で決めた見た目を気に入ってもらって上機嫌なメイは、もっと驚かせてやろうと楽しげに性能の解説を始める。
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『小太刀【切落】』
薄らと桜色を帯びた小太刀
小太刀としてもかなり短い部類に入る
波打つ刃文は舞い散る桜の花びらを連想させる
STR-10
VIT+0
【剪定】
装備者自身が攻撃を受ける、または敵を倒す度にVITの補正値が1ずつ、最大30まで上昇していく。
ただし、この上昇値は戦闘が終了するとリセットされる
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「サクラちゃんは殆ど攻撃しないからね。攻撃力を犠牲に防御力を上げられる様にしてみたよ!」
「攻撃力が下がる武器って一体……?」
「深く考えちゃダメだよ。その議題は深淵だからね。人類が迂闊に手を出していい議題じゃないんだよ」
「え……うん。分かった」
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『大盾【桜吹雪】』
吹き荒ぶ風と桜の花弁のレリーフが刻まれた、桜色を基調とした大盾
冬の厳しさを乗り越え開花する桜のように、耐えれば耐えるほどその力を強める能力を秘めている
VIT+30
MND+30
【遅咲き】
戦闘開始から時間が経てば経つほどVITとMNDの補正値が上昇していく。
上昇した補正値は戦闘終了でリセットされる。
(上昇率は1分で1。最大60上昇)
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「次はこれ!サクラちゃんの戦闘スタイルに合わせて防御特化、しかも耐えれば耐えるほど、時間をかければかけるほど硬くなってく厄介この上ない能力だよ!」
「1時間で3倍……凄いね。まさに『耐久者』の装備版だ」
「なかなか癖の強い……というか普段使いはしにくい性能だけど、サクラちゃんは基本スタイルがそうだから問題ないもんね」
「あはは……」
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『千年桜の鎧』
所々に若草色の装飾が施された桜色の全身鎧
舞い散る花弁は何物にものその動きを強制されないように、この鎧の装備者は他の介入で押し動かす事は出来ない
VIT+50
MND+50
【不動の大樹】
装備者の意図しない移動を無効化する
この効果は装備者がその場から動かない限り継続する
ただし、移動中は発動しない
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「次は鎧!鎧は大盾と並ぶタンクの華!タンクの印象は鎧で決まると言っても過言じゃないよ!」
「なんか……テンション凄いね?」
「会心の出来だからね!サクラちゃんご所望のノックバック耐性もより凄いものになったよ!」
「これって……私が動こうとしないと動かないってこと?ノックバックも効かないの?」
「うん!ノックバックも効かないし、巨大な鳥に連れ去られるなんてことも無いし、誘拐だってされないよ!あ、でも空中で静止は出来ないし、地面が突然消えたら流石に落ちちゃうけどね」
「えっ、巨大な鳥に連れ去られたり地面が突然消えたりするの!?」
「さぁ?今はまだ無いけどそのうちあるかもしれないよ?」
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『生命の花弁《桜》』
花の花弁をかたどったイヤリング
これは桜の花弁を模している
VIT+5
MND+5
【花の恵】
装備者のHPが自動的に回復し続ける
(10秒に最大HPの1%の回復)
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「最後はこれ!」
「このイヤリング凄い可愛いし防御面も補ってくれるしで至れり尽くせりだけど、急遽作ったって本当なの?」
「うん。先に作ってた3つは桜色だけど桜じゃなかったからね。なんかこれこそ桜!ってのが作りたいなぁって思って。材料もあったから作っちゃった」
「桜の花って言われるとだいたい尖ったハートみたいな1枚のと、星みたいな5枚の2種類をイメージするけど、これは尖ったハートみたいな1枚のやつなんだね」
「ふっふっふっ……そう思うでしょ?実はね、アイテムの設定で1枚の状態と5枚の状態、ふたつの状態を切り替えられるんだ。効果は変わらないけどね」
「えっ!?凄い!」
「我ながら無駄ギミックだとは思うけど、やりたいなぁと思って出来ちゃったからしょうがないよね」
こうして、ほんの短い間ではあるがサクラとメイの2人は今が戦闘中だということも忘れて新装備についての話を弾ませていた。
そんな2人の楽しい会話は、ガギャンッ!という鈍く鋭い音によって終わりを告げる。
「「……?」」
頭に疑問符を浮かべた2人が仲良く揃った動きで音の発生源に目を向ければ、そこにあるのは身体の中心に氷柱を深々と突き刺し地に倒れ伏す試作体ゴーレムの姿が。
よく見れば、まだ動いている2体も片方は腕がなく、もう片方も五体満足ではあるものの傷が多く目立つ。
最終的な完成体であるゴーレム達は運悪く核への直撃を受けた一体以外は今もなお十分に役目を果たし続けているのを見ると、やはり試作体。
少しばかり性能の低さが目立つようだ。
とは言えそんな事は製作者であるメイが1番よく分かっている。「あちゃー。つい夢中になって話し込んじゃった」と、軽く反省はしているが驚いた様子はない。
「って、うわぁ!向こうも何やら大詰めも大詰めっぽいね。リクルス君が池の主目掛けて突貫してるよ」
「えっ?お兄ちゃんが?」
が、倒れ伏す試作体ゴーレムの更に奥。今なお激戦が続いている戦場を見て、感嘆とも驚きとも付かない声を上げる。
「何か発動したっぽいリクルス君の前に大きな壁が出来て……あぁ、話にあった『壱打確殺』を使ったんだ。でも……あれ?ちょっと遠い?って事は……サクラちゃん!こっち来て!そしてここに寄りかかって!」
「え?分かっ……えっ!?」
「早く!」
「でも……ここって……」
サクラが困惑するのも仕方の無い事だろう。何せ、突然焦りだしたメイの指示した場所は、今までここを守ってくれていたゴーレムが腕を広げた先だったのだから。
「いいから早く!このままだとリクルス君の切り札が不発になっちゃう!」
「っ!分かった!ここに立ってればいいんだね!」
サクラにはメイが何をしようとしているのかがいまいち分かっていないが、兄の取っておきが無駄になるという事態は見過ごす事が出来なかった。
よく分からないままにメイの言葉を信じて指示に従い、ゴーレムが広げた手の平の中の前に立つ。
ちょうどその時、「諦めるのは早ぇよ!その足止めんなッ!」という声と共に、分厚い氷の壁が砕け散る音が響き渡った。
「もう時間が……!このまま投げるから!鎧の効果が発揮しないように抵抗はしないでね!玖號準備よし!いっけぇ!」
そんな音に後押しされる様にしてサクラがゴーレムの手の平に身を預けた瞬間、矢継ぎ早にメイが喋っているのが耳に入った。
だが、返事(あるいは疑問の声)を返す前に全てが動き出す。
メイの声に従い、ゴーレムが思いっきりサクラを前方……今なお続く戦闘の激戦区に投げ付けたのだ。
「うばばばばばば……!って、あれは!」
人生で初めて体験する、投げられるという状況に置かれたサクラだが(なお、投げられるのが初めてなのであって、吹っ飛ぶのは初めてでは無い)、その動揺も今にも兄を叩き伏せようとする氷の剛腕とそれを前にして悔しげな顔をしている兄の姿を見た瞬間に吹き飛んだ。
何としてもあの攻撃を止めなければーー兄を、守らねば。
その思いだけがサクラを満たす。
そして、投げ飛ばされた勢いのままに半ば無意識に空中で体勢を整え、氷の剛腕が今振り下ろされるという瞬間にリクルスと氷の剛腕の間に滑り込み、大盾を構え、声を張り上げる。
「このバカ兄!諦めるのは早いって、言われたでしょ!」
そう言った直後、これまで受けた攻撃とは比べ物にならない程の、強大な質量による力が叩き付けられたのを大盾越しに感じーー
「うっ、ぐぅ!」
ほんの一瞬の抵抗の末に、その圧倒的な力に耐える事が出来ず、大盾ごと身体を押し潰された。
だか、今のサクラに悔しさは無い。
いや、全く無いと言えば嘘になるのだが、それはサクラの心に何ら悪影響を及ぼしてはいない。
なぜなら、サクラには氷の剛腕を潜り抜け、池の主の元にまで辿り着いた兄の背中が見えているから。
なぜなら、サクラには、
《称号『守護者の恥晒し』が『守護者の覚悟』に変化しました》
こんな言葉が、届いているから。
『守護者の覚悟』
地に落ちた誇りを再び奮い立たせた証
それはたった1度の再起か、あるいは二度と折れぬ強固な意志か
それは決めるのは、あなた自身である
誰かを守る時、VITとMNDが2倍になる
ただし、再び誰かに命懸けで守られた時、この称号は剥奪される
今後その場のノリで色々なスキル(複合スキル含む)や称号、武器防具アイテムを増やしていくと思うので何かアイディアがあればお願いします!
おかしい所や誤字脱字、誤用などがあったら是非ご指摘お願いします
感想などを貰えると、作者が泣いて喜びます
ブクマしてくれた方や読んでくれてる方本当にありがとうございます!
今後も当作品をよろしくお願いします!