第172話 『ヒャッハー式英才教育:ボス戦編《池の主》⑧』
おっかしいなぁー
1話に収めるはずだったのに伸びたぞぉ?
時は僅かに遡る。
前線にゴーレムを送り出した直後、4体のゴーレムに守られながら、無力感に打ちひしがれていたサクラは、何故かメイに採寸されていた。
「あの……メイさん。何してるの……?」
メイが採寸している事など、されているサクラからしてみれば分からない訳は無いのだが、状況が状況なだけにそんな事を聞いてしまう。
「採寸だよ。ある程度はゲーム側でサイズ調整はしてくれるけど、やっぱ正確なデータがあった方がいいしね」
「あ、いや……そうじゃなくて。なんで今採寸してるのかなぁって」
そして、案の定サクラの求める答えは帰ってこなかった。
生産特化であり、自他ともに認める戦闘能力皆無(本体能力だけの場合)なメイと、圧倒的弱さで戦力外なサクラは前線から離れた位置で戦闘に直接参加していない。
一応戦闘圏内にいて、たまに流れ弾の氷柱なんかが飛んできたりはするものの、それらは全てゴーレム達によって防がれているためかなり暇なのだ。
増援に送ったゴーレムも操作権はリーシャに渡してあるし、現状さらに追加が必要な様子も無い。
なら何をするのかと言うと、自然と各々が出来る事をやると言うことになる。
そこでメイは、スキルや称号、人間関係から見てとてつもないポテンシャルを秘めているにも関わらず未だ(と言っても初日だから当たり前なのだが)初期装備のサクラに目を付けた。
手持ち無沙汰になった生産職の目の前に、野暮ったい初期装備を身に付けた有望株がいる。
となればやる事は1つ。
装備作りである。
普通の生産職ならば、工房以外の場所、それも戦闘中に何かを作るという事は出来ないのだが、メイにはそれを可能にする特殊なスキルである『常在工房』がある。
彼女にかかれば、死が飛び交う戦場でさえ工房になるのだ。
「まぁまぁ、今暇だし。サクラちゃんもそろそろ戦闘スタイルが見えてきたでしょ?」
「それは……そうだけど」
「今ボク達に出来ることなんて殆どないからね。じっとしてるくらいならやれる事やった方がいいでしょ」
メイに取っては敵のいるフィールドも素材と向き合う工房も同じ戦場であり、むしろ工房の方が彼女に取ってはよっぽど激しい戦場なのだ。
だが、そうでないサクラはやはりどこかソワソワ……というか、落ち着かないものがあるようだ。
戦力外だと言うことは分かっていても、他のみんなが戦闘している中でまるっきり別の事をするというのは気が引ける……というか落ち着かない気分になるらしい。
体調不良で学校を休んだはいいものの午前のうちにある程度は体調が回復してしまった昼下がりのような、妙に落ち着かない居心地の悪さをサクラは味わっていた。
「サクラちゃん、サクラちゃん、性能のリクエストはある?倉庫ゴーレムも作れたから材料は十分にあるし、大抵の物は作れるよ!」
が、メイはそんな居心地の悪さは微塵も感じていないらしい。むしろ、制作が出来ることに喜びを感じてワクワクしている様ですらある。
「あ、えっと……出来れば防御特化で長時間耐えられる方が……あ、後ノックバック耐性は絶対にお願い」
そんなメイの勢いに押されて素直に要望を答えたサクラだが、最後に付け足した一言だけは妙に言葉に力が篭もり瞳に光が無かった。
どうやら大亀のノックバック地獄が相当堪えたらしい。
サクラのその据わった瞳は、恐らく今ではなく過去を眺めている事だろう。
「あはは……あれは酷かったもんね。うん、任せて!」
サクラから滲み出る負のオーラに一瞬気圧されたものの、すぐに切り替え、頼もしい返事を返す。
「じゃあ、少し時間はかかると思うけど。そこまで待たせないから気楽に待っててね!『常在工房【領域展開】』!」
メイがそう告げると、空気が変わる。
何か視覚的な変化が起こった訳では無いが、この場所の何かが変わった事をサクラは直感的に理解する。
戦闘の喧騒は遠のき、僅かに髪を揺らしていたそよ風は凪ぐ。
そして、戦闘の緊張感とはまた違う、静かで、しかし重いそんな張り詰めた空気に辺りは包まれる。
「っ……えっ?」
そんな急激な空気の変化にどうしようもない違和感を覚えたサクラは無意識に数歩後退り、そしてまた訪れた突然の空気の変化に驚きの声を上げる。
「……ふふっ。そっか、そこがメイさんの戦場なんだ……」
遠のいていた戦闘音が鳴り響く戦場へと戻って来たのだと実感すると共に、どこか緊張が解れている自分がおかしくなって小さく笑い声をこぼす。
どうやら、『常在工房』はメイを中心に半径2m程の円形に展開されているらしい。
面積に換算しても12平方mちょっとしかないその小さな【領域】が、メイが生産職として戦う彼女にとっての本当の戦場。
サクラは、今の自分とメイの間の距離から何とは無しにそんな事を考えて、彼女にしか見えないインベントリと真剣に向き合っているメイの姿を少し眺める。
メイはと言うと、既に全力集中モードに入っていて既に『工房』の外の事は彼女の意思に届いていない。
そんなにひとつの事に集中出来るメイさんすごいなぁと考えていたサクラだが、突如として嫌な予感に駆られて瞬時に大盾を構えて振り返る。
「っわ!」
そうすれば、大盾にはガインッ!という重々しい反応と共にサクラのHPが僅かに減少する。
「今のは……氷柱?流れ弾がここまで来たんだ……でも、急にどうして……うわっ!」
つい先程までは4体のゴーレム達が完璧にブロックしてくれていたはずの流れ弾が急に飛んできた事に不思議に思い、周囲を見渡したサクラの視界に飛び込んで来た物。
それは、核を撃ち抜かれ機能停止しているゴーレムと、それによって出来た防衛網の空隙を通り抜けて飛来する氷柱だった。
ここを守っていたのは防御用に作られた高耐久のゴーレムなので、本来ならいくら超強敵である池の主の攻撃とはいえ流れ弾程度でやられるはずは無いのだが……
位置的な問題でこの場所が流れ弾が他に比べて多かった事もあり、本当に運悪く流れ弾の氷柱に核を撃ち抜かれてしまったのだ。
いくら高耐久とはいえ所詮はゴーレム。核となる『核心石』を砕かれてしまってはただの人形でしかない。
当然自己修復機能なんて物があるはずもなく、結果として防衛網の1部に穴が出来てしまったのだ。
「一体やられてる!?なんで……ってそれどころじゃない!」
そんな不運としか言いようのない偶然によって出来てしまったゴーレムの急な欠員に驚いたサクラだが(当然サクラは原因なんて知る由もない)、直後にそれどころじゃないと慌てて先程までそのゴーレムが担当していた場所の防御に入る。
「【ブロック】!くっ……」
こちらに向かってくる氷柱は、意図的に狙って来ている訳では無く、あくまで流れ弾に過ぎないが、それでも脅威である事には変わりない。
ただの流れ弾であるにも関わらず、この氷柱は今まで受けた攻撃の中で2番目に強い衝撃を大盾越しにサクラに与えてくる。
「この氷柱も結局はただの流れ弾なのにこの威力……本体と戦ってるトカ兄達ってやっぱり本当にすごいなぁ……」
ゴーレムに助けられて負担は4分の1になっているにも関わらず流れ弾の処理だけでいっぱいいっぱいの自分と、これ以上の攻撃をしてくる相手を平然と相手取っているみんなとの差でまたしてもサクラのメンタルがブルーになりかける。
「うわっ!う、うん。そうだよね。そんな事考えてる暇は無いよね」
そんな上の空状態になりかけていたサクラは、飛来する氷柱が大盾を叩く衝撃で我に返った。
なんだかんだと理由を付けてブルーになりかけるサクラだが、この流れ弾がいつ飛んでくるか分からないという状況は、余計な事を考える暇が無いという意味では彼女にとっても都合がいいものであった。
その上、自身が体験する最高クラスの威力の攻撃が断続的に飛んでくるという、割とギリギリな今の状況はタンクとしての彼女を鍛えるのにも一役かっている。
つまり、池の主の乱入によって中断されたと思われたサクラの特訓は思わぬ形で継続されているのだ。
こうして断続的に飛来する氷柱をひたすら防ぎ、たまに【ヒール】をかけて、という一連の流れをしばらくの間繰り返す。
「よーし!出来た!ってうわぁ!ゴーレム一体やられてる!?」
3度目の【ヒール】をかけ、HPを回復したサクラの耳に戦闘を終えたメイの驚いた声が届いた。
『守護者の恥晒し』
守るべきはずの存在に命懸けで守られ、生き残ってしまった証
あなたはもう、誰かを守る守護者では無い
このまま折れてしまうのか、再び奮い立つのか、それはあなた次第である
今後その場のノリで色々なスキル(複合スキル含む)や称号、武器防具アイテムを増やしていくと思うので何かアイディアがあればお願いします!
おかしい所や誤字脱字、誤用などがあったら是非ご指摘お願いします
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今後も当作品をよろしくお願いします!