第170話 『ヒャッハー式英才教育:ボス戦編《池の主》⑥』
お久しぶりです……
えぇ、本当に。お久しぶりです
反動の上にこのコロナ騒ぎで忙しかったり暇だったりと緩急効きすぎて感覚がバカになってましたが気が付いたら1ヶ月近く投稿出来てませんでした
お待たせしました
「なに、あれ……すごい……」
災害とも言える程の破壊を撒き散らしたカレットの【白龍砲】を見てサクラは半ば無意識に呟いた。
それでも、あまりに強大なその力に心が折れそうになる。
その対象は、カレットだけでは無い。
普段はちゃらんぽらんな兄であるリクルスも、あんな化け物相手に1歩も引かず勇猛果敢に、むしろ楽しそうに戦っている。
カレットと同じ遠距離から攻撃しているリーシャもダメージ自体はないが気を引いたり惑わせたり、数値に出ない部分で裏からみんなを支えている。
戦闘は出来ないと公言しているメイでさえ、自分が出来ないならと生み出したゴーレム達を戦わせ、大きなチャンスを作り出している。
そして、そんなみんなをバフでサポートしつつ自身も前線で戦っているトーカ。
もちろん、自分と彼等ではこの世界で培った時間があまりにも違う。
最初から同じ事が出来るとは口が裂けても言えないし、そんな事は微塵も考えていない。
だが、仮に同じだけの時間をかけたとして、みんなの様になれるのか。
そう自問して、すぐに無理だと答えが出た。
分からない。ではなく、無理。
それ程までに、自分と彼等の間には隔たりがあるように思えて仕方がない。
羨望や嫉妬、不甲斐なさなど様々な感情が入り交じった瞳で今なお戦い続けている彼等をサクラは無意識に拳を握り締めながら眺めていた。
◇◇◇◇◇
だが、彼女は知らない。
今自分が見て隔絶を感じている彼等は、この世界でも指折りの異端児であり実力者である者達であるということを。
大会で優勝しているという“情報”は知っているが、実際にそれがどれ程の強さなのかの“実感”がないのだ。
そして、なまじ異端児しか知らないせいで気付けていないが、その異質さだけを見れば自身も決して劣ってなどいないという事を。
彼女の周りの人々が皆、強い上にどこかぶっ飛んでいるせいでそれが“一般的な強さ”だと勘違いしてしまっているのだ。
◇◇◇◇◇
『キシュィィィィィ……!』
しばらくの間半狂乱になって転げ回っていた池の主が瞳に憤怒の色を湛え、失った脚を氷で作った即席の義足によって補い起き上がる。
その痛々しい姿とは裏腹に、池の主が纏う威圧感は最初の時とは比べ物にならないくらいに膨れ上がっている。
今までは『縄張りに入ってきた獲物』だったのが、『殺すべき敵』へ変わったということだろうか。
「うっわ、明らかに池の主ブチ切れてんじゃん」
「氷で脚を再生させるって……汎用性が高いと言うべきかまた氷か!と言うべきか……迷うわ」
「とは言っても所詮氷だ。俺かリクルスが殴って砕いてもいいし、カレットの炎で溶かしてもいい」
「うむ!任せろ!いつでも【白龍砲】を撃つ準備は出来ているぞ!」
だが悲しいかな、そんな池の主の本気の殺気も彼等には何処吹く風のようだ。
今までサクラの付き添いとして彼等から見ればあまりにも低レベルな雑魚しか相手にしてこなかった(その上戦ったのはほとんどサクラで、実質見てただけ)ため、退屈していたのだ。
そんな彼等にとって、突如現れた強敵である池の主は、忌避するどころかむしろ歓迎すらされる存在なのだ。
無論、大切な妹分を不意打ちで殺されかけたという怒りはある。
しかし、それは言ってしまえば想定外の強敵に遭遇したという事でしかない。いつかは通る道であり、いつかは求めるようになる物でしかない。
つまり、怒りは怒り、歓迎は歓迎という事だ。
案外、彼等のようなどこか普通とはズレた道に進む者とそうでない者との差は、こういったところにあるのかもしれない。
「んー、俺もそろそろ『壱打確殺』使ってみたいんだよなぁ」
氷で身体の失った部分を補いつつ起き上がった池の主を見据えながら、リクルスがカレットの【白龍砲】の威力を思い出して少し羨ましそうに呟く。
「この前の交換で取ったスキルだっけか。でも確かそれって……」
「あぁ。使った後は俺はお荷物になるな」
「【白龍砲】がだいぶ削ったとはいえまだ6割近く残ってる。ここでリクルスが抜けるのはちょっとキツいが……」
「そうなんだけどよぉ……前にロッ君に使ったら一瞬でHP消し飛んでさ、結局どんくらいの威力が出てたかいまいちよく分かんなかったんだよ。んで、今目の前に凄い強いヤツがいる訳じゃん?どんくらいダメージ出せるのか気になってよ」
トーカが指摘した事には当然リクルス自身も分かっているらしく、理性と欲望の間でうんうんと唸っている。
その間にも起き上がった池の主による氷柱砲などの攻撃は襲って来るが、その全てを危なげなく躱している事からも悩んでいるせいで戦闘に支障をきたしているという訳でもない。
トーカも別に意地悪をしている訳では無いので、やらせてやりたくはあるのだが……
この強敵相手に戦力が1人欠けるリスクを背負うという事がチームの最終的なまとめ役として何も考えずゴーサインを出せないでいる。
MPと時間さえあれば何度でも撃てるカレットの【白龍砲】と違い、リクルスの『壱打確殺』は避けられたり防がれたりしたらそれっきりと言うのも使用を躊躇わす原因となっている。
「いーんじゃない?やりたいってんだから好きにやらせれば」
と、そんな感じでトーカとリクルスが悩んでいると、後方にいるリーシャから二つの意味での援護射撃が飛んで来た。
ひとつは普通に2人の回避を援護するための陽動の矢を放ったという、そのままの意味。
もうひとつは、リクルスの『壱打確殺』を使いたいという欲望に対する賛同……というか後押しの発言という意味。
「正直な話、勝つだけなら時間稼ぎしてカレットに【白龍砲】何回か撃たせるだけでいいんだし。どうせならやれることやって楽しんだ方がいいじゃん?」
「「ッ!!」」
リーシャの、ある意味無責任とも取れるそんな発言を聞いて、トーカとリクルスはハッとした。
この直前までサクラの面倒を見ていた……言ってしまえば保護者的な、普段とは違う意識、行動を取っていたせいで『楽しむ』と言う基本的な事を失念していた事に気付かされたのだ。
サクラの特訓の邪魔をした乱入者を排除しなければならないという意識に多少なりとも囚われていて、純粋に目の前の強敵との戦いを楽しみ切る事が出来ていなかった。
それを、リーシャの何気ない一言で自覚した。
「くふっ、くははっ、はっはっはっ!そうだそうだよ!何遠慮してんだよ!やりたきゃやりゃいいじゃねぇか!」
「あぁ、そうだな。どこかで硬い考えをしてたみたいだ。たしかにリスクは大きいが、事前に一声かけてくれりゃそれでいいじゃねぇか。やらせないようにするんじゃなくて、やったあとのフォローをするのがいつものスタンスじゃねぇか」
リクルスとトーカはそう言ってひとしきり笑った後で、先程までより楽しそうな顔で池の主に向き直る。
「さぁてリクルス。好きにやっちまえ。止めやしないさ」
「もちろん!遠慮なんてしねぇ。やりたいようにやるさ」
吹っ切れたような笑みをこぼし、リクルスが1歩前に踏み出す。
『キシュィィィィ……!』
憤怒を宿した池の主の瞳は、そんなリクルスを睨み据える。
肌がチリつくような殺気を孕んだ視線を浴びながら、しかしどこか気持ちよさそうにリクルスはゴキゴキと首を鳴らし、拳を打ち鳴らす。
「よっし!トーカ、バフ頼む!」
「ほいよ、【ハイ・アタックアップ】」
「あっそうだ、おーい!ちょっとでも威力盛りてぇからサクラも頼むわ!…………カレットには、負けたくねぇし」
トーカから、『付与魔法』の派生である『支援魔法』によるSTRを超強化するバフを追加で受けたリクルスは、池の主から目を離さずに……つまりは振り返らず、神官でもあるサクラにもバフをかけてもらうように呼びかける。
「えっ、あ、うん!【マジックアップ】【アタックアップ】!」
最後の小さな呟きは聞こえなかったが、蚊帳の外だと思っていた自分にも声がかかった事に驚きながらも嬉しそうにSTRを上昇させるバフをかける。
事前に自身にINTを上昇させるバフをかけたのは、トーカに教わった小技を忘れていなかったからだ。
サクラからもバフを受けたリクルスは、フゥーッと1度大きく息を吐くと、その顔に浮かんでいた笑みを消し、池の主目掛けて駆け出した。
カレットがドデカい一撃を決めたなら次はリクルスの番だよなぁ!?
今後その場のノリで色々なスキル(複合スキル含む)や称号、武器防具アイテムを増やしていくと思うので何かアイディアがあればお願いします!
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