第167話 『ヒャッハー式英才教育:ボス戦編《池の主》③』
《EBO》での生産スキルは『鍛冶』で武器防具類を、『調合』でポーション等の薬類を、『加工』で木材や布、石などを加工した品を『錬金術』でその他の様々な事を、と言った感じになってます
《EBO》には、『人形創造』というスキルがある。
このスキルは、生産系スキルである『錬金術』『鍛冶』『調合』、そして『加工』。
これら4種のスキルレベルを最大のスキルレベル10まで育て、なおかつ幅広い生産系能力を極め続けると取得できる『創造の御手』という超高倍率の生産補助スキルを所持している場合のみ取得できる超特殊なスキルであり、現状ではメイしか取得していない。
つまり、事実上のユニークスキルである。
しかし、取得難易度に対してその効果は実に平凡で、『人形を作る事が出来る』だけ。
それでも手のひらサイズの小さな物から、人間よりも大きなそれこそゴーレムのようなサイズの物まで。
形状も、人型からそうでないものまで、確かに幅広い創造性はあるが……所詮それだけだ。
このスキル単体では、どこまで行っても『人形』を作る事しか出来ない、戦闘にはまるで役立たない残念なスキルでしかない。
しかし……
「試作だけでだいぶ使っちゃったからなぁ……今度鉱山行って核心石集めてこないと」
ゴーレムの軍団を呼び寄せたメイがぽつりと呟く。
その言葉から分かる通り、今やロッ君だの鉱山だの宝石商だの言われているがれっきとしたフィールドボスである《ロックゴーレム》を、弱点を一切攻撃せずに倒す事で初めて取得できる『核心石』というアイテムがあれば、『人形創造』は化ける。
それ単体ではただの石でしかない『核心石』と、同じく単体ではただの趣味スキルでしかない『人形創造』。
このふたつを組み合わせることで、ゴーレムを作り出し使役する事が出来るのだ。
より正確に言えば、『人形創造』によって作り出した人形に、『加工Lv.10』で取得できる『改造』を、さらに最大までスキルレベルをあげた『改造Lv.10』を駆使して『核心石』を埋め込む事で、その人形をゴーレムに出来る。
メイが第2回イベントの決勝で見せたあのメタルゴーレムも、この能力によって生み出されたものだ。
あれからさらに時を経て、試作に試作を重ねる事でごく最近、メイは戦えない自分の代わりにゴーレムの軍団を使役し戦わせるという能力を身に付けたのだ。
それでも、強敵相手に1人で戦えるほど万能ではないが、1人でも最低限の自衛程度はこなせる上に、仲間がいればより効率的にそのサポートに回ることが出来るようになった。
「うーん……壱號から陸號はみんなと一緒に戦って、漆號から拾號はここで僕達の護衛」
ゴーレム達に知性はないため、状況に応じて臨機応変に自己判断で動くということが出来ない。
なので、彼等を運用する際は逐一命令をしないと行けないが、裏を返せば途中で放り投げる事無く最後まで命令を完遂するということでもある。
メイの命令を受け、呼び出された10体の中で比較的人型に近い、服屋にあるようなマネキンを2回り大きくし、さらにガタイを良くしたような形状のゴーレム達が6体、池の主と激戦を繰り広げるトーカ達の元へと向かっていく。
同時に、こちらは身体もごつく異形の巨体を誇る、まさにゴーレムといった見た目の4体がメイとサクラを背に庇う様に陣取る。
他の4人ならともかく、戦闘はからきしなはずのメイが見せた力を前に、サクラは呆然と彼女の後ろ姿を見つめる事しか出来なかった。
◇◇◇◇◇
「【アースクラッシュ】ッ!」
メイがゴーレム達を呼び出す少し前。
自身にバフをかけ終えたトーカは、『縮地』を駆使して池の主の懐に潜り込むと、縦横無尽に動き回るリクルスに翻弄されて無防備になっていた横っ腹を思いっ切り殴り付ける。
『キシュァァァッ!?』
バギャン!と大きな音を立てて、池の主が纏っていた氷の鎧の一部が砕け散り、その肉体にまでダメージを与える。
敵のHP総量からすれば僅かに、これまで与えた一撃毎のダメージに比べればごっそりと、池の主のHPが減少する。
だが、池の主はそのままサンドバッグになってくれるほど生易しい相手ではない。
『キシュァァァァァァァァッ!』
「っ!【エリアプロテクション】!」
トーカの一撃によって、敵に懐に潜り込まれた事を知覚した池の主が大きく吠えると、その足元から幾本もの大きな氷柱がトーカと、ついでに至近距離にいたリクルスを串刺しにしようと突き出してくる。
トーカが咄嗟に使用した【エリアプロテクション】によって2人は事なきを得たが、それでも距離を取る事を余儀なくされてしまう。
「クソッ!何するにしても氷がうぜぇ!」
「防御に攻撃に本当に幅広く使ってくるよね……!」
砕けた氷の鎧が池の主が纏う冷気によって再生されていく様を忌々しげに睨み付けながら、リクルスとリーシャの短気組が吐き捨てる。
同じく短気組であるカレットが無言なのは、有効打となりうる一撃を叩き込むタイミングを狙っているからだろう。
カレットは強大な一撃を以て1発で決めるド派手な戦闘展開も好きだが、その高い『火魔法』と『風魔法』を駆使した無数の小攻撃による弾幕攻撃も得意とする。
しかし、大量の氷を自由自在に操る池の主相手ではその弾幕攻撃は効果が薄く、また【白龍砲】ですら防がれたようにその強大な一撃も中途半端な物では通用しない。
故にカレットは自身の行動をリクルスやリーシャを狙った相手の遠隔攻撃を撃ち落とす事だけに制限しており、特大の一撃を確実に叩き込むタイミングを待ち構えているのだ。
『キシュァァァッ!』
「【五重風炎球】!」
池の主が打ち出した5本の小ぶりな(とは言っても人間大のサイズではあるが)『氷柱砲』を、カレットが放つ5発の【風炎球】が相殺する。
超低温の『氷柱砲』と超高温の【風炎球】がぶつかり合う事で発生した水蒸気の煙幕が、同じく極端な温度差で発生した暴風によって周囲に撒き散らされる。
ダメージは無く、視界にも影響を与える程でも無いが、相殺してなお発生するデメリットは厄介な事に変わりない。
「防御も氷、攻撃も氷、近付いたら氷、離れても氷、氷氷氷、何するにしても氷!ウザイったらありゃしない!【掌打】ッ!」
攻撃が相殺されるや否や瞬時に放ってきた追加の『氷柱砲』を拳で殴り砕いて弾きながらリクルスが叫ぶ。
接近戦主体のリクルスにしてみれば、池の主に接近すると使ってくる広範囲の氷柱生成のせいで下手に近付けず、それ即ち本領を発揮出来ないという事であり、ストレスも大きいのだろう。
「焦っても!いい事ないぞ!相手の行!動パターンも分かってねぇ!んだから今は!耐えろ」
そんな、そこまで長くない一言を言い切る間にも常に飛んでくる『氷柱砲』を白銀ノ戦棍で叩き落としながら、トーカは自身の言葉通り攻勢に出ず池の主の動きを観察していた。
これまでの戦闘で分かったことは、主に4つ。
現状の池の主は遠距離攻撃主体で近付くと自身を中心にした広範囲無差別攻撃を放ってくること。
遠距離攻撃のメインとなっている『氷柱砲』は巨大な氷柱の単発と小さな氷柱を複数発の2パターンあるということ。
常時纏っている氷の鎧は高い防御性能を持ち、破損してもすぐに再生すること。
相手の遠距離攻撃に対しては、小さな攻撃は氷の鎧で、大きな攻撃は氷の壁を生み出して対抗すること。
これから見ても分かる通り、池の主は高い防御力を活かした持久戦型のボスだとトーカ達は認識していた。
だが、実際は少し違う。
トーカ達は高い防御性能ばかりに目がいっているが、池の主の攻撃ら1発1発が高い威力を誇っており、避けるか迎撃が気軽に出来るだけのスペックがあるトーカ達だからこそ防御特化という認識であり、本来なら攻防どちらも高いレベルで使ってくる厄介極まりないボスなのである。
とは言っても、事実はどうあれトーカ達から見れば防御に徹していれば会話の余裕すら生まれる程度の攻撃でしかなく、現に先の見えない無限回避にうんざりした様子でリクルスが愚痴をこぼしている。
「んな事言ってもよぉ!このままじゃジリ貧だぜ?近付いた時の広範囲凍結する時はアイツ動かねぇし、自爆覚悟で誰か突っ込んで後続が続くしか打開策無くねぇか?」
「じゃあアンタが突っ込んだらー?」
リクルスの愚痴にリーシャが辛辣とも言える返しをしたのは、進展の無い重い状況をすこしでもなごませるための冗談の意味合いが強かったのだろう。
リーシャに取ってみれば、ここでリクルスが「ふざけんな!」とツッコミを入れる、そんな返事を予想していたのだろう。
「うーん……それもありっちゃありなんだよなぁ。後先考えない1発だけならともかく継続して出せる一撃の威力はどっちかってとトーカの方が大きいしな」
だから、リーシャにとってリクルスの反応は意外だった。
あの好戦的で対強敵戦では頭ヒャッハーするリクルスが、自分を犠牲にする、つまりは自分が戦えなくなる作戦に乗り気であるというのは、リーシャの持つリクルスのイメージとはズレていたからだ。
そして、その認識は概ね正しい。
普段のリクルスならこの提案に、リーシャの予想したような笑い飛ばすような声で「ふざけんな!」と返しただろう。
ただ、今のリクルスは少し、自分でも気付かない程の無意識の底で、池の主に対してキレていた。
なんだかんだ言ってもリクルスは妹であるサクラの事を大切に思っており、そんなサクラを不意打ちで喰い殺しかけた池の主に対しては、自分が強敵と戦う意欲よりも、必ず倒すという意思の方が強くなっているのだ。
だからこそ、討伐に繋がるのであれば自身を犠牲にしたような作戦でも乗る。
比較的付き合いの浅く、リクルスとサクラのそんな関係を深く知らないリーシャはそこが上手く理解出来ておらず、意外感を感じているのだ。
現に、リクルスとサクラの事をよく知るトーカとカレットは驚いた様子も、意外感を抱いた様子もない。
だから、別の理由でリクルスの自己犠牲を止める。
「いや、いくらなんでも俺一人じゃ現実性がない。俺とリクルスの2人が至近距離でってなら後方の2人も合わせて打開策にはなるだろうが……俺だけだと厳しいだろうな」
「そうか……人手が足りないな……」
「足りないのは人手ではなく人柱だがな!」
魔法による『氷柱砲』の迎撃に意識を割いていてその事を気にする余裕がなかったのか、カレットが若干モラルに欠けるツッコミを入れる。
そんなカレットの発言にトーカ達が苦笑を漏らした事で、当初リーシャが予想していたように打開策がない現状がもたらしていた重苦しい雰囲気が薄らぐ。
少し遠回りになったが、結果としてリーシャの発言は空気が僅かに軽くする事に成功したと言えるだろう。
そして、たとえ偶然の連続であったとしても、確かに流れというものは存在する。
僅かに軽くなった雰囲気。
それを後押しするように、トーカ達と池の主が激しい戦闘を繰り広げる激戦区にメイの呼び出した6体のゴーレム達が到着する。
幅広いジャンルに手を出し、色々な小物を作るのが好きなメイの性格によるものか、ゴーレムに付与された通信機能によってメイの声が届けられる。
『遅くなってごめん!大した戦力にはならないと思うけど、ゴーレム達、好きに使って!みんなの命令も受理するようにしてあるから!』
パッと見大柄な人影でしかないゴーレムから発せられるメイの声に違和感が無いと言ったら嘘になるが、今この瞬間において、そんな事を気にする者はいなかった。
ゴーレムの登場は単なる戦力増強以上の意味を持っていたからだ。
そう……
「「「「人柱、みっけ」」」」
失っても痛くない、自爆覚悟の特攻用戦力としての意味を。
『へっ?』
その前の会話を聞いていないメイが、理解出来ずに間の抜けた声を上げる。
それはどこか、ゴーレム達自身の声のように聞こえた。
倫理観isどこ
ちなみに、前話では描写の関係でゴーレム達がパッと出てきたようになってますが、実際は呼び出しに少し時間がかかってます
今回でのタイムラグがその理由ですね
今後その場のノリで色々なスキル(複合スキル含む)や称号、武器防具アイテムを増やしていくと思うので何かアイディアがあればお願いします!
おかしい所や誤字脱字、誤用などがあったら是非ご指摘お願いします
感想などを貰えると、作者が泣いて喜びます
ブクマしてくれた方や読んでくれてる方本当にありがとうございます!
今後も当作品をよろしくお願いします!




