第17話 エボ君が語る
20200815
リーリアの描写変更に伴い、エボくんの描写も変更
髪色を金から黄色に、瞳を翡翠色から緑に
洞窟から帰ってきた後はイベント発表に備え早めにログアウトし、やるべき事(主に夕飯など)を済ませてから7時半にログインすると言うふうに決めたので早速ログアウトする。
何故か無性に焼きそばが食べたくなったので焼きそばを作り、ふと思い立って食パンにサンドして即席焼きそばパンにして食べる。
「うん、美味い」
食べ終わった後は食器やフライパンなどを洗ってからあらかじめ沸かしておいた風呂に入る。
「あ゛ぁ゛〜風呂はやっぱり熱いのに限る」
少々オッサン臭い事を言いつつも風呂を堪能し、風呂上がりに少し休憩してから《EBO》にログインする。
「おっ、トーカか」
リクルスは既にログインしていた様で俺がログインするとスグに声を掛けてきた。
「あぁ、カレットはまだか?」
「みたいだな。ま、少しすれば来るだろ」
リクルスと会話していると噴水広場も大分混雑してきた。昼間でも既に賑やかだった町が更に賑やかに、騒々しくなっていく。
サービス開始初日を彷彿とさせるほどの混雑具合になり始めた頃、ようやくカレットがログインしてきた。
「すまん!遅くなった!」
現在時刻は7時45分。確かに約束より少し遅いが気にするほどでもないだろう。と思っているとリクルスが声を上げた。
「遅いぞ、トーカだってもう来てるんだぞ」
まだそれほじくり返すのか?もう1ヶ月も前だぞ?いい加減許してくれよ……
「冗談、冗談。もう気にしてないからトーカもそんな落ち込んだ顔するなよ」
「トーカは前の事を気にしすぎだぞ」
そんなに落ち込んだ顔をしていたのだろうか、2人に突っ込まれてしまった。
そのまま噴水付近で待機する事15分、8時になり辺りのザワザワがピークに達する。それに呼応するように頭上の空間が歪んで行く。
「何だあれ?」
その歪みを見て誰かが上げた声に釣られるように次々と声が上がっていく。そんな中空間の歪みが最高潮に達すると弾けるような音と共に歪みが元に戻る。
そして空中に先程までは無かった人影が現れた。
『やぁやぁ皆様!初めましての方は初めまして!知ってるよ、って人も僕から見れば初めまして!エボ君です!』
その人影、エボ君が名乗りをあげる。見た目は10歳程の少年に見える彼は黄色の髪に緑の瞳と言う、どこかで見たような組み合わせの見た目を持ち、どこかヤンチャ坊主と言った印象を与えてくる。
「エボ君?リクルス知ってるか?」
「うーん……どっかで見た事ある気がするんだけどな……」
「カレットは?」
「知らん!」
尋ねて見たが2人とも見知らぬ様子だった、「知ってるよ、って人は〜」って言ってたからどこかしらで出てきたんだろうけど……
『誰?って顔してる人達の為に自己紹介いくよ〜。僕はこの《EBO》のマスコットのエボ君だよ!公式ホームページにちょこちょこ出てきてるから知ってる人は知ってるんじゃないかな?』
「あぁ!そこか!」
エボ君自身の説明により思い出したらしいリクルスが指をパチンッ!と鳴らした。少しイラッとしたので無視しておくとするか。
『私も居ますよ〜』
エボ君の後ろからひょこっと出てきた小さな人影。見覚えあるな〜と思ったら初日の害悪金髪事件の時にGMコール対応用AIとして出てきた妖精ちゃんだった。
『は〜い!何故かGMコール対応用AIなのにイベント発表に駆り出された私です!知らないよって人の為に自己紹介しまーす!GMコール対応用AI兼イベント進行AIになった『リーリア』と申します、気軽にリーリア、又は妖精ちゃんと呼んでください!』
辺りから「可愛い〜」などの声が上がる。妖精ちゃん昇格(?)したのか。
確か風の噂では妖精ちゃんの容姿が一部の人にウケたらしく妖精ちゃんに会いたいがためにGMコールすると言う事件が発生するようになった……とかなんとか。それの対策だろうな。
ウォォォォォ!
少し遠い所から雄叫びが上がる。恐らく、と言うか絶対今声を上げた奴らがGMコール事件の主犯達だろ。
だが実際エボ君と妖精ちゃんの2人セットは絵になる。そこかしこから色々な声が上がっているのがその証拠だろう。
『さて!さっそくイベント発表!の、前に……少し語らせて貰うよ〜』
エボ君の行くぞッ!と言ったノリから急にお預けを食らったプレイヤー達は一瞬惚けてしまった。ノリのいいプレイヤー達はズッコケたりしている、そしてエボ君と妖精ちゃんがそれを見て笑っている。
『アハハッ、君たち面白いね〜』と笑いながら言いその後も少し笑い続ける。エボ君も一応AIらしいが……凄いな最近の技術は。
『じゃっ、笑った事だし前語り始めますか』
エボ君は先程の雰囲気を払拭しようと真面目なトーンで語り始めようとする。ただ、笑い転げたせいで目頭に涙が付いてるのでイマイチシリアスになりきらない。
『最初に言わせてもらおう。このゲームにハッピーエンドなんて存在しない』
いきなり落とされた言葉の爆弾。周囲のプレイヤーが動揺するのが伝わってくる、そしてその動揺は俺達も同じ事だ。しかしエボ君は俺達プレイヤーの反応は気にせずに続ける。
『それだけじゃない。バットエンドも、ノーマルエンドすらもこのゲームには存在しない』
続けられた言葉に更にプレイヤー達が動揺する。
『それは何故か、簡単な話だ。このゲームはendless battle、つまり終わらない戦いの物語だからだ』
『この世界は終わらない。なぜなら全てが終わったとしてもそうしたらそうしたで『終わった後の世界』が続くからだ』
『この世界にリセットは存在しない。リセットされると言うことはリセットされる前の世界は終わるという事になる。けれどこの世界は終わらない』
『ここは確かにゲームの中だ。けれどここはもう一つの世界でもある。現実世界にやり直しは無いだろ?それと同じさ』
『確かにゲームとしてのクリアは存在する。だからなんだ?クリアした後もクリアした後の世界が続いていく。クリアしたら終わりじゃないだろう?』
『この世界にはこの世界の物語があり君達はその物語にお邪魔しているに過ぎない』
『故に、この世界で死んだ人は蘇らない。この世界で崩壊した都市は戻らない』
『君達は人生の主人公であっても世界の主役じゃないだろう?それと同じでこの世界でも君達は主人公であっても主役じゃない』
先程までの少年はどこに行った!?と言いたくなる程に淡々とエボ君は語り続ける。一言発せられる度にプレイヤー達に動揺が走り辺りがザワつく。
エボ君はそんな俺達を見渡し満足気に頷くと声のトーンを最初の少年モードに戻し最大級の爆弾を落とした。
『なので!今回の初イベントは『町襲撃イベント』です!』
町襲撃イベント。内容は単純で大量のモンスターだか強力なモンスターだかがその名の通り町を襲撃してくると言うだけのイベントだ。
それを聞いたプレイヤー達の反応は様々だった。よく分からないと首を傾げるものや何かに気付いたように頬を引き攣らせているものなど反応は様々だ。
そして1拍。エボ君のセリフと今回のイベント内容、その二つを合わせて考えると行き着く結論にプレイヤー達は信じられないと言った感じだ。
思い出してもみてほしい。エボ君は『この世界で死んだ人は蘇らない。この世界で崩壊した都市は戻らない』と言った。その上で今回の町襲撃イベント、つまりモンスターが町を破壊しに来ると言うのだ。そして恐らく……いや、絶対と言ってもいい。今回の襲撃イベントで破壊された町は勝手には修復されないだろうし死んだNPCも復活しないだろう。
「なぁ……トーカ、この運営相当意地悪じゃないか?」
「確かに、この話をした上での町襲撃イベントとはな……」
リクルスとカレットも気付いたようで硬い表情をしていた。もちろん俺も似たり寄ったりの表情をしているだろう。
『とは言ってもさ。「そんなん知らねーよ!」とか言うコアゲーマーも少なからずいるだろうからね。実際町なんて無くても家は建てられるし必要な物もスキルと材料があれば作れるしさ』
エボ君は俺達の沈黙も気にせずに、あるいは想定内だったのか話し続ける。
『そんなコアゲーマーのみんなにも頑張って貰いたいので特別報酬を用意する事にしたよ』
特別報酬と聞いて先程の動揺はどこへ?と言いたくなるくらいに食いつくプレイヤー達。俺の隣でリクルスも「特別報酬ってなんだ!?」と食いついている。
『はい!ここからは私、妖精ちゃんがお話しまーす。なんとっ!今回のイベントでの防衛成功率の切り捨て半分の数値分フィールドボス【ロックゴーレム】を弱体化してあげましょう!』
【ロックゴーレム】の弱体化。
未だに討伐出来ていないフィールドボスが弱体化されると聞いてプレイヤー達は一気に沸き立つ。
『つ、ま、り〜皆さんの頑張り次第でボスの強さが最大半減されるんですよ〜。頑張って下さいね〜あっ、「俺はあの状態のアイツを倒したいんじゃ!」って人用に弱体化後か弱体化前かは選べるようにしますよ〜』
オォッ!と一部のプレイヤー達が沸き立つ。彼らは先程エボ君が言っていたコアゲーマーに当たる人たちなのだろう。
『イベントは来週の土曜日、午後6時から開催しま〜す!お楽しみに〜』
『じゃ頑張ってね〜』と言い残しエボ君と妖精ちゃんは去っていった。残されたプレイヤー達は慌ただしく動き始める。大方襲撃イベントに備えて準備をするのだろう。
俺達は3人で少し会議をする事にした。とは言ってもここでやる訳にも行かないのでプライベートスペースが確保できる宿屋に行く。
「すいません部屋を貸してください」
「はいよ!何人だい?」
「3人で部屋は……」
「一部屋でいいか?」と視線で尋ねるとリクルスはともかくカレットが親指を立てていたので大丈夫だろう。伊達に長年幼馴染やってないぞ。アイコンタクトなんて朝飯前だ!
「一部屋で大丈夫です」
「じゃぁちょいと大き目の部屋として……3000トランだよ!」
「分かりました」
定食屋の女将さんと言った感じの店員に3000トランを払い指定された部屋に行く。
「おぉー!中は結構綺麗だな!」
「おおっ!見ろトーカ!ベットがふかふかだぞ!」
「確かに綺麗だな。そしてカレット年甲斐もなくベットで跳ねるな」
「えぇー」
ベットでぴょんぴょん跳ねるカレットを窘めてから改めて内装を見渡す。
大き目のベットが一つとそれより小さなベットが一つ、テーブルに椅子が四つ程あるだけのシンプルな作りだがリクルスの言うとうり綺麗に整えられている。
「あんま使う機会とか無いだろうけど凝ってるな」
「ほら、あれじゃないか?寝落ち用」
「あぁ、そゆこと」
寝落ちと言うのは実際にゲーム内で眠ると睡眠開始十分後に自動的にログアウトされる。と言うシステムが《EBO》に搭載されているのでわざわざ現実に戻らずゲーム内で寝れるようになってるらしい。
「それでイベントの事なんだけどさ……」
「なんだ何だ?」
「俺とリクルスはいいとして……カレットの装備を更新しないか?せめて武器だけでも」
現在カレットが装備しているのは未だに『初心者の杖』だ。店売りの装備もあるにはあるが性能が対して変わらないので更新していない。
「うーむ、確かにそろそろ火力不足が否めなくなってきたしな……ここらで新しくしておきたいな」
「リクルスは『鉄の剣+3』があるからまだいいとしても流石にカレットだけ初期装備ってのも可哀想だろ?」
「そうだなぁそろそろ変えた方がいいとは思うが……アテってあるのか?」
「あぁ、それについては一応心当たりはあるんだが……」
心当たりと言うのはメイの事だ。彼女はしっかりと生産道を突き進んでいる様で彼女の作るポーション類は品質がいいともっぱらの噂だ。
ただ彼女は意外にも人見知りらしく匿名でポーションを売っているので謎の生産者として実は結構話題にもなっていたりする。
そんなメイにこのタイミングで杖の制作をお願いするのは気が引けるのだが……
「心当たりって……メイか?」
「あぁ、そうだ。ただ今依頼していいものか少し悩ましくてな……」
俺が言うと2人も意味を察した様で「あぁ〜」と言っていた。
その後も少し話したがいい案が出るわけでもなく、依頼出来るかどうか聞いてみてダメそうなら諦めよう。と言う方向性で意見が固まった。
メイは現在ログインしている様なので代表して俺がメッセージを飛ばす事になった。数分で返事があり、『詳しい話がしたい』、との事なので本来ならこちらから出向くべきなのだろうがプライベートスペースと言う事もありこちらに来てもらう事になった。
「どうだった?」
「一応話は聞いてくれるってさ。宿屋の場所は教えたから少ししたら来てくれるはず」
「おお!良かった!」
カレットが心底嬉しそうにガッツポーズを決める。喜んでる所悪いがまだ受けてくれると決まった訳じゃ無いぞ。
カレットを窘めていると着いたと言う旨の連絡がメイから送られて来たスグあと、コンコンとノックの音が聞こえたので扉を開ける。
「あれ?もう付いたのか、早いな」
「えっと実は生産用に借りてる宿がここなんですよ」
メイもなんとこの宿を借りていたらしい。驚きながらも中に入ってもらいさっそく話を切り出すことにした。
妖精ちゃんイベント用AIに昇格!
なお通常のGMコール対応業務もある模様
今後その場のノリで色々なスキル(複合スキル含む)や称号、武器防具アイテムを増やしていくと思うので何かアイディアがあればお願いします!
おかしい所や誤字脱字、誤用などがあったら是非ご指摘お願いします
ブクマしてくれた方や読んでくれてる方本当にありがとうございます!
今後も当作品をよろしくお願いします!