第165話 『ヒャッハー式英才教育:ボス戦編《池の主》①』
ヒャッハー共、動く
サクラが池に叩き込まれる少し前、正確にはサクラが【仕返し】を決める前まで時間は遡る。
◇◇◇◇
「うめっ、うめっ。焼き兎うめっ」
「リクルスお前……いくら泥試合で暇だからってそんな飯ばっか食ってないで妹の奮闘を見ててやれよ。さっきだってサクラ、悲しそうな顔してこっち見てただろ」
「もっもっ……ごくんっ。いやさぁ、だってこれ、たぶん終わんねぇぜ?」
「それでもさ、なんか……あるだろ?兄として的なのが」
大亀に近付けず何も出来なくなっているサクラを後目に、トーカとリクルスがそんな言葉を交わしていた。
リクルスも最初の十数分はしっかり見ていたのだが、サクラが『放水』と『水大砲』の無限ループに陥ってからは観戦よりも食事に精を出していた。
「おいっ!2人とも!サクラがなにか閃いたみたいだぞ!」
そんな中で、両手どころか両指の間に串を持って焼き兎や蛇串を食べまくりながらも、リクルスとは違いしっかりとサクラと大亀の泥試合を観戦していたカレットが興奮気味の声を上げる。
その声に反応してサクラの方を見れば、ちょうどサクラが地面に突き刺した大盾を囮に『放水』をやり過ごしている場面だった。
「へぇ……大盾って地面に刺せるのか。盾なんて間違っても使わねぇから使い道のない知識だけど」
「しかもそのまま壁として機能するのな。大盾そのものの性質なのか維持力はプレイヤーの防御力依存なのか、はたまたま初心者シリーズだけの隠し能力なのか」
2人はサクラの奇策『大盾の壁』に関心の声をもらす。
妹の奮闘より団子をしていたリクルスもなんだかんだ言って変わらない戦況に飽きていただけで、サクラの戦闘自体に興味が無い訳では無い。
むしろ、変わらない、あるいは変えられない戦況で粘るしかない状況の辛さは身をもって知っている。
だからこそ、それが見られていて気持ちのいいものでもないと自分の経験から考えたのだろう。
とは言っても、その時の本人には見られていてどうとかそんな事を考える余裕はなく、後からそう考えているだけだが。
「おい、サクラの奴、トーカが教えた『早着替え』悪用しての装備呼び寄せちゃっかり使いこなしてるぞ」
「こんな事もできるぞー的な小技として教えただけなんだが……盾を吹き飛ばされたり盾から離れざるを得なくなった時なんかに使えそうだな……」
そんな気の抜けた会話をしているが、そうであっても時間は止まってはいない。奇策を駆使して大亀に接近したサクラが、今まさに大亀の首に大盾を振りかぶっている。
「「いっけぇぇぇぇぇぇぇ!」」
カレットとリーシャが特にハイテンションで声を張り上げる。
その声がサクラに聞こえた訳ではないだろうが、どんでん返しは起こらず大亀の首にしっかりと【仕返し】が突き刺さる。
そして……
「「えっ?」」
息ぴったりに声を張り上げていたカレットとリーシャがまたもや息ぴったりに絶句する。
彼女らもまた、サクラと同じく【仕返し】が決まれば勝負も決まると思ってしまっていたのだろう。
「あちゃ〜」
「サクラ……焦ったな」
「いや、思い付いた作戦に堪えきれず突っ走っただけだと思うぜ。アイツはそういう所あるし」
対照的にメイ、トーカ、リクルスの3人は少し落ち着いていた。戦闘を見てはいたが、彼女達ほど熱心に食い入るようには見ていなかったからだろう。
落胆はしていたが、それでも2人ほど激しいリアクションをとったりはしていない。
そして、さらに時間は進む。
渾身の【仕返し】を防がれ呆然としていたサクラを大亀の連続踏み付けが襲う。
「うっわ……エグい……」
「むぅ……あの巨体に連続で踏みつけられるとは……トラウマにならなければいいが」
「でもすぐに脱出して、なおかつダメージも少ないのはさすがの一言に尽きるな」
「もう耐久力だけなら俺ら敵わねぇんじゃね?」
「補正がほぼ最低値な『見習い』防具と『初心者』シリーズだけであの耐久力だからね。装備を整えたらすごいことになりそう。生産職の血が騒ぐよ」
予想外の出来事はあれど、彼らはあくまで『観戦』というスタンスを崩そうとはしない。
この戦いはサクラ1人のものであり、他が手を出していいものでは無いのだ。
彼らは、タンクが本来ソロでボス戦に挑んだりしないという事を忘れているのかもしれない。
しかし、そうも言っていられない事態が起こる。
「のわっ!?」
「おーおー、サクラの奴、派手にぶっ飛ばされたなぁ」
「水しぶき凄かったねー」
「あー……あれ。嫌な予感が」
「ね、ねぇ……確かこの池って……」
大亀の『ノックバック頭突き』によってサクラが池に叩き込まれる。
カレット、リクルス、リーシャの3人はそのド派手な水しぶきに意識を持っていかれていたが、少し前にこの話を持ち出した本人であるトーカと、仕事柄自然と様々な情報が集まってくるメイは嫌な予感に顔を引き攣らせていた。
そして……
「ッ!!」
「リクルス!」
反応が最も早かったのは、リクルスだ。
生来の勘の良さが彼の身体を動かした。あるいは、今1番危険な場所にいる人物の兄としての反射か。
リクルスの動きに一瞬遅れて、トーカ達も立ち上がり臨戦態勢に入る。
そして、彼らが構える前で……
「サクラァッ!」
全力疾走で僅かな距離を一瞬で駆け抜けたリクルスが勢いをそのまま利用してサクラを後方にぶん投げる。
そこまで重量が無いとはいえ全身鎧を着込み、大盾を持った人をひとり、平然と投げるその光景はなんとも現実味がなかった。
だが、さすがにその行動はリクルスにとっても容易いものではなく、僅かにバランスを崩している。
だからだろう。リクルスが、避ける事も出来ずに水しぶきに飲み込まれたのは。
◇◇◇◇
4人の行動は早かった。
「【バフセット:リーシャ】!【バフセット:カレット】!サクラ!悪いが回復は自力で頼む!」
「ほい来た!【クライショット】ッ!」
「焼き払え!【白龍砲】ッ!」
リクルスに投げ飛ばされたサクラが彼らのそばに着地(着弾)した時には、もう既に彼らの戦闘は始まっていた。
トーカがリーシャとカレットの2人にそれぞれ専用にカスタマイズしたバフをかけ、それを受けた2人が攻撃行動に入る。
リーシャが矢を放った直後に、カレットの緋翠の杖から純白の光が放たれる。
リーシャの矢は耳障りな甲高い騒音を撒き散らしながら明後日の方向に飛んで行く。間違っても命中はしないだろう軌道。
だが、ぴくりと、未だ収まらない水しぶきの中でナニカが反応した気配があった。
リーシャの放った【クライショット】は、しっかりと囮としての役割を果たした。
そして意識を逸らした水しぶきの中のナニカにカレットの【白龍砲】が迫る。反射的に放ったが故になんの手も加えていない、広範囲に拡散するタイプのシンプルな【白龍砲】。
だが、それはつまり水しぶきに隠れて正確な位置が分からなくとも焼き払えるということ。
カレットの放った【白龍砲】が、水しぶき諸共中にいるナニカに襲い掛かった。
カレットの放った広範囲に拡散するタイプの【白龍砲】によって、水しぶきがまとめて蒸発飛とばされ、視界が晴れる。
池の畔に、ソレはいた。
全長5mはあろうかという巨躯に、鰐と鮫と蜥蜴を混ぜ合わせたような凶悪な見た目。その身体には僅かに霜が降りており、寒い日の息のような白い煙を纏っている。
そして……
「無傷、か」
その鮫鰐……池の主のHPは、カレットの【白龍砲】を受けたにも関わらず僅かたりとも減少していなかった。
池の主の周囲を取り囲むように展開された透明度の高い氷の壁。
それが【白龍砲】を防いだのだろう。
僅かに溶けた氷の防壁が、ビキバキと音を立てて崩れ落ち、池の主とトーカ達を隔てる壁が無くなる。
『ーーーーーーーーーッ!!』
耳が痛くなるような轟音の咆哮を上げ、池の主が新たな獲物……トーカ達を睨み付ける。
新たな戦闘が、始まった。
書いてて思った。コイツ、ザボアザギルじゃね?と
今後その場のノリで色々なスキル(複合スキル含む)や称号、武器防具アイテムを増やしていくと思うので何かアイディアがあればお願いします!
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