第164話 『ヒャッハー式英才教育:ボス戦編《???》』
おや?戦闘のようすが……
「げほっ!げほっ!げほっ!」
大亀の『ノックバック頭突き』を受けて吹っ飛んだサクラは、大きな水柱を立てて池に叩き込まれた。
その時に水を飲んでしまったのだろう、大盾を杖代わりに何とか立ち上がった後も、何度も咳き込んでしまう。
サクラのようにがっしりとした鎧を着込んだプレイヤーは泳ぐ事はおろか水に浮かぶ事も出来ないが、幸いな事にまだここは池の浅瀬のようで、深さも腰程までしかない。
だが、問題はそれだけでは無い。池に突っ込んだ時に1度全身を水に浸かってしまっている。
サクラの身に着けている『見習い重戦士の鎧』は質素とは言え金属製なのでまだ平気だが、鎧の下に来ている服(デフォルト装備のひとつ)は布製のため、水を吸ってぐしょぐしょになってしまっている。
濡れた服が身体に張り付き、さらに水を吸って服が重くなってしまい、着心地は決していいとは言えない。
むしろ、最悪の部類だろう。
「けほっ、けほっ……確かに泳ぎたいとは言ったけど、こんな風に体験したくはなかった……!」
咳き込みながらも冗談混じりの悪態を付けるのは、メンタルが強いと言うべきか危機感が足りないと言うべきか。
前者はともかく、後者ならばその余裕はすぐに消え失せるだろう。
「こんのぉ……大亀めぇ……絶対に許さ……」
ーーゾクリ。
「ッ!?」
距離が空いたにも関わらず不自然に攻撃を止めて池に浸かるサクラを見詰めている大亀を逆に睨み付け、恨み言を呟きながらも取り敢えず不利なフィールドから離脱しようとした、その瞬間。
サクラは背筋の凍るような悪寒を感じ、咄嗟に振り返る。
嫌な予感。あるいは、死の予感。
そういった、決して好ましくない気配に晒されて手足が小さく震え、鳥肌が立つ。
「なに……?」
しかし、振り返った視線の先には何も無い。
ただ穏やかな水面があるだけだ。
波ひとつない、凪いだ水面が。
ほんの数秒前にサクラが叩き込まれ、盛大な水しぶきを上げたにも関わらず、そんな痕跡は一切ない。
それどころか、今サクラが水中にいて、動いている……つまりは波を立てているにも関わらず、水面は不自然な程に穏やかに凪いでいる。
「なん、で……」
ーーちなみに、この池は中央に行くほど深くなっててーー
ジリジリと嫌な予感が神経を焦がす。
ーー池の中心部の底付近にはめちゃくちゃ強い水性のボスがいてーー
ひたりひたりと這い寄る不気味な恐怖に息が浅くなる。
ーー例え浅瀬でも池に入ると即座に察知してーー
先程からまとわりついて離れない死の気配に、カチカチと歯が鳴る。
ーー襲いかかってくるとかなんとかーー
大亀と戦い始める前にトーカから聞いた小ネタ。
あの時は流したその言葉が、脳裏に蘇る。
「池が……凍、って、る?」
極大の嫌な予感に取り憑かれながらも、凪いだ水面から目を離さない。否、離せない。
だが、そのおかげで気付く事が出来た。
先程までは間違いなくただの流体だった池の水面が、薄く凍り付いている事に。
その氷の透明度が異常に高いせいで、パッと見では凪いだ水面にしか見えないが、1度分かってしまえばそれは水面が凪いでいるのではなく、凍っていて波が立たないだけなのは嫌でも分かる。
「っ……」
身体の震えが強くなったのは、急激に低下し始めた水温だけが原因では無いだろう。
ゆらりと、水面……いや、薄く張った氷の下で、なにか巨大な影が動いているのが見えた。
ナニカが、いる。
逃げなきゃ逃げなきゃ逃げなきゃ逃げなきゃ逃げなきゃ逃げなきゃ逃げなきゃ逃げなきゃ逃げなきゃ逃げなきゃ逃げなきゃ逃げなきゃ逃げなきゃ逃げなきゃ逃げなきゃ逃げなきゃ逃げなきゃ逃げなきゃ逃げなきゃ逃げなきゃ逃げなきゃ逃げなきゃ逃げなきゃ逃げなきゃ。
そう、本能が全力で警鐘を鳴らす。
けれども、身体が動いてくれない。
影の移動に合わせて凍った水面はパキパキと音を立てながらまだ凍っていない水面を侵食していく。
それでもまだ、サクラのいる場所まで氷は張っていない。
なのに、サクラの身体が凍り付いたように動かない。
荒く息を吐きながら、ゆっくりと近付いてくる大きな影を見つめることしか出来ない。
動く力を全て歯に吸い取られているように、歯だけがカチカチと音を鳴らし続けている。
その間も、影は動きを止めることなく、サクラ目掛けて近付いてくる。もう5mも離れていない。
「ひっ……」
射程圏内に入ったのだろうか。
水面の凍結が止まり、死の気配がより一層、濃くなる。
一瞬の後に自分は死んでいるだろう。
そう、否応なく思い知らされる程に濃密な恐怖がサクラの身体にまとわりついて離れない。
恐怖に耐え切れず、あるいは直後に遅い来る恐怖に耐える為に、サクラは目を瞑る。
そしてーー
「サクラァッ!」
次の瞬間、とてつもない力によって身体が後ろに吹き飛ばされた。
あまりの衝撃に身体が強く揺さぶられる。慌てて堪えようとしても、体勢がヤケに不安定で踏ん張りが効かない。
今自分が空中にいるのだと理解するのにさほど時間はかからなかった。
「なにが……お兄ちゃん!?」
その衝撃に堪らず目を開けたサクラの前には、自分を投げ飛ばしたのだろう。両手を振り抜いた体勢でバランスを崩しているリクルスの姿があった。
リクルスの自分を見詰めるその顔に、焦りと緊張、そして安堵の色が浮かんでいたような気がして。
だけど、それを確かめる前に、リクルスの姿は突如盛大に立ち上った水しぶきに飲まれて消えた。
《称号『守護者の恥晒し』を取得しました》
音も景色も、何もかもが遅く引き伸ばされた意識の中で、そのアナウンスだけがヤケにハッキリと聞こた。
(たしかに、そうかもしれない)
自分のHPバーの少し下に表示される、パーティメンバーのHPバー。
その中のひとつ、たった今一瞬でからっぽになったリクルスのHPバーを視界の端で捉えながら、サクラはそう思った。
今後その場のノリで色々なスキル(複合スキル含む)や称号、武器防具アイテムを増やしていくと思うので何かアイディアがあればお願いします!
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