第161話 『ヒャッハー式英才教育:ボス戦編《大亀》前編』
どうしてこうなった
えっ、ちょ、……この泥試合マジどうしよう
「【ガードアップ】【仕返し】」
『……………………』
子亀の殺戮を乗り越えようやく始まったサクラ対大亀の対決。
大兎戦が目まぐるしく動くハイスピードの激戦だったのに対し、今回の戦闘は真逆。超スローペースの静かな戦闘だ。
というか、まだ戦闘が始まっていない。
お互いがお互いの出方を伺っているのだろう。
サクラは【仕返し】を発動し、攻撃不可能の完全に受けの態勢に回っている。
対して大亀も池から上がって来たはいいもののそれ以降は1歩も動かず、静かに静の姿勢でもってサクラの前に構えている。
「…………」
『…………』
そのまま相対する事数十秒。
戦況に変化は訪れない。
サクラの「え?これどうしたらいいの?私攻撃出来ないよ?」という雰囲気が痛い程伝わって来る。
だが、俺達にはどうしようもないんだ。大亀がこんなに動かないとか想定外だよ。
だから、そんな泣きそうな顔でチラチラこっち見て来ても手の打ちようがないんだよ……
そんな感情を込めて、トーカは静かに首を横に振る。
サクラは涙目になった。
そのまま時は流れ、5分程睨み合った頃だろうか。何か思い付いたのか、サクラの顔に活気が戻る。
「そうだ、これなら……!【挑発】!」
1対1で既に自分にヘイトが向いている以上、もう意味は無いと存在を忘れていた【挑発】を物は試しと使う。
結果は大成功。
『おぉぉぉぉぉぉん……!』
重苦しい咆哮を上げながら、大亀がサクラ目掛けて動き始める。
戦闘が始まってからはや数分、ようやく戦況に変化が訪れた。
『おぉぉんっ……!』
ノシノシと歩みを進め、大盾を構えるサクラの前で右前脚を大きく振り上げ、体重をかけて叩き付ける。
所謂、踏み付けである。
だが、その単調な攻撃は、鈍足な代わりに圧倒的な防御力と質量を持つ大亀が繰り出した瞬間、危険度が跳ね上がる。
「【ブロック】!っ、くぅ……!」
ズガンと、重く低い轟音を立てながら大亀の踏み付けをサクラの大盾が防ぐ。
大亀の踏み付けを必死に耐えているサクラだが、肝心の大盾からはミシミシと言う嫌な音が響いている。性能が低い代わりに破壊不可能な初心者シリーズの大盾でなければ、間違いなく砕けていただろう。そう思わせる程の圧が大盾にかかっていた。
今までサクラが経験した事のある攻撃というのは、威力の大小はあれど瞬間的なものだった。だが、ここに来て初めて持続するタイプの攻撃を喰らう。
タダでさえ上から来る攻撃という耐えにくい種類の攻撃な上、踏み付けという大亀の質量を十全に活かしたこの攻撃は、サクラと言うよりはタンクにとって最も苦手とする攻撃のひとつだ。
「くっ、うぅ……!せぇい!」
そんな攻撃を、上に構えた大盾を斜めに傾ける事で逸らす。
自身の真横に突き立った大亀の前足に、ともすれば自分がアレに押し潰されていたかもしれないと背筋が冷たくなる。
「はぁ……はぁ……」
じわじわと押し込まれ無茶な耐久を強いられていたとは言え、HPの減少量自体は2割ほどとそこまで高い訳でもない。
だが、数値的なHPの減少は小さくとも精神的な消耗は大きい。
サクラは未だに大盾を構え防御の姿勢を崩さずには居るものの、肩で息をしていて見るからに苦しそうだ。
『おぉぉぉぉぉん』
「ふっ……!」
踏み付けを防がれた大亀は、続いて頭部を思いっ切り振りかぶっての横薙ぎの頭突きを放つ。
これはサクラが経験済みの瞬間的な攻撃。
そして、いくらボス格あろうと、そんな単調な攻撃でサクラの防御を崩す事は出来ない。
サクラは余裕を持って大亀の頭突きを大盾で受け止める。
だが……
「うわぁっ!?」
綺麗に受け止めたにも関わらず、サクラの身体は後方に吹き飛ばされていた。
威力に関係無く攻撃した対処を吹き飛ばす、言わいるノックバックの効果がこの頭突きにはあったようだ。
HPを僅かに削られながら後方に吹き飛ばされ、大亀とサクラの距離が空く。
だが、この戦いにおいて距離が空くというのは大したデメリットになりえない。ならば、自分から距離を詰めるよりも待ち構えて向こうから来てもらおう。
そう考えたサクラだが……
『おぉ……おごぽっ、ごぽっ、ごぽっ』
大亀が顔を上にあげ大口を開ける。
すると、何やら喉の奥からくぐもった水音が響き始めた。
サクラも、メイも、カレットも、リクルスも、それが何か分からない。嫌な予感はしても、その正体が分からないから反応出来ない。
だが、トーカとリーシャは知っている。
トーカは邪蛇から、リーシャは劣水竜から、似たような攻撃を受けた事があるから。
喉の奥から響く水音。それが意味する事とは……
「サクラ!構えろ!」
「サクラちゃん!気を付けて!来るよ!」
「っ!?うん!」
トーカとリーシャの警告を受け、サクラは緩めていた防御を固め直す。その直後。
『ごぽぁッ!!』
大亀がバランスボール大の水球を吐き出した。
まるで大砲のように吐き出された水球は狙い違わずサクラの構えた大盾に直撃する。
着弾音と水が弾ける音がほぼ同時に鳴り響き、サクラの身体がさらに後方に押し込まれる。
ダメージこそ多くはないが、僅かにノックバックの効果があったのかさらに大亀との距離が空く。
となると当然……
『おぉ……おごぽっ、ごぽっ、ごぽっ』
大亀は2度目の水球を準備し始める。
大亀のその様子を見て、サクラがゴクリと唾を飲む。そして、1度深呼吸をすると……
「このままじゃ距離を離されてジリ貧……なら!」
そう小さく呟く。
『ごぽぁッ!!』
直後に放たれる2度目の水大砲。バランスボール大の水球が高速で飛んでいき、またしてもサクラの大盾にぶち当たる。
重厚な激突音とパシャリと言う水の弾ける音を響かせ、僅かなダメージと共にサクラの身体が後方に押し込まれる。
「今っ……!」
2度目の水大砲を防いだ直後に、この戦闘の直前にメイから渡されていた『早着替えの指輪』の効果で大盾の即時持ち替えが可能になったサクラが大盾をインベントリに送還し、大亀目掛けて走り出す。
距離が空いてしまったなら自分から詰め直そうという、ある意味最も手っ取り早い方法。
彼女の取り柄である防御を削ってまで距離を詰めようとする、ある種の覚悟が決まった行動。ジリ貧が賭けに出るかで彼女は後者を選んだのだ。
しかし、彼我の距離は既に10m近く。
リクルスのような速度重視のプレイヤーならともかく、防御系に振り切っていて鈍足なサクラにとっては絶望的な距離だ。
現に、5mも進まない内に大亀の3度目のチャージが終了する。
『ごぽぽぁぁぁぁぁッ!!』
「はぁっ!」
チャージ完了を察知したサクラは瞬時に大盾を取り出して防御姿勢に入る。水大砲1発で押し込まれる距離は約2m。1発分のチャージが終わるまでに約5m進めているので、何発か水大砲で押し込まれてもいずれ接近出来る。
だが、そんな彼女を嘲笑うかのように大亀は別の技を放った。
チャージ後に水を吐くという大雑把な系統は同じ。だが、その効果がサクラにとっては致命的だった。
今までがバランスボール大の水球1発を飛ばして来たのに対し、今回はまるでホースで放水しているかのように継続的に水を吐き出し続けている。
「っぁ……!く、ぅ……!はぁ……はぁ……」
大盾による防御こそ間に合ったが、容赦ない放水で6m程後方に押し込まれてしまう。
水大砲が威力特化だとしたら、放水は押し込み特化なのだろう。そのことを証明するように、放水は戦闘開始から時間が経ち防御力の上昇しているサクラにほとんどダメージを与えていなかった。
だが、状況はHPを削られるよりも余程悪化している。
自分は近接攻撃しか持たず、相手は遠距離攻撃を持つ。
自分に接近する術はなく、相手には距離を離す術がある。
今のサクラには、たった10mの距離が、果てしなく、遠い。
大亀くん……キミ、そんな攻撃使えたんだ
……想像以上の泥試合になってマジどうしよう
今後その場のノリで色々なスキル(複合スキル含む)や称号、武器防具アイテムを増やしていくと思うので何かアイディアがあればお願いします!
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