第160話 『ヒャッハー式英才教育:ボス戦編《大亀》前哨戦』
ヒャッハーがヒャッハーした影響で1話増えました
子亀乱獲という名の殺戮が始まってはや30分。
サクラはトッププレイヤーの実力の片鱗を味わっていた。
一口に子亀と言ってもそのサイズはまちまちで、片手で持てそうな小さな個体から、現実世界で言うゾウガメ程にもなる大きな個体まで千差万別だ。
当然、大きい個体はそれ相応のステータスを誇っているだろう。
だが、彼等は個体差は関係ないとばかりに全てを一撃の下に屠っていく。
例えば、トーカ。
「よいしょっと」
トーカが白銀ノ戦棍を振るえば、子亀の堅牢な甲羅は戦棍の勢いを僅かに減少させる事も出来ずに薄氷のように呆気なく砕け散り、そのまま子亀本体と共に大地のシミとなる。
気負った様子どころか、大して力を込めているようにも見えないのにこの威力。改めてあの時は全然本気じゃなかったのだと思い知らされる。
例えば、リクルス。
「あらよっと!」
リクルスが拳を振るえば、その甲羅には拳大の穴が開き、勢いを衰えさせる事なくそのまま内部を蹂躙する。
拳を振るうには低い位置にいる子亀を、しかし地を這うような低姿勢で動き回りつつ低く拳を振り抜くことで対応してみせるその適応力は普段のパッパラパーな兄の様子からは想像も出来ない動きだ。
例えば、カレット。
「うぅむ……やはり森は苦手だ……」
カレットが杖を振るえば、巻き起こされた風の刃が、弱音を吐きながら使ったとは思えぬ程の精密さで子亀の身体をバラバラに引き裂いて行く。
得意の火魔法を使っていないのは木々への引火を恐れてか。逆に焼き払っていい森だったら嬉々として火を放つのだろうと容易に想像出来る。放火魔の素質がありそうだ。
例えば、リーシャ。
「よっほっはっ。っとね」
リーシャが弓を振るえば、ぽとりぽとりと子亀の首が落ちる。(なんで?)
これは本当に分からない。なんで弓なのに近接戦闘をしているのか。というか弓って斬るための武器じゃないよね?矢を射る武器だよね?
他は理解出来るタイプの訳わかんないだけどこっちは理解出来ないタイプの訳わかんないだよ(混乱)
例えば、メイ。
「使えない。ゴミ。ゴミ。使えない。使える。使えない。ゴミ。使えない。ギリギリ。ゴミ。使える。あっこれはいいね。使え……る?かな。ゴミ。ゴミ。ゴミ。使えない。ゴミ。ゴミ。ゴ……ねぇ!もうちょっと丁寧に狩ってくれないかなぁ!?」
メイは一時もインベントリから目を離さず流れてくるドロップアイテムの精査をしている。しかし4人の戦闘方法が戦闘方法だ。綺麗な状態のアイテムは非常に少ない。メイはキレた。
勝手にメイはだいぶ大人しい方……というかあまり声を荒らげたりしないタイプだと思っていたが、こと生産に関しては話は別らしい。
というか、目付きが違う。
先程までの優しそうで、でも少し気の弱そうな雰囲気は消え失せ、完全に職人のオーラを放っている。
なんというか、邪魔したら殺されそう。
「……凄い」
そんな5人の姿を間近で見ているサクラの胸中を満たす思いとは、はたして。
それは、彼女の心の中にだけ留められるべきだろう。
ところで、この殺戮の場でサクラが一体何をしているかというと、特に何もしていない。
傍観である。
というか、何も出来ない。
なぜなら、亀系統の敵は総じて鈍足で攻撃力も低いが、その分とても高い防御力とHPを持つという、ある意味サクラの天敵とも言える能力構成をしているからである。
サクラ唯一の攻撃手段である【仕返し】の威力は完全に相手依存のため、サクラが子亀を狩ろうとすると恐ろしい程に時間がかかるのだ。
実際、この30分間でサクラは子亀を1匹たりとも討伐出来ていない。
というか、最初の方に少しでも役立とうと子亀に挑んだところ、こっちの攻撃が通らず向こうの攻撃も通らないという超泥仕合を5分程続け、見兼ねたトーカに苦笑いで「サクラは大亀に備えて休んでろ」と言われてしまったのだ。
なお、サクラが必死にぺちぺちしていた子亀はトーカの手によって一瞬で大地と一体化した。南無三。
なので、今のサクラはメイの側で座り込んで休憩しつつも、圧倒的な強さを見せる彼等の動きを見て、少しでも何か自分の糧にしようと観察しているのだ。
そのままサクラは黙々とドロップアイテムを見繕いながら偶に(無意識にだろう)悪態をつくメイに少しビクビクしながら4人の観察を続けていく。
そして、一体何百体の子亀がその儚い命を散らしただろうか。蹂躙の開始から1時間程経った頃。
ボコボコと水面が泡立ち、水の中から大きな影が姿を現す。
子亀の中での最大個体よりもさらに大きく、また見るからに堅牢そうな甲羅を持つ巨大な生物。
ようやく、大亀が彼等の前に姿を現した。
「やっと出たか……初日にすぐ出てきてくれたのはめちゃくちゃ運が良かったんだな……」
「やっとか……1番弱い魔法でもこれだけ使えばポーションの消費も馬鹿にならないのだぞ……?」
「やぁーっと出たよ。こんなに出にくいもんなのか?」
「うーん。子亀10体倒す事に10%の確率で出現だから……今回はとことん運に恵まれなかったってことだね。まぁその分子亀の素材はそこそこ集まったけど」
「まぁこんだけ狩ればね。感謝してよね?」
「8割り近くが使い物にならないゴミだったんだけどね」
「あれ、メイ怒ってる?」
………………姿を現した。
が、彼等の顔に緊張の気配は無い。
というか興味すら無いようだ。
実際、彼等の大亀に対する興味は出てくる所まで。
完全に姿を現してからは興味の「き」の字もない。まだ殺戮の成果物の選別の方が興味があるだろう。
だが、それも当然と言える。いくら巨体を持つボスと言えど、初心者御用達のフィールドの小ボス。彼等にとっては子亀と同じ雑魚でしかない。
だが、そうでない者が1人。
「えぇ……これ、今日中に終わる……?」
言わずもがな、亀に特大の苦手意識を持ったサクラである。
低攻撃力、高防御力、高HPの三拍子揃った典型的な防御型ボスである《大亀》。
攻撃は相手依存の耐えて耐えて耐え抜くカウンター型タンクである《サクラ》。
両者が、お互いの姿を視界に捉え合う。
今この瞬間。
《サクラ》VS《大亀》という、史上最悪の泥仕合の幕が静かに切って落とされた。
泥仕合不可避
今後その場のノリで色々なスキル(複合スキル含む)や称号、武器防具アイテムを増やしていくと思うので何かアイディアがあればお願いします!
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