第159話 『ヒャッハー式英才教育:ボス戦編《休憩》』
どうしてこうなった
双方の全力を込めた一撃は、確かに互いを捉え合った。
攻撃直後という最も体勢が崩れるタイミングで強い衝撃を受けた両者は、その場に留まる事が出来ずに吹き飛ばされた。
大兎は何度か地面にバウンドしながら吹き飛び、ゴロゴロと大地を転がってようやく停止すると、『きゅ、きゅう……』と力なく鳴いて、その身を光の粒へと変える。
高い攻撃力と機動力を持った大兎は、大兎の激しい連撃を耐える程の防御力を持った1人のタンクによって討ち取られたのだった。
◇◇◇◇◇
「サクラ!」
大兎と同じく吹き飛ばされたサクラの元へ、5人が駆け寄る。
大兎が倒されたという事は双方の攻撃が激突した瞬間に消滅したHPバーによって確認済みだ。
次の一撃はどう足掻いても耐えられないと悟ったサクラによる防御を捨てた捨て身の一撃は、確かに大兎を討ち取った。
だが、代償としてサクラは大兎の最後の蹴りをモロに喰らっている。
駆け付けた5人の前に横たわるサクラのHPバーには、もうゲージは残されていない。
相打ちかと、誰もが思った。この一瞬後には、サクラの身体も大兎と同じように光の粒となって消えるのでは無いかと。
だが、それは杞憂だった。
「えへ、へ……かっ、たよぉ……ぶぃ……」
駆け寄ってきた5人に、サクラはまさに疲労困憊といった様子で起き上がる事も出来ずに、しかし嬉しそうに笑いながら力なくブイサインを作ってみせる。
よく見れば、サクラのHPバーにはほんの僅かに、それこそミリあるかどうかというレベルで少しだけ、HPが残っていた。
ホッと安堵の息をつくと同時に湧き上がる、大兎の最後の一撃をどう防いだのかという微かな疑問。
「……あ、『根性』」
そんな些細な疑問に答えたのは、今の今まですっかり忘れていたと言った様子のトーカの呟きだった。
◇◇◇◇◇
サクラの大兎単独討伐から数十分後、一行は次なる目的地を目指して歩みを進めていた。
大兎の討伐からだいぶ時間が経っているのには理由があり、大兎を討伐した直後はサクラの疲労が激しく、この後すぐに別のボスに挑むのはさすがに無理があると休憩がてら主のいなくなった広場でピクニックと洒落こんでいたからである。
トーカの作った料理の数々に『ゲーム内ならいくら食べても太らない!』と乙女3人が目の色を変え、食べてもあまり太らない体質のカレットだけはその感覚が分からず首を傾げるといった一幕もあったが、急遽行われたピクニックをトーカ達は大いに楽しんでいた。
そこではこんな会話があったとか。
◆◆◆◆◆
「そういえば、大兎を倒した時にまたいくつか称号を貰ったんだ」
「へぇ、どんなヤツなんだ?」
「えーっと……『ウサギの天敵』『ジャイアントキリング』『防御は最大の攻撃』『一撃粉砕』『虎視眈々』の5つかな」
「多くね!?」
「やっぱり?」
サクラはさらっと言ったが、1度の戦闘で称号5つというのは相当に多い……というかむしろ異常なレベルだ。
称号とは割と縁のある俺でも一度にそんなに取ったことは無い。
まぁ、量は異常だが……
「内容自体はマトモだな」
「そうかぁ?」
そう独りごちて納得顔で頷くトーカと、何言ってんだこいつという顔でトーカを見ているリクルス。
反応的にカレットとリーシャはリクルス寄り、メイはトーカ寄りの考えのようだ。
「ほら『ウサギの天敵』は『ウサギキラー』を持った状態で大兎を倒したから。『ジャイアントキリング』はサクラがボスに挑むにしては低レベルだったから。『一撃粉砕』は文字通り一撃で倒したから。『防御は最大の攻撃』と『虎視眈々』は持ってないから確実とは言えないが、前者はサクラのプレイスタイルからで後者は初攻撃が戦闘開始から大分遅く、チャンスを伺ってたから。そう考えると普通だろ?」
「そう……なのか?あー、でも言われてみればそんな気はするな」
「えーっと……凄い!だいたいそんな感じだよ!」
トーカの解説という名の予想を受けてサクラがステータスから詳細を確認すると、だいたいそんな感じだったらしい。
初見のふたつの称号の効果はと言うと……
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『防御は最大の攻撃』
守りに徹し、強敵を打ち倒した者に贈られる称号
【仕返し】発動中は攻撃が不可能(物理魔法関わらず自身の与えるダメージが100%減少)になり、VITとMNDが2倍になる
また、【仕返し】で与えるダメージが1.5倍になる
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『虎視眈々』
最高の攻撃チャンスを狙い続ける者に贈られる称号
戦闘中、自身が最初の攻撃を行うまでに戦闘開始から時間が経っていればいるほど初撃のダメージが上昇する
10分で+50%(MAX+300%)
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この効果を見たトーカ達の感想はと言うと……
「うわぁ……」
「うぎぃ……」
「うむぅ……」
「うへぇ……」
「うごぉ……」
5人してすごく嫌そうに顔を顰めて呻き声を漏らしていた。
非戦闘員のメイでさえ顔を顰めているのは、自身は直接戦闘こそしないが武器防具の作成で間接的にあらゆる敵と戦うからだろう。
こんな能力を持った敵相手に通用する武器を作ってくれとか言われたら……とでも想像したのだろうか。
「えっ、えっ?なに、どうしたのみんな!?」
だが、この能力の所有者にして唯一平静を保っているサクラだけが5人の反応についていけず、オロオロとしている。
あるいは5人がなんでこんな顔をしているか分かっていないのか。
「い、いやぁ?サクラにピッタリな称号だなぁって思ってな?」
「いや、絶対違う事考えてるでしょ」
明らかに目を泳がせ、頬を引き攣らせた全力で挙動不審のリクルスの言葉は、残念ながらサクラには通じなかったようだ。通じてたまるか。
とはいえそんな顔をしたいのはみんな同じだ。
元々が後半になるにつれてどんどん硬くなっていくスタイルだと言うのに、その基礎値が上がる所か彼女の唯一の攻撃手段である【仕返し】の威力も底上げしているのだ。
ウザさに磨きがかかったと言ってもいい。
防御はより硬く、反撃はより強く。
変な搦手に走らず、サクラの能力をそのまま強くしている。
しかも、唯一の懸念点である誤爆による『耐久者』の解除も『防御は最大の攻撃』によって攻撃が不可能になる事で解消される。
サクラがこの調子でレベルを上げ、装備を整え、技術を磨いたら……
「はぁ……」
「えっ?えっ?トカ兄までどうしたの!?」
成長したサクラは絶対に敵に回したくないなと、トーカは深い深い溜息を付いた。
サクラは困惑した。
◆◆◆◆◆
そんな感じで休憩を挟みサクラから「もう大丈夫!」と言う宣言があったため、次なる目的地への移動を開始したのだ。
そして、今から向かう目的地である池は、トーカに取っては最初の相棒を手に入れ、さらに今後のプレイ方針を決定付ける称号を得た場所として良くも悪くも思い出深い土地だ。
今は昔となった記憶を思い出しながらしばらく進むと、地面の草の性質が若干変わり(雑草100%から薬草混じりになった)、さらに進んで行くと、学校にあるような25メートルプールよりも一回り程大きな池が姿を現した。
「ーーーで、コレをーってね?ーうーーば、ね?」
「え!?でもーんーーいもの……」
「いーー、ーーの。わたーーーーしーーうだとーーたから、ーーーんだし」
「ーゃあ、ーーーばにーえー……」
後方でリーシャとサクラが話し込んでいるが、何か嫌な予感がする。変な事を吹き込んでいなければいいが……
「っと、到着。ここが次の標的の大亀が出る池だ」
「わぁ~ここで泳いだら気持ちいいだろうなぁ」
トーカが到着を宣言すると、後ろにいたサクラがテトテトと駆け寄ってきて眼前に広がる池に目を輝かせる。
そういえばサクラは泳ぐのが好きだったな。
だが……
「ちなみに、この池は中央に行くほど深くなってて、池の中心部の底付近にはめちゃくちゃ強い水性のボスがいて例え浅瀬でも池に入ると即座に察知して襲いかかってくるとかなんとか」
「やっぱ泳ぐならそういう施設でだよね!」
ピクニックが余程楽しかったのだろう、レクリエーションに思考を持ってかれていたサクラだが、トーカが出した追加情報にあっさり掌を返す。
だがサクラの気持ちも理解出来ない訳ではなく、むしろこんな危険地帯で泳ごうなんてバカはそうそういないだろう。
これは、少し前にサクラと同じ思考をしたプレイヤーが泳いでみたところ発見され、周知された情報だ。
最初期はともかく最近はサービス開始からだいぶ時間が経ち、余裕が出てきたからか様々な脇道プレイをするプレイヤーも増えてこういった仕掛けがどんどん見つかり始めていたりする。
トッププレイヤーが最前線を切り開き、その後に続くプレイヤーが王道から外れた脇道で色々と見つける、というのが《EBO》での定番パターンとなっている。
中にはトーカのように最前線に居つつも、同時に異端街道の最前線も突っ走る猛者もいるのだが。
閑話休題
「ただ、大亀には出現条件があって。この池の周辺で一定数小亀……子亀?を討伐しないと出てこないんだ。しかも出現はランダム。一定数の討伐事に出現するかの判定があるんだ。だいたい10匹毎かな?」
「つまり?」
「つまり?」
「つまり?」
「って事は大亀が出てくるまで子亀の乱獲だな。ほれ、取り掛かれー」
つまり?の輪唱をしてる三馬鹿(リクルス、カレット、リーシャ)は無視して話を進める。
いちいちこいつらのボケに突っ込んでいては話が進まないからな。
とまぁ、そんな感じで子亀の乱獲を開始した訳だが……
「「「ヒャッハー!殺戮じゃ鏖殺じゃー!」」」
……蛮族かな?
ヒャッハーは生み出すものではなく、勝手に産まれてくるもの
今後その場のノリで色々なスキル(複合スキル含む)や称号、武器防具アイテムを増やしていくと思うので何かアイディアがあればお願いします!
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