第157話 『ヒャッハー式英才教育:ボス戦編《大兎》前編』
勢いで書いていたら長くなったので前後半に分けることになった《大兎》戦です
かつて《外道》トーカに一撃で粉砕された哀れな小ボス、大兎の真の実力とは!?
サクラが独力で大猪を討伐した後、数匹の不運なうさちゃんを経験値にしつつも次なる獲物ーー大兎を求め、一行は草原を抜け大兎の巣がある《木漏れ日の森》へ来ていた。
「わぁ……なんて言うか、森林浴にもってこいな感じの森だね」
「そうだな、最初の方のエリアは総じて穏やかな感じがするよな」
確かに、この《木漏れ日の森》は名の通り木々の隙間から差し込む木漏れ日で明るく、またそこまで木々や草が生い茂っている訳では無いので動きにくくもない。
サクラの言う通り、森林浴にピッタリだろう。
『きゅぅぅぅぅ!』
時折り襲ってくるこの角兎さえいなければ。
「よっ、はっ!」
『びゅぎゅぇ』
とはいえ、もはや角兎はサクラにとっても取るに足らない相手だ。
額から生えた角だけを頼りに砲弾のようにジャンプして突っ込んで来た角兎の攻撃を地面と角兎の間に差し込むように斜めに傾けた大盾で弾き、空中に放り出された角兎を大盾の面の広さを活かして横殴りに叩き付けて吹き飛ばす。
ピンボールのように吹き飛んだ角兎は、近くの木にぶつかり、短い断末魔の叫びをあげて消滅する。
「凄い手際だけどタンクの動きじゃないよなぁ……」
「むぅ……またそんなこと言って……これが一番効率がいいんだからしょうがないじゃん」
淀みのないその一連の動きに、リクルスが賞賛とも呆れともつかない呟きをこぼす。
そのつぶやきにサクラが唇をとがらせるが、他の4人の気持ちもどちらかといえばリクルス寄りだった。
とはいえ、タンクらしくない動きをしてまでサクラが角兎を倒しているのにも当然理由はある。
サクラの経験値集めやスキルレベルを上げるためだったりも当然あるが、最大の目的はとある称号だ。
これから大兎に挑むにあたって、メインで戦うのはサクラになる。というか、この場にいる他のプレイヤー……つまりはトーカ達だが、彼等(メイを除く)が手を出すと一瞬で終わってしまい、サクラのためにならないからだ。
そのため、少ない火力を補うためにウサギ系モンスターを一定数以上倒すと手に入る、トーカもかつてお世話になった《ウサギキラー》という称号を求めてサクラは戦っているのだ。
いくらサクラが大盾使いでそこまでハイペースに討伐出来る訳では無いとはいえ、もうかなりの数を狩っている。
そろそろ取得できてもいいと思うが……
と、トーカがそんな事を考え始めたちょうどその時。
「あ、《ウサギキラー》とれたよ!」
地を這うような高速移動で足元を狙ってきた角兎を顔色ひとつ変えず『大盾ギロチン』で即死させ(『処刑人』の指す特定の種類の攻撃はやはり処刑系攻撃のことらしい)たサクラが、直後に通知を聞いたのだろう、一瞬前とは打って変わって嬉しそうにしている。
「おっ、おつかれ。これがあればダメージだけじゃなく取得経験値も上がるからな。ちりつも系は持ってて損は無いぞ」
「うん!」
うさちゃん大量殺戮の証明を貰って嬉々としているサクラからは、もはやうさちゃんの死に嘆いていたあの頃のサクラの欠片も感じられない。
慣れとはかくも恐ろしきものか。
そして、ここにいる全員も同じく慣れてしまっているため、それを指摘する者はいなかった。
「じゃあそろそろ本命……大兎に挑むとするか」
「大兎……さっき倒した大猪よりも強いんだよね……?」
「そりゃもちろん。大猪は所詮雑魚だが、大兎は小とはいえボスだからな」
仮にもボスと称した大兎をトーカは一撃で屠っているのだが、忘れているのか意識して無視しているのか、その事を口にする事はなかった。
そのまま雑談を続けつつ少し歩いていると、一行は不自然に辺りの草が低くなっているエリアに到達した。
この場所こそが、次なる標的である大兎の生息する《兎の巣》である。
この場所では大きな音を立てると小ボスである大兎が巣穴から出てくるのだが、その『大きな音』というのが絶妙に曲者で、ただ何も考えずに大きな音を立てればいいという訳では無い。
正確には、システム的に『大きな音』判定のある音を出す必要があるのだ。手っ取り早いのは『咆哮』という大声を上げて敵の気を引いたり少しビビらせたりするスキルだろうか。
事実、トーカは過去にそうやって大兎を呼び出している。何も考えずにいけるんじゃね?的なノリでやった行動が、実は大正解だったという訳だ。
「ふふん、大きな音なら私の出番ね」
だが、今回は別の方法がある。それこそが少し前にリーシャが披露した爆竹矢である。
肝心の爆竹部分はメイが作っているのだが、出張ってきたのはリーシャな辺り彼女達の性格がよく出ている。
「そんじゃ爆竹、いっくわよ〜!」
そんなお祭り騒ぎ大好きなリーシャが口調と同じく軽く放った爆竹矢は、しかし正確な狙いで巣穴の目の前に突き刺さる。
そしてーー
パンッ!
「っぅ……!」
至近距離で聞くと眉を顰めずにはいられない大きな破裂音が鳴り響いた。単発だったのは括りつけていた爆竹が一つだけだったからだろう。
後で聞いた話だが、この爆竹矢は搭載数を減らした代わりに1本の火薬の量を増やした特別性だったらしい。そんなもんここで使うなよ。
「【ガードアップ】!【仕返し】」
矢を放ったリーシャも含めてハイレベルプレイヤーの5人が先程と同じく傍観の姿勢を取る中、これまたサクラが自身にバフを盛りながら素早く大盾を構え、警戒を強める。
そのまま警戒を10秒程続けた頃、巣穴から大きな影がのっそりと這い出てきた。
通常の角兎とは比べ物にならない程の巨体と、一際大きく発達した後脚。それらに釣り合うだけの大きさと鋭さを兼ね備えた1本角。
草食動物のものとは思えない程の威圧感に満ちた真紅の瞳はほんの僅かに獲物を探すようにさまよっていたが、すぐに大盾を構えるサクラを見据える。
そして、同じようにサクラも大兎を視界に捉えていた。
両者の目が合う。その瞬間、僅かに垂れていた大兎の耳がピンッと張る。
それが開戦の合図となった。
『キュゥッ!』
後脚に力が込められ、ほんの僅かなタメの後に大兎がその巨体で砲弾のように突っ込んで来る。
行動こそ普通の角兎と共通するものだったが、その威力は比べ物にならない。
誰が言ったか『質量×スピード=破壊力』。
その公式通り、質量もスピードも桁違いの大兎の突進は、同種の角兎どころか大猪のそれすら遥かに超えている。
「ッ!?【ブロック】ぅ!」
サクラの【ブロック】が間に合ったのは半ば奇跡だろう。
サクラの体感では目が合った一拍後には大兎が砲弾と化して突っ込んできていたのだから。
大兎の角とサクラの大盾がぶつかり合った瞬間、ぎぃぃぃっという、金属で金属板を引っ掻いたような不快な音が鈍く響き渡る。
「っぁ……」
大兎の突進の衝撃に、サクラの身体がぐらつく。
吹き飛んだり倒れ込んだりしなかったのは、先にトーカによってとてつもない衝撃を受けていたからだろうか。
何はともあれ、サクラは小ボスたる大兎の突進を受けて僅かに体勢を崩すだけに済ます程度にはタンクの身のこなしが身に付いているという事だろう。
しかし、当然それだけでは終わらない。
『きゅぅっ!』
突進を受けて体勢を崩していても、サクラは大盾を手放していない。
未だにサクラと大兎を隔てる大盾に、大兎の発達した後脚による蹴りが叩き込まれる。
左後脚を軸に弧を描くように半回転した、いわゆる回し蹴りは体勢を崩し踏ん張りの利かないサクラの身体を、今度こそ大盾ごと吹き飛ばす。
初心者装備とはいえ鎧一式を着込み、さらに大盾を装備していて総重量はかなりの物であるはずのサクラの身体が、まるでピンボールのように呆気なく吹き飛んでいく様子は、かなり衝撃的なものだった。
「うぐぅっ!」
吹き飛んだ先で運悪く木に激突し、追加でダメージを受けている姿は先程までサクラが吹き飛ばしてきた角兎の姿を連想させる。
たった2発、しかもどちらもしっかりと大盾でガードしていたにも関わらず、既にサクラのHPは3割を下回っていた。
ここで即座に追撃が来なかったのは幸運だっただろう。
対峙していた相手……サクラが吹き飛び遠くへ移動した事で、大兎はより近くにいるトーカ達に狙いを変えたのだ。
大兎はその中でも1番近くにいたトーカに狙いを定めると、再びその脚力を活かして突進しようとして……
「っぁ……【挑、発】……!」
しかし、その突進は不発に終わった。
今後その場のノリで色々なスキル(複合スキル含む)や称号、武器防具アイテムを増やしていくと思うので何かアイディアがあればお願いします!
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