第152話 『ヒャッハー式英才教育:魔法編』
めりくり!(遅い)
クリスマス短編書こうかと思ったけど時間がなかったでおじゃる……
自分はこの人達に追い付けるのだろうか。
いや、追い付くどころか、足を引っ張らない程度にまで成長できるのだろうか。
「サクラは神官も取ってたんだよな。だったら、自分でHP回復させられるな。今サクラはHP1しかないし、『回復魔法』を使ってみなよ」
常識をぶっちぎった強さを見せつけられ、そんな不安に襲われ固まっていたサクラに、トーカが声をかけてくる。
トーカの声音は、もういつもの優しい声に戻っているが、つい先程の言葉通りぶっ飛んだ体験を想起させられ、身体が強ばる。
が、それも一瞬の事。
トーカに言われて改めてHPバーに意識を向けると、そこにはほんの僅かだけ残った、真っ赤に染まったHPバーがチカチカと点滅して自己主張していた。
とてつもない衝撃体験に、感覚がマヒしていたのだろうか、全く気付かなかった。
「わっ、ほんとだ、HP真っ赤……。あっ、うん。『回復魔法』なら持ってるよ」
「そりゃ重畳。魔法の使用方法は簡単だ。スキルレベル1ならヒールが使えるから、使う対象……今回はサクラ自身だな。それを意識して発音するだけだ」
「分かった……やってみる」
そう答えて、サクラは喉を鳴らす。
盾を構えるといった、現実でも実現可能な行動に対して、魔法というのは当然ながら現実世界にはない物だ。
そのなれない……と言うよりは未知の動作に、僅かな困惑と大きなワクワクを込めて、1度大きく息を吸い、ゆっくりと吐き出す。
もう一度軽く息を吸って。
「【ヒール】」
魔法を発動させる。
そうすれば、小さなエフェクトと共にサクラのHPがぐんぐんと回復していき、ほんの数秒でHPバーが満タンまで回復した。
「わぁ……」
初めての魔法に、目をキラキラと輝かせるサクラを見て、カレットが「分かるぞ……私も初めて魔法を使った時は感動したものだ」と感慨深げに呟く。
「角兎を狙ったはずなのに当たったのは俺だったけどな」
「…………ヒューヒュー」
「口笛下手かよ」
「今は昔、カレットの魔法がクソエイムだった時代の話である。
初めての魔法に心躍らせ、レベル1の心許無いMPが許す限り放ちまくった魔法が尽くリクルスに着弾したのも今ではいい思い出だ。」
「ナレーション風に言って勝手にいい思い出にするんじゃねぇよ。ご丁寧に最後の『まる』まで発音しやがって」
「ではサクラ!魔法を使った所で次は魔法を受けてみよう!」
「あっ話変えた」
リクルスの声はガン無視して、大仰な仕草と声量で無理矢理話題を変え、サクラに話しかける。
サクラも一瞬戸惑ったが、カレットの勢いに押し切られてしまう。
「リクルスの連撃も受けた、トーカの一撃も受けた。なれば後は私の魔法を受けるだけだな!なに、安心しろ。私の魔法はトーカ程ぶっ飛んだ威力ではないからな」
「「えっ、【白りゅ「ではないからな!」
トーカとリクルスが何言ってんだコイツ的な顔で何かを言いかけたが、それに被せるように再度言い放つカレット。
何かを言いかけた2人の言葉の続きが気になってどうしても不安が隠せないサクラだが……
(バカかお前らは、私はトーカと違って『峰打ち』を持っていないのだからサクラにいきなりぶち込むわけないだろう)
(いや……お前ならやりかねないなぁって)
(よぉしリクルス、そこに直れ。お前で実践してサクラに魔法の力を教えてやろう)
(へっ!やなこった)
(まぁまぁ、落ち着けって。それに、カレットの言い分は分かるが、わざわざ隠す必要はあるか?それに多分威力的にはカレットの方が強いぞ……?)
((いや、それは無い))
3人のひそひそ話が聞こえてきて少しほっとした。
認識の齟齬があるっぽいとはいえ、カト姉もトカ兄クラスの一撃を持っているが、今回それを使う気は無いらしいことが分かったらだ。
さすがに1日に2度もあのクラスの一撃を受けられる気はしない。
あれ、さっきの一撃を思い出したら手が震えて……
「と、言う訳で!サクラには軽い魔法攻撃を盾で防いでもらう!」
「ひゃい!」
「どうした……?」
「い、いや!何でもないよ!」
先程の衝撃を思い出している最中に急に大声で声をかけられてびっくりしたサクラだが、それはそれとして素早く盾を構え直す。
今正確に認識出来るレベルでの限界を知ったからだろうか、魔法という未知の攻撃に対して不安はあれど恐怖を感じている様子は無い。
「では行くぞ!【ファイアボール】!」
「ふっ!」
カレットが放った小さな火球を、サクラは無骨な大盾で受け止める。
感じるのはリクルスやトーカに喰らった打撃とはまた違う、不思議な感覚。
点ではなく面にかかる力で押し込まれるような、そんな感覚。
それでも、その力の強さはトーカの一撃どころかリクルスの軽いジャブにすら及ばない。
そもそもが魔法攻撃と物理攻撃では攻撃の種類が違う上、魔法攻撃は威力はともかく攻撃そのものの衝撃は軽い。トーカの一撃を体験した今、サクラが後れを取る事は無いだろう。
事実、サクラは未知の感覚に一瞬押し込まれたものの、すぐさま立て直し魔法の一撃を防ぎ切って見せた。
「出来た!」
「いいぞ!ただし、魔法の真の恐ろしさは手数と機動力だ。こんな風にな!【二重火球】!」
カレットがそう言って杖を振るえば、現れるのは2発の火球。
2発の火球はそれぞれが全く別の軌跡を描いてサクラへと向かっていく。
「うわっ!」
1発目の火球は防いだものの、その隙を突く様に飛んで来た2発目の火球に対応し切れず、当たってしまう。
クリーンヒットした訳では無いが、それでも圧倒的なレベル差もあって、最弱の一撃がかすっただけでサクラのHPは6割方削れてしまう。
「うぅ……」
「ほらサクラ回復。自己完結型目指すなら出来るようにしとけよ」
「あっ、そっか!【ヒー……」
「そう簡単に回復はさせんぞ!【ウィンドボール】」
「わきゃっ!」
トーカに声をかけられて『回復魔法』の事を思い出したらサクラだが、【ヒール】を使う前にカレットの妨害が入る。
攻撃自体は大盾で防いだものの、【ヒール】は中断されてしまう。
「次は威力を上げるぞ!【風炎球】!」
「……っ!」
そう言って次なる魔法をカレットが放つ。
火属性の火球に風属性の風球を合わせる事で威力を上昇させた、カレット十八番の火と風の混合魔法。
見た目からも威力が上昇しているのは明らかだが、サクラが反応したのはそこでは無い。
威力を上げる。そのセリフは、似たような事を言ってリクルスが放った、ランクアップした攻撃でいとも簡単に盾を弾かれてしまった事を否応無く想起させる。
だが……
「大丈夫、大丈夫」
サクラは、誰にも聞こえないような微かな声で呟く。
威力が上がったからなんだ。この魔法がどんなに強くても、先程のトーカの一撃程の威力は……衝撃はないだろう。
なら、大丈夫。
実体験と共に大丈夫を噛み締め、迫り来る【風炎球】に向き直る。
盾を構え、その一撃を迎え撃ち……
「【ブロック】!」
アーツを発動する。
先程の【ヒール】でスキル発動の感覚は掴んだ。
スキルの選択時にスキルレベル1で使えるこのアーツの事は知っていた。
だからこそ、すんなりと選べた『強めの攻撃に対してアーツで対抗する』という手段。
言ってしまえば当たり前の事だが、バリバリの初心者であるサクラが誰にも教わること無くその事に気付き、咄嗟に実行に移すのは難しかっただろう。
だが、彼女はやって見せた。
盾に伝わる【風炎球】の衝撃は、先程までの魔法より明らかに高威力のはずだが、【ブロック】の効果と魔法ーーと言うよりは攻撃を受けた時の衝撃ーーに対する慣れも相まって、その一撃はむしろ弱々しく感じる程であった。
「【ヒール】」
さらに、サクラはカレットの【風炎球】を防いだのと同じタイミングで発動した【ヒール】で、先の【二重火球】で負ったダメージを癒す。
「ふむ……防いだ時の音とエフェクトで自身の行動を隠すという小技もやってのけるか……これはなかなか将来が楽しみだな」
カレットが言ったように、サクラはただ単に【ヒール】を使ったのではなく、【風炎球】を防いだ事で発生した爆炎と轟音でカモフラージュする形で【ヒール】を使っていたのだ。
だが、そこはさすがの先達。
初心者が咄嗟にやったにしては出来すぎな程に素晴らしい工夫だが、カレットはしっかりと気付いていたらしい。
また、サクラの問題点にも。
「だが……自分が思い付いた事は相手も思い付いている可能性があると考えた方がいいぞ」
「っ!?うわっ!」
カレットが静かに告げると同時に、サクラは背後からの衝撃によって吹き飛ばされる。
サクラがカモフラージュしながら【ヒール】を使ったのと同じ要領で、カレットは【ウィンドボール】を使っていたのだ。
しかも、今までしていた直線的な軌道ではなく、大幅に曲げて背後に回り込むようにするという一手間も加えて。
そうして放たれた真後ろからの不意打ちに、反応する事も出来ずに吹き飛ばされ、転がったサクラからチラリと見えたカレットの顔は、それはそれはウザったらしいドヤ顔をしていた。
サクラはこの日、初めて、カレットの事を本気で殴りたいと思った。
初心者相手に得意分野でマウント取るトッププレイヤーがいるらしい
サクラちゃんは普段はとても温厚な性格です
そんなサクラちゃんが本気で殴りたいと思う程度にはカレットのドヤ顔はウザかったという事です
今後その場のノリで色々なスキル(複合スキル含む)や称号、武器防具アイテムを増やしていくと思うので何かアイディアがあればお願いします!
おかしい所や誤字脱字、誤用などがあったら是非ご指摘お願いします
感想などを貰えると、作者が泣いて喜びます
ブクマしてくれた方や読んでくれてる方本当にありがとうございます!
今後も当作品をよろしくお願いします!