第151話 『ヒャッハー式英才教育:限界体験編』
アトランティス旅してたら投稿遅れました
本当に申し訳ない……
「へっ?」
サクラが、間の抜けた声をもらす。
トーカの急な雰囲気の変化もさることながら、「死ぬ気で耐えろ」という、実戦前の肩慣らしには似つかわしくない言葉に呆気に取られたというのもあるのだろう。
「どうい……え?」
これは一体どういう事なのか、近くにいる2人に訪ねようと振り向くと、視線の先には顔を真っ青にしながらとても惨いモノから目を背ける様に俯いたリクルスとカレットの姿があった。
よく見れば、2人の身体が小さく震えている事が分かる。
本当にどういう事なのか、これからも自分はどうなってしまうのか、サクラの中でそんな考えが大きく膨らんでいく。
「ちょっと……2人とも、どうしたの……?というか私、どうなっちゃうの?」
「……っ!すまん、俺達には、どうする事も出来ねぇ……!」
「本当にすまない……!どうか、どうか耐えてくれ……!」
不安に声を上擦らせたサクラの声に、リクルスとカレットはもう見ていられないとばかりに背を向け、悲壮感溢れる声でそんな事を言ってくる。
2人は、もう完全に、抗えぬ運命に囚われ死地に送り込まれた大切な人を見送る事しか出来ない無力感に押し潰されそうになっていた。
(えっ?えっ?なに?どういう事?お兄ちゃんとカト姉のあんな悲壮感溢れた姿なんか初めて見たんだけど!?)
「トカに…………」
明らかに異常事態の2人の様子に、反射的にトーカに声をかけようとして……思い出した。
あるいは、目を逸らしていた事実に自分から向き合ってしまった。
そして、理解した。
今、自分の目の前にいるのは、自分の知っている優しいお兄ちゃんなどでは無く、この世界に生きる、自分の全く知らない恐ろしさを持った『トーカ』なのだと。
「覚悟はいいか?」
トーカが尋ねてくる。
先程まで聞いていた声とまるで変わらないのに、何故かその声に押し潰されてしまいそうな程のプレッシャーを感じ、盾を握る腕に力が入る。
否、力を入れていないと、腕が震え出してしまう。
それ程までに純粋な恐怖……言い換えれば、嫌な予感がサクラの身体にまとわりついていた。
そうだ、トーカは言っていた。
死ぬ気で耐えろと。つまりは、そういう事だろう。
少し威力が上がった程度でついていけなかった不甲斐ない自分に、1度威力の限界を体験させ、慣れさせようと言うのだ。
なんという荒療治。
だが、それ以上に手っ取り早く、また効率的な手段が無いこともまた事実。ちまちまと段階的に慣らしていくよりも、先に限界を体験しておく。
それは、確かに先程のトーカの自論に通ずる考え方であった。
サクラは覚悟を決め、恐怖を飲み込み震える身体を御して大楯を構え直す。
盾を持つ腕に、大地を踏ん張る足に、そして何よりその覚悟に、力を込める。
でないと、今にも逃げ出したくなってしまうから。
大きく息を吸って、ゆっくりと吐く。
それを2度3度繰り返すと、未だ恐怖はまとわりついてくるものの、不思議と震えは止まっていた。
「……うん。大丈夫」
上擦った声で、ゆっくりと、呟く。
自らの意思で、明確な地獄への道を踏み出す。
覚悟なんて大層な物ではなく、諦観に近い感情を持って、死の気配を纏ったトーカに立ち向かう。
「よし。じゃぁ……行くぞ」
「ーーーー」
優しさの欠片も無い、冷徹なトーカの声に、返事は出来なかった。
トーカが行くぞと言った直後、タッと地面を蹴る音が聞こえーーー
次の瞬間。
凄まじい衝撃と共に、全力で踏ん張っていたはずの身体はいとも容易く吹き飛ばされた。
先程はとても強く感じたリクルスの一撃が、綿でも投げつけられていたのかと思えてしまうほどの、冗談みたいな威力。
抵抗なんて一瞬でも出来るはずがなく、為す術なく一瞬で吹き飛ばされてしまう。
木の葉のようになんて優雅なものじゃなく、まるで弾丸の様に力の向きに一直線に吹き飛ぶ。
それでも盾を手放さかなかったのは、駆け出しのひよっことは言えタンクとしての意地……などというかっこいい理由などではなく、ただ盾と自分の身体が進行方向に直線上に一直線に重なっていただけに過ぎない。
ほんの僅かでも盾と身体に与えられる力の向きがズレていれば、盾を弾かれるどころか、腕ごともぎ取られてもおかしくなかった。
先程まで満タンだったHPも、今や見る影もない。
吹き飛ばされた瞬間に視界の端で何かが動いた気がしたが、なけなしのHPが一瞬で尽きる様子だったのだろう。
恐怖など感じる暇も無く、ただ尋常じゃない衝撃を持って吹き飛ばされた。
やけにゆっくりと進む時間の中で、サクラは特段何かを考えるでもなくその事実だけ感じていた。
そして、やけに長い一瞬の滞空時間の後、何かが聞こえた気がして、しかしそれに意識を向ける前に、サクラの身体は凄まじい勢いで地面に叩き付けられた。
◇◇◇◇◇
後に『サクラ地獄のチュートリアル』と4人の中で呼ばれることとなる一連の事件の1つである『サクラ人間弾丸事件』の一部始終を見守っていたリクルスはこう語る。
「トーカが白銀の戦棍でサクラの盾を殴った瞬間、サクラが消えた」
と。
そして、もう1人の目撃者であるカレットはこう語る。
「何も見えなかったが、今後トーカの攻撃を防ごうという気は失せた」
と。
この件で、サクラの身体は正確に言えば凄まじい速度で後方に吹き飛ばされただけであり、カレットは無理だとしてもリクルスの動体視力を以てすればそれを視認する事は可能であったし、実際は視認はしていた。
だが、それでもなお消えたと言って差し支えない程の速度でサクラは吹き飛ばされたのだ。
サクラの装備が性能は最低クラスだが耐久値が無限の初心者装備ではなかったら、サクラのステータスがもう少し高く僅かでも抵抗出来てしまっていたら、トーカが死んだら元も子もないと『峰打ち』を使用していなければ。
このどれかひとつでも違っていたら、事態はより悲惨になっていたであろう事は想像に難くない。
装備は砕け散り、無理な抵抗に身体の方が耐え切れず千切れ飛び、それらが描画され切る前にHPが尽きて死ぬ。
文字通り、その場から消えてしまっていただろう。
実際は、サクラは全身初心者装備であったし、微塵も抵抗なんて出来ず吹き飛ばされたことで偶然にも「後方に飛んで衝撃を逃がす」様な事になっていた。
そして、トーカがしっかりと『峰打ち』を使っていた事で、結果として見れば、サクラは圧倒的速度で吹き飛ばされつつも五体満足でHP1でトーカの一撃から生還するという偉業を成し遂げたのだ。
◇◇◇◇◇
吹き飛ばされ、長く短い飛行を体験した後に墜落し、それでもなお一命を取りとめたサクラは、回る視界の中で無意識に呟く。
「うぅ……くらくらする……」
如何なる理由か、HPがギリギリ1だけ残っていた事で《EBO》での記念すべき初死亡理由が『ゲームに誘ってくれた兄同然の人の肩慣らし的一撃』にならずに済んだ。
生きてるって素晴らしい。
今生きているという幸運を噛み締めながら、全身、特に腕を襲う激しい痺れに身体の感覚を支配されたサクラは、『身体の上の盾をどかし上体を起こす』というだけの動きにも随分と苦戦しながらも、どうにかその行動を完遂する事には成功した。
自分が飛ばされて来た方向に目を向ければ、遠くにこちらに向かってきている3人の姿が確認出来る。
その事に、かなりの距離を飛ばされてしまった事を改めて実感しながら、3人が来る前に何とか立ち上がろうとして……
「うわっ!」
倒れ込んでしまう。
今まで受けた事がない程の物理的な衝撃に、身体の動きがおぼつかなくなってしまっている様だ。
結局、サクラはトーカ達3人を倒れ込んだまま迎えることになってしまった。
「かなり派手にぶっ飛んだなぁ、大丈夫か?」
倒れ込んだままのサクラの顔を覗き込むリクルスに、弱々しい声で大丈夫とだけ何とか返して起き上がる。
少し間を開けたおかげか、今度は無事に立ち上がることが出来た。
「今……何が起こったの……?」
何とか立ち上がり、しかし未だに笑っている膝を抑え、また転げてしまわないように踏ん張りながらトーカに尋ねる。
自分は知識も経験もない初心者中の初心者だが、《EBO》ではこのレベルの攻撃が飛び交っているのだろうかと、この先が不安で仕方なくなる。
「まさか、このレベルの攻撃を平然とぶっぱなしてくるのはトーカぐらいだよ。ボスだってまだ易しい」
そんなサクラの考えを表情から読み取ったのか、リクルスが呆れ半分感心半分といった塩梅の声で教えてくれる。
その言葉にほっと安堵の息を吐き、次いで、『はて、ボス以上の威力の攻撃を放ってくるプレイヤーとはいったいなんなのだろうか』という疑問が浮かぶ。
たとえその疑問を口に出したとしても、『目の前の奴の事だよ』という答えしか返ってこないのだが。
サクラの常識に照らし合わせてみれば、ボスというのは大抵がプレイヤーよりも強い存在のはずであり、それよりも余程高威力の一撃を、兄の発言のニュアンス的に気軽に放てるトーカの存在は不可解でしかなかった。
そんな人達と共にプレイ出来るという事に安心感を感じつつも、果たして自分はこの人達に追い付けるのだろうかと、不安を感じざるを得ないサクラであった。
今回経験したのは『衝撃』であって『恐怖』ではないのです
トーカが相手に恐怖を刻み込むなら闇堕ちトーカで『峰打ち』使って延々と嬲り続ければいいだけですし
今後その場のノリで色々なスキル(複合スキル含む)や称号、武器防具アイテムを増やしていくと思うので何かアイディアがあればお願いします!
おかしい所や誤字脱字、誤用などがあったら是非ご指摘お願いします
感想などを貰えると、作者が泣いて喜びます
ブクマしてくれた方や読んでくれてる方本当にありがとうございます!
今後も当作品をよろしくお願いします!




