第149話 『顔合わせ』
嵐の前の静けさ的な会話回です
「……なんか、すまん」
「やっぱホワイトかな……」
「……大丈夫か?」
「えっ!?あっ、うん!いや……うん?大丈夫、だよ?」
醜態を晒す一団を代表して頭を下げると、対する舞桜も一瞬反応が遅れたものの、しどろもどろになりながら言葉を返す。
この惨状を目の当たりにすれば仕方の無いことだとは思うが、かなり混乱しているようだった。
「えっと、ま…………コレの妹で、いいんだよな?」
一瞬「舞桜でいいんだよな?」と聞きそうになったが、周りに他に人影はないとは言え現実での名前を出すのははばかられ、言葉が一瞬不自然に止まる。
なら代わりになんと呼べばいいのか考えた結果、目の前で蹲るコレことリクルスこと瞬の妹という遠回しな確認になってしまった。
「えっと……うん。そうであって欲しくないけど、そう……だね」
ついに来た待ち人に気付いた様子もなく蹲り愚痴るリクルスの醜態にドン引きしながら肯定する舞桜。
「えっと……あー、うん」
……こっちでの名前が分からないとやりにくいな。
「まずはこっちでの自己紹介から行くか。事前に伝えたと思うけど改めて、俺がトーカで、その蹲ってるのがリクルス。んでそこで暴飲暴食してるのがカレットだ」
あの祝勝会という名の焼肉パーティーの日、最近の身の回りの事なども話したは話したのだが、話題は当然《EBO》メインになっていた。
その話の中で、俺や瞬、明楽の《EBO》での名前は事前に伝えてあるので本当に改めてだが……状況が状況なだけに認識の擦り合わせも兼ねてもう一度名前を伝える。
「なんか……凄いことになってるね。あっ、私は『サクラ』って名前にしたよ。ジョブは……」
「重戦士、だろ?」
「よく分かったね!それで、サブは神官にしたよ」
「へぇ……?神官」
「うん。神官」
重戦士は予想通りだったが、さすがに神官というのは分からなかった。初期装備からいじってないから仕方ないが、舞桜改めサクラは見た目だけなら純粋な重戦士だ。
そして、ひねくれた神官としては、前衛かつアタッカーである重戦士に後衛かつサポーターである神官を合わせたスタイルにはどうしても興味が湧いてしまう。
「そりゃなんでまた、そんなジョブを?」
「あぇ……ダメ、だったかな?」
興味本位で尋ねると、サクラの顔が不安の色に染まる。
俺としては重戦士と対極にいるようなジョブをサクラがなんで選んだのか、普通に気になったから聞いただけだったが……
最初から重大なミスをしてしまったのではないかと目に見えてオロオロしだすサクラの様子を見て、やらかしに気付いた。
確かにこの言い方じゃダメ出ししてる様にも聞こえるか……
「いやいや、ダメって事はないさ。ただちょっと珍しい組み合わせだったから、なんで選んだのか気になって」
「う、うん……ほら、この前さ、みんながどんなジョブか教えてくれたでしょ?どうせなら被らない方がいいかな〜って、調べてみたらタンクって役割もあるってあったから、ならそれにしてみようと思って」
まだ若干不安なのか、少し緊張した面持ちでサクラが説明し始める。
確かに、俺はアタッカー兼バッファー兼ヒーラー、リクルスはバリバリの近距離アタッカー、カレットも遠距離メインだが遠近対応のアタッカーと、改めて考えてみれば守りを捨てた超攻撃的なメンツだった。
考える範囲を【カグラ】に広げてみても、リーシャも遠近両対応のサポーターよりのアタッカー、メイは戦闘力皆無の完全サポーターで、役割としてはリベットが守りに入るのだろうか。
それにしてもタンクではなく、騎士の槍使いで防衛戦が得意と言うだけで間違ってもチーム全体を守るタンクとは呼べないし……
うん。俺達幼馴染組もだけど【カグラ】としても超攻撃的なチームだったわ。守りぺらっぺらじゃねぇか。
攻撃は最大の防御ってな。
と、俺が思考の隅っこでそんな事を考えているうちにもサクラの説明は進んでいく。
サクラがタンクを選んだ理由が終わり、本題である神官を選んだ理由を話し始めた。
まぁ重戦士は重戦士でもタンクだったという時点で想像はつくが。
「それで、タンクって敵の攻撃を引き受けるからかなり消耗が激しいらしくて、だったら自分で回復とか防御力強化とか出来たらいいかな〜って、だから神官も選んでみたの」
うん。想像通りだった。
自分に専念する兼用神官……俺よりもルーティに近いタイプだな。
「自己回復に自己強化してくるタンクか……」
「……っ」
サクラの説明を自分なりにまとめて呟くと、サクラがぴくりと反応する。
不安を隠しきれないその表情は、まるで採点を待つ生徒のようだった。
「面白いな」
「っ!」
「HP以外にもMPの管理も加わるし、バフの管理もよりハードにはなるが……成長すればかなり厄介なタンクになりそうだな。楽しみだ」
俺がそう言うと、サクラはようやくほっとしたように張り詰めていた息を吐き出し、にへらと微笑む。
「えへへ、そうでしょ!」
嬉しそうに微笑むこの顔を見ると、《EBO》を薦めた身としても嬉しくなってくるな。
そもそもの話として俺だって神官としちゃ異端も異端。なんなら狩人はカレットの軽戦士以上に空気だ。
人のジョブ構成にどうこう言える立場じゃない。
……いい加減、狩人を活かすプレイングも模索してみるかな。
「後は……タンクってのは1番矢面に立つからな、なんと言ってもステータスに現れない経験が最も必要なジョブだろうな」
「う、うん……!」
「んじゃ早速ここら辺の雑魚相手に練習……でもいいが、実践前にちょっと慣らしとくか」
「へ?」
疑問符を浮かべたサクラを後でわかる事だからとスルーして、未だ蹲っているリクルスの前にしゃがみこむと頭頂部にデコピンをぶち込む。
「あぎゃぁッ!?なっ、なんだ!?もう1戦するのか!?ちくしょう!やってやらぁ!」
「お前はまだ負債を重ねようと言うのか……?」
「まるで自分の勝ちが確定しているかのようなセリフ!?いやまぁ実際勝てねぇんだけど!」
……いや、慢心とかじゃなくて普通に今までの経験からくるセリフだよ。
ステータスがそこまでかけ離れていないなら1対1で負ける気はしないのは確かだが。
「ってそうじゃねぇよ。ほらサクラが来たぞ」
「サクラ……?」
「待ち人来たるってヤツだ。ほら、カレットもそろそろ暴飲暴食を止めなさい」
まだリクルスは舞桜とサクラがイコールで繋がっていない様だが、見れば分かるのでリクルスはそのままスルーして、未だに暴飲暴食を続けているカレットにも声をかける。
「あといっぱい!あといっぱいだけだから!」
「いっぱいと1杯を掛けたつもりだろうが、そんなん引っかかるか」
まだヤケ食いし足りなさそうだったが、このままだと食い尽くすまで延々と食べていそうなので心を鬼にして……
「………(うるうる)」
し……て……
「……………………(うるうるうるうる)」
「……はぁ、あと一本だけだぞ」
「ッ!さっすがトーカ!はぐっ!はぐはぐ、んぐっんぐっんぐっ、ぷはぁ!」
トーカの許可が出たので、早速蛇焼き串に豪快にかぶり付き、数度咀嚼した後にジュースで流し込む。
なんともまぁ贅沢な食べ方を……まぁそんだけ美味そうに食ってくれると作った方としても嬉しい限りだが。
何はともあれ、リクルスが復帰しカレットが最後の1本を食べ切ったので、改めて《EBO》内での顔合わせとなった。
現実世界で護、明楽、瞬、舞桜として日常的に顔を合わせていたが、《EBO》でトーカ、カレット、リクルス、サクラとして顔を会わせるのはこれが初めてだ。
サクラがどんなジョブをどう言った理由で選んだのかなどの他にもいくらか雑談を交わした後、話を先へ進める。
「んじゃ改めて、実戦の前にちょっとサクラの肩慣らしと行くか」
「トカ兄、さっきも言ってたけど肩慣らしってなにするの?」
俺の《EBO》での呼び方はトカ兄になったようだ。普通にトーカでも良かったが、サクラ的にゲームの中でとは言え今までの呼び方から急に変えるのは何となくもにょるらしい。
同じ理由で、カレットのこともカト姉と呼ぶ事にしたらしい。ややこしくないか?
「実際にやってみれば分かるけど、慣れないうちはここら辺で一番弱い角兎の突進でもかなり迫力があるもんなんだよ。それに、避ければいい俺達と違ってタンクのサクラはそれを受け止めなきゃいけない」
ツノを生やした兎が自身目掛けて突進して来る。その様子を想像したのだろうか、サクラの顔が緊張に固まる。
「初戦でコケたらその記憶は後からずっと尾を引くからな。だったら最初から自分目掛けて攻撃される恐怖と、攻撃の衝撃に慣れておけばいい」
「なるほど……」
顎に手を当て、少し考え込んだ様子のサクラがぽそりと呟く。
「でも、だったらどうするの?ここら辺で一番弱い角兎?でもなかなかなんでしょ?この町に訓練施設みたいなのがあったりするの?」
「いや、少なくとも俺が知る限りそんな施設は無いな。メイ辺りに頼めば訓練マシーンみたいなのは作ってくれそうではあるが」
メイ作のゴーレム軍団による集団リンチをひたすら耐え抜く……的な特訓を想像して、少し背筋が冷たくなる。
四方八方から無数に襲い来る疲れも恐怖も躊躇も無い怪物の相手とか俺でもしたくないぞ。
「メイ……?」
「あぁ、今度紹介するよ。それで、最初にやるなら出来るだけ強敵の方がいい。同レベル相手に最初から大負けしたら負の記憶だが、最初から勝てないと分かる相手なら大負けしてもそこまで後には響かないからな」
「でも、そんな強い敵相手ならすぐに負けちゃって練習にならないんじゃ……」
確かに、今サクラをロックゴーレムの所に連れて行っても一瞬で叩き潰されて練習にはならないだろう。
今や鉱山だのロッ君だのサンドバッグだの呼ばれているロックゴーレムだが、アレでもフィールドボス。レベル1の初心者を連れていく所としてふさわしいとは思えない。
だが……
「確かに、瞬殺されず継続的に戦闘が可能で、今のサクラより圧倒的に格上の相手がいなかったら出来ないことではあるな」
「でしょ?だったら……」
「?何言ってんだ。ここにいるじゃないか」
「……へっ?」
そう言って、俺とリクルス、そしてカレットを指差す。
しかも、ちょうど一撃が重い俺、一撃が軽くて連続攻撃が得意なリクルス、魔法攻撃が出来るカレットが揃っている。
最初のうちから3種の攻撃にノーリスクで経験を積めるなんて、すごく恵まれた環境だろう。
そもそも、これは肩慣らし。
攻撃を受ける恐怖やその時の衝撃に慣れるためのレクリエーションのようなもので、実戦ではない。
なら、俺達以上の適任は居ないだろう。
それじゃあ、始めようか。
いやー、大会優勝者に直々に特訓してもらえるなんてサクラちゃんは幸せ者だなぁ(棒読み)
今後その場のノリで色々なスキル(複合スキル含む)や称号、武器防具アイテムを増やしていくと思うので何かアイディアがあればお願いします!
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