第139話 『VS【クラウン】⑫ リクルスVSアッシュ 後編』
最近感想が少なくて寂しいので、些細な事でも感想を頂けると作者が泣いて喜びます
……ほら、ね?やっぱり感想ってモチベと直結すると私は考える訳ですよ、なので、ね?(ストレートな感想乞食)
トーカが魔法を発動し、その直後にアッシュの双大剣がトーカの身体を引き裂く。
観客からはそう見えただろう。
トーカがリクルスを庇い、アッシュの振るう刃の前に斃れたと、そう信じて疑わないだろう。
しかし、至近距離で見ていたアッシュとリクルスだけは違った。
トーカは、アッシュの双大剣が当たる直前には既に死んでいたのだ。
トーカが魔法を発動した瞬間、彼のHPは瞬時に消し飛び、身体は光の粒となった。そして、その直後にアッシュの双大剣が光の粒達の間を通り抜けたに過ぎないのだ。
だが、それがあまりに一瞬の出来事だったために、アッシュの双大剣がトーカを引き裂き、それによってトーカが死亡したように見えてしまっている。
繰り返すが、観客達からはトーカが仲間を庇って死んだように見えるだろう。
だからこそ、その直後の光景に会場がどよめく。
通常ならただ溶けて消えるだけはずの光の粒が、リクルスに吸い寄せられるように移動し始めたのだから。
「なんだ、そりゃぁ?」
この現象がどういうものなのか知らないアッシュは瞬時に距離を取ると、武器を構え直し、光の粒がまとわりついているリクルスを警戒する。
と、その間にもリクルスに群がっていた光の粒は、だんだんとリクルスの身体の中に吸い込まれて行き、そこで再び、目に見えて変化が起こり始める。
リクルスのほんのり紫がかった黒髪は徐々に色素を失っていき、やがて所々に黒のメッシュが入ったほんのり紫がかった白髪へと。
夜闇に輝く月のような黄金の瞳はその片方が血のような深紅へと染まり、黄金と深紅のオッドアイへと。
暗色系の岩石に似た色合いの軽鎧は所々に元の色で描かれた紋様を浮かべた白金の軽鎧へと。
リクルスは、次第にその姿を変貌させていく。
通常、どんなスキルや魔法、アイテムを使用したとしても、戦闘中にこうも急激にアバターのカラーリングが変更されることは無い。
初めて見る現象に、アッシュはより一層警戒を強める。
一方のリクルスはと言うと、これがなんなのか知っていた。
というより、本戦が始まる前に、トーカ本人から見せられていた。
トーカはこれを『奥の手』だと言った。
敵の虚を突き、戦局を一気に変えられる、そんな『切り札』だと。
その魔法こそが、彼が死の直前に発動した【サクリファイス】である。
この魔法は、『付与魔法Lv.10』かつ『外道』の称号を持つ者のみが習得可能な、最高クラスの効果を持つバフ系の魔法である。
しかし、他の誰もこの魔法の存在を知らない。あらゆる魔法に精通するノルシィでさえ、この魔法の存在は知らない。
それもそのはず、通常『付与魔法』を取得する神官は前線に出る事はなく、ましてや『外道』を取得することはさらに少ないため、現状この魔法を使えるのはトーカだけなのだから。
……まぁ、ルーティ辺りはそのうち習得しそうではあるが。
閑話休題。
まず、【サクリファイス】の使用にあたり使用者は自身を含めた戦闘中のプレイヤーの中から2人を選ぶ。
即ち、【生贄】と【依代】の2人を。
そうして【生贄】と【依代】を指定すればこの魔法は即座に発動し、その瞬間まず【生贄】に戦闘中蘇生不可の即死を付与する。
これによって【生贄】は即座に死亡し、光の粒となる。この即死効果はあらゆる耐性、スキル、アイテムの効果を無効化するため、どんなプレイヤーでも即死させることが可能になっている。
今回の場合は術者がその【生贄】に当たる。
当然、【生贄】に選ばれれば即死する関係上、【生贄】にするには対象の同意が必要だが、今回の【生贄】は術者自身のため同意を得る過程は必要ない。
そして、【サクリファイス】の対象の片割れ、今回はリクルスがそれにあたる【依代】には何が起こるのかと言うと、実に単純。
死亡した【生贄】のステータスを、そっくりそのまま【依代】のステータスに加算する。
ただそれだけだ。
ただそれだけだからこそ、この魔法の恐ろしさがよく伝わるだろう。
また、【依代】が【生贄】の力を引き継いだ事の証として、【依代】の身体に変化が発生する。【生贄】の髪や瞳の色をも【依代】は引き継ぐのだ。
リクルスの容貌の変化はこれが原因である。
引き継ぎが完了したリクルスは、その瞬間にはもうアッシュ目掛けて駆け出している。
「トーカが遺したこの力!無駄にはしねぇ!【衝拳】!」
そして、拳を振るう。
アッシュが咄嗟に大剣で防ぐが……
「軽りぃ!軽りぃ!」
「なっ!?」
難無く弾き返す。
先程までは逸らすだけで精一杯だったアッシュの一撃を、いとも容易く、それこそ小枝でも跳ね除けるように軽々と弾き返してしまう。
それにはアッシュも驚愕を隠せない。
何せ、相手の見た目が変わったと思ったら急激に力が増したのだ。その強化率は、もはや不気味な程だろう。
「【衝拳】【衝拳】【衝拳】!なんだこりゃ!あんだけ重かった一撃が信じらんねぇくらい軽くなってらぁ!」
先程までは一転して猛攻を仕掛けるリクルスが吼える。
明らかに異常なレベルの強化。しかし、冷静に考えればそれはおかしな事でもない。
今リクルスが装備している武器は籠手、つまりは打撃武器である。
そして、トーカの持つ火力やステータスが上昇する系の称号の大半は打撃武器の装備がトリガーとなっている。
つまり、今のリクルスはトーカの馬火力を支えている称号のほぼ全てが発動している状態にあるのだ。
ただでさえトップレベルのプレイヤー2人分という異常な程のステータスを持っているというのに、その2つのステータスが2つとも火力特化の構成になっている。
断言しよう。
今この瞬間において、今のリクルスを上回る攻撃力の持ち主はEBO内には存在しないと。
それほどまでに、今のリクルスの攻撃力は強化されていた。
リクルスとアッシュのせめぎ合いは、1発1発の威力が拮抗するどころか上回り、更には小回りも効くリクルスに分があった。
アッシュはだんだんと押し込まれ……
ついに。
「ぐうっ……!」
「とったァ!」
リクルスの拳がアッシュの胸に突き刺さる。
「念には念には念には念をってな!【衝拳】【衝拳】【衝拳】【衝拳】っぉ!やっぱりか!【衝拳】【衝拳】【衝拳】【衝拳】【衝拳】【衝拳】【衝拳】【衝拳】【衝拳】【衝拳】【衝拳】【衝拳】【衝拳】【衝拳】ッ!」
【乱牙】で極限まで強化され、1発1発が即死級の威力となったリクルスの【連衝拳】がアッシュを襲う。
と、案の定アッシュは何らかの自動蘇生手段を用意していたらしく、一度は復活するーーーが。
そこはまだ【連衝拳】の中だ。
復活したHPバーは一瞬で再び消し飛ぶ。
β最強とまで呼ばれる男をやっとの思いで倒したと思ったら即座に復活してくる。
あぁ、それは、悪夢以外の何物でもないだろう。
しかし、リクルスはその悪夢ごと殴り殺したのだ。
自動蘇生も虚しく、リクルスに殴り殺されたアッシュの身体は光の粒となって解け消える。
そんなアッシュの姿を見て、リクルスは小さくつぶやく。
「……結局、トーカの力がなけりゃ俺は勝てなかった。やっぱ、兄貴はすげぇよ。だからさ、次は俺一人でもアンタに勝てるように、強くなってみせるよ」
その言葉を聞いて、溶け消えて行く光の粒が、満足気に笑ったーーーような気がした。
これにてアッシュ戦が終了となります
イベント編も終わりが見えてきましたね
この次の章はなんの話しにしましょうかね……
予定しているのはギルド編か新キャラ編なんですがね
……狩人君はそのふたつの次になるかと
今後その場のノリで色々なスキル(複合スキル含む)や称号、武器防具アイテムを増やしていくと思うので何かアイディアがあればお願いします!
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今後も当作品をよろしくお願いします!