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第135話 『VS【クラウン】⑧ リベット&メイVSカザキ&ネル 後編』

 

 EBOにおいて、魔法というものは通常、術者が死亡すればまだ効果時間の範囲内であっても即座に消滅する物である。


 例えば、魔道士Aが【ファイアーボール】を放ち、目標に着弾する前に軽戦士Bによって殺された場合、その【ファイアーボール】は魔道士Aが死亡した直後に消滅する、といった具合に。


 これは魔法に限った話ではなく、他のあらゆる飛び道具系のアーツにも同じ事が言える。魔法ではない故にアーツの効果が消滅しても物理的に武器はそこに存在するが、アーツとしての威力はまるで無くなっている。


 そんなEBOのルールだが、いくつか例外が存在する。


 例えば、『付与魔法』などによるバフやデバフ、『呪術魔法』による呪い、『回復魔法』による継続回復効果などの攻撃では無い魔法。


 例えば、『罠術』によって張られた罠。


 例えば、術者の死亡が発動条件となっている悪足掻き系の魔法。


 例えば、設置されたアイテ(・・・・・・・・)ムなどによる効果(・・・・・・・・)


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「どういう事だ?」


 術者(メイ)は確実に死んだ。

 それは間違いない。殺した感覚はハッキリこの手に残っているし、事実としてメイの体は光の粒となって霧散している。

 そして、蘇生した様子もない。


 なのに魔法陣が一向に消えない。これはどういう事なのか。


 メイが死亡しても魔法陣が消滅していない事に疑問を覚えたカザキだが、それ以上思考する前に変化が現れた。


 魔法陣が突然発光しだしたのだ。

 いかにもこれから何かが起こりそうな気配に、カザキは慌てて飛び退こうとしてーーー


「ッ!?」


 出来なかった。


 魔法陣があるエリア一面に粘着シートのような物が張り巡らされており、足ががっちりと固定されてしまっている。


 飛び退く動きと連動しない足に、カザキは体勢を崩す事を余儀なくされてしまう。


「カザキ!」


 明らかなカザキのピンチに、ネルが助けに行こうとリベットの脇を抜けて駆け出す。

 しかし、それを許すリベットでは無い。


「行かせねぇって言ってんだろ!」

「そんなん当たらないわよ!」


 そう叫び、リベットはネルに向かって槍を投擲する。

 しかしその攻撃は加速したネルに追い付けず、少し後方の地面に突き刺さるだけとなった。


 だが、それで十分だ。


「いいや、当たったぞ。【影縫(かげぬい)】」

「っぁ……!動け、ない……!?」


 ネルの動きが、不自然な程急に停止する。まるで地面に縫い付けられたようにその場から1歩も動けなくなってしまう。


 これは、『槍術』の中の【影縫】というアーツであり、その効果は読んで字のごとく槍を使って相手を『影』に『縫』い付けるというもの。

 効果時間はそこまで長くもなく、また相手を縫い付けている間は自分も同じく動けなくなるという欠点付きだが、それ故に拘束力は強力であり、1度かかってしまえば効果時間切れまで逃れる術はない。


 一瞬の内に様々な行動が取られたが、そんなものは知った事かとばかりに魔法陣は一際強く輝くと、その中心に何かが現れーーー


「「はっ?」」

「ははっ、そりゃそうだよな」


 ーーーなかった。


 いかにもこれからも何かヤバいのが出てきますよ!と言わんばかりに輝いていた魔法陣は今や完全に輝きを失っており、うんともすんとも言わない。


 何が出ても対応できるように魔法陣の中央を注視していたネルとカザキは双子らしい完璧に揃ったタイミングで疑問の声を上げ、この場で唯一ネタを知っているリベットは力の抜けたような声を上げる。


『魔法陣があってそれが光出したら……当然中心から何か出てくるって思うよね』


 そんなメイの言葉をリベットは思い出しながら、この先の光景を眺めていた。


 そこから先はまさに一瞬の出来事だった。

 呆気に取られているカザキの後ろにナニカが現れる。


「ッ!カザキ!後ろ!」

「ーーッ!?」


 外から見ていたネルが即座にカザキに注意を促すが、少しばかり遅かった。


「あぐぁッ!」


 突如出現したナニカに、カザキは頭部を全力で殴り付けられ、紅いダメージエフェクトを撒き散らしながら吹き飛んだ。

 その際、首が変な方向にへし曲がって見えたのは目の錯覚では無いだろう。


「ははっ、なに?生産職って、こんなのも作れちゃうの……?」



 突如現れる、カザキを殴り飛ばしたそのナニカの正体は、大型の金属で作られた人形のような物だった。


 RPG風に言うならゴーレムだろうか。


 全長2m程の巨体に、それでカザキを殴り飛ばしたのだろう一際大きな拳。そして、その巨体に見合うだけの重量を持った、ソレはまさに自立稼働する人型の金属塊。


 ネルが愕然とするのも無理はない。


 この街にいるプレイヤーならほとんどが通ったであろう、今でこそロッ君やら鉱山やら言われているが、元はフィールドボスであり圧倒的な強さを持ってプレイヤーたちの前に立ちはだかった強敵、ロックゴーレムと酷似したそれが、人の手によって作られていたのだから。


 しかも、その体を構成している物は岩ではなく、より硬くより重くより凶悪な金属で形作られた、メタルゴーレムとでも呼ぶべき存在だったのだから尚更だろう。


 ネタばらしをすると、メイが展開した魔法陣は魔法によるものではなく、あくまで魔法陣の形をしたアイテムを設置しただけに過ぎないのだ。


 より正確に言うと、魔法陣型のアイテムボックスである。

 設置者の死亡を発動条件とし、死亡から数秒後に発光開始、その数秒後に、魔法陣の中央に収納されているアイテムを排出するというだけの、なんちゃって召喚魔法陣である。


 そう。本来ならこの魔法陣型アイテムボックスに収納されていたメタルゴーレムは、ネルとカザキの……と言うよりは無意識下に刷り込まれた一般常識に乗っ取り魔法陣の中央に出現するはずだったのだ。


 しかし、戦闘中に使用、それどころか自身の死亡を条件としている以上、EBO最高の生産職であるメイがそんなシンプルな構造にする訳もなく、この魔法陣型アイテムボックスにはもうひとつの機能が取り付けられている。


 それは、『アイテム排出時、魔法陣上に未登録のステータスを持った存在が居れば、アイテム排出は魔法陣の中央ではなくその存在Xの背後に排出する。反応が複数あれば設置者から最も近い者の背後に排出する』というものだ。


 もちろん、登録してあるステータスはメイ、リーシャ、トーカ、リクルス、カレット、リベットの6人。つまり、チーム【神楽】のメンバーだけである。

 そして、この決勝という舞台でその6人以外のステータスとはそのまま敵を意味する。


 それらの条件によって、メイは『自身にトドメを刺した者の背後にメタルゴーレムが出現し、お礼参り不意打ちパンチを喰らわせる』という自身を囮に使ったトラップを仕掛けていたのだ。


 もちろん、メタルゴーレムの役割はそれで終わりでなく、その後は『登録済みのステータスの持ち主の簡単な命令を実行する』という命令がされている。

 発声による命令では、誰々に攻撃しろ、誰々を守れ、などの本当に単純な命令しかこなせないがそれでもメイが戦闘するよりは役に立つ。


 当然、自身を殺した者が即座に離脱したり、魔法陣に乗らずに遠距離攻撃で倒された場合はこのトラップは不発に終わるが、そうならないための仕掛けも当然用意していた。


 ひとつは実際に発動した粘着シートだ。

 正確には、『設置者の死亡直後に魔法陣が粘着性を持つようになる』という効果で、これによってメイを殺した下手人を逃さないようにするのだ。


 そして、今回不発だった飛び道具対策だが、これはリベットに任せていたのが半分。もう半分は、風の膜を発生させるようなアイテムを作り、それによって自身の周囲に風のカーテンを展開していた。


 このカーテンは、飛び道具に反応して発動するようになっており、敵がそのまま近付いてきた場合には発動しないため、今回日の目を見ることはなかったのだ。


 脱落者部屋でメイが『力作だったのに……』としょんぼりしていたとかいないとか。


「よし!ゴーレム、こっち来い!んでソイツぶん殴れ!」


 カザキを殴り飛ばし、初期命令の1つ目を実行し終えたメタルゴーレムは2つ目の初期命令に従い、登録済みのステータス……つまりはリベットの命令に従って【影縫】の効果で動けないリベットとネルの元へと向かう。


「くっ……!あとちょっと……!」

「だよなぁ、このままゴーレムにタコ殴りさせられたらよかったんだが……それは無理か」


 リベットの言う通り、現在ネルもリベットも動けない状況になっており事態は膠着しているが、第三者の介入があればそれは即ちそのままサンドバッグと化すという事である。


 そう出来れば最高だったのだが、ネルの速度が想定よりかなり早く、【影縫】を使うタイミングを早めざるを得なかった。

 結果、メタルゴーレムがネルを攻撃圏内に捉えてから実際にそのHPを削り切る前に【影縫】は解けてしまうだろう。


 そうなれば、ネルは即座に離脱し、状況は振り出しに戻ってしまう。

 いや、一撃が重く高威力な代わりに機動性が悲しいほどに低いメタルゴーレムでは自由に動き回れるネルを捉えられるはずもなく、また1度喰らってピンチに陥った【影縫】を彼女は二度と喰らわないだろう。


 リベットも機動性に優れているとは言えない。

 そうなれば、リベットとメタルゴーレムではネルを倒す事は難しくなってしまうだろう。


 リベットは守りに徹しカウンターを狙い、ネルはヒットアンドアウェイを徹底する。そうなれば、どちらが先にミスをするかの耐久戦になってしまう。


 それが悪いとは言わないし、仲間を信じてはいるが、対応してる仲間を下した【クラウン】の誰かが加勢に来るかもしれない。

 そうなればさすがに勝ちの目は無いだろう。


 ズリズリ、ズリズリ、と石臼をする様な独特な音を響かせてメタルゴーレムがまだ行動不可能なネルに向かって拳を振るう。


「っ!『空蝉』!」


 しかしネルは回避型の軽戦士なら大抵は習得している『空蝉』を使ってその攻撃を無効化する。

 このタイミングで【影縫】の効果は残り5秒ほど。


 5秒では、機動性に劣るメタルゴーレムでは再び拳を振るうことは出来ない。


 拘束力の強さを感じ取り、それを基準に拘束時間を推し量っていたネルも、メイからゴーレムに付いての説明を受けており更には【影縫】の所持者であるリベットも、それは明確に感じ取っていた。


 ネルは反撃の兆しを得て獰猛に笑い、しかしそんなネルの心境を知ってか知らずか、リベットは諦めたように、あるいは悟ったように薄く笑って、次なる(最後の)命令を下す。


メイの自信作(メタルゴーレム)。《自爆》しろ」


 リベットが短く吐き捨てたその命令に従い、メタルゴーレムは振り上げかけた拳を戻す事もせずに、その身を爆散させた。


 EBO最高の生産職が、自爆の使用を前提に作成した、存在意義がもはや自爆することなのがこのメタルゴーレムである。


 ならば、その爆弾人形(メタルゴーレム)がその身に溜め込んでいる爆薬の量はーーー


「うっそでしょ!?ネタ被り!?」


 とても人間(プレイヤー)が生き残れるようなものでは無い。


 奇しくもトーカと似たような事を叫びながら、ネルとリベットは爆発に飲み込まれて消えて逝った。


【カグラ】も【クラウン】もどちらも『自爆』という手札を持っていて、それが見事に被った感じですね


今後その場のノリで色々なスキル(複合スキル含む)や称号、武器防具アイテムを増やしていくと思うので何かアイディアがあればお願いします!


おかしい所や誤字脱字、誤用などがあったら是非ご指摘お願いします


ブクマしてくれた方や読んでくれてる方本当にありがとうございます!


今後も当作品をよろしくお願いします!

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