第130話『VS【クラウン】③リベット&メイVSカザキ&ネル 前半』
「いやぁ、凄い攻撃だったねー。上手い具合にバラけさせられたわぁ」
「……そうだな」
「そんな中で私達はバラけずに上手く退避出来たのは……やっぱ双子の絆ってヤツのなのかね?」
「関係無いだろ。位置関係的な問題で同方向に退避出来ただけだ」
「ちぇー。夢がないなぁ」
相手にチーム戦をさせないという作戦によって仲間と強制的に引き剥がされてしまった【クラウン】だが、その中で軽戦士組のネルとカザキだけは引き剥がされる事無く先程の【白龍砲】を凌いでいた。
「他の4人にはそれぞれ1人ついてるのに何故か私等フリーだし。どっかのヘルプに行きますか」
「ポーション役の生産職とその護衛で2人だからな。どうもあの槍使いは護衛対象から離れるつもりは無いらしい」
2人の言う通り、ドウランにはトーカが、ショウキョウにはカレットが、ウィシャルネにはリーシャが、そしてチームリーダーにしてβ最強と名高いアッシュにはリクルスがついている。
だが、このネルとカザキの2人には何故かノーマークだったのだ。
その理由はまさに今カザキが言った通りのものなのだが……
「んー。なぁんか引っかかるんだよなぁ」
「嫌な予感がするってヤツだな」
なぜ、せっかく最強チームにチーム戦をさせないという状況を作り出すことに成功したにも関わらず、それを崩壊させるような行動を取っているのか。
そんな当然と言えば当然の疑問が、2人が他メンバーのサポートに向かう足を止めさせる。
「ってもまぁ、生産職に出来ることなんてたかが知れてるでしょ。リーダーはほっといても平気そうだし……ドウランのヘルプに行ってやりますか」
「………………」
疑問はある。嫌な予感もある。だが、それが明確な形にならない。
どんなに準決勝で事実上の無限ポーションを可能にするというスーパープレーを行っていようと、生産職に戦う力があるとは思えない。
たとえあの護衛が離れて向かってきたとしても、2対1なら負ける気はしない。
そんな常識に、自負に、一瞬迷った末に2人は仲間のサポートに向かう事を選んだ。
ーー選んでしまった。
「『常在工房【領域展開】』」
この決勝の舞台において、敵味方含めた全員の中でメイは個人としてはぶっちぎりの最弱だ。
たとえ相手がこの中の誰か1人だけだとしても、まるで勝てるビジョンが見えない。負ける気しかしない。
故に、危険に敏感であり、彼女の生来の察しの良さも相まってそれはもはやスキルに頼らない『危険感知』と言うべきものにまでなっていた。
だからこそ、危険の意識が自身から離れた事を察知できる。だからこそ、最高のーー相手にとっては最悪のーータイミングで動き出す事が出来る。
「最終調整ーー開始」
メイを中心に半径1m程に渡って出現した魔法陣は、ほのかに燐光を放ち、その領域が戦場において限りなく異物である事を訴えかけている。
魔法陣によって生み出された領域内で、他者には見えぬウィンドウを操作しているメイは、既に集中モードに入っているのか、周囲の喧騒などまるで耳に入っていないようだ。
ボソリと呟かれたその一言も、本当に小さな声量を以て発せられ、本来なら誰の耳に届くことも無く霧散したであろう彼女だけの宣言だった。
「「ーッ!」」
だが、メイほどではないにしろスキルに頼らない危険感知ーーつまりは嫌な予感と言うやつだがーーが得意なネルとカザキは言葉こそ聞き取れなかったものの、何かを感じ取ったらしい。
ドウランのサポートに向かおうとしたネルとカザキが急転換し、メイ目掛けて走り出す。ネルは柳葉刀……俗に言う青龍刀を構え加速し、カザキはレッグホルスターから取り出した投げナイフをノータイムで照準を合わせ速度を一切落とすこと無く投擲する。
そのコースは正確にメイの喉を狙っており、メイは『集中』スキルの弊害でそのことに全く気付いていない。
いくら『没入』によるダメージカットがあろうと、それは完全ではないし、いくらダメージカットしているとはいえ喉……つまりは人体の弱点への攻撃はかなりのダメージになる。
それに加えて、【カグラ】のメンバーは知らないが、カザキは『殺業』というスキルを所持している。
この『殺業』というスキルは、喉や心臓など、その生物の生存に関わる弱点に正確に攻撃を打ち込んだ場合、一定確率で即死させるというスキルである。
さすがにボスモンスターや大型のモンスターなど一部の強力な敵には効かないが、プレイヤー相手なら話は別だ。
カザキの『殺業』のスキルレベルに狙われた部位、そしてその正確さを鑑みると、そこそこの確率で即死させられる攻撃となっていた。
が、
「ンなもん当てさせねぇよ」
キンッ!と甲高い音を立てて投げナイフが弾かれる。
防いだのは当然、メイの護衛として控えていたリベットだ。かなりの速度で飛来した投げナイフを当然のように槍で弾いて見せたのだ。
「ふぅん。私達を1人で止めようって言うの?」
「まぁ、そういう事になるな」
投げナイフに続いてリベットの元に到達したネルの柳葉刀による一撃を槍の柄で受け止めると、弾くのではなく逸らす事でその攻撃を受け流す。
と、同時に振るわれた、カザキの首狙いの一撃をステップを踏み僅かな位置変換を行う事で紙一重で避ける。
その後も、カザキとネルは、さすが双子と言うだけあって完璧に息の合った見事なコンビネーションでリベットを翻弄し、それをリベットは持ち前の粘り強さで耐える。
隙を見てどちらかがリベットの防衛線を抜けようとするが、リベットはそれを許さない。
「させねぇよ【針突】」
ネルの攻撃のタイミングに合わせ、カザキがリベットの横を通り過ぎようとするが、リベットが素早く槍の持ち手を切り替え放った突きによって妨害されてしまう。
「無視すんなよ、悲しくなるだろ。ちょっと遊んでけや」
「チッ……おっさんと遊ぶ趣味はねぇよ」
言うやいなやカザキは脳天めがけて投げナイフを投げつける。だが、その行動は予想していたと言わんばかりに頭を傾ける事で紙一重どころか余裕を持って回避されてしまう。
「おいおい、俺はまだおっさんって歳じゃねぇ……よっと!」
言いながらリベットは槍の柄のかなり端の方を持って振り返りつつ大振りに槍で薙ぎ払う。
それは、大して狙いも付けていない、とりあえず薙ぎ払ったと言わんばかりの一撃であり、普通に考えて当たるはずもない一撃だが……相手が向こうから向かってくるなら話は別だ。
「っ!」
しかしそこはさすが最強チームの一員。
進路上に力任せに振るわれたその大振りの一撃を、大抵のプレイヤーなら分かっていても避けようがないその一撃を、今にもリベットに斬り掛かろうとしていたネルは『空步』を駆使して後退する事で紙一重で回避する。
「おっかしいわね……『隠密』使ってたから簡単には気付かれないと思ったんだけど」
「あぁ、音も気配も無く斬り掛かってこられてヒヤヒヤしたぜ」
「じゃあなんで気付いた……って聞くのは野暮か」
そんなネルの言葉に無言で不敵な笑みを浮かべリベットは槍を構え直す。彼が音も気配も無く背後から近付いてくるネルに気付けたのは、彼が『鷹の目』というスキルを所持しているためだ。
この『鷹の目』というスキルは癖の強いスキルであり、その能力は自身の姿を俯瞰出来るようになるというものである。
故に背後から迫ってくるネルにも気付けた。
ちなみに、通常の視界と俯瞰の視界を適宜切り替えて戦えるようになるにはかなりの訓練が必要となるこのスキルだが、リベットの守りに重きを置いたバトルスタイルとこのスキルは相性がよかったため予選期間中に死にものぐるいでものにした、という経緯があったりする。
無言で槍を構え直したリベットに、ネルもコキコキと首を鳴らすと獰猛な笑みを浮かべ柳葉刀を構え直す。獰猛な笑みを浮かべたネルの姿は、確かに彼女の2つ名であるアマゾネスを想起させる迫力がある。
「行くよッ!」
「行くぞッ!」
「ーーーと、言いたいところだろうが、タイムアップだ」
今にも駆け出そうとしていたリベットとネルはその言葉に動きを止め、声のした方を振り返る。
そこで2人が目にしたのは、『集中』状態で一切の抵抗が無い状態のメイの首筋にナイフを突き立てたカザキの姿だった。
「ッ!メイ!」
ネルに気を取られ、護衛対象であるメイへの接近を許してしまい、それどころか攻撃を許してしまうという痛恨のミスにリベットは悔しそうに歯噛みする。
首筋にナイフを突き立てられたメイは力無く倒れ伏すと、その身を光の粒へと変えて散り消えて行く。メイが死亡した事は誰の目にも明らかだ。
「…………クソッ!」
カザキはそんなメイの姿を無言で見下ろし、悔しげに自身を睨み付けるリベットをしり目に地面に落ちたナイフを回収しようとして、気付く。
「魔法陣が、消えてない?」
今後その場のノリで色々なスキル(複合スキル含む)や称号、武器防具アイテムを増やしていくと思うので何かアイディアがあればお願いします!
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