第128話 『VS【クラウン】①』
投稿再開と言った直後に予約投稿ミスった愚か者は私です
「ハァッ!【グラビトンウェーブ】ッ!」
「……………………ッ!」
試合開始直後。
トーカが『縮地』を使って敵陣に飛び込み、【グラビトンウェーブ】をぶちかます。
今までの【カグラ】の戦法から、相手は陽動であろうが本命であろうが間違いなく最初は【白龍砲】が来ると踏んでいただろう。
それ故に、突っ込んできたのが純白の龍ではなく、白銀の神官だった事に一瞬だけ反応が遅れる。
これこそが、【カグラ】が仕掛けていた罠。
予選の後半から本戦にかけての長期間をフルに使って、今この瞬間のためだけにこっそりと仕掛けていた布石。
【カグラ】は必ず初発で【白龍砲】をぶっぱすると、全プレイヤーの意識に焼き付けるための遠回り過ぎる仕掛け。
戦法を縛るというリスクを冒しながらも、途中で負ければ抱え落ちとなる。そんな今この瞬間以外においてはデメリットにしかならない賭け。
それが、この決勝という最高の舞台でこれ以上ない程に最高に機能した。
本気の攻撃であれ誘導であれ、全体狙いであれ個人狙いであれ、【カグラ】の初手は【白龍砲】だと【クラウン】すら信じ切っていた。
より正確に言うならばそれを前提で考えていた。
初発の【白龍砲】をどう自分達の利になるように利用するか、その考えに思考領域の少なくない割合を割いていた。
だからこそ、【クラウン】という紛うことなき最強のパーティーであっても一瞬、反応が遅れた。
白銀ノ戦棍が【クラウン】のすぐ側で地面に叩き付けられる。
いつもトーカが使う様な高所からの放つ全力の【グラビトンウェーブ】ではない、本来の【グラビトンウェーブ】。
本来運営が想定していたであろう正規の使用方法の【グラビトンウェーブ】。
それでも、使用方法が普通であっても使い手が普通ではなかった。
それ故に、その威力はトーカの全力には及ばないが普通の【グラビトンウェーブ】とは一線を画すものとなった。
地を叩き割った白銀ノ戦棍を起点に衝撃波が走る。
距離の関係で【クラウン】の全員を巻き込み、だが【カグラ】の誰も巻き込まない。
そんな絶妙なバランスに調整された【グラビトンウェーブ】。
完全に意表を突いたこれ以上ないまでに完璧な一撃。
「ッ……俺の後ろに回れ。【守護者】」
だが【クラウン】は、否、《EBO》が誇る最硬のタンクであるドウランは、その一撃を仲間もろとも難無く防いで見せた。
ドウランが使った【守護者】というスキルは、一時的にうけるダメージを減少させ、自身のVITも上昇させる。その上、自身が庇っている者が多ければ多いほどその効果が強化されていくというタンク御用達の防御スキルだ。
それによって減衰された衝撃波は、ドウランのHPをほんの僅かに削る事すらなく、ドウランの構える大盾に阻まれてあえなく掻き消されてしまう。
一見、【カグラ】の罠は【クラウン】によって完璧に対応されたように見えるだろう。確かにほとんど完璧に防がれた。
だが、あくまで『ほとんど』だ。
この罠は少なくない効果をしっかりと発揮している。
事実、一瞬反応が遅れた【クラウン】達は、この攻撃に対して避けるという行動を取れていない。
確かにドウランがほぼ完璧に防いで見せたものの、それは【クラウン】が1箇所に固まらざるを得ない事を表していた。
全員がタンクの後ろに固まっている。
故に即座に反撃に移れない。
のこのこと単騎で近付いてきたトーカにカウンターをぶち込めない。
これだけで、【カグラ】が張っていた罠は十分な成果を出していると言えるだろう。
「固まっていて狙いやすいなぁ!【収束型白龍砲:三頭】ッ!」
そして、固まっていると言うことは狙いやすいということ。
それを、そんな格好の的を【カグラ】の誇る最凶の魔導士が見逃すはずがない。
トーカによるバフが無いためこの【白龍砲】もせいぜいが三頭止まりだが、だからと言って対魔法装備でガッチガチに固めている訳でも無いプレイヤーに耐えられる威力ではない。
絶対の威力を秘めた純白の奔流が【クラウン】目掛けて突き進む。
容赦無く、慈悲なく、遠慮なく。
龍の咆哮にも似た暴音が闘技場を満たし、獲物を求めて遍くを焼き尽くす純白の龍が荒れ狂い、猛り狂い、突き進む。
「【追い風】」
あぁ、だが、それでも、【クラウン】には届かない。
今の今まで無言を貫いていたカザキがボソリと呟く。
その声に合わせて、【クラウン】の中心から暴風が吹き出した。
その風は、攻撃性能などまるで無い、現実世界でもたまに吹くような強めの強風でしかない。
だが、そんな風でも飛び退る彼等の体を押し込み、加速させるには十分だ。
カザキの行動には、前兆も符丁も何もなかったが、彼等には分かっていたのだろう。
事実、【クラウン】のメンバーは皆、危なげなくカザキの引き起こした強風に乗って既に攻撃範囲から離脱している。
「【対魔法防御】【シールドバッシュ】」
重鎧を着込んでいるドウランだけは完全に攻撃範囲から逃れる事は出来なかったが、魔法攻撃のダメージを超減少させる【対魔法防御】の効果でダメージを総HPの1割ほどに抑え、それどころかその勢いすらもプラスして近くにいるトーカ目掛けて大盾で殴りかかって来た。
「ッ……!【コリジョンバック】!」
ガィィィンッ!
トーカは、自分目掛けて飛んでくる巨大な金属の塊とでも言うべき重装備のドウランを、ノックバック性能の高い【コリジョンバック】で無理やり吹き飛ばす。
「確かに強い。異常とも言える一撃の重さだ。だが……防げない程でも無いな」
ノックバック効果で吹き飛ばされながらも、ドウランのそんな呟きがトーカの耳に届く。
確かに、いくら称号でステータスが盛られていると言っても、トーカはこの速攻のために未だバフを盛っていない上に攻撃性能が低い【コリジョンバック】では《EBO》最硬を誇るドウランの防御を抜く事は叶わなかった。
彼の言葉を裏付けるように、ドウランのHPは僅かたりとも減っておらず、彼の言葉がただの強がりでない事は明白だ。
「さぁここまでは作戦通りだ!お前ら、しくんなよ!【バフセット:カグラ】!」
「よしきた!【ウィンドストーム】!」
だが、ここまでは【カグラ】の作戦通り。
ただでさえ【白龍砲】を避けるためにバラけていたのに、追い討ちの【ウィンドストーム】で残った5人はさらに引き離されている。
HPこそ1ミリも削れていないものの、事前に狙っていた通りに【クラウン】のメンバーをそれぞれ孤立させる事には成功した。
【カグラ】の作戦は実に単純。
チームとして【クラウン】に及ばないのなら、チームとして挑まなければいい。故に、初っ端から不意を付いて【クラウン】をバラけさせ、チーム戦から個人戦に引き摺り落とすというものだ。
チーム戦の大会で何言ってんだという感じだが、時間も練度も【クラウン】に劣る【カグラ】が勝つにはこれしか無い。
そして、作戦通りドウランはトーカに吹き飛ばされ、他の5人も【白龍砲】と【ウィンドストーム】を避けたために離れてしまっている。
【カグラ】の作戦は大成功と言っていいだろう。
「お前の相手は俺だ」
そう言って、トーカは吹き飛ばしたドウランへ向かって駆け出す。
こうして、【カグラ】対【クラウン】のチーム戦ならざるチーム戦が始まった。
今後その場のノリで色々なスキル(複合スキル含む)や称号、武器防具アイテムを増やしていくと思うので何かアイディアがあればお願いします!
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