第120話 『VS『魔導研究会』②』
『魔導研究会』戦は『異端と王道』戦よりも長くなりそうな予感……
1話1話は『魔導研究会』戦の方が短いんですけどね
ここで何が起こったのか解説しておこう。
とは言っても実に単純な事だ。
カレットが放った6発の【白龍砲】は、初めから比較的低威力の3発とその分浮いたMPを注ぎ込んだ比較的高威力の3発に分かれていたのだ。
そして、まずは『魔導研究会』が張った苦手属性の防壁に低威力の【白龍砲】をぶつけ、水蒸気やら粉塵やらで視界を塞ぐ。
次に、その間に高威力の【白龍砲】を操作して上へ送り、ノルシィ達の視界から外す。
そして、相手が【白龍砲】を防いだ気になっているところで上に逃がしていた高威力の【白龍砲】を、真上から叩き込んだという訳だ。
一度放った魔法を操作するというのは、一見簡単そうに見えてかなりの技術……と言うよりは想像力が要求される。
ただ直線的に放つのでは無く、自らの意思でどう動くのかを強くイメージし続けなければいけないからだ。
しかも、2種類の動きを同時に行うとなれば難易度はさらに跳ね上がる。カレットの言う「精密な操作が売り」というのは、それだけ【白龍砲】を使いこなせている証なのだ。
「んぐっんぐっんぐっ、ぷはぁ!畳み掛けるぞ!【六重火槍】!【六重風槍】ッ!ってなんだこのポーションは!?美味いぞ!?」
「んぐっんぐっんぐっ、ぷはっ。【バフセット:カグラ】。そのポーションは俺とメイの自信作だからな。味わって飲めとは言わんが、無駄飲みするなよ」
この初手ぶっぱでMPが空になったトーカとカレットがほとんど同時にMPポーションを飲み、MPを回復させる。
今回のポーションは少し前に俺とメイが協力して作った味付きのポーションであり、試合で開けたのは初だ。
前回までは試作品の味無しが大量に余っていたからな。
カレットはこう言った素直な反応をしてくれるからサプライズの仕掛けがいがある。
もちろんこの程度の驚きで行動を乱すカレットでは無いと信用しての事だ。現に味に言及する前にしっかりと魔法を放っている。
そして、今回俺が仲間全体にかけた【バフセット:カグラ】だが、このMP消費がまたなかなかに重い。即座に2本目(カレットと合わせれば3本目)のMPポーションを開ける。
補足だが、俺のMPポーションは試作品の失敗作だ。メイ作という事でMPの回復効果だけは高いが、問題の味が酷いものになってしまっている。
フルーツの甘みと薬草の苦味がダメな感じに混ざり合った、そんな絶望的な不味さを誇る自慢の1品だ。何も知らずに飲めばMPポーションにトラウマが出来るのではないか……そんな不味さをしている。
味を付けるという試みとしては成功かもしれないが、さすがに不味すぎて飲むのに覚悟がいるようであれば総合的には失敗作としか言えない。
そんなポーションであり、死蔵しておくには惜しいが他の人に飲ませるのも躊躇われる、そんな性能をしているため、こうして俺が消費しているという訳だ。
うぇぇ……味を知っていて、覚悟も出来ていて、何度も飲んて慣れたとはいえ、それでも口の中が不味い……
閑話休題
俺が使った【バフセット:カグラ】の内容は実に簡単。チーム全員にバフをばらまくというもので、リクルスなら素早さと攻撃力、リーシャなら器用さ、と言った具合にその効果は個人によって異なっている。
どうやって一手で個人専用のバフをかけられるのかと言うと、仲間一人一人に【バフセット】で専用のバフを事前に組み立て、それをさらに【バフセット】で一括りにしているのだ。
ちなみに、【バフセット】をさらに【バフセット】でくくるのは『支援魔法』の【バフセット】しか出来なかったりする。
自身にしかかけられない『強化魔法』では【バフセット】を【バフセット】で括る意味はMPを無駄に浪費する事以外に無いからな。
「あらあら元気ねぇ〜【六重水槍】【六重土槍】」
「ノルシィ殿に続け!【ウォーターランス】!」
「「【アースランス】!」」
カレットの放った六重の火と風の槍に、ノルシィが的確に魔法を合わせてくる。そして、それに続くように生き残った『魔導研究会』のメンバーも同じ【ランス】系の魔法を放つ。
どちらが狙ったのか、まず先にカレットとノルシィの放った魔法がぶつかる。火の槍は水の槍と、土の槍は風の槍と当たり、盛大に水蒸気と土煙をばらまく。
カレットの魔法は軒並み防がれ、おまけに視界状況は最悪だが、この状況になるという事は相殺されているという事。
最高峰の魔道士の魔法を相手に不利属性で相殺出来ているという事は、それだけカレットの火魔法と風魔法の威力が高いという事だ。
それは、有利属性どころか、属性相性のプラマイがない属性と当たれば押し切れることを表している。
当然ノルシィもそんな事は分かっているだろうから、カレットの魔法には全力で有利属性を当ててくるだろうが。
と、カレットの魔法がノルシィの魔法と相殺したという事は、他の3人が放った【ランス】が飛んでくるということだ。
水の槍は相手から見て落としやすそうなメイに、2発の土の槍はカレットに狙いを付けていた。
「クッ!【ファイ……」
「いや、いい!【魔法付与】ッ!」
カレットが火魔法で槍達を迎撃しようとするが、それより早くトーカが動いた。
武器に自身の持っている魔法の性質を付与する『付与魔法』の【魔法付与】で、白銀ノ戦棍とリベットの槍に『結界魔法』を付与する。
本来なら【魔法付与】という魔法は、味方の武器に様々な属性を付与させることを目的としている魔法なのだが、『結界魔法』の効果は物理魔法共に防ぐ障壁を張り出す魔法であり、攻撃性は無い。
ならなぜこんな事をしたかと言うと、今この場に限って言えば重要なのは魔法の属性では無く、魔法属性が付与される事にこそ意味があるのだ。
この《EBO》における魔法と物理の関係に付いて少し説明しよう。
というのも、《EBO》において魔法は物理に、物理は魔法に干渉しえないのだ。
より正確に言うならば極端に干渉しにくい、と言うべきだろうか。
どういうことかというと、飛んでくる魔法をトーカがメイスで叩き落とそうとしても、魔法はメイスをすり抜ける。
逆に、魔道士がトーカの一撃を魔法で迎撃しようとしても、メイスは魔法をすり抜ける。
もちろん完全にすり抜けている訳ではなく、そうとしか思えないくらい互いに干渉しないと言うだけなのだが。
そういう訳で、この世界《EBO》において、魔法属性に干渉するには魔法属性が、物理属性に干渉するには物理属性が必要となるのだ。
もちろん、防御を目的とした【ウォール】系の魔法などはしっかりと物理攻撃も防御してくれるし、魔法攻撃は岩や木、壁などの物理的なオブジェクトに防がれたりなどもするが。
と、ここまで言えば十分だろうか。
そう、【魔法付与】で魔法の性質を付与された武器は火や水などの属性の他にも、魔法属性を得るのである。
これによって、本来魔法属性を持たないはずの物理属性の武器でも、魔法への干渉が可能になるのだ。
「ハァッ!」
「シッ!」
トーカの振るう白銀ノ戦棍が2本の土槍を砕き、リベットの振るう槍が水槍を切り刻む。それぞれの方法で防がれた魔法は、呆気なく散っていった。
「全部とは言わんがこぼれ魔法を弾く位は出来る。お前は攻撃に集中してろ」
「おうともさ!」
「トーカに同じく、ってな。メイはカレットのサポートに集中してくれ。防御なら得意だ」
「分かった!」
自衛が出来ない以上リベットの方が負担は大きいが……あいつと俺では手数が違うからな。
それにメイの役割上カレットの基本は近くにいることになる。なら俺もリベットのサポートくらいならできるだろう。
「はっはぁ!んじゃ後ろは任せて俺は突っ込みますかね!」
同じくメイン武器である大地の豪腕に【魔法付与】を受けたリクルスが嬉々として敵陣に突っ込んでいく。
リクルスなら大丈夫だろう。それに、最悪落ちても構わないしな。リクルスもそれが分かっているからこその特攻だろうしな。
「前も言った気がするけど、私は魔法と撃ち合いとか無理だかんね、本体狙ってくよ〜!【レインショット】!」
リーシャがケラケラと笑いながら放った矢は、空中で20発に増えて『魔導研究会』の面々へと降り注ぐ。
「クッ!【アースドーム】ッ!」
咄嗟に『魔導研究会』の1人が全方位を覆う……つまり【ウォール】系と違って上空からの攻撃も防げる【ドーム】系の魔法で【レインショット】を防ぐべく防壁を張る。
「ふん!甘いわ!【三重火線】ッ!」
しかし、全方位を防御するという事は当然1箇所の防御は薄くなると言うことである。そんな防壁ではカレットの魔法を防ぐ事など到底不可能だ。
事実、三重に凝縮された熱線は、いとも容易く土のドームを溶かし貫く。
だが、カレットの放つ熱線がそのまま1人を焼き尽くすという事は無かった。
「あらあら〜お姉さんを無視だなんて、カレットちゃんは冷たいのねぇ。【二重渦潮籠】」
カレットの放った熱線は貫かれた土のドームの下から現れた渦巻く水のドームに阻まれ、そのまま勢いを失ってかき消されてしまう。
カレットの魔法を防いだノルシィはそう言ってにこりと微笑むと、手に持った杖をゆらゆら揺らしながら、まるで空に絵を書いているかのように振るう。
「試合はまだまだこれからよ〜。お姉さんと遊びましょ♪【六色刃乱舞《陸ノ型》】」
次の瞬間。
ノルシィの振るう杖の動きに合わせるように無数の刃が空に閃く。
赤色の刃が、青色の刃が、緑色の刃が、
茶色の刃が、黄色の刃が、紫色の刃が、
各色6発ずつ、計36発もの魔法の刃が、闘技場を縦横無尽に駆け巡り、カレット目掛けて襲いかかった。
今後その場のノリで色々なスキル(複合スキル含む)や称号、武器防具アイテムを増やしていくと思うので何かアイディアがあればお願いします!
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今後も当作品をよろしくお願いします!