第118話 『ライバル戦を前にして』
「さぁさぁさぁ!次はついにノルシィ達とだ!ノルシィ達とだぞ!ふっふっふっ……絶対に負けん!待ってろノルシィ!焼き尽くしてくれるわ!」
えーこちら控え室。早速カレットが荒ぶっております。
次が待ちに待った好敵手との対戦もあって、『異端と王道』戦が終わって一息ついてからずっとこの調子でございます。
「おいおい、落ち着けよカレット。今回の試合はお前がキモなんだぞ」
「あぁ、分かっている!分かってはいるが、それでもこの興奮は抑えられるものでは無い!うぉぉぉぉ!内なる私が叫んでいる!今すぐ魔法をぶっぱなせと!」
「やめい!」
興奮のあまり今にも魔法をぶっぱなしそうなカレットにリクルスがゲンコツを叩き込んでいる。
リクルスが珍しく落ち着くようなだめる側に回ったが、ある種の極限の興奮状態にあるカレットを落ち着かせるのには足りなかったようだ。
頭を小突かれながらも相変わらずハイテンションで騒いでいる。
ここまで来ると普通じゃないな……もしかしたらカレットもかなり緊張しているのかもしれない。このハイテンションっぷりは空元気なのだろうか。
「ほら、蛇串とりんごソーダだ。これ食って落ち着け」
「おぉ!いいのか!?それはありがたい!」
ならば変になだめるよりも別の事に興味を逸らした方がいいだろうと蛇肉の串焼きとりんごソーダ(『料理』のスキルレベルが上がったのでどちらもさらに美味しくなっている)を渡すと、カレットはそれらを美味しそうに食べ始めた。
席に座って蛇串を頬張りりんごソーダで流し込む……焼き鳥をつまみに一杯やってるおっちゃんみたいになったが、落ち着きはしたようだ。
いや、意識が逸れただけだろうか。どちらにせよ目的は達成している。次の試合は冗談抜きでカレットがキモなのだ。
《EBO》広しと言えど魔法のタイマンでノルシィを抑えられるのはカレットくらいのものだろう。カレットの力を最大限にひきだす上で、俺やメイのサポートももちろんだが、何よりもカレット自身のコンディションが一番大切だ。
変に緊張して普段のテンションから逸脱されると、ド派手な見た目に対して繊細な操作を必要とする魔法は簡単に失敗してしまうだろう。
なら、緊張による空元気を抑えなくとも、緊張を解消せずとも、目を逸らせさせればその間にカレットは勝手に自分の精神状況を整えてくれるだろう。
その目論見は成功したようで、カレットにはもう緊張も興奮も見受けられない。ただひたすらに蛇串を肴にりんごソーダを楽しんでいる。
見れば見るほどおっちゃんみたいになってるが……まぁ緊張し過ぎるよりはマシだろう。
「むぐ、むぐ。ノルシィ達も魔法のプロフェッショナルだからな、【白龍砲】の仕組みを見抜かれていてもおかしくない。少なくともノルシィには当たりがついてるだろうし……無策でぶっぱすればまず間違いなく防がれるぞ」
蛇串を食べて落ち着いたカレットがそんな事を言う。
カレットにしては珍しく弱気とも取れる発言だが……それだけノルシィの事を強敵と認めているという事だろう。
「まぁ、そうだろうな。2回戦で既に『異端と王道』に防がれてるしな。あの試合で防ぐ事は可能だと露見した、絶対に何かしらの手は打ってくるだろうな」
これは弱点とも言えないような弱点なのだが、【白龍砲】はどこまで行っても強力な単発攻撃でしかない。
それ故に【プロテクション】のようなどんな攻撃でも1度だけ防ぐ系の魔法やスキルとはとことん相性が悪い。
ノルシィ自身は『付与魔法』や『回復魔法』を不得手……というか習得していないらしいが、チームメンバーもそうという事は無いだろう。
リトゥーシュ程じゃないにしても高レベルの神官がいると考えるべきだ。下手したら『呪術魔法』の使い手すらいる可能性もある。
「まぁなんにせよ、【白龍砲】での開幕全力ぶっぱは情報が全くない初回限定の選択肢だ。それに、開幕ぶっぱが初回限定と言うだけで【白龍砲】そのものは十分強力な切り札になる」
カレットが食べているのを見て興味深そうにしていた4人にも蛇串とりんごソーダを手渡しながら続ける。
控え室が居酒屋の個室のようになってきたな。
そんな雰囲気で気分が高揚してきたのか、カレットは先程のような空元気ではなく、普段の彼女のような明るさに戻って来ている。
「当然!ノルシィ達相手に出し惜しみは無用だ!【白龍砲】の真の恐ろしさ……とくと叩き込んでやる!」
居酒屋セットがいい感じにガス抜きになったようで、カレットからはもう緊張は感じられない。
緊張を力に変えられるタイプの人もいるが、ことカレットに限って言えばこいつはリラックスしていた方が実力を本来の実力以上に出せるタイプだ。
試合直前にここまで自然体でいられるなら、もう心配はないだろう。
「カレットはもう大丈夫だな。ただ……相当に激しい魔法の打ち合いになるからな。メイ」
「うん、分かってる。工房を開けるんでしょ?」
「あぁ、準決勝まで来て抱え落ちなんてシャレにならないしな。軍団を呼ぶ事も視野に入れといた方がいい。魔法主体の相手に壁以外にどの程度の効果があるかは分からないが……そこはメイの判断に任せる」
「まっかせて!今まではお荷物だったけど……ようやく活躍出来るね!」
「何言ってんだ、カレット以上にカレットのMP管理出来る奴がお荷物な訳ないだろ。お前だって《カグラ》に欠かせない大切な仲間だよ」
「あ、ありがと……」
俺がそう言うと、メイが顔を赤くして俯いてしまった。真正面から大切な仲間だと言われて、かなり照れているようだ。
メイはどうも戦闘において謙遜し過ぎるきらいがある。
自分は戦闘が苦手であるという強い自覚がそうさせるのだろうが……直接武器を交える事以外が戦闘じゃないという訳でもないだろうに。
まぁ、そこら辺は個人の認識だ。
現状においてメイは最高以上の仕事をしてくれているし、どこかで吹っ切れたのか戦闘に参加出来ていない事を深く気に病んでいる様にも見えない。
それなら大丈夫だろう。
「さて、優勝まであと2つ。まずは『魔導研究会』に勝って決勝に行こうじゃないか」
「「「「「おー!」」」」」
露骨な伏線を張っていくスタイル
今後その場のノリで色々なスキル(複合スキル含む)や称号、武器防具アイテムを増やしていくと思うので何かアイディアがあればお願いします!
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