第117話 『VS『異端と王道』④』
「ルーティが負けましたか……!さすがにこうなると厳しいですね……!」
「はっ!だからって手を抜いたりはしねぇよ!むしろこっからもっとギア上げてくぞ!」
「ッ……!まだ上がるというのですか……!ここまで来るともはや異常ですね!」
トーカとルーティの攻防より視点を僅かにずらした先では、リトゥーシュとリクルスの攻防がより一層過激に行われていた。
リクルスは既に【乱牙】を使用しており、リトゥーシュがそう評したように激しい連撃の一撃一撃が既に必殺の領域にまで高められており、もはや異常と言っても過言ではないだろう。
まぁ、威力とはまた別に時が経つに連れてより一層鋭く速くなっていくリクルスの動きに、それでもなお紙一重で対応し続けるリトゥーシュも十分異常と言えるだろうが。
「ッ!なんですかこの動きは、さっきまでは動きを抑えていましたね……!」
「そうさ、なんで俺が動きを抑えていたと思う?」
そう言ってリクルスは一瞬のためを作ると、残像が見える程の速度で蹴りを入れる。偶然にもそれはトーカがルーティに放った蹴りと体勢だけ言えば酷似していたが、やはりそう見るとリクルスの蹴りの方が数段キレがいい。
しかし、その蹴りをもリトゥーシュは紙一重で回避する。
つま先が神官服にカスってジッ!と音を立てるが、リトゥーシュ自身にはなんのダメージも入っていない。
これまでの猛攻の中でリトゥーシュのHPは半分近く削れてはいるが、全てこのように攻撃がカスった僅かなダメージの蓄積であり、この戦闘中リトゥーシュは1度たりともクリーンヒットを受けていない。
「大方、間違っても私にドドルの蘇生や仲間の支援をさせないためでしょう?」
「なんで当てるんだよ!俺に自慢気に語らせろよ!」
「それはすいませんね。私も人を気遣えるだけの余裕が無いもので」
「そーかい、そーかい!トーカがフリーになった以上もうそんな事気にする理由はねぇからな!【振壊】ッ!」
これは【乱牙】の面白い所なのだが、継続条件さえ満たしていれば使用中に別のアーツを挟む事もできたりする。
当然アーツにも色々あるので全てが全て上手く噛み合うという訳ではないが、それでも【乱牙】で限界まで強化されたアーツというのはシャレにならない威力を孕んでいる。
「ッ……!当たらなければどんな攻撃も無意味なんですよ!」
が、リトゥーシュはリクルスが放った大振りの一撃を、首を傾ける事でまたも紙一重で回避する。耳元で風切り音とは思えない轟音が鳴り響いたはずだが、リトゥーシュは顔色1つ変えずに大振りの一撃を避けられて体勢が崩れているリクルスに向かって1歩踏み込む。
「私だってやられてばかりではないんですよ!」
がら空きになったリクルスの胴体にリトゥーシュの振るう杖が鞭のようにしなってーー正確にはそう見えるほどの速度で叩き込まれた杖はガスッと鈍い音を立ててリクルスの胴体に確かに命中した。
当然リクルスは鎧を装備しているし、そもそもリトゥーシュの杖は自衛用として最低限の使用はともかく、打撃武器としての積極的に使用する事を想定されている作りにはなっていないため、大したダメージは出ないだろう。
それでも、【乱牙】の継続判定を終わらせるに攻撃を当てるだけて十分だ。どんな威力でも攻撃が当たった時点で【乱牙】によるダメージの上昇は消滅する。
「ッ!クソがッ!やりやがったなテメェ!」
攻撃を食らったリクルスが憎々しげに吠える。憎々しげに、忌々しげに、荒々しく、負の感情をむき出しにして、わざとらしく、吠える。
「なぁんてな」
一転、先程までの激情はどこに言ったのかと言いたくなる程の変わり身っぷりで、ふてぶてしく、煽るように頬を釣り上げ嗤う。
「なっ!?」
リクルスのその様子だけでリトゥーシュはなにかに気が付いたようだ。具体的には、リクルスのHPがまるで減っていない事とか、リクルスが胴体に叩き付けられた杖を握りしめいている事とか……【乱牙】の効果が未だに生きている事とかに。
そして、すぐにその理由に思い当たったようだ。
「……!『空蝉』ですか!」
「ったく……嫌になるほど察しがいいな、お前は」
それは『空蝉』というスキルである。『見切り』の派生スキル、その一角である『空蝉』が持つ効果は、『ひとつの戦闘の間に1度だけ、受けるダメージを無効化する事ができる』というもの。
それによって、リクルスはリトゥーシュのカウンターを無効化したのだ。それはつまり攻撃を受けていない事と同義であり、ならば【乱牙】の効果が消失しないのも道理である。
それを咄嗟に思い付き、実行に移し成功できるのは間違いなくリクルスの実力だろう。あるいは、大振りの【振壊】によって生じた隙すらもリクルスの作戦の内だったのかもしれない。
事実がどうなのかは彼にしか分からないが、事実は今は全く関係ない。
今この瞬間で大事な事は、たったひとつ。
リクルスが、未だに【乱牙】の効果が生きている状態で至近距離にいる回避が上手い相手の動きを封じている、ということだけだ。
慌ててリトゥーシュが杖を手放し回避しようとするが……もう遅い。
既にリクルスはその拳を振り抜いていてーー
「アスタ・ラ・ビスタ、ってな。【天討】」
【乱牙】によって限界まで強化された『体術』最強のアーツ【天討】は、リトゥーシュのHPを余さず喰らい尽くした。
◇◇◇◇◇
その後の展開はもう一方的としか言い様が無いものだった。
まずはリトゥーシュが倒されてから程なくして、応援に入ったトーカがリベットと共にリベットと戦っていた騎士と軽戦士を倒した。
そうして1人取り残された『異端と王道』の魔道士が「え!?え!?もうルルちゃん以外誰もいないの!?うっはぁ!えぇい、やけくそじゃい!」と言って水魔法の乱れ打ち(とは言ってもさすがトッププレイヤー、その全てが精確無比に『カグラ』全員に狙いを定めていた)をするも、同等以上の物量の火・風複合魔法によって全て相殺され、全力を出し切った清々しい顔でカレットの魔法に飲み込まれて行った。
こうして、『カグラ』は無事2回戦を切り抜け、準決勝に駒を進めたのだった。
『異端と王道』戦、これにて決着!
リトゥーシュとルーティは使い捨てるには勿体ないキャラなのでそのうち再登場すると思います
ルルちゃんとドドルは……どうでしょう?その時の流れ次第ですね
今後その場のノリで色々なスキル(複合スキル含む)や称号、武器防具アイテムを増やしていくと思うので何かアイディアがあればお願いします!
おかしい所や誤字脱字、誤用などがあったら是非ご指摘お願いします
ブクマしてくれた方や読んでくれてる方本当にありがとうございます!
今後も当作品をよろしくお願いします!