第116話 『VS『異端と王道』③』
遂に来た異端の神官同士の対決!って回です
「「【スマッシュ】ッ!」」
2人の異端の神官が振るう戦棍がぶつかり合い、凄まじい轟音と衝撃を撒き散らす。『棍術』においてもっとも基本であり最低威力のアーツであるにも関わらず、地面はヒビ割れ発生した衝撃波が2人の髪を揺らす。
はて、「戦場で語る口は無し、語るならば武器を持て」とは誰の言葉だったか、2人の間に己を鼓舞する以外の言葉は無く、ただその行動一つ一つにありったけの殺意を込めて戦棍を振るうのみ。
戦棍を振るい、叩き付け殴り付け、剣戟ならぬ棍戟を響かせること1度、2度3度、4度5度6度、7度8度9度10度。
相手の振るう戦棍を時に避け時に弾き時に受け止め、超至近距離で荒れ狂う絶対の破壊力を秘めた戦棍の嵐に、されど2人は臆することなく、それどころか楽しそうにすらして死地にて踊る。
戦況に変化が現れたのは幾度目の棍戟が鳴り響いた頃か。トーカの姿勢が僅かに崩れた隙を狙って、ルーティがアーツを叩き込む。
「【ハイスマッシュ】ッ!」
「ッ……!シャオラァッ!」
だが、そのまま殺られるトーカでは無い。
ルーティの放つ【ハイスマッシュ】を戦棍を横殴りに叩き付ける事で軌道を逸らし弾く。即座に体をひねり、小さな空間で最大限に勢いを付けて戦棍を叩き付けるも、相手の反応も早く防がれてしまう。
「吹っ飛んでください!【コリジョンバック】ッ!」
そして、右足を軸に体を独楽のように回転させる事で後ろに押される勢いをそのまま殴る勢いに変えて横殴りに戦棍を叩き付けてくる。
不安定な姿勢のままどうにかしてルーティの一撃を受け止めるが、勢いを殺しきれずにまるで物凄い力で体が後ろへと引っ張られるような感覚を覚える。
とはいえ【コリジョンバック】はそもそもがノックバック性能の高いアーツだ。そんなアーツを俺と同系統の、つまりは称号などで強化しまくっているルーティのSTRで真正面から食らったらどうなるか……そんなものは、火を見るより明らかだろう。
トーカの体が弾かれたようにーー事実弾き飛ばされたのだがーー吹き飛んで行った。
「ッ……!」
けど……大丈夫だ。
派手に吹き飛びこそしたが、HPは大して減っていない。
吹っ飛ぶ直前に自ら全力で後方に飛んで衝撃を逃がしたのが功を奏したのだろう。漫画などでよく見る技だが、いざやるとなるとこれがなかなか難しい。
そんな技を咄嗟で成功させられたのは、決して偶然ではない。今までの積み重ねだ。
完全に衝撃を逃がすには至らなかったが、これで距離が空いた。
相手のタンクに攻撃した直後から襲いかかられて終始相手のペースだったので仕切り直しができるのはむしろありがたい。
「こういう時に『軽業』とコレはありがたいよな……【チェンジNO.1】【ヒール】」
支援特化の装備に一時的に着替えてから自身に【ヒール】をかけ、削られたHPを回復しながらそのまま空中でくるりと一回転して綺麗に着地する。
僅かでもMPを温存したいこの状態で即座に装備の切り替えができるのはありがたい。
メイの作ってくれた【早着替え】付きのアクセサリー……早着替えのピアスのおかげでこういった場合の装備の切り替えが手早く済んでくれて本当に助かる。今回みたいな普通に装備を入れ替えている余裕が無い場合は特に。
「さて、仕切り直しだ。【チェンジNO.0】」
支援特化の装備から、攻撃特化の装備へと切り替える。
タンクを即座に落とす際にも装備していた、メイ作の新装備へと。
かつては釘バットと特攻服というネタに走った装備だったが、メイの手によってまともに生まれ変わったトーカの新しい相棒達へと。
ふわり、と広がるその白銀に輝くその装備は『白銀ノ衣』。
メイ曰く陰陽師(メイの中で和風の神官と言うと陰陽師だったらしい。最近は和風の物にハマっているのだとか)をイメージした着物風の衣は、白銀に輝く純白を基調としながらも所々を紫紺で彩っており、確かにそれは陰陽師を連想させる装いになっている。
能力は以下の通り。
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『白銀ノ衣』
VIT+100『+61』
MND+100『+61』
『破壊不可』
【喰魂罪滅】
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かの特攻服がメイによって生まれ変わる際に『不壊鉱』という『鍛治Lv.10』……つまり極限まで極めた『鍛治』でなければ加工すらできないという特殊な鉱石が織り込まれており、損耗する事はあっても破壊される事はなくなっている。
更に言うなら特攻服の持っていた強力極まりない極悪スキルである【喰魂罪滅】はしっかりと引き継がれており、予選期間中に最大まで効果を発動させる事に成功している。
と、防具を紹介したのならコイツも紹介しない訳にはいくまい。
古き良き釘バットから生まれ変わった新たな相棒の名は『白銀ノ戦棍』。
うっっっっっすらと赤みを帯びたその戦棍は、かの釘バットをベースに『重鋼鉄棍』と『不壊鉱』を合わせた物であり、そのシャープな見た目に反して物凄く重く、そして硬い。
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『白銀ノ戦棍』
STR+100『+61』
INT+100『+61』
『制限超過』発動時、上昇値を更に+30する
『装備制限(over300)』
『制限超過』
『破壊不可』
【餓血与赦】
製作者【メイ】
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この『装備制限』というのはそのままの意味でこの『白銀ノ戦棍』を装備するにはSTRが最低でも300以上必要という意味だ。
そして、『制限超過』は制限値の倍以上の……つまり最終的に600以上のSTRがある場合は更に上昇値が+30されるという効果だ。
俺には『撲殺神官』があるので600くらいなら余裕で超えている。
そのため、この『白銀ノ戦棍』だけでSTR、INTが共に191も上昇しているのだ。
さすがにぶっ壊れ気味な気もするが、現段階でメイとリーシャしか採掘できない純度100%の聖銀と未だに2種類しか見つかっていない神樹をベースに最高クラスの素材を使って最高の生産職が全身全霊をもって作り上げた渾身の一作だ。
このくらいの効果はあってしかるべきだろう。
ちなみに、俺が着けている『白狐面』も進化を遂げていたりする。
進化して『夢幻の白狐面』となったこの狐面だが、元からあった『認識阻害』と新たに追加された『破壊不可』に加え【幻惑】という能力を持っている。
……のだが、その効果がざっくりと言ってしまえば『MPを消費する事で対象に装備者がイメージした幻覚を見せる』という効果であり、その効果は強過ぎる程に強いものの、その分大量のMPを消費するためこの、試合では使えそうにない。
「……ふぅ」
とんとんっと軽くつま先で地面を叩き、気持ちを切り替える。
先程までは後手に回らざるをえなかったが、1度距離が空いて仕切り直しとなった事で流れは変わった。
深く息を吸い、一気に吐き出す。
その表情は狐面に隠れて見えないが、凶悪な笑みを象っていることだろう。
空気が変わったのを察したのか、踏み込むタイミングを探っていたルーティにも緊張が走る。
トーカとルーティはお互いがお互いの出方を探るようにして無言で睨み合う。火や水が荒れ狂い、剣戟や怒声、歓声が鳴り止まない闘技場において唯一2人の間だけが無言に包まれていた。
「……ハァッ!」
先に動いたのトーカだ。
ジリジリと間合いを図る足の動きに合わせて『縮地』を発動し、一瞬で両者の距離を詰めて殴り掛かる。
「【チェインボム】ッ!」
だが、ルーティの反応も遅れない。
本来なら瀕死の敵にトドメを刺して牽制用の爆弾にするだけのはずの【チェインボム】をある程度の威力を持った攻撃(あるいは防御)手段として扱えるのはルーティとトーカの2人くらいのものだろう。
STRはトーカの方が上とはいえ、さすがにアーツ相手にとただの一撃では分が悪い。
左下から右上にすくい上げるように放った一撃は上から叩き付けるルーティのアーツによってあえなく弾かれ、トーカの振るう白銀ノ戦棍は元来た軌道を逆再生のように引き返していく。
「お前なら防いでくれるって信じてたぜ!【アースクラッシュ】ッ!」
たが、トーカはそれも折り込み済みだだったようで、先程ルーティがやったように体を独楽のように回転させることで弾かれた勢いと遠心力を乗せた一撃を今度は頭上からルーティの頭部狙って叩き付ける。
「っう……!【スマッ、シュ】……ッ!」
なんとか戦棍を滑り込ませる事で直撃は防いだルーティだが、さすがに今回は上手く受け流す余裕はなかった。
HPが半分ほど減少し、受け止めたルーティを起点に地面が勢いよく放射状にひび割れ陥没する。
それ程の威力の一撃をもろに受け、それでもなお膝をつかなかった事は賞賛に値するが……かなり苦しそうだ。
純粋なSTRだけなら格上の相手の、さらに強化された一撃を上から受け止めているのだ、その圧力は想像を絶する事だろう。
というか、よくルーティの戦棍は砕けないものだ。普通これほどの威力の一撃を食らったら粉砕とは言わずとも無視できないダメージが武器にも発生するだろうに……
もしかしたら、俺の持つ白銀ノ戦棍のように『破壊不可』やそれに類する機能がついているのかもしれない。
「っ、くぅ……!【ハイ、ヒー……」
苦しげに歯を食いしばりながら耐えていたルーティが、拮抗し動きが無いこの隙にHPを回復しようと『回復魔法』の【ハイヒール】を唱えようとしている。
既にお互いのアーツは終了していて、今は純粋な力較べだけだったとはいえ、上から押し込まれている形になっているルーティに余裕は微塵もないだろうに……
それでもなお次に備えてHPを回復させようとするその姿勢には感服するばかりだ。
だからと言ってそのまま回復させてやる道理はないが。
「させねぇよ」
ルーティが【ハイヒール】を唱えだした瞬間、白銀ノ戦棍を滑らせるようにして軌道をずらす。
俺が押し込もうとするのと同じく、ルーティは押し返そうと全力で力を込めていた。その状態で、急遽片方が消失したらどうなるか……
当然、こうなる。
「うわぁっ!?」
突如としてかかっていた力が消失した結果、ルーティの戦棍が勢いよく真上に振り切られる。
お互いが全力で押しあっていたのだから片方が力を抜けばこうなるのは必然であり、お互いそれは警戒していたはずだが、ルーティは今まさに【ハイヒール】を使おうとして若干意識が逸れていた。
そのせいでルーティはまるで対応出来ずそのまま、戦棍を振り上げてしまったという事だ。
ただ、俺にも全力で押し込んでいた白銀ノ戦棍の軌道を無理やり逸らしたしっぺ返しは当然来る。
同じようにかかっていた力が突然消えたため、止めることも叶わず戦棍を地面に叩き付けるような形になってしまう。
だが、ルーティとの違いは事前にそれを認識出来ていたかどうかだ。地面方向に振り切られることは避けられないにしても、その向きくらいはどうにかできる。
俺はそのまま地面に叩き付けるのでは無く、自分の胴体よりも後ろ側に振り切られるようにどうにか軌道を逸らしていた。
これによって、本来なら戦棍を地面に叩き付けて前屈みになるはずだった俺の体勢が、胴体を捻りながら後ろへと体を反らすような形になる。
このままだと結局姿勢が崩れて転ぶ……までは行かなくとも立て直す事を余儀なくされるだろう。
しかし、繰り返しにはなるがそれも想定内だ。
そのまま倒れる勢いに逆らわず、流れに乗って勢いを付けた左足をルーティのがら空きの胴体に叩き込む。
「シッ!」
「くうっ!」
当然ルーティの防御が間に合うはずもなく、俺の蹴りをもろに食らった。が、『体術』や『軽業』のおかげで綺麗に決まったとはいえ、アーツでもなんでもないただの蹴りなのでHPはそこまで減らない。
この行動はダメージを与えるためではなく【ハイヒール】によってHPを回復させられることを阻止する事が目的であり、それは白銀ノ戦棍を逸らした時点で達成している。
あくまでこの蹴りはおまけであり、強いて言うなら相手に立て直す隙を与えない事が目的と言える。
「【チェンジNO.2】【チェンジNO.0】ッ!」
さて、蹴りによって後ろ向きの勢いは削がれたとはいえ白銀ノ戦棍を握ったままでは結局後ろに引っ張られて倒れる事は変わらない。
なので、白銀ノ戦棍を手放した上で『早着替え』によって一瞬だけ装備を入れかえる。
この『早着替え』というスキルによる装備の入れ替えは少し特殊であり、発動した瞬間変更前の装備が全て一瞬でインベントリに収納され、インベントリ内の別装備が一瞬で装備されるのだ。
つまり、武器を手放した上で『早着替え』を発動すると、武器の自動回収を行ってくれるという訳だ。
ちょっとした小技のようなものだな。
その小技を使用する事で、身軽になった状態で上手く動きを制御して着地し(当然これにも『軽業』は一役買っている)その後すぐに手放した白銀ノ戦棍が拾うこと無く俺の手の中に戻ってくる。
「楽しかったぜ……!【アースクラッシュ】!」
「ッ……!」
妥協など一切ない、正真正銘全力の一撃を腹を蹴った衝撃で前屈みになっておりちょうど殴りやすい位置に来ていたルーティの頭部に叩き込こんだ。
すると当然、常軌を逸する程の威力を誇る一撃をもろに食らったルーティの頭部がHPと共に消し飛ぶことになる。
リトゥーシュがタンクにやっていたように、事前にかけられていた【リザレクション】が発動するということも無く、HPを空にしたルーティの体が光の粒となって溶け消えた。
こうして、異端の神官同士の戦いは原初の異端の勝利によって幕を閉じたのだった。
今後その場のノリで色々なスキル(複合スキル含む)や称号、武器防具アイテムを増やしていくと思うので何かアイディアがあればお願いします!
おかしい所や誤字脱字、誤用などがあったら是非ご指摘お願いします
ブクマしてくれた方や読んでくれてる方本当にありがとうございます!
今後も当作品をよろしくお願いします!