第113話 『同業者』
『……き、決まったぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!一撃で全てを薙ぎ払い、見事2回戦へと駒を進めたのは……チーム『カグラ』だ!』
「「「「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!!」」」」
本戦に出場する程のチームを、一瞬で消し飛ばしたというとてつもない光景に言葉を失っていた会場だが、一足先に正気に戻ったエボ君が興奮気味にそう言うと、一拍遅れて会場が沸いた。
驚愕と興奮が入り交じった歓声とも咆哮とも取れる観客達の大合唱は、そのまま音の塊となって闘技場そのものを揺らしている……そう錯覚する程の声量だった。
『いやぁ……やってくれたね『カグラ』は!《EBO》史に残る初の公式戦だし、気合い入れて実況しようかと思ってたけど……そんな暇も無かったよ!試合時間は1.26秒……後にも先にもこれ以上に短い試合はないだろうね、まさに空前絶後の速攻だったよ!』
興奮気味にエボ君が捲し立て、観客達の盛り上がりも留まるところを知らない。
そんな熱狂の渦の中心にいるチーム『カグラ』の面々はと言うと……
((((((なにあれヤバい……))))))
内心めっちゃ引いていた。
相手が耐えたり防いだりなどして生き残ったした場合に備えて構えていた4人はおろか、バフを盛ったトーカや、実際に放ったカレットでさえあまりの威力に言葉を失っていた。
「と、とりあえず話は後でしようか……」
なんとかトーカがそう絞り出しチーム『カグラ』は、傍から見れば悠然と、本人達からしたら呆然としながら闘技場を後にした。
◇◇◇◇◇
『決まったぁぁぁッ!複数人による乱打にも耐えて最後まで残っていた重戦士をマシンガンの如く吹き荒れるお餅乱舞が削り切り、『嘘と餅はついたことがない』が2回戦へと駒を進めたぁぁッ!』
一時期は初戦のインパクトが強過ぎてその後の試合の盛り上がりが危ぶまれたりなどもしたか、第2試合の『雪山遭難隊』対『異端と王道』において『異端と王道』の神官が1人で3人をワンパンしてまわり会場を驚かせ、直前の試合が試合と言うにはあまりに一方的な展開だった事もあってより試合らしい展開に会場の興奮は上がる一方だった。
その後も、『魔導研究会』が『常夏の冬休み』相手に相手の得意分野で応戦し完勝を収めたり、『昆布食べても髪生えない』のリーダーが勝利を決める瞬間に「お前らの敗因はただ一つ……髪が生えている事だ!」と真剣な顔で言い切って会場が笑いの渦につつまれたり、『クラウン』がもしかしたら……と掲示板などで噂されていた『コロッケ』相手に圧勝し予選無敗の貫禄を示したりするなど、強力なチームが要所要所で魅せてくれたおかげで会場の興奮は収まるどころかより一層ヒートアップし続けている。
『さぁさぁ!これにて1回戦全ての試合が終了!
2回戦へと駒を進めた8チームはこれだ!』
エボ君がそう言うと、妖精ちゃんがドヤ顔で指をパチンッと鳴らす。
すると、それに合わせるように(事実合わせたのだろうが)どの客席からも見えるように4枚表示されて四角柱を作っている巨大なウィンドウが闘技場上空に表示された。
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【第2回戦】
第1試合
『カグラ』VS『異端と王道』
第2試合
『豆腐屋EBO支店』VS『魔導研究会』
第3試合
『クラウン』VS『ミミランド』
第4試合
『昆布食べても髪生えない』VS『嘘と餅はついたことがない』
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2回戦は対戦相手がランダムにシャッフルされて改めて決め直す……などと言ったこともなく、次の俺達の相手は全く別のプレイスタイルの神官2人を有する『異端と王道』に決まった。
あの前衛神官は俺とバトルスタイルがとても似ていたが……1回戦でタンク含めた3人を一撃で沈めたあの火力からして間違いなく『撲殺神官』などの称号を有していることだろう。
それに、『異端と王道』には前回のイベントで『回復魔法』『付与魔法』共にランキング1位に輝いたリトゥーシュもいる。彼が俺よりも神官として劣るとは思えない。
前衛神官としてならともかく、普通の神官として俺が出来ることは全て、より高レベルで出来ると考えた方がいいだろう。
その上リトゥーシュの防御に徹するタンクや前衛神官を補佐する弓術士や軽戦士もいると来た。
となると当然一筋縄では行かなくなるが……
「あの!」
そんな事を考えながら次の試合に備えて控え室に向かっていると、背後から声をかけられた。
「ん?なんだ?」
振り返ると、そこには純白を基調として所々を青や緑で縁彩った清涼感のある神官服に身を包んだクリーム色の髪をしたショートボブの少女が立っていた。
身長はメイと同じくらいか、より低いようにも思えるが若干緊張した面持ちがより小さく見せているという事もあるのだろう。
この少女は確か、次の対戦相手の……
「わ、私は『異端と王道』のルーティです!」
やっぱり。第2試合は勝者が次の対戦相手になるという事でより一層注視していた上、普段の俺と同じようなバトルスタイルだったから間違いようがなかったが、やはりルーティだったようだ。
「そうか、知っているかもしれないが俺は次に戦う『カグラ』のリーダーのトーカだ。それで……なにか用か?」
彼女の所属する『異端と王道』は次の対戦相手だ。
試合直前になって声をかけてきたという事はなにかあると考えるべきだが……
試合前になにか仕掛けてくるとは思いにくいが、万が一という事がある。ただでさえ理由が読めないこのタイミングでの接触に言葉も少し冷たい物になる。
だが、当のルーティはと言うと、心を落ち着けるように2度3度深呼吸をしてから、興奮を極力抑えようとして、でも失敗して少し漏れてしまっているような、そんな口調で話し始めた。
「その……挨拶を、と思いまして。私、前のイベントで誰も手も足も出なかったボスを単身で圧倒したトーカさんに憧れて前衛神官を始めたんです!」
oh……俺のせいで道を踏み外したプレイヤーが……
いや、別に前衛神官が道を踏み外したプレイスタイルだとは微塵も思ってないんだけどさ。
確かルーティって前イベでは回復も付与もどっちも2位だったはずだからちょっとな……
その言葉を聞いたリベットが遠い目をしているが、あの時を振り返っているのだろう。
あの時はイベントという事もあってテンションが跳ね上がっていたので、今改めて考えるとやり過ぎだろとツッコミたくなるような事を多々やらかしてるんだよな……
「それで、トーカさんと戦えるのを凄く楽しみにしてて……」
「そ、そうなのか……」
「胸を借りるつもりで全力で行かせて貰いますので、今日はよろしくお願いします!」
「あ、あぁ。よろしく」
「っぅ……!はい!ではまた後ほど!」
同業者が増えた事は喜ばしい事ではあるが、本人がそれでいいなら他人がどうこう言うべきでは無いとはいえ、真っ当な神官として有望だった少女を大局から見て異端と言わざるを得ない道に誘ってしまった事に若干の罪悪感を覚えながらの対応になってしまった。
だが、ルーティはそれでも嬉しそうに頷き、たたたっと小気味よいステップで走り去って行った。
「ほートーカにはファンがいたんだな。お前も隅に置けないなぁ、このこの〜」
「他にはいないしそもそもファンって訳でも無いだろ」
「あだっ!」
リクルスがウザったらしく小脇をつついてくるので、頭部に拳を叩き付けてから改めて控え室に向かう。
しかしあの少女……ルーティはイベントの時の俺を見て前衛神官を始めたと言っていた。つまり、今思えばイベント初日から前衛神官としての道を突き進んでいた俺とは違い、まだ前衛神官経験は浅いという訳だ。
それの上でタンクすらも一撃で殴り殺せるだけの火力を備えているとなると……
相当な強敵になりそうだ。
今後その場のノリで色々なスキル(複合スキル含む)や称号、武器防具アイテムを増やしていくと思うので何かアイディアがあればお願いします!
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