第11話 質の違う二種類の殺気
ブクマ1000件、総合PV10000突破!
本当にありがとうございます!
「……覚悟はいいか?」
辺りには何も無いだだっ広い草原でソレは確かな殺気を伴い俺を睨みつけていた。
手にした弓は相当に使い込まれていると見えて尋常ではないオーラを放ち、相対するものに明確な死の恐怖を与えていた。
しかし恐ろしいのはそれだけではない。腰から下げられている一振りの短剣、それからもまた鞘から抜かれてすらいないというのに明確な死の香りが漂い、脳が危険信号を出し続けている。
武器単体ではそこまでの威圧を放つことは無いだろう。しかしそれらと共に長年戦ってきた使い手がそれを持つ事でそれは相手に死を予感させる武器となっていた。
「……ええ」
乾いた喉を鳴らしながらどうにか一言答える。俺が手に持っているのは亀甲棍。大亀のドロップアイテムでリリース初日に手に入る並の武器の性能を軽く上回っているだろう。亀甲棍を握りしめ相対するソレを真正面から見据える。
俺が答えた瞬間、スッとソレが纏う雰囲気が変わる。相手を試すような殺意から、相手を殺そうとする本気の殺意へと切り替わる。
「…………」
ソレはもう何も言わない。ただ手に持った弓に矢を番え引き絞っている。変な動きをした瞬間撃ち抜かれる。それを本能レベルで理解させられた俺は恐らくこの世で1番恐ろしいであろう相手、『娘を守る父親』と言うバケモノを前にしてたった一言、掻き消えるような声で呟く。
「どうしてこうなった……」
◇◇◇◇◇
時は少し遡り、リクルスとカレットの2人と別れた俺はクエスト終了報告をするために道具屋に向かっていた。
道具屋の中には十数人のプレイヤーとカウンターで接客してる店員さん、そしてカノンの姿があり彼女が接客してる列は他の列の2〜3倍の人が並んでいる。そしてたった今会計が終ったプレイヤーがそのままの流れでもう1度カノンの列に並び始めた。何してんだよ。
「あっ!すいませんお会計は隣でお願いします!」
カノンは俺を見つけると今まさに会計しようとしていたプレイヤーに断りを入れてからカウンターから飛び出す。その時会計しようとしていたプレイヤーが絶望した表情になる、と言うより並んでいたプレイヤー全員が同じ表情になっている。何してんだアイツら……
「お兄ちゃん!もう全部見つけたの!?」
カノンが駆け寄って来て聞いてくる。カノンを目で追い俺に気づいた周りのプレイヤーに物凄い形相で睨まれて居心地が悪いが無視だ無視。
「あぁ、しっかり集めてきたよ」
「わぁ!ありがとうお兄ちゃん!じゃぁこっち来て!」
集めた事を伝えるとパァっと顔を輝かせ手を引っ張って来る。ついて行く途中でのプレイヤーの歯軋りの音が道具屋に鳴り響き血走った目で睨みつけてくる。これが殺気か……
殺気を極力無視しながらカノンの案内について行くと道具屋の後ろにある作業部屋に連れていかれた。道具屋の中にある扉を通る時に一瞬の抵抗の後に《ぽーん》と言う軽い音が聞こえてきて通れるようになったので本来は入れない場所の様だ。恐らくクエストを受けてないと通れない仕様なんだろう。
「お兄ちゃん持ってきてくれるの凄い早かったね!」
「あぁ頑張ったからな。それで持ってきたのはどこに置けばいいのかな?」
「わぁ!ありがとう!取ってきたのはここに置いてね!」
カノンが目の前の机を指さすと同時に目の前にウィンドウが出現する。
===============================
綺麗な水(5/5)『聖水 ✓』
上質な薬草(28/5)『世界樹の葉 ✓』
ウサギの角(23/5)『大兎の堅角✓』
亀の苔(8/1)『大亀の万年苔 ✓』
特殊素材(4/4)
===============================
やはり聖水やら何やらはクエスト上特殊な素材だったらしく、ウィンドウの特殊素材の欄にチェックが入っていた。これは集めて無かったらモヤモヤしてたんだろうな。集めて良かった。
「わぁ!これ凄い!」
カノンが俺が出した素材を見て声を上げる。見た目は普通の素材と大きな違いは無いが特殊な素材だと分かるのだろうか?
「違いが分かるのか?」
「うん!お兄ちゃんにお願いしたのはね、前にお父さんに見せてもらったことあるんだけどね、こんなに立派じゃかったんだよ!」
「へぇ、そうなんだ。これは頑張った甲斐があったな」
「うん!これならお父さんの怪我もすぐ治りそう!」
言うや否やカノンが戸棚から醸造台を取り出してきた。道具屋だし醸造台があってもおかしくないだろう。お薬を醸造台で作るのは何もおかしくは無いしね。
「じゃーん!これでお薬を作るんだよ」
「そうなのか、でもどうやって作るんだ?」
「えっとね、こうして……」
カノンが醸造台を少し弄ると目の前にウィンドウが現れる。そのウィンドウにはどの素材をどの様に組み合わせるかや特殊素材を使うかどうかを決める画面が表示されていた。
「うおっ、うーんこれは……どうすればいいんだ?」
「えっとね、お父さんが前に作った時はね、角を粉にして苔と薬草と一緒にゴリゴリしてそれをお水で煮込んでたよ!」
やり方が分からず唸っているとカノンがたどたどしくも教えてくれた。なのでそれに従いまずはウサギの角5本と大兎の堅角を粉状にする。
ウィンドウをタップすると机の上に置かれていた計6本の角が発光し次の瞬間には角は粉末状になっていた。しかもしっかりと薬包紙の上に盛られているという親切設計だ。なんというお手軽仕様。
次は角粉と苔と薬草を混ぜ合わせる。合成と書かれた所をタップすると目の前に大きめのすり鉢とすりこぎ棒が出現する。亀の苔と大亀の万年苔、上質な薬草5本世界樹の葉、それに先程粉末にした角粉を入れて擦り合わせる。
懐かしいなこれ。確か硫化鉄を作る時に瞬がぶちまけて先生にめっちゃ怒られた事があったな……俺の力を見せてやる!とか言って全力で掻き回して撒き散らしたんだっけ……普段温厚な人がキレると怖いってのは本当だな……うぅ、トラウマが蘇る……
「わぁー!お兄ちゃんカノンもこれやりたい!」
「やりたいのか?いいけど間違っても零さないようにな?」
「うん!」
俺がトラウマと戦いながら擦り合わせているとカノンがやりたいと言い出した。なのでカノンと交代し作業が完了するまで零さないように注意を向けながらSPの割り振りをする事にした。
なお、現在のステータスがこれだ。STRが1番高かったりスキルやら称号やらが後衛としてはおかしいがそこは気にしない方針で。
これからは神官としてアイツらのサポートがメインになってくるだろうと思われるのでMPとINTを上げよう。
どうせ回復やバフは俺の仕事になるんだ。アイツらのジョブ構成からもそれが伺える。
===============================
『トーカ』
ジョブ:神官
サブ:狩人
Lv. 12
HP:100/100
MP:150/150
STR:30(+30)
VIT:16(+14)
AGI:20(+20(25-5))
DEX:20(+2)
INT:20
MND:1
LUK:20
SP:80
【パッシブ】
『不意打ち』
『峰打ち』
【スキル】
『棍術Lv.3』 『弓術 Lv.1』
『罠術Lv.2』
『回復魔法Lv.2』『付与魔法Lv.2』
『投擲Lv.2』『見切りLv.2』
『体術Lv.3』『咆哮Lv.2』
『隠密Lv.3』『剣術Lv.1』
『軽業Lv.1』『疾走Lv.1』
『調合Lv.1』
『跳躍Lv.1(装備スキル)』
【称号】
『ウサギの天敵』『外道』
『ジャイアントキリング』
『一撃粉砕』『通り魔』
『飛ばし屋』
【装備】
メイン
『亀甲棍』
サブ
『初心者の短剣』
頭
『なし』
上半身
『見習い狩人の服(上)』
下半身
『見習い狩人の服(下)』
腕
『なし』
足
『兎脚靴』
アクセサリー
『亀のお守り』
『兎のお守り』
『なし』
『なし』
===============================
そして上げたステータスがこれになる。
===============================
『トーカ』
ジョブ:神官
サブ:狩人
Lv. 12
HP:100/100
MP:250/250 up
STR:30(+30)
VIT:16(+14)
AGI:20(+20(25-5))
DEX:30 up(+2)
INT:50 up
MND:11 up
LUK:30 up
SP:0
(以下略)
===============================
MPとINTに20ポイントずつSPを割り振りそれ以外にもちょこちょこと割り振る。このゲームではレベルアップするだけではステータスは上がらない仕様なので忘れないように上げておかないとな。
「お兄ちゃん!ゴリゴリ終わった!」
丁度カノンも作業が終わったみたいなのでメニューを閉じて交代する。
すり鉢の中には濃緑の半個体の物質が半分ほどまで入っていた。次は今作ったこの半個体を綺麗な水と聖水で煮込んで行く作業だ。すり鉢の中の半固体を取り出しそれを醸造台に付いている瓶に入れる。そしてそれに綺麗な水と聖水を注ぎ醸造台で煮込んで行く。時折掻き混ぜたりしながら瓶の上に出現しているゲージが満タンになるまで煮続ける。
カノンと途中で交代しつつ、かれこれ10分は瓶の中身を掻き混ぜていただろう。遂にゲージが満タンになる。すると《ぽーん》と言う軽い音が響き1本の瓶が出現した。煮るのに使ったビーカーの様な形では無くポーションで連想するようなフラスコ型の瓶に変わっているが、そこはもうゲームだからと割り切るしかないだろう。
「お薬出来た!?」
「ちょっと待ってね、今確認するから」
=======================
『最高の治療薬』
必要な特殊素材を全て使用した薬
普通の治療薬とは一線を画す性能を誇る
・条件
特殊素材の使用(4/4)
カノンが手伝う ✓
=======================
「あぁ、大成功だ。カノンが手伝ってくれたからだな」
「本当!?やったー!」
カノンはぴょんぴょんと飛び跳ね本当に嬉しそうにしている。
実際最高の治療薬になるにはカノンに手伝って貰う必要があったのでカノンが喜んでいるようでよかった。父親に取って一番の薬は愛娘の愛情なんだろうな。
「お兄ちゃん!早速お父さんにお薬あげに行こう!」
「そうだな、カノンも手伝ったって知ったら喜ぶぞ」
「うんっ!」
またまたカノンに連れられて移動する。そして着いた部屋には身体中に包帯を巻きベットに横たわっている男性が居た。この人がカノンの父親だろう。
「お父さん!お薬持ってきたよ!」
「なに?材料切らしてたはずだが……」
カノンが駆け寄ると男性は痛みに眉を顰めながら上半身を起き上がらせる。包帯の所々に血が滲み相当な大怪我だと伺える。
「うん、だけどね!このお兄ちゃんが取ってきてくれたの!」
「ほぉ、お前さんが……」
カノンの説明に父親はこちらをじっくりと観察するように見つめてくる。そしてフッと顔を緩めるとお礼を口にする。
「これはすまねぇな、助かったぜ。森で狩りをしてる途中でちょいと怪我しちまってな。薬を作ろうにも材料がねぇって事で困ってたんだ」
「それは大変でしたね」
「おう!」と答えると父親はカノンが差し出した薬を一気に飲み干す。結構量があったと思ったが5回ほど喉を鳴らして飲み干してしまった。
すると突然父親の体が発光しすぐに収まる、見かけ上の変化は無いが果たして……
「これは……」
「ど、どうしました?」
父親は一言呟くとカラになった瓶を見つめて黙りこくってしまった。何があったのかと不安になりながらも尋ねても彼は何も言わずにただ空き瓶を眺めているだけだ。
「え、えっと?」
「この薬……普段使っているのよりも相当効力が強いな。相当いい素材を使った様だが……」
「えぇ、一応」
独り言の様に呟かれた言葉だが一応返事をしていく。すると父親はこちらに視線を向ける。
「お前さん、名前は?」
「あっ、遅くなりました、トーカです」
「そうか。するとトーカ、お前さんは大兎や大亀を狩れるって事か?」
「そうですね、と言っても正面からの真剣勝負ではなく不意打ちや罠を使ってですけどね」
「そりゃそうだ。狩りってのは戦いじゃねぇ、どんな事をしようが狩れば勝ちなんだ」
言うと彼は値踏みするような、あるいは睨みつけてくる様な視線をこちらに向けてくる。気圧され思わず1歩後ずさる。
「むぅ〜!お父さん!お兄ちゃん睨んだらダメでしょ!」
「いっいや別にお父さんは彼を睨んでた訳じゃないんぞ?ただ大亀や大兎を狩れるだけの奴なのかをだな……」
「言い訳はダメっ!」
カノンは父親が俺を睨みつけていると思った様で俺の前に立ち父親にお説教をしている。カノンちゃんいい子だなぁ。
「随分とトーカに懐いてるんだな?」
「お兄ちゃんはね、お父さんが怪我しちゃってお薬も無くて泣いてたらね、お薬の材料を取ってきてくれるって言ってくれて本当に取ってきてくれた、優しいお兄ちゃんなんだよ!」
「そうか、じゃあ彼にお礼をしないとな。カノンはお母さんにお父さんが治ったって伝えてきてくれ」
「分かった!」
「あぁそれと、今夜は怪我が治ったお祝いをしたいからお仕事が早く終わるようにお母さんを手伝ってやってな」
「うん!カノン、お手伝いしてくる!」
父親に言われてカノンは部屋から飛び出していく。それを優しげな瞳で見送った後、彼はこちらに向き直った。
「さて、トーカよ。てめぇ俺の可愛いカノンを随分誑かしてくれたみたいだなぁ、えぇ?」
「はっ!?」
そしてベットから立ち上がり先程の値踏みするような視線ではないガチ睨みを浴びせてきた。あまりの迫力に度肝を抜かれる。
「テメェもあれか?俺の天使を狙ってるのか?あぁ!?」
「なんだこのオッサン怖ぇ!」
「テメェにその資格があるか俺が確かめてやるよ、付いてこい」
「えっ!?ちょっ!?」
彼に手首を捕まれ引きづられていく。どうしよう会話が成立しない。ちょっ!カノンちゃん戻って来てぇぇ!
《条件を満たしたため特殊クエストが発生しました》
==========================
シークレットクエスト《父親の試練》
クリア条件
ルガンに実力を認めさせる
クエストを受けろyes/はい
==========================
「なっ!?なんだこれ!強制かよ!」
「つべこべ言わずに付いてこい!そんな腑抜けで良くもまぁカノンに手を出そうとしたなぁ!?」
「手を出そうとかしてませんけど!?」
「あ゛ぁ゛?それはカノンに魅力がねぇって言いてぇのか!?」
「うわこいつめんどくせぇ!」
面倒臭い父親に無理矢理移動させられ扉を超えるとそこは既に家の中では無かった。それどころか町中ですら無ないどこかの草原だった。
「カノンに手を出そうってんなら俺の屍を超えていけ!」
「だから手を出そうとはしてないって言ってるでしょうが!」
「それはカノンに(ry」
「もうやだコイツ!」
俺の悲痛な叫びは俺と父親の2人しかいない草原では誰の耳にも入ることは無く空に溶けて消えた。
本当はこんなキャラじゃ無かったのに……なんでこうなったんだ……お父さん……
今後その場のノリで色々なスキル(複合スキル含む)や称号、武器防具アイテムを増やしていくと思うので何かアイディアがあればお願いします!
おかしい所や誤字脱字、誤用などがあったら是非ご指摘お願いします
ブクマしてくれた方や読んでくれてる方本当にありがとうございます!
今後も当作品をよろしくお願いします!