第107話 『チーム』
友達の友達ってどういう距離感で接せればいいか微妙に分かりづらいですよね
作者はその状態で共通の友人がドタキャンして友達の友達だけと遊んだ事があります
パーティメンバーが決まった翌日の夜。
予定通り『群狼』に挑むために6人の男女が荒野に集まった。
そして……早速気まずい雰囲気が流れていた。
集めた側である俺からすればここにいる全員は顔見知りなのだが、リクルスとカレットとメイとリーシャがリベットと初対面なのと同じように、リベットにとってもこの場にいる俺以外はみんな初対面なのだ。
4人から見れば知らない人が1人いるだけだが、リベットから見れば知らない人が4人もいるのだ。リベットの方がその点では気まずさは上なのだろう。
メイは人見知りを発揮してリーシャのそばでわたわたしているし、リベットも知らない人間が大多数というこの空間に少し緊張しているようで、他の3人もそんな空気に飲まれてしまっている。
自己紹介こそ済ませたものの、それ以上会話が生まれることはなく、両者とも相手の様子を伺っている様子で事態は膠着している。
「すまん。やっぱ気まずいよな」
とりあえず、この場で唯一の知り合いである俺が代表してリベットに声をかける。
「あ、いや……あー。まぁな。ただ、よく考えなくてもトーカに誘われた以上そこにトーカの知り合いがいるのは普通なんだけどさ、やっぱどうしても初対面の人が多い所って緊張しちまうなってだけで、別に何が悪いって訳じゃないから」
「そう言って貰えると助かる」
とは言ったものの、やはりまだお互いの緊張は解けない。
さて、どうしたものか……
「ダメだ!このままじゃ埒が明かん!とりあえず『群狼』に挑もうではないか!」
空気に耐えきれなくなったのかカレットが突然そんな事を言い出した。勢いに多少面食らったが、考えてみれば的外れな事を言っている訳でもなさそうだ。
お互いに専門は違えど同じ《EBO》のプレイヤー。この場で変に会話で距離を詰めようとするよりも、1度同じ戦場で戦った方が分かり合える事もあるだろう。
「確かにカレットが言うことにも一理あるな。このままうだうだしてても気まずいままだし、気分転換も兼ねて挑んでみるのもありか」
4人にその旨を伝えると、渡りに船とばかりに了承してくれた。
というかその時にカレットもその案に助かったという風な表情をしていたのだが……もしかしてただ気まずくて先に目的を達成させようとしてただけだったのか?
「一応このチームにおけるお互いのポジションの再確認だ。リクルスとリベットが前衛で敵を引き付けつつ交戦。カレットとリーシャは後衛から前衛の援護も視野に入れつつ敵の殲滅。俺は……支援や回復もする必要があるから前衛組よりは一歩下がって適宜場所を切り替えていく。メイは……事前の説明通りなら長期戦向けだから今回はとりあえず後衛組のそばで2人のサポート。これで大丈夫か?」
「おうともよ!」
「もちろんだ!」
リクルスとカレットの元気いい声に続いて他3人も異論は無さそうだ。今回戦う『群狼』は10体の取り巻き狼を連れているため、多対多の動きの確認にもなるだろう。
「じゃあ、行くぞ」
各々のポジションの確認を終えると、トーカがフィールドボス戦を開始するか尋ねるウィンドウのYESを躊躇い無く押す。
そして、トーカ達にとっては2度目、リベット達にとっては初めての『群狼』戦が幕を開けた。
◇◇◇◇◇◇
「ほらほら、無視できるもんならしてみなさいよ!【クライショット】!」
リーシャの放つ甲高い音を響かせる矢に、『群狼』の視線が吸い寄せられる。さすがに今現在敵と戦っている個体は矢を見ることはないが、それでも多少は意識を引っ張られてしまう。
「隙だらけだせぇ!【斬脚】ッ!」
「ハァッ!【トライピアー】ッ!」
そして、当然そんな隙を前衛組の2人が見逃すはずもなく、一瞬あるかないかの意識の空白を縫って的確に攻撃を叩き込む。
リクルスの刃と遜色ない程に鋭い蹴りに取り巻きの一体は首を跳ね飛ばされ、リベットの放つ一瞬の内にどころかまるで三つ又の槍で突いたような洗練された鋭い三段突きが別の取り巻きのHPを余さず削り飛ばした。
「まとめて焼き尽くす!【焔堕】!」
また、視線を少しずらせば、そこでは【クライショット】に意識を取られた取り巻きの内、いい感じに固まっていた3匹目掛けてカレットが大量の【ファイアボール】を【ファイアストーム】で作った球体の中に閉じ込めて作り出したひとつの巨大の炎の塊を相手の頭上から落とすという、『魔法合成』で作り出したシンプルに強力なオリジナル魔法をぶち込こんでいた。
運悪く【焔堕】の餌食となった3匹の取り巻きは一瞬の抵抗すら許されず、残光すら炎の生み出す明かりに覆い隠されて、文字通り塵も残さず焼き尽くされる事になった。
「自分に乗らない上にパーティ内で同時発動不可とかもう完全に指揮官向けだよなぁ!『鼓舞』ってさぁ!」
落ちてきた炎の塊をバックにそう慟哭するトーカは、しかしそれ以上の強化がいるのか?と言いたくなるほどの威力で取り巻きよりも一回りどころか二回り三回りも大きい巨躯を持つ、『群狼』 主、真のフィールドボスである《ウルフ・リーダー》……通称『長狼』の一撃を弾き返していた。
トーカがその火力を活かして大物の動きを封じ、リーシャが安全圏から取り巻きの隙を作り、カレットが文字通りの大火力で取り巻きをまとめて焼き尽くし、リクルスとリベットは零れた取り巻きを堅実に確実に仕留める。
それは、事前にトーカがかけたバフと自分以外のパーティメンバーの全ステータスを上昇させる『鼓舞』というスキルによる大幅な強化があるとはいえ、第3エリアへの番人、あるいはトッププレイヤーの選定者である『群狼』相手にあまりにも一方的な展開である。
それこそ、大人数での長期戦でこそ本領を発揮するメイの出る幕がないほどにその戦いはただただ一方的な蹂躙であった。
元々、1発1発の威力は低いが相手に反撃の隙を与えない連撃で仕留めるリクルスと、逆に連発こそ出来ないものの超絶火力で一撃で焼き尽くすカレットの2人はどちらかと言うと大勢の敵を相手にするよりも一体の強敵を相手にする方が向いている。
その間に火力と連撃のどちらもこなせるトーカが入る事で大勢の敵相手でも優位に戦えてはいたが、トーカもどちらかと言えば一体の強敵と戦う方を得意としている。
故に、リベットやリーシャと言う新たな戦力が加わり、一人一人がより自由に動けるようになった事で3人の行動の幅が広がったのだ。
その結果、火力と連撃のどちらもこなせるトーカが大物を相手取り、その隙に残りのメンバーで取り巻きを掃討することが出来た。
本来なら1人でボスを抑えることなど到底できないため、ボスを先に倒そうとすれば取り巻きが、取り巻きを先に倒そうとすればボスが邪魔になっていたが、その問題が完全に解消されてている。
それがこの一方的な蹂躙の最大の要因であった。
そして、ついに彼女が動く。
「準備完了!取り巻きは僕に任せて!」
メイは『群狼』戦前に自身の事を「僕の強みはいなくなっても戦力が減らない事」だと評した。しかし、それはイコール「いても戦力にならない」では無い。
メイ本人は確かにトップクラスのプレイヤーやモンスターを相手取れる程は強くないが、それはあくまでメイ本人の話である。
そして、メイの武器とは、メイの強さとは自身の強さのことではなく、メイの力とは自身が生み出す物であり、自身が生み出す物の強さである。
そして、それはトップクラスのプレイヤーやモンスターにも引けを取らない程の力である。
事実、メイを除く5人が『長狼』を倒す間に(当然今回の目的はチームの動きの確認なので、トーカの馬鹿力で無理やり叩き潰したりはしていない)メイは生き残った取り巻き5匹を1人で抑え、それどころか倒し切ってしまったのだから。
とはいえ、そんな訳でもメイとリーシャ、リベットの3人も【ララララ】に辿り着く事ができ、無事この6人で第2回イベントのパーティ部門に参加登録する事が出来たのだった。
次回からは予選になります
とはいえそこまで長々とやる予定は無いので2話くらいで予選回は終わると思いますが
今後その場のノリで色々なスキル(複合スキル含む)や称号、武器防具アイテムを増やしていくと思うので何かアイディアがあればお願いします!
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