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閑話 『死活問題』

予告通り閑話でござい


これは、クソ不味いポーション問題をどうにかしようとした2人の挑戦者の物語である


 

「トーカ、ちょっと助けてもらっていいかな?」


 メイにそう声をかけられたのは、新装備をまともな見た目に『改造』して貰ってから1週間程たった頃だった。


「あぁ、もちろんいいぞ。素材集めか?」


 メイは《EBO》トップクラスどころか最高と言っても過言ではないレベルの生産職であり、その代償として戦闘面を全て切り捨てているという『Endless(エンドレス) Battle(バトル)』……終わりのない戦いの名を冠するこの世界に置いて最も異質と言えるだろう存在である。


 そんなメイ故に、入手に戦闘が必須な素材……主にモンスターのドロップアイテムなどは他のプレイヤーに依頼することが常なのだ。そして、そういった事は主にリーシャやトーカ達に依頼されるのだが、たまに別のプレイヤーに依頼することもあったりする。


 その中でもトーカはその異常な攻撃力を見込まれて高防御力高HPのモンスターのドロップアイテムの収集を依頼される事が多いのだ。


 なので今回もその手の話なのだろうと思ったのだが……


「えっとね、今日は素材集め(それ)じゃないんだ」

「違うのか?メイには新装備(これ)をまともな見た目に『改造』して貰った恩があるから極力力にはなりたいが……素材集め以外で俺に力になれる事はあんま無いと思うぞ?」


 正確にはメイの採集時の護衛などもあるが、そういった単なる護衛の場合は余程の事が無い限りはリーシャが担当しているので今回に限ってトーカを名指しで指名する必要は無いはずだ。


「今回は前々からやってみたい事があって、その目処がついたんだけどボクだけじゃどうにも出来ないっぽくて」

「生産関連でメイにも手が出せないって……相当な事だぞ?俺なんかで力になれるのか?」

「もちろん!トーカって確か『料理』スキル持ってたよね?」


 超生産特化型であるメイですら手が出せない案件と聞いて自分なんかが力になれるのかと不安になっていたトーカだが、メイは力強く首肯すると、そんな事を聞いてくる。


「あぁ、『料理』スキルなら一応持ってるぞ。余った食材系アイテムの消費も兼ねて色々作ってるから割とレベルは高いはずだ。それがどうかしたのか?」

「その『料理』の力を借りたくてね。生産仲間(知り合い)で生産に直接影響のない『料理』を持ってる人がボクも含めて全く居なくてね。ましてやその『料理』を高レベルまで育ててる人となればなおさら」

「あーまぁそうだな」


 メイの言うように『料理』というスキルは今現在《EBO》に置いて存在価値のよく分からないスキルとなっている。というのも《EBO》ではプレイヤーが食事を作ることも食べる事も出来るのだが、それによって何かメリットがある訳では無いのだ。

 掲示板などではそのうちアップデートで『料理』に何か存在意義を与える機能が追加されるのでは?と言う話もあるようだが、今のところそのような気配はないらしい。


 他のゲームでは割とよくある空腹ゲージやら料理によるバフなども存在せず、《EBO》における食事とは完全にただの娯楽になってしまっている。

 どれだけ食べてもお腹が膨れないという理由で食べまくっていたり、個人的に料理が好きでスキルを育ててるプレイヤーもいるにはいるが、それはごく少数なのだ。


 そして、生産職のプレイヤーはただでさえその手のスキルを育てるのには数をこなすしかないというのに、その上なんの利益もない『料理』に時間を割く余裕はないのだろう。

 それは当然戦闘職のプレイヤーにも言える事なのだが。


 それ故に《EBO》において『料理』スキル持ちのプレイヤーは希少なのだ。まぁ希少だから需要があるのかと聞かれれば決してそうとは言えないが。


「『料理』が必要なのは分かったが……何に使うんだ?メイが持ってないって事は武具の作成には必要じゃないんだろ?」

「うん。今回は武具関連じゃ無くて……リーシャとカレットからのリクエストなんだけどね」


 そう前置きをしてからメイが教えてくれた内容は、実に単純で……それ故に切実な問題だった。

 すなわち……「ポーションが不味いからどうにかして欲しい」というものだ。その気持ちは同じくMPポーションにお世話になる身としてよく分かる。


「最初は『錬金術』でポーションを作る時に果実系を足してみたんだけどね。効果が中途半端になるだけで味に変化は無かったんだよね。それからもどれだけ試行錯誤しても上手くいかなくて……」


 そこで『料理』持ちの俺に声がかかったとなると……あぁだいたい予想がつくな。


「どう足掻いても『錬金術』……というか生産系のスキルじゃダメっぽくてね。行き詰まってる時にカレットからトーカがリンゴサイダーを作ってたって話を聞いて」

「あーそれで『料理』でならポーションに味を付けられないかって考えた訳か」

「そうそう。それで……協力してもらってもいいかな?ポーション自体は当然ボクが用意するから、トーカは『料理』スキルを使ってそれに味付け出来ないか試して欲しいんだ。いいかな?」

「あぁ、もちろん協力させてもらうぞ」


 ポーションの不味さは魔法職としては頭を悩ませている問題だからな、それが改善されるかも知れないってんなら協力は惜しまない。

 それだけ魔法職にとってMPポーションの味の問題は大きいのだ。死活問題と言っても過言ではない。


「それで、場所はどうするんだ?俺が『料理』する時は大抵泣鹿亭でやらせてもらってるが……ポーションの味付けなんて未知の領域だからな。手探りで進めることになるだろうし他所の台所を借りるのは避けたいんだが……」

「それについては心配ないよ。ボクの個人所有の工房があるからね。この問題に取り掛かるにあたってもちろんキッチンも作ったよ」


 わぁお……メイ今さらっとキッチンを作ったって言ったぞ。

 さすが生産道のトップを走る職人だな……やる事の規模が違う。


「あぁ、場所が確保出来てるならよかった。どうする?このあとすぐ取り掛かるか?」

「トーカが大丈夫ならお願いしたいけど……」

「よっし、なら早速取り掛かるとするか」


 ◇◇◇◇◇◇


 メイが作ったと言うキッチンは流石としか言い様のない出来だった。ゲーム故に幾分か簡略化されている『料理』ではあるが、それ以上に快適で使いやすい、文句無しで100点満点のキッチンだ。

 今度からゲーム内で『料理』をする時はここを借りたいと思えるくらいの素晴らしい設備がそこにはあった。


 そんな素晴らしい設備に感動しながら取り掛かった味付きポーションの試作品1号は比較的直ぐに出来上がった。

 というのも、MPポーションその物を素材として果実と組み合わせるだけだったのでそこまで時間のかかるものでもないのだ。

 これで解決してくれればいいが……


「…………うん。なんだ。確かに味はついたな」

「…………そうだね。味は(・・)付いたね」


 味付きMPポーションの試作品1号。確かに味は付いた。試作にあたって使用した【ウクスタ】で購入できるナシの味が確かに付いた。

 だが……


「失敗……だな」

「そう、だね」


 さすがに言われなければ気付かない程度にほんのりナシ風味になっただけな上にポーションとしての効果が激減しては成功とは言えないだろう。


「シンプルにあとから果汁を加えるんじゃ無理があったか」

「でもやっぱり『料理』で味付けするアプローチは間違ってなかったね。『錬金術』じゃたとえ薄らとでも味が付くことなんてなかったし!」


 捉えようによっては無理のある励ましに聞こえるが、メイがそんな意図で言っている訳では無い事はよく分かる。今までとことんダメだったポーションの改良に成功の兆しが見えたのだ。嬉しくないはずがない。


「さて、下手な鉄砲かずうちゃ当たるじゃないが……手探りなんだ、思い付くこと片っ端から試してこう」

「だね!」


 …………そう決意を固めて作ること数時間。試作品124号が失敗に終わった所で張り詰めていた気力が途切れてしまった。


「うっへぇ……出来る気しねぇ……」

「試作品1号よりは良くなったとはいえこれじゃぁね……」


 細かい調整などで124通り試して今のところ出来たパターンは以下の4種類。


 完全なジュースになりポーションとしての機能が失われる。

 ほんのり味が付きつつ効果が激減する。

 味が全く付かずただのポーションになる。

 ただの水になる。


 さすがにただの水になった時はショックが大きかった。そして、今出来たばかりの試作品124号もただの水になってしまっている。


「うーん。色々試行錯誤した結果ジュースとしては普通のより美味しいのが作れるようになったんだが……」

「ボクもより質のいいポーションが作れるようになったよ……」


 トーカとメイは形だけの笑い声を上げながらガックリと肩を落とす。現状、試作品を作りに作った結果2人は本来の目的からはそれてジュース作りに、ポーション作りの腕だけがメキメキと伸びて行っている状況に陥っている。


「うーん。試作もいいが生み出された試作品達はどうしようか……作った以上死蔵はしたくないが……ってあれ?」


 メイが気晴らしに作ったテーブル(即席で作ったとは思えないほど高品質)にべたーんと身を預けながらインベントリに仕舞われた無数の味付けポーションもどき達を流し見しているトーカだが、何かに気が付いたようにガバッと身を起こす。


「……?どうしたの?」


 同じく疲れ果てたようにべたーんとしていたメイもつられて起き上がるが、その動きはトーカと比べて緩慢だ。

 何かに気付いたトーカと違いメイは未だグロッキー状態なのだろう。


「いや、ちょっとこれと……これを比べてみてくれ」


 そう言ってトーカがメイの前に置いたのは2本のビン。

 中身はどちらも透明無色の液体だが……


「これがどうかしたの……?ってあれ?これって何が違うの……?」


 トーカに言われた通りにオブジェクトをタップしウィンドウを開き、2つの液体を見比べたメイの顔に困惑の表情が浮かぶ。

 なぜなら、そのふたつは見た目も味も原料も全く同じはずなのにウィンドウに表示された名前が違ったのだ。


 ===================================

 『無色のジュース《リンゴ》』


 無色透明のリンゴジュース

 見た目はただの水だがリンゴジュースである


 製作者【トーカ】

 ===================================


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 『味付き水 《リンゴ》』


 リンゴの味が付いた水


 製作者【トーカ】

 ===================================


 片やジュース、片や水。

 どちらも言ってしまえば無色透明のリンゴ味の液体だと言うのに、なぜ表記が分かれるのか……

 それぞれどう作ったのか思い起こしながらトーカが呟く。


「水表記の方はポーションに果実を絞った果汁を混ぜて煮詰めた物を濾した物でジュース表記の方はすりおろした果実をポーションに漬けて煮詰めた物を濾した物なんだが……果汁かすりおろしかの違いで表記がブレたのか?」

「んっんっん!これはボクの生産者としての勘がここに突破口があると訴えているよ!」

「あぁ!俺の料理人としての勘もそう言ってるぞ!」

「「光明が見えた!」」


 試作に次ぐ試作で疲れ切った脳の2人はいつにない変なテンションであれこれ仮説を立てていく。なぜ水とジュースで表記がブレるのか、ポーションの部分が水でも同じ結果になるのか、水とジュースの表記以外の違いはあるのか……などなど、様々な事を手当たり次第に調べていく。


 その結果、味付き水も無色のジュースもポーション部分を水に置き換えても作れる事が判明し、そのふたつは全果実で作成出来ることも分かった。このふたつに味の違いが無いことも、どう作れば味付き水でどう作れば無色のジュースなのかもはっきりとした。


「さて、ここまではいいとして……迷走してるよなこれ」

「だね……いつの間にか味付けポーションを作ろうから無色のジュースと味付き水の違いを検証しように変わってたね」


 一通り検証が済んだ所で2人は正気に戻る。

 疲れた状態でマンネリ化していた状況に変化があったためテンションが上がっていたが、良く考えれば問題は全くと言っていいほど前進していない。


 どうしたものかと頭を悩ませるが……


「そう言えばメイ」

「ん?なぁに?」

「ポーションの材料ってMPかHPかで細かいところは変わるけど基本は数種類の薬草と水だよな?水はどっちも使うよな?」


 トーカは味付き水をじーっと眺め、何かを考えながら、あるいは何か思い付いたようにメイに語りかける。


「そうだね。HPポーションなら癒草、MPポーションなら猛草をメインにポーションのランク次第だけど補助として効果補助の薬草数種と……水、だね。薬草はHPかMPかで変わるけど水は絶対どっちも使うね。水が無いとペースト状の薬草団子が出来ちゃうから……あっ!」


 自分で言ってメイも何かに気が付いたらしい。

 もしかして……と呟きながら同じように味付き水を凝視している。


「もしかしてだけどさ。ジュースと水の違いってソレなのかな」

「分からないけど……試してみる価値はあるよね」

「「………………(コクリ)」」


 2人は見つめあって静かに頷くと、メイはトーカから味付き水と無色のジュースを受け取り醸造台に向かう。

 そして、味付き水と無色のジュース、それぞれでポーション作成時の水の部分を置き換えてポーションを作り始める。


 無言で作業を続けて2分程たったタイミングで2本の液体が入ったビンを手にメイが醸造台から移動し、2本のビンをテーブルの上に静かに置いた。


「……一応、それらしいのは出来たよ」

「……だな」


 液体の色はどちらも毒々しい紫色。これはMPポーションと同じ色で、今回はMPポーションと同じ材料を使っているので当然といえば当然である。


「まずはジュースの方」


 ===================================

「MPポーション風ジュース」


 見た目は完全にMPポーションだが中身はただのジュース

 薬草とジュースの味が喧嘩をしており非常に不味い


 製作者【メイ】

 ===================================


「…………うん。イタズラ以外に何に使うんだろうね」

「敵プレイヤーへの嫌がらせじゃないか?」

「PvPイベントが待たれるね。引っかかる人がいるとは思えないけど」

「同感だ。それよりも……2本目行くぞ」


 ===================================

『味付きMPポーション』


 リンゴの味がするMPポーション

 飲むとMPを中回復する


 製作者【メイ】

 ===================================


「「………………!」」


 2人は驚きに目を見開き、再びその文字を1字1句見逃さぬと凝視する。そして、視線が何往復かした後に2人は顔を上げ静かに見つめ合い……


「「やっっっったぁぁぁぁぁ!」」


 お互い抱き合って歓声を上げた。

 神経をすり減らしてきた苦労が報われたのである。喜びに打ち震え、歓喜の声を上げてお互いを讃え合うくらいのことは許されるだろう。


 そのまましばらくの間歓声を上げて完成を祝っていた2人だが、手放しで喜ぶ訳には行かない。1本作れただけではダメなのだ。再現できなくては。


 しかし、手順さえ分かっていればそこは《EBO》最高峰の生産者であるメイが失敗する訳もない。完璧に同じ手順をなぞり、2本目の味付きMPポーション、そして味付きHPポーションを作成するのにそう時間はかからなかった。


 味付き水を作り、それを使用してポーションを作るという方法でポーションに味が付けられ、なおかつ品質が劣化しない事が確認された。


 今この瞬間、多くの魔法職の頭を悩ませてきたMPポーションの味問題がひっそりと解決したのであった。


という訳でポーションに味を付けようというお話でした。本来ならポーションに後付けで『料理』スキルでちょちょいのちょい……って予定だったんですが書いてるうちにこんなになりました

本編の方は大まかなプロットは出来上がったので執筆を開始しました。


生まれ変わった新装備の詳細は本編で出すのでお待ちを


今後その場のノリで色々なスキル(複合スキル含む)や称号、武器防具アイテムを増やしていくと思うので何かアイディアがあればお願いします!


おかしい所や誤字脱字、誤用などがあったら是非ご指摘お願いします


ブクマしてくれた方や読んでくれてる方本当にありがとうございます!


今後も当作品をよろしくお願いします!

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