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第101話 『異端のための異端』

やっべぇ予約投稿ミスってた……

 

 死者すら殺す矢の雨が降り止み、辺りは静寂に包まれた。


 散乱する矢だまりの中に死霊鉱夫長の身に着けていた外套のようなものを見つけ、リーシャは汗を拭う仕草をする。

 本来ならVR空間であるこの《EBO》の中では汗などかくはずもないが、気分的な事もあるのだろう。一仕事終えたとばかりに満足気な顔で大きく息を吐き出した。


「ふぅ。これにて一件落着……」


『と、イう訳ニハ行カぬ』


 そんなリーシャの頭蓋目がけて巨大なツルハシを振り下ろすのは、“死霊祓いの矢”の雨に打たれて死んだはずの死霊鉱夫長。

 いや、そもそも矢の雨に打たれて死んでなどいなかったのだろう。

 その身に数本の矢が突き刺さっているとはいえHPもまだ8割以上残っている。

 矢の雨が降り注ぐ直前に外套を盾にして身を守りつつその場を飛び退き、完全とは行かないまでもある程度の回避には成功していたのだ。


「知ってる」


 それに対するリーシャの反応も早かった。

 本来は矢を放つためだけの道具であるはずの弓で死霊鉱夫長のツルハシを受け止めたかと思うと、見事に軌道を逸らしてみせる。


『ふン!小癪ナ!』


 しかし死霊鉱夫長も負けてはいない。軌道を逸らされ、地面に叩き付けさせられたツルハシを、腕力にものを言わせて無理やり振り上げるようにしてリーシャに叩き込む。


「うっは、あそこから即反撃とかヤバッ」


 リーシャは死霊鉱夫長の反撃を『縮地』で移動する事で紙一重で回避する。

 一瞬前まで自分の頭部があった場所をブォンッ!と音を立てながら通過するツルハシに冷や汗をかきながら死霊鉱夫長を見据え、弓を構え直す。


『逃ガサぬッ!』


 武器の持ち直しという隙を晒したリーシャに、死霊鉱夫長がこれは好機とリーシャに向かって飛びかかる。

 しかし、ツルハシを振り上げるタイミングでほんの一瞬視線がブレた瞬間にリーシャの姿が掻き消える。


『ッ……!?小娘!どコヘ消エタ!?』


「ここよ」


 狼狽え声を張り上げる死霊鉱夫長の真後ろから見失ったはずの敵の声が聞こえてくる。

 死霊鉱夫長が咄嗟に振り向くと、そこには1本の矢を握りしめ、それを自らの首筋につき立てようとしているリーシャの姿があった。


『不意打チデ相手に声をかケるトハ愚カッ!』


 弓を生業にする者でありながら遠距離攻撃という理を捨て、それだけに飽き足らず不意打ちの機会すらも投げ捨てるような愚行に死霊鉱夫長はいっそ呆れすら抱きながら、それでも掻き消せぬ憎悪を込めて、今まさに握りしめた矢を振り下ろそうとしているリーシャの土手っ腹を蹴り飛ばすと追撃のためにツルハシを握りしめた。


 一方、死霊鉱夫長のカウンターをモロに喰らったリーシャはと言うと、ものすごい勢いで吹き飛ばされ、壁に激突し地面に叩きつけられていた。


 元々SPを防御関連に全く振っていない上に機動性重視でお世辞にも防御に向いているとは言い難い防具を付けているリーシャがボスクラスモンスターの一撃をモロに喰らえばどうなるのか……


 それは火を見るより明らかだろう。


「つつ……うっへぇ、1発で赤くなってるよ……」


 危険域を示す赤く染ったHPバーと壁にぶつかった時かはたまた地面に叩きつけられた時かは分からないが曲がっては行けない方向にねじ曲がった左腕を横目に今にも突っ込んでこようとしている死霊鉱夫長を見据え、満身創痍と言った風体のリーシャはそれでも勝ち誇ったように笑みを作り、小さく呟いた。


「……かかった」


『何を言ッテ……ヴあ゛ッ!?』


 リーシャの呟き声に一瞬動きを止めた死霊鉱夫長の肩に1本の矢が突き刺さった。


 何が起こった?そう考える暇もなく2本目が左足の甲に突き刺さる。反射的に上を見上げた死霊鉱夫長の右眼に3本目の矢が深々と突き刺さったのを皮切りに無数の矢が死霊鉱夫長目がけて降り注いだ。


『う……グァ、がァぁぁァッ!』


 完全に逃げ遅れた死霊鉱夫長に出来ることはもはやツルハシを上に構え、ほんの少しでも自身の体に突き刺さる矢を減らすために縮こまる事だけだった。


 そんな死霊鉱夫長をリーシャは罠にかかった獲物を見る目でーー実際そうなのだがーー冷ややかに見つめ、崩れ落ちそうになる体に鞭打って立ち上がる。


「『同時射撃』っていう『弓術』の派生スキルがあってね。通常分に加えてスキルレベルと同じ本数だけ追加で同時に射る事が出来るようになるんだけど……そのスキルを併用すればアーツの効果も全ての矢に適応されるという優れものなのよ」


 そこまで言ってリーシャはインベントリからメイ特製のHPポーションを取り出し、「っう……この舌やけどした時のチョコみたいな無味のドロッとした感覚どうにかならないかな……」等と呟きながらもHPポーションを喉に流し込む。


「ふぅ、今私の『同時射撃』のレベルが3、『弓術』のレベルが10で今使った【レインショット】は『弓術』のスキルレベル×2発だから……」


 にぃ……とう……しぃ……とわざとらしく指をおりながら数を数え、にっこりとそれはそれはわざとらしく満面の笑みを浮かべる。


「計80本の“死霊祓いの矢”による矢の雨地獄、死霊のあなたに耐えられるなら耐えてみなさい」


『ヴぐぅ……ぁあ゛ァァぁぁ゛ァァ゛、ぁぁッ……』


 死霊である死霊鉱夫長が死霊特攻の80連撃に耐えられるはずもなく、だんだんとか細くなる慟哭もついに掻き消え、死霊鉱夫長はその身を光に変えた。


「『同時射撃』と【レインショット】のコンボはやっぱり凶悪ね……【レインショット】よりも本数の多い【スコールショット】でやったらどうなるのか……想像するだけでも怖……い、わ……?」


 一対多という絶望的な状況を乗り切り、決め手となった凶悪コンボについてひとりごちているリーシャの目の前で本来ならそのまま空に溶けて消えるはずの光が不可解な挙動を始めた。


 天に昇るように浮き上がっていた光の粒達が上昇を止めたかと思うと、ブルブルと震えてまるで逆再生のように集まり始めたではないか。


「はぁっ!?どういうこと!?」


 そのまま寄り集まった光の粒達はだんだんと人の姿を形作り、数秒ほどで倒したはずの死霊鉱夫長が再びこの場所に出現した。


『我ハ死なズ!我等ガ秘境は貴様等なゾに……』


 “決して渡さぬ”……と、死の淵より蘇りし死霊鉱夫長が高らかにそう宣言しようとしたその瞬間。

 しゅるりと死霊鉱夫長の首に糸が添えられ……


「往生際が悪いわよ。一度死んだならとっとと死になさい」


『ヴぐゥッ!?』


 ぽんっと、いっそコミカルな程に簡単に死霊鉱夫長の首が跳ね飛ばされた。

 驚きつつも『縮地』を使って背面に回り込んだリーシャが死霊鉱夫長の首に引っ掛けた弓の弦を思いっ切り引いた事で、近接戦闘にも耐えられるように作られた特殊な弓の弦はまるで鋭利な刃物のようにその首を跳ね飛ばしたのだ。


『愚か!我は死霊なリ!その様ナ攻撃で死ヌナど……』


 ありえぬ……と言葉を続けようとしたのだろう。死霊鉱夫長が頭部だけになった姿で口を開こうとして……その身が光に変わり行く姿を目の当たりにしてしまった。

 魔法攻撃でも小娘が使う異様な矢でもない攻撃で死霊たる自分が死ぬなどありえない。そう思い込んでいた死霊鉱夫長は、その現象を理解する前に頭部も光になって溶け始めた。


「この弓は私の親友が作ってくれた物でね。()

 “異端闘弓(いたんとうきゅう)”。弓術士でありながら接近戦をこなす異端とも言える私のプレイスタイルについていけるように近接武器としての機能が盛り込まれた異端の弓」


 そう言うとリーシャはゆっくりと光となって溶け消える死霊鉱夫長の頭部を“異端闘弓”で真っ二つに切り裂いた。


 このように“異端闘弓”は矢を射るための道具として以外にも、近接武器としても使用できるように様々な仕掛けが施されている。

 先程リーシャが実践したように弦を引っ掛けて切断する事も出来れば、弓幹の上半分は持ち手のところ以外は刃になっているので今やったように斬撃武器として使う事も出来る。

 他にも、先端が鋭く尖っているので刺突武器としても使えるし、弓幹の下半分は刃がない代わりに重りが仕込まれているので打撃武器としての使用も可能となっている。


 本来は矢を射るための道具であるはずの弓だが、“異端闘弓”はこれ一本で斬・突・打・射・切の5種類の使用方法がある。

 まさに“異端”の名を冠するのに相応しい逸品だと言えるだろう。


親友(メイ)曰く“実験的に色々な機能をぶち込んだら奇跡的に全てが上手く噛み合った再現不可能な偶然の産物”……当然死霊特攻も付与されてるわ」


 果たしてその言葉が聞こえていたのか、死霊鉱夫長だった光の粒が悔しげに一度ふるりと震えると今度こそ光となって静かに溶け消えた。


【弓の弦じゃない部分の正式名称が分からなかったので変な表記になってしまってます……

わかる方がいたら教えていただけるとありがたいです】解決

教えてくれた方ありがとうございます!


今後その場のノリで色々なスキル(複合スキル含む)や称号、武器防具アイテムを増やしていくと思うので何かアイディアがあればお願いします!


おかしい所や誤字脱字、誤用などがあったら是非ご指摘お願いします


ブクマしてくれた方や読んでくれてる方本当にありがとうございます!


今後も当作品をよろしくお願いします!

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