第98話『隠しエリア』
「到着!リーちゃんもお疲れ様」
「敵のレベルも軒並み高くなってて私としては大満足だったわ。それで……ここがその目的地?」
例の横穴から30分程進んだ場所にソレはあった。
今までの人の手が加わっていない天然の洞窟と違い、そこには明らかに人の手を加えたような空間が存在していた。
もはや、この場所は洞窟と言うよりも……
「坑道……いや、廃坑……よね?」
リーシャが言うように、その洞窟はあちこちに整備された後があり、燃料が切れたランタンのような物も等間隔に取り付けられている。そこはもはや洞窟と言うよりは人が資源採掘の意志を持って掘り進めた坑道……の跡地のように見えた。
「そう、マップを見てみれば分かるけどここはもう『出涸らしの空洞』じゃないんだよ」
「マップを……へぇ、『忘れられた廃坑』ね。確かにあんなこった仕掛けをしてたら普通は見つからないわね」
この『忘れられた廃坑』は、『出涸らしの空洞』に存在する隠しルートを通って進む事でたどり着ける隠しエリアであり、現状でこの場所の存在を知っているプレイヤーはメイとリーシャの2人しか存在しない。
本来ならさらにいくつか先の町にいる元鉱夫のNPCからこの場所の噂を聞くことでようやくたどり着けるような場所なのだが、それをメイは偶然とはいえノーヒントで見つけ出したのだ。
「それは確かに凄いけどさ……つまりここって手付かずの採掘エリアってこと?」
「うーん、半分正解、かな。廃坑の名の通りもうここは廃れて長いみたいだし、採掘スポットもたまにあるけど飛び抜けて良質ってわけじゃないからね」
そう言いながらメイはインベントリから何やら地図のような物を取り出す。どうやらメイ手描きのこの廃坑の地図らしい。
「なら……なんでここに来たの?」
「理由は2つ。1つ目はこの廃坑にある宝箱」
「宝箱?」
「そう。この廃坑は迷路みたいに入り組んでるだけどね、たまに倉庫みたいな部屋があるんだ。そこからピッケルとかの採掘用アイテムとかアクセサリーとかの装備品、あとたまに宝石類があるんだ」
「おぉ!なんかトレジャーハンターみたいでワクワクするねっ!」
宝石類と聞いてリーシャの目の色が変わる。
リーシャは昔から宝探しやら冒険が好きなタイプであり、そのふたつを合わせたようなトレジャーハンターに憧れていたのだ。
そして、現状で入手出来る宝石類と言えば、第1エリアのフィールドボスであるロックゴーレムからのドロップか、遺跡エリアの宝箱に稀に入っている物かの2種類しか存在しない。
ロックゴーレムは相性が悪いため周回は難しく、遺跡エリアは既に遺跡エリアでの宝探しに特化したプレイヤー達によって荒らし尽くされている。
つまり、他のプレイヤーが知らない第3の宝石の入手可能エリアを探索出来るのである。長年の夢であったトレジャーハンター的な冒険が出来るとあってリーシャのテンションはうなぎ登りだ。
「テンション上がってるところ悪いけど宝探しはあくまでサブだからね?」
「えぇ〜、そう言えば理由は2つって言ってたね。もうひとつはなんなの?」
「この廃坑の奥にあるとっておきの採掘スポットだよ」
興奮気味に教えてくれたメイが言うには、その採掘スポットはこの廃坑の奥深くにあり、他では考えられないような良質な鉱物が大量に採掘出来るらしい。
それこそ、他ではまだ見つかっていない宝石の原石や現状で入手出来る最高の鉱石類など、生産職からしたら垂涎ものの、まさに天国とも言えるような場所らしい。
「さらにさらにだよ!?なんとここではミスリルまで出てくるんだよ!?」
「そ、そうなの……?ちょっと私にはよく分からないけど……メイがそこまでなるって事は相当凄い素材なんだ」
「現状では最高の金属素材と言っても過言ではないね!それどころかここ以外での発見例も聞かないし、もしかしたらまだ誰も他のミスリルの採掘スポットを見つけてない可能性すらあるよ!」
「へ、へぇ……」
滅多にない程のメイのハイテンションぶりに気圧されてリーシャが珍しくたじたじになる。生産については全く明るくないリーシャだが、そのメイのテンションの上がりようからそのミスリルが相当レアな素材だと言うことは簡単に想像がつく。
そうでなくてもミスリルと言えば他ゲームなどでも頻繁に名前が上がる程の有名な金属系素材であり、大抵の場合は高位の素材として登場している。
それならばメイのこのテンションの上がりようも理解出来ようというものである。
「でもやっぱり《EBO》の洞窟にいるモンスターは採掘音によってくる性質があるらしくてね……1人じゃ満足に採掘出来ないんだ」
「なるほどね、その間の護衛が私が今日呼ばれた理由って訳か。来るだけならメイ1人でも大丈夫だもんね」
「廃坑で宝箱探しする分には1人でもよかったんだけどね」
「えぇ〜、宝探しするなら私も呼んでよ」
そんな話をしながらもはや迷路と言っても過言ではない程に入り組んだ廃坑をメイ作の地図を見ながら30分ほど進むと、そこそこ開けた空間に行き着いた。
ここが、メイの言う“とっておきの採掘スポット”というやつなのだろう。
「とーちゃくっ!」
「へぇ、廃坑の奥にひっそりあるくらいだし狭いと思ってたけど……結構広いね」
規模としては25mプールを横に2つ並べたくらいだろうか。『暗視』があるためそこまで視界の確保に苦労する訳では無いが、もし『暗視』がなかったら松明だけでは端から端まで十全に視界を確保する事は難しいだろう。
「じゃあ私はさっそく採掘に取り掛かるから、リーちゃんはその間の護衛よろしくね!とは言ってもここのモンスターならリーちゃんの敵じゃないと思うけどね」
「もちろんよ、この程度の奴等に遅れは取らないわ」
そう言うと、メイとリーシャは分かれて各々の行動を開始する。
メイは採掘効率上昇の効果を持つ自作のツルハシを携えてそこかしこにある採掘ポイントを渡り歩き、ツルハシを振るう。
一方のリーシャはメイに作って貰った『弓闘術』による近接戦闘にも耐えられる特注の弓を構えて広場の中央に陣取ると、メイの立てる採掘音によってきたモンスターを1匹たりとも見逃さないと周囲の警戒を始める。
一応『暗視』状態では視認出来ない横道の例があるので、メイはちょくちょく『暗視』とヘッドライトを使い分けているようだが、護衛であるリーシャには関係無い。
常時『暗視』全開のリーシャには、もはや洞窟の暗闇など敵ではない。
「さっそくおいでなすったわね!」
メイが採掘を始めて3分程経った頃だろうか、廃坑に続く出入口から1匹のオオカミが姿を表した。
洞窟という常闇の空間に住み着く狩人、洞窟狼である。
「はいはいっと。動くまでもなかったわね」
とはいえ、公式にそんなカッコイイ紹介文を貰っていても高レベルプレイヤーであるリーシャからすれば雑魚に変わりは無い。
その場から動くことも無く、的確に眼球や脳天を捉えて狙撃する事で、数発の矢で洞窟狼は光となって溶け消えた。
その直後、2匹目の洞窟狼が姿を表した。採掘音に引き寄せられてくる以上、メイが採掘を続ける限りモンスターの襲撃が一時的に途切れる事はあっても終わる事は無い。
かつてない連戦の予感にリーシャは攻撃的な笑みを浮かべると、2匹目の洞窟狼を光に変えるため、弓を引き絞った。
今後その場のノリで色々なスキル(複合スキル含む)や称号、武器防具アイテムを増やしていくと思うので何かアイディアがあればお願いします!
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