幕間 狂信者Mの訓戒
【前回までのあらすじ】
ルキ「まだ殺しじゃねぇのかよ……溜めるのもいい加減にしろっての」
アルル「だからぁっ! 人殺しは許可しないってば!」
捨てられていた乳飲み子を拾ったのが、血の通った聖職者ならばきっと、彼女の未来は変わっていただろう――――後世の人間は、好き勝手にそう語った。
だが、当時の人間は皆知っていた。
そんな仮定は戯言だ。
生まれ育った環境は劣悪だった。
事あるごとに鞭で打たれ、拷問に等しい折檻を受け、焼けた火箸で全身を抓まれ、周りの孤児たちがばたばた死んでいくのが、彼女の日常だった。
いつしか、彼女の主な仕事は、穴掘りになった。
死んだ子供の墓穴を、彼女は、死人より傷んだ身体で掘り続けた。
彼女を拾った神父は、後にこう語った。
――朱に交われば赤くなる。
――化物を育てた私たちは、同じように、化物になったんだ。
――程度の低い、低俗な化物に。
「仕方ありませんわ。子供は、『神』を知らないのですもの」
いつしか、彼女の言う『神』という言葉が、知らない意味に置き換わっていた。
誰も、彼女の言う『神』を理解できなかった。
彼らの知る神と、それは同一のようでずれていたからだ。
「『神』を知らぬ愚か者は、折檻されても仕方ないのですわ。その苦難の中で、人は『神』に祈り、縋るのですわ」
彼女の元から逃げ出した少年は、譫言のように繰り返した。
口が目の辺りまで裂かれ、眼球を爪で引っ掻き出され、耳を噛み千切られ、自らの指を食い千切ることを強制され、睾丸を潰され、男根に無数の切り込みを入れられ、腹の肉をスプーンで抉り取られ、片膝を骨まで抉り切られ。
それでもなお生きていた少年によって、彼女の蛮行は白日の下となった。
しかし、誰も彼女を理解できない。
「私は、あなた方を『神』に目覚めさせる、『神』の使いであり悪魔ですの」
四肢を落とされ、生きたまま焼き殺された彼女は――――最期に笑って、そう言った。
【次回予告】
ルキ「殺し合いまでもうワンクッション。どいつもこいつも、俺の忍耐の限界でも試してんのかっつの……」




