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幕間 『光明神』ルバルド=サムリッグの宣言


【注意】

この小説には、

・グロテスクな表現

・身勝手な価値観

・異世界厨二バトル

が含まれています。苦手な方はご注意ください。


また、今作には実在の神話に出てくる神々と、よく似た名前のキャラクターが登場します。

ただ、実際の神話を基にはしておらず、あくまで名前を借りているだけです。ご了承くださいませ。


【前回のあらすじ】

アルル「いつから私がヒロインだと思っていたぁっ‼」

バジ「姉様っ! やけにならないでください!」

アルル「離してぇっ! 私より、私よりずっとバジの方がヒロインじゃないのもぉっ‼」

バジ「待って待って待ってくださいって! ヒロインは姉様ですよっ‼」

アルル「ほ、本当に……そう、思ってる?」

バジ「本当に本気です! 大体、ヒロインってことは、相手はバカルキでしょう? あたしは嫌です」

ルキ「サブヒロインもヒロイン(殺していい奴)で合ってるよな」




 ――――それを表現する言葉を、彼は持ち合わせていなかった。



「GUAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA⁉」



 けたたましい声で嘶くそれは、しかし、今まで見たことのないモノだった。


 形は、一応人間のそれとよく似ている。

 しかし、スケールはまるで違った。


 骨張った腕は、それだけで数十人の背丈を足しても足りないほどに長く。

 乳房はまるで小高い丘のように大きくて、呆気にとられる他になかった。

 異様に細い脚でさえ、彼が今まで見てきたどんな魔獣の体長より長くて。

 足は、村一番の家でさえも虫けら同様に踏み潰せるくらい、大きかった。


 そしてなによりも、その顔が最も奇妙だった。


 澱んだ沼のような、嫌な深緑色の髪。

 ざんばらのそれを振り乱し、ぎょろりと大きな隻眼で睨めつけるそれの顔は――――渦でも巻くように、捻れていた。


 歯を剥き出しにして、それは吼える。


 彼には、それがなんなのかさえ、判然としなかった。


 最初は、魔獣だと思った。

 村のみんなも、当然そう思っただろう。


 しかし、すぐに妙だと気付いたのだ。


 それは、追われていた。

 狩られんとしていて、必死に抗っていたのだ。


 最初は、ここまでの大きさではなかった。

 人並み外れて大きくはあった。

 しかし、あくまで成長し過ぎと言われれば、納得しかねない程度の大きさだった。

 今のような、天を衝く巨大さはなかったのだ。


 それは、彼らの村を見つけると、異を決したように巨大化し、暴れ始めた。


 彼らを背にして。

 まるで、彼らを守るかのように。

 だから。




「GUAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA‼」




 流れ出る血が大地を濡らし。

 飛び散る肉片が家々を壊し。

 悲鳴に人々が失神しようと。


 彼らは、そこを離れられなかった。


 それに守られるようにして、一塊に集まっていた。

 日常ではあり得ない出来事に、ただただ戸惑うしか、彼らにはできなかった。





「……いい加減、渋といな。『幻想神ゴッデスオブファンタズム』ナイアルラトテップ」





 それの名前が、厳かに呼ばれる。



 瞬間、それの胸元に、轟音と共に雷が落ちた。



 抉れた肉が、ぶすぶすと煙を上げながら落ちてくる。

 びちゃぁっ、と血の海に沈んだ肉片と同時に、それもとうとう膝をついた。


 よくよく見れば、それの顔面は既に半分もなかった。


 肩がない。

 肘がない。

 指がない。

 胸がない。

 腹がない。

 内臓がない。

 脚の付け根がない。

 脹脛がない。

 膝がない。

 太腿がない。

 脚の甲がない。


 抉り取られ、削り取られ、焼き焦がされていた。


 ぐぢゅぐぢゅと、傷口から肉が再生しつつある。しかし、到底間に合うとは思えなかった。

 無数の雷の群れが、それめがけて突き刺さった。



「GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA⁉」



 苦悶の叫びを上げながらも、なお――――それは、倒れなかった。


 倒れたその先には、彼らがいたから。

 なにもできずに狼狽えるだけの、哀れな人間がいたから。



 彼は、その現状に歯噛みした。



 なにが起こっているのか分からないなりに、今の状況が、守られているの一言に集約されると、直感できたからだ。


 得体の知れないなにかに襲われているのに。

 そのなにかから、自分たちさえ守ろうとしているそれを――――もう、放っておけなかった。



「っ、お、おいっ! なんなんだよお前ぇっ! い、いい加減にしやがれぇっ‼」



 彼は、元来穏やかな男だった。

 喧嘩など、生まれて一度もしたことがない。

 持ったことがある武器など、農作業で使う鋤くらいだ。それを武器として使うという発想さえ、今の今までしたことがない。


 それでも、彼は立ち上がった。


 ――ここは、俺たちの村だ。

 ――化物に守られて、俺らがなにもしないってのは、あっちゃならねぇだろ!


 己を鼓舞し、奮い立たせ、彼は鋤を構えて叫んだ。



「こ、この村は――」







「黙れ、木偶が」







 鼓膜を裂かんばかりの轟音と、視界を一気に白く塗り潰す雷光。

 それが、彼らの見た最期の光景となった。











 叫びは、跡形もなく掻き消された。



 叫ぼうとしていた、男の姿ごと。



 否、男と共に集まっていた、村の住人全員ごと。



 天から降り注いだ、巨大な雷の柱が――――一瞬にして、彼らを残らず蒸発させたのだ。


 地面に残る焦げ跡だけが、彼らの生きた証となった。

 消し炭さえ、残っていない。



「……っ、な、んてこと、を……! っ、ゼギアぁっ‼ あんたは、あんたはぁっ‼」



「気安く名を呼ぶな、痴れ者が。我ら神族の、恥晒しが」



 巨人――――ナイアルラトテップが、激昂しながら腕を伸ばす。



 千切れかけていた腕は、しかし、次の瞬間には根元からぶちりと、引き千切られた。



 そうとしか表現できないほどに、痛々しく無残に、切断された。



「っ、ぃ、ぁああああああああああああああああああああああああああっ⁉」



「五月蠅い」


 ずんっ、と重い衝撃が全身に走る。

 片方しかない眼球を、ナイアルラトテップは小刻みに動かす。ようやく視界に、それは映り込んだ。


 身体に無数に空いた穴を、肉でできた血溜まりを足場にして。

 その男は、ナイアルラトテップの喉に、巨大な剣を突き刺していた。



「…………っ‼」



 ぱくぱくと、酸欠の金魚みたいに口を動かす。

 なのに、声は出なかった。息さえ、ほとんどままならなかった。


 意識が、急に遠退いていく。

 目を開けていることさえ、できなくなっていく。


「手間を取らせおって。嗚呼、決して死ぬでないぞ。貴様の様な恥晒しでも、此の世界では死なれては迷惑なのだ」


 明滅していく視界で、薄れいく意識の中で。

 男が、そんなことを言っているのが聞こえた。


「貴様の五体は刻み、壊し、犯し、穢し、散々(ちりぢり)に封じて遣る。未来永劫、貴様が『幻想神』ナイアルラトテップとして顕現せぬ様、厳重にな」


 抗う術は、全て奪われた。

 潰され、壊され、喪った。


 目の前で、ああも無残に人間を殺された――――それは、ある種の止めになった。


 ナイアルラトテップは、微かに繋ぎ止めていた意識を、今度は完全に失った。









「あ~ぁ。なんてことをしてくれたんです? 『雷霆神(ゴッドオブサンダー)』ゼギア=ライズリッツさん」


 酷く気の抜けた、緊張感に欠けた声がした。


 ゼギアと呼ばれた男が、気怠そうに振り向く。

 赤茶の髪に顎髭を蓄え、歴戦の勇者の如き精悍な顔つきをした男性だ。

 屈強な肉体を、まるで隠そうとしない鎧姿。身体には傷一つなく、筋肉を濡らす赤黒い液は全て返り血だった。


 彼は、肩に一つ、巨大な得物を担いでいた。

 身の丈の三倍はあるだろう、あまりに大きな剣だ。


 しかし、剣の体は成していても、刃は古びた鋸のように疎らで、刀身は焦げ付いている。

 今し方使い終わったばかりのそれは、血肉で存分に汚れ、一層古びて見えた。


「邪魔だったし、うるさかったのは分かりますよ。今回は珍しく、出しゃばってきたのがいましたしね。けど、人間を必要以上に殺す必要はないでしょう? 僕たちを信仰してくれる、可愛いお人形なんですし――」


「黙れ、若造」


 振り向き様、ゼギアは勢いよくその剣を振るった。

 剣の錆びた刃は、しかし振り抜く速度を考えれば、岩でさえ両断しかねなかった。


 バチバチと、雷を纏いながら刃は走り。



 そして――――そこで止まった。



 少年の横っ腹を、一ミリも傷つけることなく、刃は停止したのだ。


「人間等、放って置けば勝手に増える。彼奴等自ら言って居ったろう。産めよ、増やせよ、だ。第一、我らを信仰しない木偶等、此の世界には要らぬ」


「ふふっ、厳しいですね。ゼギアさんは」


「我の事を評して居る場合か? 『光明神(ゴッドオブシャイン)』ルバルド=サムリッグ」


 言って、ゼギアは剣を突き付けたまま、少年のことを睨みつけた。


 綺麗なブロンドの髪。

 人形のように整った顔立ち。

 美少年という形容が相応しいその風貌を、過剰に衣装で隠した少年は――――ルバルドは、わざとらしく小首を傾げた。


「場合か、とは?」


「惚けるな」


 ゼギアは、剣の切っ先をルバルドから外し、地面を指し示した。

 血で覆い尽くされ、真っ赤に染まった大地に、五つの塊が落ちている。

 異様な臭気を放つそれは――――『幻想神ゴッデスオブファンタズム』ナイアルラトテップの、バラバラに解体された肉体だった。


「我等神族に仇成す、人間に与する神族共。其の筆頭たる『七柱ノ大罪』も、此奴で六柱目だ」


 ごつごつと太い指を折り曲げつつ、ゼギアは丁寧に説明していく。

 まるで、堪え切れない苛立ちを、ぶつけているかのように。


「『邪悪神(ゴッデスオブイビル)』アンリエット=ママママ=ユジャニンフ。

 『知識神(ゴッドオブノーレッジ)』オルディオン=フギン=ムニン。

 『電脳神(ゴッドオブサイバー)』テスラ=ウェブ=ギガメガナノミクロン。

 『夢幻神ゴッデスオブフィクション』ヨグ=ソトース。


 此の四柱は、既に封印済みだ。


 そして『時空神(ゴッデスオブタイム)』デウス=エクス=マキナは我等の制御下に有る。

 『幻想神ゴッデスオブファンタズム』ナイアルラトテップは、此の通りだ。


 残るは最大の害悪――――『火山神ゴッデスオブヴォルケイノ』アルル=グル=ボザードのみ」


「えぇ。そうですね」


「貴様が其の手で討ち取ると、我等に公約した敵だぞ?」


 ゼギアの声に、怒りの色が混じった。

 壮健な顔の、眉間に皺が寄っていく。

 それをルバルドは、顔を覆い隠したままで眺めていた。


「我が神器【雷霆霹靂(ケラウノス)】を防ぐ程の防御力を持つ、貴様の神器【死飼文書(フリッグカムナント)】には、驚嘆する。然し、相手は斯の『火山神ゴッデスオブヴォルケイノ』だ。守るばかりでは立ち行かぬだろうと、『人罰(ヴィランズ)』まで貸し出したというのに、何だ、今の様は」


「…………」


「『人罰(ヴィランズ)』は、【神無界(ナキナラ)】にて罪を犯した魂を転生させ、【神有界(アルナラ)】の村々を混乱させるのが抑々の目的だ。人間同士の結託を妨害し、我等への信仰以外に救いの道は無いと思わせる、元来はそういう道具だ」


「…………」


「そんなものに、対神族用決戦兵器(など)、持たせおって……『人罰(ヴィランズ)』は、貴様の玩具ではないぞ。ルバルド=サムリッグ」


「……やだなぁ。分かってますよ、ゼギアさん」


「【信仰宗狂(ルーキフェル)】という斯の対神族用決戦兵器――――余りに強過ぎる」


「…………」


「神族の身体さえ貫き、消失させる…………明らかに、神族の『殺害』を念頭に置いた武器だ。分かって居るのか?


 殺してはならぬのだ。


 仮令如何程迄に憎くとも、だ」


「……分かって、いますってば」


 まぁそんな肉片見せられちゃ、説得力もないですけどね。


 ルバルドは、ゼギアに聞こえないほどの小さな声で毒づいた。


 案の定勘付かないゼギアをせせら笑いつつ、ルバルドは吊り上がった唇を滑らかに動かす。


「もう少しだけ、待っていてくださいよ。今、最後の仕上げの最中なんです。もうじき、好い報告をできそうですよ」


「仕上げ……? 貴様、何を遊戯(あそび)めいた事を――」


「遊び? 嫌だなぁ、そんなこと言われるなんて心外ですね」


 ぬらぁ、とルバルドの視線が持ち上がる。

 三日月を傾けたような口とは釣り合わない、毫ほども笑っていない澱んだ瞳。


 ゼギアは、赤茶の顎髭を、ぞわり、と震わせた。


「僕は真剣ですよ。真剣に彼女を――――アルル=グル=ボザードを、憎んでいます。だからこそ、楽しみにしていてほしいんですよ」


 地面に転がる肉片を踏みつけつつ、ルバルドは言う。

 ミチミチと、骨も内臓も詰まったままの肉塊が、声ならぬ悲鳴を上げた。




「この程度の惨劇なんて、目じゃありません。もっと凄惨に、もっと残酷に、もっと絶望的に、あの女には終わってもらいましょう」




 ぐちゃぁっ、と。

 ルバルドの足の下で、肉の塊が風船のように弾け飛んだ。




神様いっぱい出てきた。

約2柱、元ネタが丸分かりなのがいますが、

他の神族は元ネタが分かりにくいくらいに捻ったつもりです。


元ネタに見当が付いた方は是非ご感想まで(←だからおい)


【次回予告】

いよいよ、最悪の殺人鬼が動き出……すかどうかはお楽しみに。


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