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終わりの世界より  作者: あなぐまこさん
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第六話 旅立ち

いつの間にか雨は上がり、空には虹がかかっていた。

この世界にも虹はあるのだなと、しばしの間空を仰いだ。


あれから、1時間ほど体を寄せ合った後、

セルカさんと今後のことを話し合った。


一括りに今後のこととはいったものの、

差し迫って必要となる短期的な目的と、

多少の時間をかけるだけの余裕のある中期的な目的、

そして、将来の目標とでも言うべき長期的な目的を

それぞれ別々に考えなければならないだろう。


まず、長期的な目的に関しては相談するまでも無く明白だ。


「彼」の基準で一定の成果となるべきことを成し遂げ、

使用したSP、即ち寿命を返還してもらうことである。


現在、俺もセルカさんも寿命の9割を機能の獲得のために

使ってしまっている。

そのためSPが一切返還されなかった場合には

おおむね5年程度で俺たちの寿命は尽きることとなる。

とはいえ、逆に言えば5年程度の猶予はあるはずなので、

数日、あるいは数週間の間に何かを為しとげなければならない

といったこともなく、まずはある程度、生活の基盤を安定させて

からじっくり腰を据えてとりかかるべき課題である。


なお、これに関しては、セルカさんに腹案があるようだ。


「生活の基盤が安定しましたら、取り掛かりたいとおもいます。

 そのときはキョウタ様も協力してくださいね。」


どのような案なのか、なぜか教えてもらえなかったが、

控えめに笑う彼女を見てなぜか寒気がした。どうしてだろう。

有無を言わせない雰囲気であったために、つい頷いてしまったが

失敗だったかもしれない。


次の中期的な目的であるが、この世界の元々の住人であり、

滅亡の危機に瀕しているという現地民の生き残りと接触して、

毒耐性を付与することで救うことになるだろう。

現在進行形で、滅亡へのカウントダウンが始まっている中で

あまり悠長に構えることはできないのだが、この世界に関する

情報が殆どない中で闇雲に探すわけにもいかないだろう。

結局、このまま街道を進んで、どこかの町や村についたら情報

収集を行うといった無難な結論となった。

とはいえ耐性付与の特性上、一日でも速く彼らに接触することが

できればその分だけ多くの人に耐性を付与することができる。

一日の価値が人一人の命だと思うと、あまりのんびりとして

もいられないのである。


最後に短期的な目的として、安定した生活基盤を築く

ことにある。

安定した職業につき、庭付き一戸建ての家を手に入れて

優雅に暮らすなんてことは望まないが、

当面の食料と安心して眠れる程度の安全な拠点だけは

最優先で確保しておきたい。

毒耐性があるので、味は別として、そのあたりに生えている

雑草や木の実を毒を覚悟で食べるなんて選択肢もなくは

ないのだが、好んでやりたいものではない。

ちなみに、残念ながらアイテム持込機能を取得して

亡くなった方は食べ物の類は殆ど持っていなかったので

現地調達以外の方法はない。


「使える物の確認が必要ですね。」


セルカさんに頷き、二人で板張りの床の上に一つずつ

遺体から拝借したものを並べていく。


■腕時計       2個

■スマートフォン   2台

■財布        2個

■ライター      1個

■タバコ       1箱

■ティッシュペーパー 4個

■ハンカチ      2枚

■タオル       1枚

■包丁        1個

■塩コショウ     1個

■飴玉        4個

■ビニール袋     1枚

■空のペットボトル    3本(容量2ℓ)

■女性用のビジネスバック 1個

■システム手帳    1冊

■筆記用具      1セット

■フライパン     1個

■ガムテープ     1個

■ラジオ付ポータブルMDレコーダー 1台

■犬用のリード    1本

■園芸用シャベル   1本

■エプロン      1着


このほかに、セルカさん用の着替えの衣服が少々。

ビニール袋にたまった水はペットボトルに移してあり

全部で4リットル、2本分の水を手に入れることができた。


サバイバルをするには十分とはいえないが

包丁はいざというとき武器として使うこともできる

だろうし、塩コショウがあれば大抵にものは食べられる

のではないだろうか?


相談の結果、今後は包丁はセルカさんが持つことになり、

俺の装備はフライパンになった。


これで殴れということだろうか?


ビジネスバックは女性用のものの中ではかない容量が大きい

ものだったようで、他の小物の大半をいれることができて

いるようだ。


俺は、ポケットを膨らませてペットボトルの入った袋を左手に、

右手にはフライパンを握り締める。


セルカさんは、膨らんだビジネスバックを左手に、

右手にはギラリと光る万能包丁を握り締めている。

どうやらエプロンは着用することにしたらしい。


セルカさんの握り握りしめている包丁はどうやらかなりの

業物らしく、抜き身の刃が怪しく輝いていた。

なので、前とは言わないのでせめて横を歩いてほしいと頼んだ。


「三歩後ろを歩いて男を立てるのが我が家の家訓ですので。」


しかしその申し出は、すげなく却下されてしまった。


マジで怖い。



締まらない格好ではあるが、

ようやく俺たちはこの世界へと旅立つ。

前途多難な冒険になるかもしれないが、

それでも生きていくしかないんだ。





時計の針は2時を指していた。

太陽は傾き夕暮れ時を迎えようとしている。





「いまから旅立つと野宿する可能性が高いので

 今日はここに泊まりましょう。」




セルカさんの提案は実に合理的であり、全面的に

賛同できるものだった。




冒 険 終 了。




たった今、出発したばかりの建物に荷物を置いて、

雨露に濡れた道脇の草むらに食べられそうなものがないかと

散策することになった。


「塩コショウは本当に偉大だ。

 いや、セルカさんの腕がいいのかな。」


ミツバのような香りのする草と、フキのような茎の草を

見つけたので、枯れ草と木の枝にライターを使っておこした

火にかけたフライパンで炒めてもらい食べてみる。

味は存外悪くは無い。


「お粗末様です。」


やわらかく頷いてくれるが、セルカさんはまだ

この料理に手をつけてはいない。

6時間ほど様子をみて、俺の体に異常が無ければ

セルカさんも食べることになっている。



俺は、毒耐性を信じる。



効果があるかはわからないが、毒はともかく寄生虫や

病気は怖いということで、セルカさんはせっせと

フライパンを使って水を煮沸する作業を繰り返している。


この世界の太陽が完全に消えた時間に、時計の針を調節し

午後6時に合わせる。


かすかに燃える炎がうっすらとあたりと照らしているが

空には星一つなく、周囲を見渡しても町の灯を

見つけることはできなかった。


建物の中に入ると、セルカさんがスマホのライトをつけて

明かりを灯してくれた。


電池がもったいないので、入り口にしっかりと閂をかい、

横になる場所を決めて体を横たえる。


ライトが消えると完全に真っ暗な闇になった。


「念のため交代で寝ることにしましょうか?」


屋内とはいえ、何があるのか分からないこの世界で

無警戒に眠るのはさすがにまずいだろう。

セルカさんの提案を受けて、前半は俺が、

後半はセルカさんが起きて警戒することとなった。


真っ暗な室内で静かな寝息だけが聞こえてくる。

獣や鳥の鳴き声はおろか、虫の音すら聞こえない。

考えなければならないことは山ほどあるはずなのだが、

想像以上に疲労というものが溜まっていたのだろう。

うつらうつらと、まぶたを半ば落としながら睡魔と戦う。


時計の針が午前2時を過ぎたところでセルカさんを起こすと、

そこで眠気が限界に達したのか、横になったと同時に夢の

世界へと落ちていった。

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