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終わりの世界より  作者: あなぐまこさん
3/36

第三話 選別

さておき、情報を得る手段が限られている中でとり得るものといえば、

やはり質問を上手く使うことだろう。


実を言えば、質問内容自体は考えてある。


―あなた、あるいは「彼」が知る中で回答可能な

 すべての情報を教えてください。


回答不可能と返されるリスクを回避した上で、およそ全ての情報を一つの質問で

手に入れるためにはこのような質問が最上ではないだろうか?




すぐ近くでまた一人、誰かの存在が消えていった。




瞬間、悪寒のようなものが全身を走った。



消えていった人間は恐らく今までに4人。これは少なすぎる。


《異世界転移にかかる条件》が提示されてからすでに体感時間にして

20分近くが過ぎているように思える。


消えていった人間が機能を選び終えた人間だと仮定するならば

この人数は余りにも少ない。


なにより最初に消えた一人は、

機能の一覧が表示される前に消えたのではなかったか?


無論、消えたものたちが「彼」に対して敵対的な行動をとったという可能性や、

単なる思い過ごしで、全く別の何かが原因であるという可能性も大いにある。


そう、あくまでも漠然とした予感があるだけだ。

だが、どうしても『彼』の声をはじめて聞いた時に感じた

鈍い痛みの記憶が頭から離れない。


肉体という縛りが無くなった中で感じた痛み。


あれは、俺という個の意識や自我が軋みをあげていたからではないだろうか。

もしも、「彼」からすれば極僅かともいえる情報を受け取った段階で

すでに俺の意識や自我が軋みをあげて傷ついていたのだとしたら。


「彼」の全てを得ようとしたならば、

俺という意識や自我なんてものは粉々に砕けて

消えてしまうのではないだろうか?


時間はゆっくりと過ぎていく。

体感時間にて10分ほど悩んだ後、ようやく結論を出す。


『質問した者が健常な状態にあるもので今まで質問された

 全ての質問とその回答を日本語で書かれた文字として

 表示する形式で教えてくれませんか。』



【残りSP80】




そして、俺の目の前に数百の質問とその回答が表示された。


様々な質問が存在する中で、嫌な予感が当たったのか、

表示された回答の大半は最長でも500文字程度に収まるものばかりであった。

中には1人、俺より前に同じような質問をした者がいたようで

例外的に長いものが含まれていたが、残念ながら


「彼」の知る全ての知識


といったような包括的で広範な質問と回答は1つとして表示されなかった。



ちなみに、最も質問が多かったのは、「元の世界に帰る方法」であり、

回答はズバリ『自分で探してください。』という身も蓋もないものである。

他にも「元の世界はどうなってしまったのか?」といった質問や、

「ここは死後の世界なのか」といった現状を確認するものが意外にも

上位を占めている。

中には、「質問の回数を増やしてもらうことはできますか。」

という質問もあったが

『増やせません。なお以後の質問に対しては回答しません。』

と一刀両断であった。

「どんな質問に対して回答してもらえるのかな」という趣旨の質問も

いくつかあったので、もしかすると思わず口から出てしまった言葉すらも

質問としてカウントされてしまうのではないだろうか。

ちなみに回答は

『ヘルプに記載されている情報を除き、

 特定の回答が可能な質問に対してのみ回答します。』

である。

なお、「貴方の言葉に嘘はありませんか?」という質問に対しては

『真実です。』と回答されていたが、「彼」の言葉の真偽をはかる指標が

何一つない中で、これは何の意味もない為さない質問だろう


いくつかの質問と回答を流し読みしていく中で、

一つの質問とそれに対する回答が目に留まった。



「この世界に残ることはできますか?」

『異世界転移開始時に例外なく全員が転移させられます。』



どうやら制限時間らしきものがあるらしい。

そこで、さらに質問を追っていくと目当てとしていたものが見つかった。



「制限時間はありますか?」

『ヘルプ機能を取得し利用してください。』


「制限時間を教えてください。」

『あなた方の時間に換算して残り52分31秒です。』


「残り時間があるならば教えてください。」

『あなた方の時間に換算して残り31分8秒です。』



この質問が行われた時点が不明ではあるが、

時間はほとんど残されていないと思ってよいだろう。

おおざっぱではあるが体感時間で30分以上が経過しているので

残り時間は20分程度しかないのかもしれない。

急いでいくつもの質問と回答を読みすすめる。


「150SPが必要な機能を取得することは可能ですか?」

『可能です。』


「SPを増やす方法を教えてください。」

『転移後に一定の成果を挙げた者には幾分かの

 SPを返却することがあります。』


「転移後にあらたに機能を取得することはできますか?」

『不可能です。』


「レベルを上げて、能力を強化するにはどうしたらよいですか?」

『機能でレベルアップを取得してレベルをあげてください。

 強化には別途ステータス機能の取得を要します。』


「魔法を使うためにはどの機能が必要ですか?」

『魔法と魔法素質の機能を取得してください。』


「SPがマイナスになったときにデメリットやリスクはありますか?」

『SPが0の時と同様です。』



どうやらSPはマイナスにすることで100SPを超える機能を取得することができるようだ。



「コンテニューはどのような機能なのですか?」

『ヘルプ機能を取得し利用してください。』


「各種族の詳細を教えてください。」

『ヘルプ機能を取得し利用してください。』


「各種族のメリットとデメリットを教えてください。」

『人間はあらゆる機能を万全に使用することができます。

 ただし機能を持たない状態では元の世界と同じ能力しか発揮できません。

 現地民は現地の環境に適応した種族であるため特殊機能や

 レベルアップ機能を使用することができません。

 現地民以外の全ての種族は伝説上の種族です。

 エルフとハイエルフは弓矢の扱いに優れますが体力が低く、

 ドワーフは手先が器用ですが鈍重です。

 獣人は強い力を持ちますが魔法は使えません。

 妖精は魔法の才能がありますが体が小さく身体能力で他に劣ります。

 魔族と竜人、そして魔王と勇者は全ての能力が優れていますが

 特殊機能やレベルアップ機能を使することができません。』


「人間と現地民は何が違いますか?」

『人間はあらゆる機能を万全に使用することができます。

 平均的な身体能力も高く現地民を1とした場合に1.5程度となります。

 現地民は転移先の世界に適応した種族であるため

 特殊機能やレベルアップ機能を使用することができません。

 なお現在、転移先世界を覆っているある種の毒は現地民にのみ有害であり、

 人間に対しては無害です。』


機能の詳細な説明についてはヘルプ機能を取得する必要があるようだが、

質問方法によってはある程度の情報を得ることができるようだ。


「転移先の世界はどのような世界ですか?」

『人間が存在していた地球という惑星の環境とは若干異なりますが

 大気と海と大地があり、文明をもった知的生命体が存在する惑星があります。

 地球という惑星上には存在しない危険な生物も存在していますので

 注意が必要です。』


「転移先の世界はどのような状況に置かれていますか?」

『最も繁栄していた知的生命体は滅亡の危機に瀕しており

 彼らにとっての環境は急激に悪化していますが、

 他の動植物は多様性を保って繁栄しています。』


「転移先の世界は平和な世界ですか?」

『知的生命体同士の大規模な争いは現在発生していません。』


「転移先の世界の住人はは友好的ですか?」

『彼らの多くは友好的です。』


「冒険者ギルドはありますか?」

『現時点では機能していません。』


「転移先の世界の各国家の政治体制や人口、種族構成や主な産業や特産、

 治安状況などを教えてください。」

『国家やそれに類似する統治機関は現在存在していません。』


「魔法は存在しますか?」

『機能としての魔法は存在します。』


「転移先の世界にはどのような住人や種族がいますか?」

『転移時点において人間と身体構造がよく似た現地民が生存しています。

 現地民は容姿のほか生活スタイルや精神構造も人間に近いといえます。』


「転移先の世界で私たちが為すべきことはありますか?」

『自由に生きてください。』


「貴方は私達に何を望みますか?」

『自由に生きてください。』


「アイテム持込の機能によって、所有物は何でも持ち込めるのですか?」

『転移前にあなたが身に着けていた物と手に持っていた物の内、

 生物を除いた物のみ持ち込むことができます。』


「時空操作や空間転移の機能で元の世界に戻ることはできますか?」

『できません。』


有用なものや、役に立たないものなどの質問を流し読みしている間に、

不意に目に飛び込んできた次の質問を見た瞬間、背筋が凍った。




「機能を選択しなかった場合、転移後どうなりますか?」

『転移後、死亡します。』


最悪のものとして、予想もしていなかったのかといえば嘘になる。

だが、示すところ、どうやらこれは実験ですらなく、

言うなれば選別であったようだ。


必要となる機能を自ら獲得したものだけを新たな培地に移す。

その過程で適応する機能を自ら獲得できなかったものは、

失敗作として廃棄されるとでもいうことなのだろうか。


残り時間はもしかしたら15分を切っているかもしれない。

焦るなと、自分に言い聞かせる。



「転移先はどこになりますか?」

『転移位置指定を選ばなかった場合はランダムの場所に転移させられます。」


「転移の際に発生するリスクはどのようなものがありますか?」

『危険な生物の近くや地中や空中、水中などに転移する可能性があります。

 また、転移先にすでに存在しているの物質があった場合

 その内部に転移することになります。』


三次元的な高さを含めて転移位置がランダムであると

考えれば何もない地表付近に運よく転移できる可能性は低いだろう。

転移位置や転移条件指定機能はどうやら必須であるようだ。


「最も優れた機能の組み合わせを教えてください。」

『状況によって異なるため回答不能です。』


「転移後に最も有用な機能は何ですか?」

『状況によって異なるため回答不能です。』


「全ての機能について詳細を教えてください。」

『ヘルプ機能を取得し利用してください。』


やはり、今からでもヘルプ機能に手を出すべきだろうか?

ほかに何か無いかとさらに質問と回答を読みすすめる。


「SPとは何ですか?」

『ソウルポイントです。生命の力とも言うべきものです』


ふと、SPといえば普通はスキルポイントではないのだろうか?

と思いながらほとんど読み飛ばすように質問と回答に目を通していく。


「使用されたSPはどうなりますか?」

『一定の成果をあげた場合には返却することがあります。』




「残ったSPはどうなりますか?」

『異世界転移後、寿命として消費されます。』



―ああ。

疑念が確信に変わる。

どうやら、「彼」はこの選別で殆どの人間をふるい落とすつもりであるようだ。




まず、情報を整理しよう。


第一に機能の中には、選択することが必須となるものが1つないし複数存在し、

それらを選択しなかった場合には転移後、死亡するであろうこと。

なお、必須となる機能の一つとして転移位置、転移条件指定が

候補にあがると思われる。


第二にSPとは寿命であり全て使い切った場合、死亡するリスクがあること。


抑えておくべきはこの2点だろう。

とはいえ、SPに関しては、SPとは別に本来の寿命というものがある。

という可能性も考えられるが、


>「SPがマイナスになったときにデメリットやリスクはありますか?」

『SPが0の時と同様です。』


という質問と回答にあるように、『SPが0』となったときのデメリットや

リスクを殊更肯定する回答が存在する以上、楽観できるものではなく

最低限10は残しておくべきだろう。


なにより《異世界転移の条件》に書かれている

『それぞれが保有しているSPは100。』という回りくどい言い回しから

考えれば、SPはもともと各人が持っていった寿命であるという可能性が高く、

SPとは別に本来の寿命があるとは考え難い。


そして、SPを俺たちの寿命であると仮定したとき、

言うなればこの質問に対する回答は

『SPが0になった時点で寿命は尽きて死亡してしまいますので、

どれだけSPがマイナスになろうとも死亡するという結果に変わりはない。』

と読み替えることができる。



残りSPが80であることから、使用できるSPは最大であと70。

それとは別に転移位置あるいは転移条件指定を取得する以上、


使用できるSPは60。




そして、最後に転移条件を指定する。

残りのSPは本当にぎりぎりで、結局ヘルプ機能を取ることはできなかった。

仮に元の寿命が50年あったとすれば、単純計算で残った寿命は1割の5年。

残念ながら使用したSPを返却する条件にあたる、「彼」にとっての

一定の成果が何であるかについての質問と回答を見つけることはできなかった。


これがお気楽な特殊能力で無双するような異世界転移ものの小説だったの

ならば、俺が選択したものは完全に大失敗になるだろう。

それでも、そうあってほしいと願わずにはいられなかった。

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