表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
終わりの世界より  作者: あなぐまこさん
11/36

第十一話 グラニアヴィレノス

『グラニ・ア・ヴィレ・ノス』 

その名に 大食い・一つ目・大きい・陸亀 の名を冠する猛獣である。


狩猟者組合であるギルドにおける狩猟難易度は「難」とされている。

例えば俺たちが道中で出会った『小さい 兎 狼』の名を冠する

ヴィ・ール・ヴと呼ばれる獣のように狩猟者に成り立ての者でも

安全に狩ることができるものは最も難易度が低い「易」。


熟練の狩猟者が単独で狩ることができる比較的危険性の低い生物は

討伐難易度が「普」として評価されることになる。


そして、討伐難易度「難」に設定されている生物は熟練の狩猟者が4人以上で

チームを組み、万全の準備をした上で初めて安定して狩ることができる

といった評価を受けている。


グラニアヴィレノスの最大の脅威は、弓矢はおろか金属製の剣や槍ですら

傷つけることができないほど固い甲羅による圧倒的な防御力と、木製の盾を

容易に噛み砕く強力な顎による噛みつきの破壊力を共に備えている点である。


こいつは自分の攻撃が届かない遠距離から攻撃を受けると、

瞬時に弱点である頭部や手足を甲羅の中に引っ込めてしまう。

この状態になると弓矢はおろか長柄の槍を使ったとしても

固い甲羅に阻まれて傷をつけることすらできなくなる。


ならば接近してハンマーなどで殴ればよいのかといえば、こいつを相手に

接近戦を挑むことは悪手でしかない。


一見すると1メートルほどしかないように見えるこいつの首は

獲物に襲い掛かる瞬間、一瞬で最大で4倍ほどの長さまでゴムのように伸びて、

強力な顎で獲物の急所を噛み砕いてしまうのだ。

後ろから接近したとしても、すばやくその場で回転して迎撃してくるので

単独でこいつを狩るのにはとてつもない技量が必要だろう。


真っ当な方法でこいつを安全に狩るには、鋼鉄製の巨大な盾を数人で支えて

接近し、盾に対して攻撃を受けた瞬間に、他の者が長柄の斧などを使って

射程外からその首を断ち切るといった手段が推奨されているそうだ。


しかし、こいつの甲羅や肉はかなり良い値段で取引されているため、鈍重そうな

見た目に油断して手を出す狩猟者が後を絶たず、毎年かなりの人数が

犠牲になっているとのことである。


対するこちらは成り立ての初心者狩猟者以下の狩猟経験0の者が2人。

鋼鉄製の盾もなければ長柄の斧だってもっていない。

そこかしこに放置されている荷馬車をあされば、或いは見つかるかも

しれないがはじめて使う武器に命を預けることができるほど、

自分たちに武術の才能があるとも思えない。




つまるところ、よほど下手を踏まない限り、こいつは脅威になり得ない。


「俺が先に撃つ。

 セルカさん、外れた時は頼む。」


そういって、俺もクロスボウの狙いを定める。


分厚い手足を動かしじりじりとこちらににじり寄ってくる

ところを狙って矢を放つ。


いけっ!


矢が放たれた瞬間、グラニアヴィレノスはとてつもない速度で頭と

手足を甲羅の中に引っ込め、鉄壁の迎撃態勢を取る。


カーン。

という音が一瞬遅れて聞こえる。

狙い違わず見事甲羅に命中したようだ。

あれだけ的が大きければ当然か。


周囲を警戒しながら、グラニアヴィレノスから20mの距離を

保ったまま、半円を描くように移動する。


無事に道の反対側に出たので、念のためセルカさんが

甲羅に向かってもう一発、矢を放った。


カーン。


という音が鳴り響く中、






俺たちは一目散に逃げ出した。



逃げるが勝ちだっ!




「やはり追ってはきませんね。」


息を整えながらこくりと頷く。


「まあ、亀だからね。たぶん、倒そうとさえ考えなければ、

 子供だって逃げ切れると思うよ。」


討伐難易度とは討伐することを前提として設定されている難易度である。

打ち倒すことが困難な凶暴な猛獣であっても、ただ単に逃げるだけ

であるならば容易いモノも多数存在するのだ。

グラニアヴィレノスは典型的なそういった猛獣であり、

セルカさんと事前に対応を打ち合わせしていたものの中では、

最も対処しやすいと予想されていた相手であった。


とにかく当座の脅威は回避することができたので、ここで

一息つきたいところだがここでゆっくりしていると日が暮れてしまう。


先ほどのグラニアヴィレノスにしても、闇夜にまぎれて近くに

忍び寄られでもすれば、俺たちは格好の餌にしかならないだろう。


野宿だけはなんとしても避けたいということで、

人里を求めて足を速めると、日の入りの直前にようやく寂れた漁村と

いった雰囲気をもった小さな村落にたどりついた。


あわてて駆け込んだ建物は、漁師小屋とほとんど区別がつかないほど

小さく粗末なものであったが、雨露を凌ぐことができて四方を壁に

囲まれているというだけで今の俺たちにはありがたい。


セルカさんは、今日の強行軍でどうやら足の指を痛めたようで

腰を落ち着けると患部を酒で消毒し、布をあてて縛っている。


河沿いの町まで丸一日の距離がある以上、野宿を避けるならば

セルカさんの足の回復を待ってからの移動が望ましいだろう。


「明日は明後日はここで体を休めよう。」


セルカさんは申し訳なさそうな顔をしていたが、オレ自身、

凄惨な光景を見たことと、猛獣とのエンカウントによって

心身ともに疲労していたので、数日の休憩を取ることに

不満はなかった。


はぁ。大変な一日だったなぁ。


俺たち2人は夕食を食べることすら忘れて、

宿から持ち出した緑色の筒状燃料が刺さった燭台の上で揺らめく灯が

ゆらゆらとゆれる中で、崩れるように眠ったのだった。



翌日、昼過ぎまで休んでからセルカさんを漁師小屋のような建物に残して

慎重に周辺を探索する。

粗末な小屋の中には、室内に水揚げされた魚がそのまま放置されている

のか近づくだけで凄まじい悪臭を放っているものもあった。


無用心に水辺に近づくのは危険だということで、水辺の散策を後回しに

して、いくつかの小屋の中を捜索したのだが役に立ちそうなものは

見つからなかった。


肩を落として帰る途中、河岸から生簀のように囲ってある場所を見つけた。

周囲に危険な生き物がいないか細心の注意を払って近づき覗き込む。


「蟹・・・いや、海老かっ!?」


ずんぐりとした白い甲羅をもった、蟹とも海老ともつかない4本の鋏をもった

40センチほどの生き物が、透き通った水の中をゆっくりと歩いている。


試しに長い木の枝を水中に差し込むと、それを攻撃だとでもおもったのか

一匹が鋏でそれをガシリと掴んだ。

これ幸いと木の枝を引っぱると、それも一緒に引き上げることができた。


実に美味そうだ。


手を挟まれないように慎重に甲羅の部分を掴んで意気揚々と凱旋する。


さっそく、セルカさんに塩茹でにしてもらい食べてみたのだが、

蟹や海老とは違いタコのような食感で白身魚のように淡白な味であった、

予想とは違ったが決して悪い味ではなく、なにより久々の水産物である。


その翌日は半日かけて、さらに6匹を捕まえ、セルカさんと2人で

満足するまで味わった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ