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終わりの世界より  作者: あなぐまこさん
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第十話 遭遇

宿屋を拠点としてから20日が経った。


あれから、町の中心部から近い建物を順に捜索し、

3日目にはこの町の責任者の家と思われる建物を

見つけることができた。丸2日かけて建物中を探索した結果、

見つかった巻物の数は数十本に及んだ。


7日目には狩猟者組合、異世界転移ではおなじみのいわゆる

「ギルド」と思われる建物を発見した。

ここでは、様々な猛獣の姿が書かれた巻物のようなものが

見つかったので、この町で遭遇した豹のような猛獣が

描かれている項目をセルカさんが一日かけて解読してくれた。


『臆病 死肉漁り 巨大 猫』

という意味の名を冠する生き物であるそうで、

あの外見に反して生きている動物は滅多に襲わないそうである。


これで、町を探索する上での不安要素が一つ減ったので

ほっと肩を撫でおろした。


しかし、中にはファンタジーらしい

『3つ 目 赤い尾 虎』

という名を持った凶暴そうな生き物や、

『猛毒 吐き出す 蛇頭 巨大 鰐』

といった名前の時点ですでに危険度を振り切っている生き物の

名前がいくつも載っているそうなので油断はできないのだが。


10日目にはついに鍛冶屋を発見した。

鎌や鍬のような役割をもつと思われる農具が所狭しと並べられている中で、

無骨な鉈の刃を長く伸したような剣や、四角い木の棒の先端に尖らせた

鉄の鏃をつけたような3mほどの槍などの、これぞ武器といったものが

見つかった。

素人が容易に扱うことができるとは思えないが、今までのメインウエポン

であったフォーク型の農具よりはマシだろう。

さておき、ここでの一番の発見はクロスボウ状の弓が見つかったことだ。

普通の弓よりも狙いが付けやすく、素人でも当てることができると

聞いたことがあったので、これ幸いとばかりに早速練習をはじめた。


クロスボウの練習は予想以上に手間取った。

矢をセットし引き絞る仕組みを理解するまでに丸々1日かかり、

セットした矢を射出する方法がわかるまでに更に1日を要した。

元の世界でクロスボウに触れたことがなかったので、これが

それと全く同じ仕組みであるのかの判断はつかなかったが

見通しの甘さを後悔しつつ、試行錯誤を繰り返した。

ようやく狙った目標の方向に飛んでいくようになったのは

練習を開始してから5日目であった。

的に当たるようになってからはセルカさんを誘って一緒に練習を行った。

オレもセルカさんも余り才能はなかったのか10m先の的にも

なかなか当たらなかった。


16日目になると、セルカさんがこの世界の言葉にも徐々に

慣れてきたということで、オレも少しずつ言葉を教わることとなった。

せめて、現地民と会ったときに「こんにちは。」や「ありがとう。」

位は話せるようになっておきたい。


20日目の朝、町の中心を通る外へと続く道にでると、

この世界に初めて来た日に見た馬車が駆けていったような跡が

見つかった。


この日一日を準備に費やし、翌日の朝、この町を出ることになった。

セルカさんが解読した地図によると、この町を通る道をこのまま道沿いに

進むと約1日の距離に小さな村落があり、そこから更に1日進むと

大きな河に出る。

河沿いに上流へ進むといくつもの集落が点在しており、およそ2日後には

その河の水運によって栄えた5000人規模の町があるとのこと。

当面の目的地をそこに定め、7日分の食料と6リットルの水を背負い袋や

着替えなどを入れて町を出た。



街道を歩いている間に、小さな狼のような生き物を見かけたが

こちらがクロスボウを構えると、すぐに身を翻して逃げ出した。

セルカさんに聞くと、『小さい 兎 狼』という名を冠する動物であり、

肉を食べることもできるそうだ。なかなか美味いらしい。

この世界に来てからは干し肉ばかりだったので、次に現れたときに

狙ってみるつもりだったが、その後、再び遭遇することはなかった。


この日は、日暮れ前に次の村落に到着することができたので、

一番しっかりした造りの家で夜を明かすことにした。

その家の裏庭には柵のようなもので囲まれた敷地があり、そこには

ずんぐりとした中型犬ほどの大きさの鳥のような生き物が何羽も歩いていた。

敷地に入って岩陰を探すと予想通りソフトボール大のたまごが見つかった。

フライパンでしっかりと加熱して目玉焼きにしたのだが、

久々に食べたそれは実に美味かった。


そして、出発してから2日目の朝。

朝食にはセルカさんが作った卵焼きに舌鼓を打つ。

「たくさん作りましたので遠慮せずに食べてくださいね。」

そう言われて、腹が膨れるまで卵焼きを食べた。


ふと、エネルギーや塩分などは体には必須なものだが、

摂り過ぎれば毒にもなる。

そういったものに対して、オレの毒耐性はどのように作用するの

だろうかと考えた。

毒とそれ以外の区分けはどうなっているのだろう?

この世界にやってきて20日以上が経つが、体はどこにも異常は

ないので、きっと都合の良い機能なのだろうとは思うのだけれども、

どこかに落とし穴があるような気がしないでもない。

栄養バランスといった概念が地球のものと同じであるとは限らない

が、過信はせずに偏った食事をしないように気をつけよう。


村落を出発して半日ほど歩くと、ポツリ、ポツリと道の脇に

骨のようなものが散乱した跡が現れる。


さらに進むと荷馬車のようなものが並んだ状態で、道のそこかしこに

人間と動物の骨のようなものが散乱していた。


「あの町や村の方々・・・でしょうか。」

血の気が引いたような顔で、唇を震わせるセルカさんの言葉に頷く。

「そうだろうね。」

荷馬車の列は1キロメートルほど続いている。

もしかしたら、現在この世界を覆っている毒ガスのようなものから逃げ、

その途中で、ここで追いつかれたのかもしれない。


セルカさんと一緒に手を合わせて彼らの冥福を祈り、

荷馬車の陰に注意を払い慎重に歩を進める。


彼らの遺骸が食い荒らされている以上、この近くに

肉食の獣が集まっている可能性が高い。


荷馬車に近づいてみると野生の獣に積み込んでいた

保存食を狙われたのか散々にあらされていた。


凄惨な光景に顔を顰めながらも少しでも速く

この場を去ろうと荷馬車の脇をすり抜けるように移動した。



生き物の気配がした。



荷馬車の先頭近くにたどり着いた時、進む先で道の真ん中に陣取る

獣に二人同時に気づく。


「グラニ・ア・ヴィレ・ノス。 大食い・一つ目・大きい・陸亀 の名を冠する

 肉食の猛獣です。」


亀のような甲羅を持った、2メートルを超える体躯の怪物が

その単眼をぎょろりと見開き、俺たちの姿を捉えた。

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