第1話 「邂逅の霊都」〈3〉難民船に揺られて
(^ー^)ノRPG要素追加!
第1話 「邂逅の霊都」〈涙とともにパンをかじった者でなければ、人生の本当の味はわからない〉If you’ve never eaten while crying you don t know what life tastes like
〈3〉草創歴0444年4月8日
そもそもの出会いを鑑てみれば、この男は初めから掴みどころの無い空気のような男であったと記憶する。
ラシャ・コウヤショウ。
中央大陸圏内では、めったに見られない独特な着流し(西方辺境特有の)で、白衣の小袖を嫌味なく着こなしている。
奇抜模様の派手な羽織りの更にその上から、真銀鉱製の手甲、肩甲を纏っていた。
最小限の防御面積しか持たないものの、実に実戦的な身のこなしをそこかしこに見受けられ、動作と速度を重視した戦闘スタイルに重きを置いていると感じる。
それが見る者に飄々とした印象を与えるのだろう。
侮るべき相手ではない。
俺は即座にそう感じた。
事の発端について思い返すと、辿り着くあても無い難民船の一つに紛れ込み、運を頼りに中央大陸に至れるとすれば儲け物であった。
当時、俺は止むに止まれぬ諸事情により、一刻も早く東方大陸「ウァルキュリアス」を出る手段を探していた。
だが、活動範囲を主にアステリト王国に依存していた俺は、ここは一つ王家に対し、大きな貸しを作っておこうとした矢先、軍部の内乱に巻き込まれてしまった。
『自業自得というやつだよね?』
「うるさい、黙ってろ。」
この俺としたことが、薄暗い船室に肩を寄せ合い、不安に暮れる亡命者やその他諸々の後ろ暗い人々と運命を共にする羽目となった。
彼等のほとんどは、軍閥派の粛清を恐れた旧王家派の貴族達である。
革命を成した「グローリー・シルヴァーナ・スミス」は元 騎士将軍にして、「竜伐者」の称号を持つ庶民派の英雄である。
しかしながら、その粛清は苛烈を極めた。
旧王家「フランソワーズ家」に加担し、甘い汁を吸っていた往年の貴族達だが、運良く中央大陸の諸国家に拾われたとしても、然程の待遇は望めまい。
それどころか、国家運営の安全性のある航路と大型交易船、即ちフルディレクション・デフェンス(全方位防御)が使用出来ない以上、これは死出の旅と言う他ない。
何も好き好んでこんな漁船に飛び込むものか。
船内はお通夜のように湿っぽいものの、船外では荒ぶる波間に揺れ動く。
船酔いを感じる余裕もないようで、皆が皆、絶望に彩られていた。
『あ〜あ〜。予定なら、豪華客船で悠々自適な船旅の予定だった筈なんだけど…何がどうしてこうなった?』
「それを俺に言わせる気なのか?」
いかん。これ以上、独り言を言うと不審な目で見られかねない。
俺は薄汚れたフードを目深に被り直した。
《ステリアス・シーヴァは能力〈偽装〉(NEW)を獲得しました。》
俺の脳裏に直接語りかけてくるこの声は、俺の相棒とも言える一連托生の「竜刀アムドゥシアス」に宿る竜精の思念である。
『もお〜。一蓮托生だなんて、そんなプロポーズ恥ずかしい(笑)』
お前、海の藻屑となりたいのか?
『止めて!錆びちゃう!』
紅顔の美少年を思わせる声が悲鳴をあげる。声だけだがな。
第一、剣のお前に悠々自適な船旅なんて不必要だろうに。
本来ならば、目的地に辿り着くのに着実な手段があれば良かったのだ。
今回はちょっと色気を出した結果、想定外の事態に遭遇しただけの事。
何より、俺は悪くない。
『そうそう。悪いのは僕達を利用しようとした王家派の貴族派閥だよね!』
僕達と言うよりも、「赤き竜人」として名が売れ始めた俺を利用しようとしたものの、先手を打たれて革命の契機に逆利用されてしまったのだ。
ああ、今思い返しても忌々しい。
いっそ、王宮を破壊し尽くしてやろうとも思ったが、グローリーの奴も切羽詰まってたんだなと思うと、貴族世界も世知辛いものだと感慨深い。
どちらにせよ、俺はこの海域を越えて中央大陸へ渡る予定だった為、元より身軽な傭兵稼業である。
傭兵で稼いだ「東方主計紙幣」のうち100枚(1紙幣=中央大陸商業銀貨10枚相当)を引っ掴んで、拠点を引き払った。
貨幣は重いし、荷物になるので放置したままだ。
特に未練もない。
お姫様との甘いロマンスなんて期待してない。
いや、本当に。
金も必要な分だけあればいいし、すぐに稼げるだろう。
後は数個、希少な「賢者の核石」を懐に忍ばせている。
東方主計紙幣が換金出来なければ、これを売れば当面の資金は賄える。
少なくとも、一つ金貨10枚は手堅い。
以前、アムの奴が「えー、これ一つで100万円!?」とか言っていたが、何の話かさっぱりだ。そんな単価は聞いた事も無い。
だがこの賢者の核石は魔道の増幅回路に使用され、術式としても転用されている。
そして、希少品として流通しているのには、もう一つ理由がある。
それは賢者の核石が「人造兵」や「魔道兵」の霊核として使用される為だ。
もっとも、あくまで核であって、製造方法や外骨格の建造には数倍の資金が必要であるそうだ。
そんな関係で、これを保持するのは国家規模の戦力に過ぎないし、個人所有も上位貴族ぐらいのものだろう。
俺には関係ないし、人造兵ごときは敵じゃない。
『凄い自信だ!』
だからこその、赤き竜人だろうが。
そんな二つ名を持つ俺が、ボロ切れのようなフード付きマントで身を隠し、揺れるカンテラの薄暗い船倉で膝を突いているとは皮肉なものだった。
別に素性が割れても構わないのだが、相手をするのも面倒だ。
彼等にとってすれば、クーデター(革命)に利用された俺は、間接的にも自分たちを追いやった原因…とまでは言わないが、人は追い詰められると何をするか分からない。
追い払うのは容易いが、寝覚めが悪い。
とは言え、俺がステリアス・シーヴァ であると分かって、面と向かって掛かって来れるのか?という疑問もあるが。
まあ、考えたところで仕方ない。
夜明けまではまだ長い。
船の揺れが心地よい眠りをもたらす事を期待しつつ、しばしの休息に着くのだった。
◆ ◆ ◆
日が昇った。
やはり寝覚めは悪かった。
いや、俺が自ら手にかけた訳では無い。断固、申し開きをさせてもらう。
『それにしても、乗船員総じて死亡とはエゲツないね〜。』
「まあ、これが噂に聞く渡海死人病ってやつだろうな。」
乗船した者は上は老人から下は…割愛させてもらうが、全員が絶命していた。
昼過ぎまで眠りこけていた俺も悪いんだろうが、航路は中央大陸を覆う捩れ現象に突入していたようだ。
予想はしていたのだが、起きた早々にこの惨状を見るのは気分が良いものではない。
『とは言っても、僕等に出来た事は何もないけどね?』
「…出来なかったとは言わないが、してやる義理が無かったと言うのが正しいな。」
どれもかしこも、苦しんだ気配も無く眠るように亡くなっている。
精神を蝕まれ、廃人と化してこの海域に放置されれば、肉体から生命力が吸い出されるままに死を迎える。
それは生きると言う意識が消失する為でもあった。
甲板に上がると、昨夜とは打って変わって、今日の海は穏やかに静まり返っていた。
波も収まっている。
「陽射しが眩しいな。」
『穏やかどころか、無風状態だよね?』
「……。」
唯一の救いは、こうして独り言(傍目から見て)を言っていても、誰にも咎められないところかな。
だが現実問題として、無風状態は頂けない。
粗末な帆しかない漁船にとっては、潮風だけが頼り綱である。
そして、まさかの食糧事情である。
こちらも当初から期待していなかったものの、備蓄は限りなく少ない。
それまでは貴族だったんだろう。せめて数日分は用意して乗り込めよ、と愚痴りたくなったものの、そう言った役回りは大抵、女中の役目である。
だがしかし、落ち目の貴族に従って亡命を希望する女中が居るはずも無い。
結果、彼等は金品は持ち込んでいても、食糧事情に頭が回る余裕は無かった。
「さて、どうしたもんかな…。」
頭を悩ませるよりも早く、生活改善を云々する前にやらねばならない必然性にぶち当たった。
さすがの俺でも、こんな死体の山の中で生活出来る筈もない。気分が滅入る。
「だが、海に沈めて魚の餌にするのも忍びないし、後々の事も考えると回避したいな。」
『じゃあ、燃やすの?船の上で?船が燃えちゃわない?』
そこはお前、「竜刀アムドゥシアス」の出番だな。
ここで役に立たず、どこで役に立つ気だ?
『僕は戦場で役に立ってるよ!』
「勝手に心を読むな!」
それはともかく、俺は船倉から死体を一体、また一体と運び出し甲板に並べ始めた。
全部で20体にまで及んだ。
そこまですれば後は楽なものだ。
20体なら許容範囲だろう。「竜刀アムドゥシアス」を20本まで増やせば事足りる。
《竜技・見えざる(ブリトマルティス)赫炎、発動》
俺の習得した「竜技」の発動を受け、竜刀が轟炎を帯びて放たれた。
《ステリアス・シーヴァの相生相剋〈火気〉属性が+1強化されました。》
見えざる(ブリトマルティス)赫炎は九十九式「下位」の竜技ではあるが、習得の度合いにより、多重世界に存在する同一個体を複数呼び出せるといった特性を持つ。全部がアムだと思うと面倒くさいな。
現在は最高で25本まで呼び出せるようになったが、契約したての頃は多くて5本が精々だった。
と言っても、あれから3ヶ月も立たないのだが、成長の度合いが怖い。
『今、さらっと失礼なこと考えたよねっ』
「…気のせいだ。」
不満の声を上げながらも、竜刀が遺体に突き刺さる。
突き刺さったまま、各々の竜刀が遺体を持ち上げ、中空に置き止める。
と同時に一気に燃え上がった。
この竜技本来の属性「火気」の効果だ。
青白い炎は数千度もあり、遺体は即座に消し炭となって海中に散ってゆく。
「ふう、とりあえず第一段階終了。」
竜刀を手元に戻し、何をするとも無く海面を覗き込む。
そろそろかな?
『あっ!なんかデカい魚影を発見!』
漁船の下に肉食魚がチラホラ集まり始めたようだ。
こちらは撒き餌?の効果だ。
「じゃあ、もう一働きしてもらおうか。」
基本的に「水気」の属性は苦手なのだが、戦闘じゃないし、精密な操作を必要としない今なら問題ないだろう。
《竜技・束縛の静謐、発動》
水の波動を纏わせ、竜刀が燦々と輝き始める。
《ステリアス・シーヴァの相生相剋〈水気〉属性が+1強化されました。》
これを海面に向けて打ち出す。
しかし、錆びるとか何とか言ってなかったか?
竜技の発動により海面が競り上がり、四方10メートルの海域が区切られたまま、頭上に移動する。
操作はここで終了。
後はそれを解除するだけで、内部に閉じ込められた肉食魚達は自動的に捕獲出来ると言う寸法だ。
遺体を食べた魚を食べるのは回避したいが為、灰にしてみました。灰なら大丈夫だと思う。そして、有効活用と言う一挙両得。
「よし、解除だ。」
水をぶち撒けるように、甲板は大荒れとなった。
ビチビチと飛び跳ねる色とりどりの魚達。大漁だ。
『うわー!巨大サメだー!』
手元に戻ったアムが大声で歓声を上げた。
確かに、一際巨大で黒い表皮の肉食魚が牙を剥いて甲板でのたうち回っている。
体長は5メートルほどもある。
凶悪な面構えで、ガチンガチンと顎を鳴らしていた。
これがサメ?という生き物だろうか?
《ステリアス・シーヴァの器用値が+1強化されました。》
さっくりと首を落としてみた。頭は食べられないから、しょうがない。
魚肉は淡白な感じの白色で、弾力がかなりありそうだ。
これをぶつ切りのように切り分け、加工してゆく。
勿論、得物は「竜刀アムドゥシアス」である。
『これだけでも、一週間ぐらいは持ちそうだよね。後のは天日干しにして、干物にしようよ?魚の内臓は腐るのが早いからさ〜。』
「…面倒くさいな。」
妙な所で調理法を指図してくるのがアムだ。
大体、今は剣の姿形なのに、毎回、味付けに対して講釈を入れて来られても困る。
俺は味付けに頓着しないし、栄養価が十分なら肉体的にも問題ない。味覚が無いわけじゃない事は名言しておく。
あえて高価な岩塩や茶葉、香辛料を購入してまで、味付けにこだわるのもどうかと思うのだが。
それを口にすると厄介な事になるので、今は甲板上で黙々と雷鉱石製の携帯用小刀を使い、サメのブロック肉をスライスし、小骨を抜き取ってフライパンに敷き詰める。
油は獣油である。少量しか備蓄がなかった為、貴重に使わなければなるまい。
『それ、油入れすぎだよ!』
無視して岩塩を削り出し、肉にまぶしてゆく。
別に直火焼きでも然程に変わらないだろうに。
『あと、ハーブがあったら最高だよね。バジルなんかあれば良いな〜。シーズぐらいなら、入手ルートがありそうだけど〜?』
もはや言っている事が理解不能である。
熱々に焼き上がると、コンロの火を消した。
焼く事により、歯応えが良さそうな肉がより一層膨れ上がり、肉汁が滴って食欲を誘う。
一気に頬張ると、岩塩の塩分と合わさり、旨味が口に広がっていく。
「…旨いな。」
熱が喉元から胃へと一気に降下し、食欲が満たされた。
一気に頬張り、一気に食べ尽くす。
『相変わらず、素っ気ない食べ方だよね〜。本当に美味しかったの?』
「戦士たるもの、いつでも戦えるように備える事が重要だからな。その為の早食いだ。」
『肉食だけじゃ、偏食傾向になっちゃうよ。ちゃんとバランスの取れたカロリー計算をしてだね、BMI値にも注意していかないと…。』
謎の単語が出てきた為、それ以降は黙々と干物作りに没頭する羽目と相成った。
その次も、その次の日も黙々と干物作りに励んだ。
風が無い為、だ。
決して、暇だったからじゃない。
そして、その次の日にしてようやく、あの男が姿を現した。
それが「ジ・ハド煌王國」に所属する黒鉄のごとき威容を誇る「ヴォルフ級先行試作機」であり、傭兵大隊の旗艦である事。
それを率いる者が隊長であり、「ラシャ・コウヤショウ」である事を知ったのは後日の事である。
◇ ◇ ◇
ステリアス・シーヴァ【竜絶壁発動中】
種族〈シーヴァ族〉
階級〈傭兵〉
所属国〈無し〉
カテゴリー〈8.5-〉
戦闘力 57
防御力 52
生命力 77
回避値 53
知能値 47
器用値 34 (↑1)
魔力値 58
相生相剋〈火気〉属性 43(↑1)
相生相剋〈木気〉属性 31
相生相剋〈金気〉属性 25
相生相剋〈土気〉属性 28
相生相剋〈水気〉属性 32(↑1)
竜技
九十九式(下位)見えざる(ブリトマルティス)赫炎〈火気〉
九十九式(下位)束縛 (カリュプソ)の静謐〈水気〉
九十九式(下位)復讐 (エイレイテュア)の逆鱗〈土気〉
九十九式(下位)開闢 (アイオロス)の威風〈木気〉
戦技
一刀両断
十文字斬り
固有能力
竜の血眼(竜眼第1位階)
轟炎の気
能力
大剣 剣 手斧 槍 棍棒 小盾 軽装 隠蔽 偽装(NEW) 物理抵抗 精神抵抗 魅了
魔力系術式
下位(基本三原理)火属性付加
下位(基本三原理)火属性魔道弾
下位(基本三原理)火属性誘導波動
下位(基本三原理)水属性付加
下位(基本三原理)光属性付加
称号
赤き竜人
傾国の貴公子
装備
竜刀アムドゥシアス〈大剣〉【竜絶壁発動中】
属性:暴君LV820〈聖遺物級〉
付与効果:暴君の加護〈第1位階〉
剣撃物理破壊力増幅
竜技増幅
所持者固定契約〈魂〉
耐久値:980/∞
竜面〈仮面〉
属性:竜面の者LV250〈聖痕武器級〉
付与効果:竜因子封印
自己再生
耐久値:200/∞
朱鎧〈皮鎧〉
属性:朱虎の皮LV15〈通常級〉
付与効果:物理抵抗〈皮〉
耐久値:85
携帯用小刀〈小剣〉
属性:雷鉱石LV30〈特殊兵装級〉
付与効果:物理特化
雷属性付加
耐久値:150
所持金
東方主計紙幣100枚
所持品
賢者の核石×5
岩塩
獣油