後日談
十二月二十四日、火曜日。
クリスマスイブな今日は、陽彦達が通う豊根塚高校の二学期終業式。体育館内に合わせて千名ほどの全校生徒と先生方が一同に集う。
校長先生が開式の挨拶をされたあと、校歌斉唱が行われ、
「えー、冬休み期間中の、生活のことについてなんやけどもぉ。えー、豊高生の子ぉらは今さら注意されんでも分かることやと思うねんけどな。深夜にふらふら出歩いたり、髪の毛染めたり、ピアスしたり、特に女の子は爪にマニキュアを塗ったり……コラそこぉ、ポケットに手ぇ突っ込むなっ! 寒いんはみんな同じやねん……《以下略》」
生徒指導部長も兼任され、最近怪我をされたのか指に包帯を巻いていた鬼追先生から長々と諸注意があり、閉式となった。
このあとは教室で、各クラスの担任から通知表が配布される。
一年三組では阪井先生が全員分渡し終え、いくつか連絡事項を伝えたあと、
「先生は年末年始はいつも通り、寒い日本を離れて家族とグアムで過ごすので、皆さんも楽しく冬休みを満喫してね」
こんなプライベートな予定も伝えてクラスメイトから羨ましがられ、
「それでは皆さん、冬休みもお元気でね。I wish you a Merry Christmas and a Happy New Year!」
最後にはこう締めた。そして学級委員長からの号令があり、解散となる。今日は久し振りに陽彦、桜子、夕也、秀一の四人でいっしょに下校することにした。
正門を抜けて、帰り道をゆっくりと歩き進んでいく。
「冬休みの宿題、めっちゃ多いよなぁ。ウィンターワーク、どの科目も分厚過ぎやろ」
夕也はため息まじりに呟いた。
「確かに多いよね。俺はもう、少しだけ進めてるよ」
「私は三分の一くらい終わったよ」
「僕はもう八割方済ませましたよん」
「はやっ。おれも数学のワークとか、ちょっと中身見てみたけど分からへん問題ばっかやったし。巻末の答を丸写ししねえと」
「ダメだよん寺浦君。自力で解かなきゃ」
「夕也、そんなやり方じゃ本当の実力は身に付かないぞ」
秀一と陽彦は率直に意見する。
「しゅういちもはるひこも、相変わらず真面目な意見やな。数学と英語は元々多く出されとったのに、おれなんか成績不振者への追加プリントまで課せられたし。こうなったら母ちゃんに頼んで宿題全部やってもらおっかなあ。絶対無理やろうけど」
「夕也くん、冬休みの宿題で困ったら私に相談してね。お手伝いするよ」
「いっ、いやぁ、それは、悪いし、自力でやるよ」
「そう? えらいね夕也くん。頑張れー」
ガチガチに緊張してしまった夕也の頭を、桜子は優しくなでてあげた。
「あっ、あのう…………」
すると夕也は放心状態になってしまった。
「夕也、相変わらず三次元の女の子苦手なんだな」
「……あっ」
陽彦に肩をパシンッと叩かれると、夕也はすぐに正常状態へと戻った。
「夕也くん、なんかかわいい」
桜子は楽しそうににこにこ微笑む。
「おっ、おれ、この性格だけは、どうしようもないんだよなぁ」
夕也は照れ笑いした。
僕も光久さんに頭をなでられると、同じようになってしまいそうです。
今、秀一は心の中でこう思っていた。
途中の分かれ道で夕也と別れ、秀一と別れ、家まであと五分くらいの場所で桜子と陽彦二人きりとなる。
「陽彦くん、今夜、陽彦くんちにクリスマスプレゼント、陽彦くんと陽英ちゃんと、今年は年中行事の擬人化さん達にも届けに行くから、楽しみに待っててね」
「うん、みんなきっと喜ぶよ。俺からも、今年は今までで一番高いのを用意したよ」
「それはますます楽しみだなぁ。陽彦くん、冬休みは海遊館とエキスポシティと、初詣もいっしょに行こうね」
「分かった」
「陽英ちゃんと、年中行事の女の子達も誘おうよ。きっと賑やかでより楽しくなるよ」
「それもいいね」
二人は楽しそうに取り留めのない会話を弾ませながら帰り道を進んでいった。
クリスマスのプレゼント交換はお互い幼児園児の頃から十年以上続けているのだ。桜子の希望で。
陽彦は自宅に帰り着くと、母に堂々と通知表を見せてあげた。
「陽彦、まずまずの成績ね。陽英と同じ大学行きたかったら、三学期はもっとええ成績取れるように頑張らなあかんよー」
「分かってるって」
上機嫌でお昼ご飯の醤油ラーメンを取り終え自室に向かうと、
「おかえりハルヒコくん。メリークリスマス! 今日のディナーはケイクとローストティキンとローストビーフと、クラムチャウダーとパンプキンパイとスモークサモンのマリネサラドとかを用意してくれそうだね。通知表、よかったら見せて欲しいな」
「Mele kalikimaka! E・ハルヒコ」
「Moi、陽彦お兄ちゃん。メリークリスマス♪ ヒュヴァーヨウルア♪ 今夜、陽彦お兄ちゃんや陽英お姉ちゃんや桜子お姉ちゃんが寝てる間に、素敵なクリスマスプレゼント贈るから楽しみにしててね。ヘクセンハウスも召喚したよ」
「おかえりなさいませ陽彦さん、今日は特に冷えますね」
「おかえりなさい陽彦君。もう八つ寝るとお正月ね。お正月はみんなで福笑いや凧上げや羽根つきやカルタなんかをして遊びましょ」
いつもと変わらず年中行事擬人化キャラ達がイラスト小冊子から飛び出して出迎えてくれる。お菓子の甘い香りも漂っていた。ローテーブル上に、雪を被った煙突付きの小屋型ヘクセンハウスが砂糖菓子のサンタとトナカイと雪だるまといっしょに飾られてあったのだ。
「ただいま、みんな」
陽彦は嬉しそうに帰宅後の挨拶をし、快く通知表をランタンに渡してあげた。
「体育が4なの以外は8多くてなかなかの好成績だね。これなら冬休み補習と無縁でたっぷり遊べるね。ハルヒコくん、冬休みはどうする? ワタシ、ハロウィン発祥地のアイルランドに旅行したいよ」
「あたしはフィンランドのサンタクロース村がいいな♪」
「アタシは常夏のハワイで年越ししたいぜ」
「海外旅行は金と時間が掛かり過ぎるから無理だな」
「わたくしは明治神宮に初詣したいわ」
「わらわも同じく」
「そこなら、なんとか行けそうだな」
明日からは、この年中行事擬人化キャラ達と過ごす初めての冬休みが始まる。
陽彦も桜子も陽英も、きっと今まで以上に楽しい思い出が作れるはずだ。
(おしまい)