一話 エピローグ『裏』
今日はテスト結果の発表がある。
貼り出されるのは職員室前の掲示板だ。
私達生徒会は数分後にお披露目になる結果を見るため職員室前に向かっている。
もちろん、自分達の順位も気になるところだが、どうせトップを独占していることは目に見えている。
となると私達が見に行く理由は、生徒会に必要な新たな人材を発見すること。
この学校の生徒会は基本スカウトで成り立っているので、勉強ができる者に目をつけるのは当然のことだ。
今回の実力テストは去年習ったものなので、一年生は受けていない。
そして三年生は今年度で卒業。
そうなるとターゲットは二年生のみだ。
私を含め生徒会の人数は五人。
うち、三年生は三人いる。
私は去年、一年生の十月に湖上と一緒にスカウトされた。
ようは当時三年生の先輩方が任期を終え、新たに一年生から補充したということだ。
同時に当時二年生だった山吹先輩はこの時期にスカウトされ私達と同じタイミングで入った。
残る二人の先輩は私と同じパターンだ。
そして、今回も生徒会の伝統になるのだが正直期待できない。
二年生の結果は昨年度から私と湖上が一位と二位を取り続けている。
しかも三位とは二十点近く差をつけてだ。
候補として名前が上がった人はもちろんいた。
私は一度も同じクラスになったことはなかったが、内気な性格らしく人前に出るのが苦手そうな娘だった印象だ。
任期を終え、私と入れ替わりで引退した当時の副会長だった先輩の妹ということで期待もされている。
成績も上位には名前はある。
(だが性格を考えれば、スカウトされることはないだろう)
気がつけば、職員室前の廊下には既に大勢の生徒が集まっていた。
流石に生徒会が全員いるとそれなりの迫力はあり、何より目立つ。
集まっていた、生徒達も私達に注目して始めた。
それと同時に多くの生徒から声をかけられる。
『あ、会長おはようございます』
「おはよう」
一年生の頃から生徒会に居ることだけあって会長は人当たりが良く多才なため人気が高い。
生徒会長を務めるのに相応しい人だ。
『一文字先輩もおはようございます』
「……」
完全に無視されてるが、挨拶した生徒は嫌な顔ひとつしていない。
三年生で書記の一文字先輩は無表情で感情を表に出さず、まるで人形のような人だ。
必要最低限の人付き合いしかしないが、かなり賢い。
皆そのことを知っているが彼女と会話がしたいがため話しかけている。
『山吹、また助っ人お願いね』
「おう、アタシに任せな!」
山吹先輩は明るいが少々口が悪い。
そのせいか副会長にも関わらず会長よりもすぐ前に出る。
だが勉強は当然だがなによりスポーツが得意で多くの部活に引っ張りだこだ。
『湖上さん、今日も可愛いね』
「ありがとうです」
私と同学年で会計の湖上は正直子供っぽい。
今も嬉しそうに照れているが、それは『小さくて可愛い』という意味だ。
本人は気づいていないようだが。
身長が小学五年生の平均にも及ばず、語尾に『です』を付けることで子供らしさが増している。
また、身長がコンプレックスらしくからかわれることが多い。
私はというと真面目過ぎるが故、生徒会メンバーや友達以外からは他のメンバーのように話しかけられることは、ほとんどない。
「皆さん、失礼します」
「ほら、お前ら少しどけ」
他の生徒の相手をしていると、小林先生と小田切先生が掲示板に表を貼りにきた。
先に三年生の結果が貼られた。
「やっぱり哉ちゃんには勝てないなぁ」
そうは言うが、会長の名前は二位にある。
一位の欄には『一文字哉』と表記されている。
流石一文字先輩だ。
合計の平均点が一五〇点ほどのテストで全教科満点をとり三百点を出している。
本人は当然と言わんばかりに読んでいる本からチラッと一瞬だけ結果を見て、すぐに本に視線を戻した。
「二人とも凄いな」
二人を称賛する三位の山吹先輩だが、二位の会長と三点しか変わらない。
そしていよいよ二年生の結果が貼り出された。
「……え?」
驚きのあまり声をもらしてしまった。
驚いているのは私だけでなく、一文字先輩を除く生徒会メンバー全員。
それどころかこの場にいる生徒が驚いていた。
私がとった点数は二九五点。
いつもなら一位でもおかしくない。
湖上は私と五点差で順位は私の次だった。
だが、一位の欄の名前には『柏木孝太』と記されていた。
しかも満点で一位。
「彼って優しいだけじゃなく、頭もいいんだ」
静かな空気の中会長が嬉しそうに呟いた。
(優しい?)
会長は彼と面識はあるのだろうか。
「コイツって噂の転校生だよな?」
「はいです。カッコいい人です」
クラスは違えど同じ学年であるいじょう、何度か見ているが確かにカッコいい。
でもその人に負けるとは思わなかった。
「じゃあ彼で決まりかな」
「そうですね」
私は会長の言葉に同意した。
負けたことによる悔しさもあったが、生徒会のことを考えると彼が必要になるのは分かる。
他のメンバーも各々賛成し彼をスカウトすることに決定した。




