一話 プロローグ
今までの日常を変える新しい日常。
少女との出会いで俺の日常は大きく変わる…
と、大袈裟なものではないので、
緩い気持ちで読んでください。
「あ、あの……私と部活をつくってください!」
放課後の教室で俺の目の前に頬を赤らめながら俺に必死で懇願してくる女子生徒が一名。
他人から見たら告白シーンなのだろう。
だからこそ一旦、この状況を整理しよう。
時は二週間前に遡る。
四月、俺は高校二年生に上がるはずだったが親の都合で転校することになった。
こんな俺に対し、誰しもが言おうとしていることは分かる。
アニメや漫画、ライトノベルのよくある設定だ。
その点を除けば、俺こと柏木孝太は少し頭はいいが女子と会話したりするのが苦手な普通の高校生。
いや、よく考えたら普通ではないが、それはさておき。
俺はこの街、天凱町へやって来た。
学校も徒歩で行ける距離にあり、近くには映画館やアミューズメントパークをはじめとする、学生が遊んだりデートしたりできるスポットも多くある。
俺が昔住んでた場所に比べればあきらかに、都会だ。
家の周辺は住宅地の為、コンビニくらいしかないが少し歩けば、スーパーマーケットをはじめ、水族館もありその点についてはあまり気にならなかった。
逆に気にしていたのは今後の人間関係。
学校での友達はもちろんだが、近所付き合いも少し重要かもしれない。
「ここが新しい家かぁ……」
家を見上げながら俺は一人呟いていた。
俺は今新居の前に、両親と共に居る。
「じゃあ、お父さんとお母さんは仕事場に顔出しに行くから、荷物の整理とお隣さんへの挨拶頼んだぞ」
父さんは持っていた手荷物を押し付けて、俺に言った。
この、うちの両親は問題点が二つある。
一つは昔から多忙で帰りも遅かったこと。
小さい頃は寂しかったが、この年齢にもなれば逆に嬉しくなるものだ。今になっては大した問題ではない。
「わかってるよ。父さん」
「孝太は、私達の息子なのよ。その甘いマスクで隣の家の……いえ、近所のおばさま方をメロメロにして構わないわ!目指せハーレムよ!せっかくの一夫多妻なんだから」
そしてもう一つはこれだ。
やたらとテンションが高いこと。
なおかつ母親はもう四十過ぎなのに二十代にしか見えないし、父親は独身だったら凄くモテただろうという印象だ。
そんな二人の子供である俺は、多分だがカッコいい部類に入るのだろう。何度か芸能事務所などにスカウトもされたこともある。
そして、この国では何十年も前に法律が変わり一夫多妻制度が導入された。
母さんの言う『ハーレム』とはそのことだろう。
人口の三割未満しか男性がおらず少子化が進んでいったためとられた処置だ。しかし実際利用している者はおらず、うちの父親でさえやっていない。
理由としては経済的な面で問題あるのだろうが、何より女性が嫌がる例が多いらしい。
好きな人を自分だけで独占したいのは、しょうがないことだ。
その例がうちの母親なのだが、自分の夫はダメなのに息子には強要してくる。
本人曰く『息子がモテるのは誇らしい』からだそうだ。
痛くなりそうな頭を押さえつつ、呆れながら母さんに反論した。
「はぁ、人妻は守備範囲外……それに隣の家のチャイムを押して男性が出てきたら?」
「それはあれよ!メロメロにしちゃいなさい!」
本当に無茶苦茶な母親だ。
「嫌だよ!恋愛対象は女性のみだよ」
「でも同年代の女の子と上手くしゃべれないし、キョドったりしちゃうくせに?」
「年上とか年下は大丈夫だし!」
図星をつかれ思わず焦ってしまった。
それに年齢を聞かずに、一時の付き合いであるなら問題はない。
「何故か同い年の娘だけダメなのよねぇ」
少々呆れながらに呟く母親に返す言葉もない。
唯一幼なじみでしゃべれた娘もいるが、転校するいじょう、その娘を頼りにもできない。
「俺をいじるのはもういいから……早く行った方がいいんじゃない?」
「もうこんな時間?!じゃあ後はよろしくね!」
母さんは時計を確認すると、両親ともすぐに行ってしまった。
「じゃあ……挨拶行こうか……」
一人残された俺はまだ何もしていないのに大分疲れた。
隣の家のチャイムに指を添えたとき、ふと思った。
(同年代の女の子だったらどうしよう……)
ここで、くよくよしていてもしょうがない。
年齢を聞かなければいいだろうし、なるようになるだろう。
『ピンポーン』とチャイムが鳴り、待つこと五秒。
『はーい。どちら様ですか?』
インターホーンから聞こえた声、これは女の子だ。
(……最悪の展開だ……いや、年下かもしれないし、年上かも……なんとか平然を保たないと)
「あの、隣に越してきた者ですが挨拶しようと思いまして」
保つと言っても、ただ大丈夫と思い込むだけの作戦だ。
『それなら今から出るんで待っててください』
ドアが開き、そこにはばっちり同年代くらいの娘がいた。
(どうしよう……最悪なパターンだ!どうする?!)
同い年と決まったわけではないが、内心の動揺が凄い。
「あのぉ……」
俺の沈黙に、向こうが口を開いた。
(ヤバイ……無言のまま何秒か過ごしてしまった……とりあえず何か言わないと)
「すみません。つい見惚れちゃいまして」
「……」
(……何言ってんだ俺!テンパりすぎだろ!確かに可愛いよ!でもこの場合は名乗るが賢明だろ!落ち着いてもう一回やり直せ……)
焦りすぎて言ってることに思考が追いついていない。
自分の言葉に対し自分でツッコミ、咳払いをして改めた。
「急に変なこと言ってごめんなさい。あまりにも可愛かったんでつい……」
(……ついじゃねぇだろ!バカか俺は!もう帰りたい)
恐る恐る相手の女の子を見てみると少し照れたようにうつむき、困惑気味のご様子だ。
「その……嬉しいです。私、男の子と話すの苦手で……ですから男の子から可愛いなんて言われたの初めてで。しかもこんなイケメンさんから……」
声は小さいものの聞き取れた。
少女の言葉に思わず、目を見開いた。俺も褒められたからだ。しかも満更でもなさそうに。
少し恥ずかしくなり、俺は慌てて本題を話した。
「そもそも、自己紹介まだでしたね。今日から隣に住むことになった柏木という者です。ちなみに俺の名前は柏木孝太です。歳近そうなんで、分かんないこととかあったら頼ってもいいですか?」
「全然いいですよ。うちは牧瀬といいます。私は牧瀬葵です。今年度から山之神高校の二年生なので年齢は十六です」
彼女の年齢を聞いて、この娘と普通に会話できていることに正直、驚きだ。
今のところ、身体になんの異常も起こらない。
「じ、じゃあ俺と同い年なんですね……そ、その実は俺も異性と話すの苦手で。といっても、年上とか年下は問題ないんですけど、同い年だけは……でも牧瀬さんは話しやすいですし、人脈も広そうで」
俺がこんなにまともな状態で、話せるのは幼馴染みの雪以来だ。
「実は私…同性にも友達いなくて……」
「……え?」
意外な発言に戸惑ってしまった。
知らなかったとはいえ、地雷を踏んでしまった。
「だから……その……」
言葉の途中で俯いてしまった。
だがそれもそうだろう。
言おうとしてることは察しがつく。
しかしそれを初対面の男子に言えるかと言われたら、この娘にとっては難しいのだろう。
俺も逆の立場で、なおかこの状況で自分から切り出すのは躊躇してしまう。
だがここ俺から行くべきだろう。
彼女だけでなく、自分が変わるためにも。
「あ、あのさ……えっと……俺こっちに越してきたばかりだから、知り合いがいないんですよね……それでなんですけど……俺と……友達になってくれませんか?」
(言えたぞ…!)
一瞬驚いた様に目を見開いた牧瀬さんだったが、すぐに笑顔になってくれた。
「こちらこそよろしくお願いします!」
その瞬間『ドサッ』と背後から何かが落ちる音が聞こえた。
後ろを振り向くとそこには俺たちと同い年くらいで、物静かな牧瀬さんとは逆のイメージつまり活発そうな女の子とそのお姉さんらしき女性。
女性の方はとても綺麗な方でニコニコと笑顔を絶やさない落ち着いた感じの人だ。
顔は似てはいなかったが、雰囲気でその子のお姉さんだと思った。
「あの、お、お、お姉が……お、男を連れ込んでる!」
「あらあら。まぁまぁ」
(ん?お姉ちゃん?ってことは妹か)
二人は牧瀬さんの姉妹ということになる。
「ちょ、ちょっと薫。おちちゅいて」
何を焦っているのか、言葉の後半は噛んでいた。
「いや、牧瀬さんも落ち着こうよ」
『落ちちゅいてます!』
妹さんまで反応してしまった。
そうか姉妹だから二人とも牧瀬か。
それにしても姉妹だけあって、同じ反応している。
「落ち着いてますよ~」
妹どころか、姉までも反応している。
「いや、お姉さんは落ち着いてるのは知ってますよ。じゃなくて葵さんに対してですよ!」
「下の名前で呼ぶ仲?!」
「はわわわ……」
(誤解が誤解を生んだだと?!)
というか、牧瀬さん照れかた可愛すぎだ。
「私初対面の人には、こんな雰囲気だから母親だと間違われること多いんですけど~。お姉さんって言われて少し嬉しかったですよ~」
「そりゃ、綺麗な方ですから母親には見えないと言うか……じゃなくて!話、脱線してますよ!」
さらにお姉さんからは、マイペースに自分の話をされた。
さっきからツッコむことで精一杯だ。
「暦姉まで口説いてる!」
妹さんの止めの一言で、俺はツッコむことを諦めた。
五分後、なんとか事情を説明できた。
「柏木さんってお若い方だったんですねぇ」
「あれ?説明しましたよね?両親とも仕事で代わりに俺が挨拶しに来たって」
「あぁ!そうでしたねぇ」
姉の暦さんは基本緩かった。
ちなみに牧瀬さんだとややこしいので、全員下のな名前で呼ぶことになりました。
「私、今度お姉と同じ山之神高校に入学する新一年生なんですけど。孝太さんはどこの高校に行くんですか?」
三女の薫ちゃんが葵さんのことを『お姉』と呼んでいるのは昔かららしいが、暦さんには何故か名前をつけていた。
でも、特には気にならず薫ちゃんの質問に答えた。
「そういえば、まだ言ってなかったよね。実は俺も山之神高校に転校するんだよね」
「じゃあ先輩ですね!一年生で分からないこと多いんで頼りにしてますよ」
「いや俺、転校生だから。ただ勉強なら多少は教えられるところがあるかも」
「本当ですか?!一番の不安なところだったんですよ!あ、そうだ!折角なんで連絡先交換してください」
「別に構わないよ」
薫ちゃんの積極性に少し押されつつ、ポケットから携帯を取り出した。
薫ちゃんと連絡先を交換中、葵さんが視界に入った。
明らかにいじけている。頬を膨らませるなんて典型的だ。
その異変は暦さんも感じていたらしく、暦さんが葵さんに原因を訊いた。
「どうしたの~?」
「別にいじけてなんかいないよ」
そして勝手に自爆している。
考えてみたらこの娘は友達がずっといなかったから、俺が薫ちゃんの相手ばかりしているから気に触ったのだろう。
過去から何かを抱えているというのは、多少だが俺に似ている。
「あのさ。葵さん」
「何ですか?孝太さん」
どうやら、普通に反応はしてくれるようだ。
「連絡先交換しないか?」
「え?いいんですか?」
俺の提案に嬉しそうに飛び付いてきた。
「当たり前だよ。だって、その……友達……だし?」
「うん!」
この日一番の笑顔を葵さんは見せてくれた。
正直、俺がこんなに積極的になるなんて思わなかった。
もしかしてこの娘と一緒にいたら、変われるのかもしれない。
「孝太くん。私ともお願いしますね~」
(暦さん、空気読もうよ……)
また、葵さんの頬が膨らんでしまった。
これが俺と葵さんの出会いと始まり。
読んでいただき有り難うございました。
ストーリー的に長くなるので、付き合ってくだされば幸いです。