03
結菜と小十郎が対峙する数時間前……神月学院生徒会副会長、弥生は西都中央の第一区画にあるセントラルタワービル内部の一室にいた。
「これは貯まっていた分の議事録です、分類毎に仕分けしてあります」
「君には迷惑を掛けるな」
弥生は顔を横断するように大きな傷がある高年男性、月峰竜源に学院の議事録を渡した。
「いえ、私は何も全ては会長の人望と能力です、月峰学院長」
「本当ならあの娘をこの戦いに巻き込みたくはなかったのだがな…」
「学院長のお気持ちはお察しします」
「あの娘は優し過ぎる…優し過ぎるからこそのリングの能力だが、それ故に肉体への負担が大きい…」
「心配いりません、それも今年度の戦いで終わりです」
「霧里くん、楓のことをくれぐれも頼むよ」
「はい」
弥生が月峰竜源との会話を終え、セントラルタワービルから出た頃、西都のとある一室に二人の男女がいた。
「これが中央から来た物です」
白衣を着た女性が灰色の髪に白衣と眼鏡を身につけた中年男性に中央が破損しているリングエボクの魔法陣を見せた。
「これは…破損?いや、因子そのものが消えている。強大な魔法科学式陣であるリングエボクの一部を消し去るとは…」
男はリングエボクの魔法陣を見て思った。
「これが資料です」
女は眼鏡の男の前に資料を表示した。
「神月の副会長ね…あれは月峰の手中にある訳か」
資料に載っている写真を見て思った。
「この情報、三部会の連中には?」
「いえ、まだ…お伝えしますか?」
「必要ない、情報は破棄しておけ…それとD研の奴らにサンプル採取を怠るなと言っておけ」
「分かりました」
女は眼鏡の男に見せた情報を削除した。
「やっぱり詰まらないね、かりん」
「Fクラス相手じゃ一方的過ぎるものね、りりん」
灰色の世界でロリ服を纏った少女、音無りりん(オトナシリリン)とゴスロリ服を纏った少女、音無かりん(オトナシカリン)が物足りない様子で会話を交わしていた。そして、その足元には数十人の神月学院の生徒が横たわっていた。
「相変わらず戦闘中は見た目に似合わず悪魔みたいなやっちゃな」
遠くビルの屋上、所々髪を編み込んだ少年、鷹野薙は銃のスコープから様子を覗きながら引き金を引いた。
発射された弾丸は立ち上がろうとする一人の神月学院の生徒を撃ち抜いた。
そして、薙はスコープから目を外すと塔の紋様と星が二つ入ったルークのリングに狙撃銃をしまった。
「まあ、人のことはいえへんけど…」
少年はそう言いながら去ろうとしたが、立ち止まった。
「よう一発で位置が分かったな」
りりんとかりんが薙の背後に浮いていた。
「さすがはふたなりの悪魔や」
「りりん達の獲物を取らないでよね」
「覗き魔さん」
「誰が覗き魔じゃい」
薙はかりんにつっこんだ。
「かりん達以外はどうなってるの?」
「ポーン達の通信によると神月に近い図書館で暁先輩と敵のビショップが闘っとるみたいや、あと恐ろしいんがうちの新人のポーンが一人で三十人はやったらしいわ」
「さっ!三十!まっまあまあやるじゃない」
「あほかい!やることあるかい、味方含めて三十や」
薙は溜め息をついた。
颯太は灰色の世界を学院に向けて駆けていた。するとさっきいた図書館から幾つもの木が伸び上がり、大きな音を立てて地面に突っ込んだ。
「今のは?」
颯太はその音の方向に気を配りながら走り続けた。
「やめろ!やめてく……」
その声で颯太は立ち止まった。すると路地から陽光学園の制服を着た少年が蹌踉めきながら出てきて倒れた。そして、目の前に白い髪と陽光学園の制服が血に染まった少女、蓑井春翠が現れた。
颯太は現れた春翠と目が合った。すると春翠は颯太に向かって手を伸ばしてきた。
颯太はそれを避けてまた学院に向けて駆け出した。
「何なんだ、さっきのは…自分の仲間を手に掛けるなんて」
颯太は後ろを振り返ったが追ってくる様子はなく、春翠は去っていく颯太をただ見つめていた。
春翠の視界から颯太の姿が見えなくなると黒く長い髪の前髪が揃った少女、神楽夜姫が話し掛けてきた。
「何かあったのですか?蓑井さん」
春翠は何も言わずに姫の横を通り過ぎていった。
「待って蓑井さん」
姫は春翠の後を追い掛けた。
「学院だ」
春翠と出会ってから少し走ると神月学院の校舎が見えてきた所で誰かに名前を呼ばれた。
「颯太」
学院の方からリングの装備を纏った篠が現れた。
「捜したぞ、何処にいたんだ」
「……何処だっていいだろう!
颯太は篠の格好に憤りを感じ、突然、声を荒げると篠を突き飛ばし、学院へと駆けていった。
「颯太……うっ……」
篠の胸から刀の切っ先が現れ、背後にはローブのフードを頭から被った者が不気味な笑みを浮かべていた。
刀が篠の身体から引き抜かれると篠は前に倒れかかった身体を翻し、ローブの喉元を掴んだ。
「…どうゆうこと…だ…どうして…」
だが、すぐに手から力が抜けて布が指の間を滑り、篠の身体は地に臥した。
颯太は学院の門を抜けると誰もいない広場の噴水の前で跪くと地面を殴った。
「くそっ、僕は何をやってるんだ親友に当たるなんて……」
そこへ何かが地面に落ちた鈍い音が聞こえた。
「し……篠?」
血だらけの篠が倒れていた。
「…何が……」
颯太は目の前の出来事に動揺して少しの間、理解できなかった。
ふと視線を少しあげると学院の門の前にローブのフードを頭から被った者の手に握られた血の付いた刀を見てようやく理解した。
颯太は篠に駆け寄り、跪くと篠の上半身を持ち上げて名前を呼びかけた。
「篠!篠!篠!…!」
何度も呼びかけたが返事は返ってくる事はなかった。
「何で…何で篠を!」
ローブを着た者の方を睨み言った。
「意味などない」
ローブを着た者は口を動かすが声は虚空を揺らさず、何故か颯太の頭の中に響いた。
「意味もなく殺したってゆうのか?…そんな…そんな事で篠を…」
颯太の声は怒りに震えていた。そして、リングの模様に黒い炎が灯り、炎は髑髏の形を成した。
「あ゛ぁぁあああ…」
颯太の叫び声と共に颯太の周囲から灰色の世界は消え、満ちた月と星影が地を照らす世界へと変わった。すると颯太は身体から力が抜け倒れた。
遠退く意識の中、颯太の瞳には近付いてくるローブを着た者の姿が映っていた。
「Re:Endless Breaker(無限回帰を破壊する者)…」
ローブを着た者が一言、呟いた所で颯太は意識を失った。




