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国際クリスマス連盟オペレーターの聖夜@小さなモンスターサンタ

宅配サンタ3千人! 集合しました!! 」


クリスマス……


「宅配サンタ! 総員プレゼントをソリに積み込め!! 」


キリスト教徒にとって神聖な日……


「サンタサポート員! 総員オペレートルームに集合しました!! 」


日本人にとって恋人たちが共に過ごし、子供たちがすやすやと眠り、独り身たちが罵詈雑音を浴びせる日……


「サンタサポート員! 総員オペレート開始!! 」


◆◆◆◆◆◆


 モニターに夜空に飛び立ってゆく総勢3千人の宅配サンタたちが映し出される。今宵、彼らがこの日本中に幸せを運ぶのだ。


「今年のソリはまた高性能になってますねー。えっと認識妨害機能がバージョンアップして人物捜索レーダーが新しくついたんですっけ? そんでもって機体の重量は30kg減少と。開発班頑張りすぎじゃないっすか? 」


「まあ去年のクリスマスには3人もの目撃者が出たからな。今年こそは目撃者ゼロをと躍起になってるんだろう」


 無数のコンピュータの整列するオペレートルームの一角でモニターを見ながらつぶやく若い青年と中年の上司らしき男性が話していた。


「去年は子供部屋にカメラが仕掛けられてたんでしたっけ? 大変ですねー宅配サンタたちは」


「いや、一番大変なのは三千人の宅配サンタの情報を30人で処理するオペレーターだと思うんだが……」


「いやいや、俺は確かにここのセキュリティシステム破るくらいの技術はありますけどね? それくらいここの人たちなら普通に出来ますって」


「確かに時間を掛ければ旧セキュリティシステムくらいなら突破できるだろうがお前が新しく作ったセキュリティシステムはここのお前を除いた29人がやっても無理だと思うぞ? 日本で最高峰のウィザードクラスのやつらが29人でもだぞ?」


 上司の男性が呆れながら言うとおり、この青年は数年前にペンタゴン――アメリカ国防省――レベルのセキュリティを誇るこの国際クリスマス連盟・日本支部のセキュリティを簡単に破るほどの実力を持っている。故にこの青年をオペレーターにスカウトし、更なるセキュリティシステムの向上に当てたのだ。

 ここ、国際クリスマス連盟・日本支部は日本国内の地下に広がる巨大施設で、その存在は一部の人々と敵対勢力にしか知られていない。この絶対的な秘密主義は創設者の「子供の夢は絶対的に尊く美しい宝であり、誰であっても汚してはならない至宝である」という理念からきており、連盟は創設から数百年経った今でもその理念を貫き通している。また、その絶対秘密主義から優秀な技術者をスカウトし、システムの向上を図っているため既に国家機密級のテクノロジーが開発されている。そのテクノロジーの代表が高速低空飛行型個人用搭乗機通称そりだ。


「あ、関東地方と北海道地方の宅配完了しました。中部地方50%完了してるんで近畿地方に1000人送ります。このまま順調に行けば2時くらいには宅配完了でしょうねー」


「お前はなんで宅配サンタ全員の配達状況の分析と統合と1000人の同時コンタクトと配達速度の分析結果からの終了計算までこんな短時間で出来るんだ……」


「こんくらい普通っす」


 普通はできねーよ! とオペレーター29人と上司の心が一つになった。このオペレーターたちも国内の最高レベルの技術者たちだが青年ほどのスキルはない。決してオペレーターたちが劣ってる訳ではなく青年が異常なのだ。


「はぁ……」


 何を言っても無駄だと悟った上司がため息をつく。


「あ、今年はSDTの襲撃はないのか?」


「あー、北海道地方で30回、関東地方で27回、東北では2回、中部で97回、近畿で19回あとは集計中です。今年は中部で集中攻撃してますねー」


「年々増えてるな……」


 SDTとはSanta、Death、Teamの略でこのサンタ撲滅を目的とする連盟の敵対勢力で全国のサンタを恨む人々から資金を調達し、毎年のようにサンタを襲撃する軍人や技術者の集団である。またSDTには元SDT技術者の開発したコンタクトの機能の影響でそりの機能が発動しない。いや、発動はしているが効き目がないのだ。その開発者は去年恋人が出来て今では連盟の開発班に配属されている。開発者曰く、「怨念の力って恐ろしいものですねー。今ではあんなの作れないっすよー」だそうだ。またSDTは毎年人数が増加しており連盟の悩みの種となっていた。


「あ、SDTで思い出しましたけどここ襲撃されてますよ? 」


「ファッ?!おまっ、何で言わないんだよ?!」


 青年の爆弾発言にうろたえる上司。チッとしたうちをして脳を切り替える。


「お前は情報分析と結果の報告、それとセキュリティレベルをレベル5に。警備員に連絡もしてできる限り足止めしておけ! 」


「言われなくてもしていますって。敵は30人襲撃時の人数は100人で通常時のセキュリティシステムで70人やられています。装備は全員バラバラですが強力な改造が施されています。5分前にセキュリティレベルを5に移行。敵の現在地は2階層のD地区です。警備員は既に出動しています。」


「お、おう……やるな」


「さすがにやばくなったら報告しますって。今年も有能な技術者抱えてますねー、てか俺的にはSDTの方を応援したいんですけどねー」


「お前……」


「だって、連盟の中で独身なのって俺くらいじゃないですか」


 そう、この国際クリスマス連盟はその99%が既婚、または恋人のいる男女で構成されており、青年のような独身男性はごくごく少数のものなのだ。そして、逆にSDTには既婚、または恋人のいるものはいない。故に青年は自らに似た境遇のSDTのメンバーを応援したいと思っているのだ。


「そんなこというなよ。というかお前があっちに回ったら一瞬で俺たちが負けるぞ? そうしたら大事な子供たちの夢も失われる」


「それはいやっすねー」


「なら頑張って阻止してみやがれ」


 実際、青年がSDT側に回ると連盟はすぐに崩壊してしまうだろう。それだからこそ連盟は青年の動向を常に監視している。実際、上司は青年の監視役である。

 青年はぐっと伸びをすると鼻歌を歌いながらキーボードをたたく。


「あ、そうだ。警備員に撤退命令出してください。俺遊びますんで」


「?! 総員! 撤退だ!! やられるぞ!! 」


 遊ぶ、青年の一言で上司が血相を変える。マイクを握り締めて撤退命令を発令する。


「んじゃ、いっきまーす」


 カカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカッ


 オペレートルームにキーをたたく音が響く。ほかのオペレーターたちは現在も全国を飛び回っているサンタたちのサポートを死ぬ気でやっている。なんどもいうが上司と話しながらサポートできている青年が異常なのである。しかも青年は今、サポートをしながら敵の攻撃を妨げている。


◆◆◆◆◆


【撤退を要求します、速やかに撤退してください、撤退の意思が確認できない場合は我々と対抗する意思があるとみなし、相応の措置をとります。くり前します。撤退を要求します、……】


 施設中に青年が一瞬で作り上げた撤退を促す合成音声が流れ、緊急事態のランプが点滅する。SDTと接触していた警備員たちは上司の撤退命令を聞き、一瞬で近くのシェルターへ逃げ扉のロックをかける。SDTはその警備員を追いシェルターへ向かうがロックに阻まれ先に進めない。


「へっ、こんなロック。俺たちゃここのセキュリティシステムを解除したんだぜ? こんなもの……」


リーダー格と思われる迷彩服をまとった中年が解除コードを打ち込む。


【解除キーが違います】


「なっ?! このマスターコードが使えない?! 」


 どうやらこのSDT集団はどこからか入手したマスターコードを使い潜入してきたようである。


◆◆◆◆◆


「……おい、お前。マスターコードなんて作ったのか? 」


「いやー、そういえばそんなもんも作ったような……まさかオクにサンタを破る方法って出品したのが落札されていたとは……」


 オペレートルームに微妙な空気が流れる。どうやら鉄壁の城の防御を破ったのは製作者本人だったようだ。


「ま、まあアンロックコードは変更しましたしいいっすよね? 」


「ああ、拳20回で手を打とう」


「全力で敵の排除に努めます!! 」


 上司の一言で青年の目の色が変わった。

 SDTは何回もマスターコードを試したようだが、開かない。ついに力技に出たようだ。30名の総攻撃を受け扉に傷がつく。


【攻撃を確認しました。反撃を開始します。また我々は降参に応じます】


 合成音声が反撃を知らせる。

 ブーブーという低い音と共にSDTの四方を壁が囲む。SDTは完全に閉じ込められた。


「さて、反撃開始っと」


 青年がつぶやき、壁が内側に迫ってくる。徐々にSDTの顔色が悪くなる。


「ヒヒヒ……おっといけねえよだれが……」


 じゅるり、と青年が舌なめずりをする。


「お前……前々から思ってたけど性格悪いな……」


 うわぁ…と上司が顔をかしめる。その反応に青年はむっとして八つ当たりのように壁の速度を速める。


◆◆◆◆◆


「や、やめてくれ!! 降参!! 降参するから!!」


 オペーレートルームの会話など露知らず、突然速度を速めた壁にしばらくは耐えていたSDTたちだったが、やがてぎゅうぎゅうの押し競饅頭状態となり一人が降参と叫ぶと次々に降参していく。壁の中はもうパニックになっていた。


◆◆◆◆◆


「どうします? 」


「どうしますって、停止してやれよ……」


 こいつ本格的にやべえと思いながら壁を停止させる上司。面白くないなーと青年はいやいやながら壁を停止させる。壁の中ではいい歳したおっさんたちが汗や涙でグショグショになりながらも安堵の表情を浮かべていた。


【あなたたちを開放することが決定しました。これより通路を開きます。分岐する地点は出口へ向かう場所以外全て閉鎖されています。繰り返します……】


 合成音声が流れ壁の一面が開く。SDTたちはわぁ!と歓声を上げながら我先にと飛び出していった。


「ふぅ、一件落着っと。あ、宅配サンタたちも全員配り終えたみたいですね。帰還命令出しておきます」


「ああ、よくやった」


「あざーす」


「警備員は出口でSDTから装備を没収し解析班へまわせ。ほんと、SDTにいる有能な技術者も連盟に入ってくれたらいいんだがなぁ」


 上司が警備員に命令を下し、疑問を浮かべる。


「そんなことになったらだめじゃないですか」


 ふふん! と青年は鼻で笑った。


「ん? 何でだ?」


「だって、SDTにあれくらいの装備を開発できる技術者がいないと楽しくないじゃないですか」


 やっぱお前性格悪いわと上司がうなだれる。オペレートルームには地上の幸せムードと正反対の生ける屍と化した元オペレーターたちと残念な会話を続ける青年と上司がいる残念な空気が漂っていた。


今回の『螺旋 螺子』sのクリスマス企画に誘ってもらい、今だスランプ中ながら駄文を書かせて頂きました

小さなモンスターです。今回の作品は何度も推敲しながらの作品で実は4作ほど没にしました。ここまで読んでくださった読者様も、この企画に誘ってくださった『螺旋 螺子』sも誠にありがとうございました。

それではみなさん! メリークリスマス!!

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