サンタ(笑)とニートの聖夜なんてどうでしょうか?@燈めだかサンタ
なんで、この時の僕は素直じゃなかったのだろう。
『お前に僕の何がわかるんだ! 僕はお前が元気な顔をしているだけで、それだけでいいんだ!』
『わかんない! わかんないよ! でも、私はあーちゃんにあーちゃんの為に生きて欲しいの!』
『だから! 僕は、…あぁ! もういいさ、明日からお見舞いなんて行かない! ハッ! 懲り懲りだったんだ! 僕だって友達と遊びたかったんだよ! せいせいするよ! じゃあな! お前の望み通りしてやるよ!』
『……うん、ありがと』
『…………チッ!』
次の日、妹は死んだ。
なんで僕はこの時もっとマシな別れ方が出来なかったのだろう。
今になっても後悔が止まらない。
もっとちゃんと優しくしてやればよかったんだ……。
ごめん、ごめんなさい。
僕は、目の前に聳える墓石に何回も何回も謝罪した。
死者から返答など返ってくるはずもないのに―――――――――――――――。
×××
僕の目は奇病にでもかかっただろうか?
そんな数奇な思考を回してしまうくらいの現実に僕は……いや、これ現実なのか?
六畳、世間一般的な広さの部屋を拠点とし日々ダラダラと為すことなく活動を続ける僕は【ニート】である。 広くも狭くもない部屋に文庫本やパソコン等の電子機器、または食料品のゴミなどを散らかした傍から見れば汚らしい部屋……だろう。 そんなふつry……な部屋に謎の人物(ここではXと代用しよう)がいる。
さらにその名前も何も知らないXの格好に僕は違和感を覚える。
赤を基調とした生地に所々、白のモコモコや黒いベルト…そして、極めつけは赤いスカートに黒い二ーソ!…だった。
世間は今はクリスマス真っ盛り……今日は十二月二十四日。
そして、僕の前にいるのはどう見ても……サンタ? の様なコスプレをした女性だった。
ニート(二十歳♂)、ゴクリと生唾を飲み込みます。 ……ゴクリ。
まじまじとそのスカートとの間に出来た絶対領域に目線を………合わせようとして目が合った。
ヤベェイ。
僕はサッと視線をXから逸ら……、
「おーい、社会のゴミ。 あんたにプレゼントを渡しに来たぞーコラ」
……喋った。………喋った!?
しかも罵倒から始まるスターティッドォォォォ!!!
「おーい、聞いてる駄肉? あ、肉は喋れないねごめんね、あっはは」
「………」
罵倒の嵐である…口を開く隙すら与えてくれない。
すると彼女…Xは「はぁ」と溜息を着き…こちらに歩み寄ってき…て、えぇ!?
―――――――――――――――ドスン。
馬乗りになった。
………えぇぇえ!???
何々やっちゃってもいいの!? いいの!?
見知らぬコスプレサンタ美少女とクリスマスにウハウハENJOY! しちゃっていいんですか!?
ハッ! これがもしかして お と な のクリスマスプレゼントなのですかぁぁぁ!!!!
と、僕が要らぬあんなことやこんな事を考えていると彼女の言動で現実に引き戻される。
「ゴミ……顔がキモイ、てかガチめに引くからやめて殴る?」
リターン・ザ・ドリーム……的な。
すると、彼女は僕からの返事がないせいか会話がないせいか不機嫌になり、その顔(近くで見たら結構可愛いな)を引き攣らせる。
「駄肉、答えろプランクトン……無視? ねぇ? 無視なの? ……ならばこっちも……よっと」
「のぉぉぉぉおぉぉ!!!!」
「なーんだ、生きてたなら反応してよ…ん? これは…ふふ…いい反応だね♪」
思わず声が出てしまう。
なぜなら彼女Xは馬乗りの状態で腰を動かすもんだから…その、ねぇ…健全な男性なら美少女に腰振られたなら……ねぇ……性的欲求でおっきしちゃうでしょうよぉぉぉ!!!
な、訳で彼女Xと視線が合う。
普通、男女がこんな密室で体を合わせるなんか18禁臭しか漂わないはずなのだが……今は違った。
なんか、妙な威圧を感じます。
僕はその威圧感に耐え……られないが、彼女X質問を投げかける。
「てか、お前誰?」
「ん、私? サンタ……?」
あ、うん。 サンタね……サンタ……なんでやねーん。
心の中で緩い突っ込みが流れてしまうくらいの納得……いや、威圧による強制的許諾。
しかたがないのでもう一度聞いてみる(濃密に)
「で、お名前は (ニコッ)」
「サンタ (ニコーリ)」
意味はなかった(もうなんでもいいや)
話が進まないので僕はしかたなく納得し次の質問を投げる。
「じゃあ、ご用件は?」
「世間のゴミをお掃除♪」
なんだってぇ!?
え、じゃあ僕、殺されんの!?
まじか! え、てか死にたくねぇぇぇ!!!
僕は恐る恐る彼女の顔を見つめる。
「お、お掃除とは……具体的に……?」
「社会のゴミ、ニートの駆逐」
「あぴゃぁ!!!」
出たよ! ニートって言っちまったよ!
ニートオブザデッドォォォ!!!
殺されるよ僕、今日死んじゃうよ! 聖なる夜に聖されちゃうよぉぉぉ!!!
「まぁ、社会復帰的な意味合いで」
良かったぁぁ!!!
てか、この自称サンタ(笑)真顔で言うからこえぇよ!
「……今、馬鹿にしたよね殺す」
心読むなよぉぉぉ!
てか、何気にガチな殺意飛ばすなよ!!! 怖い怖い怖い怖い怖い。
僕はブルブルと体を震わせ自称サンタさん……様を見上げる。
「あの、それで……社会復帰とは何を為されるのでしょうか…ブルブル」
「ん、あー、あんたとゲームしてあんたが勝ったら願いをなんでも叶えてあげる+社会復帰、負ければあんたはある所でこれから一生奴隷の様に働き続ける、まぁ、過剰労働の一生?」
「それ死となんら変わんねぇ!!!」
「勝てばいいんだよ。 まぁ、私に勝てるはずがないけど(ニコッ)」
「はいぃ! 死亡フラグたった! もう僕の未来真っ暗に塗りつぶされた!!!」
「すでに真っ暗だけどね(ニコッ)」
「その通りしたぁ!!!」
トホホ……と僕はうな垂れる。
こんな初対面の奴にいきなりゲーム仕掛けられて一生奴隷宣言とか………、ん? 待てよ?
僕はそこで思考を巡らす……このサンタゲームって言ったか?
「おい、エセサンタ」
「なに? ゴミ殺すよ?」
「すんませんでしたぁ! ……その、ゲームをするので御座いますね?」
「そうだけど」
「あ、ありがとうございます!」
怖ぇよ! なに何気なく殺すぞと言えんの!?
殺気ビシビシで敬語になっちまったよぉぉぉ!!!
……はぁ、僕って一体。
僕は自分の上に鎮座するサンタの顔をもう一度見上げ確認する。
「ゲーム……なんだよな?」
すると、彼女は僕の顔を見つめ「ええ」と頷く。
僕は心の中でやった!
と、ガッツポーズを取った……そう心の中で!!!
なぜなら僕は昔からゲームが得意なので…まぁ、そのせいで今に至るのだが……。
だからゲームで良かったと思う。
ここで彼女が肉体的な労働内容を突き付けてきたら負けていたと思う、てか100%負けてた。
僕は心の中に少しの余裕が浮き出て来たのがわかった。
「で、ゲームの内容は?」
「ん、えーと、そうか言ってなかったっけゲームは――――――――――」
彼女が言ったゲームは僕の予想の遥か上空を飛んで行った。
×××
「これが……ゲーム?」
「ええ」
目の前に用意されたゲームは一般家庭なら一つは所持してるであろう誰もが知る。
【人生ゲーム】だった。
至って何も変わらない人生ゲーム……もうちょっと工夫しろよ……と思う。
だってこれ小説になってんだぜ? もう少し派手に決めろよ……。
と、心の中で思うが……って僕は誰に向かって呟いてるんだか………。
すると、彼女はムッと心外だ言わんばかりに非難の目を向けてくる。
「……今、心の中でバカにしたでしょ……死ね」
ギロリと視線が飛んでくる。 ……怖いです。
あと、なんでお前は心を読むんだよ……と僕は肩を竦めた。
「あんたの望んだ通り派手だけどね……この人生ゲームのプレイヤーの掛け金は『人生』」
「じ、人生!?」
僕は驚き目を見開く。
人生だと…じゃあ、――――――――――。
「そう、やり直せる(・・・・・)。 クリア出来ればね」
ゴクリ…と唾液を飲み込む。
これは予想を遥かに超えた……まさか、人生をやり直すチャンスがやってくるなんて。
最高のクリスマスプレゼントじゃないか! 社会復帰間違いなし! この世は僕の為に回ってる!
キャホッーイ!!! アーイ、キャン、フルァーイ!!!!!
「へー、随分とやる気になったねゴミ」
「そりゃな! やり直せるのだったら絶対クリアしてやるさ! あと、ゴミじゃねぇ!」
「あっはは、生ゴミ。 ルールは簡単、クリア出来ればクズの勝ちで一つだけ何でも叶えてあげる。 あんたがクリア出来なかったら施設送りね」
「…お、おう」
「ん? 直前になって怖気づいた?」
彼女は口の端を吊り上げ愉快そうに笑う、まるで新しい玩具を見つけた子供みたいだ。
僕はどうしても気になっていた事を彼女に聞いてみる。
「なぁ、その施設ってなんなんだ?」
「んー、と……」
彼女はその端正な顔に細く長い指を当てがり考える仕草を見せる……チッ。 相も変わらずエロイ。
そして、彼女はその端正な顔を屈託のない笑顔に変え、反吐みたいな事を吐きやがった。
「私の工場♪」
「………は?」
「んー、ほら私、サンタじゃん? だから、玩具を作る工場」
「あ、あぁ……」
「まぁ、今まで負けたゴミに労働させて作ってるんだけどねー」
「………」
「じゃ、ゲーム始めるぞー。 ホイッ」
「は、はぁ!? ちょっ、て、おわぁぁ!!!」
彼女が何かボタンらしきものをポチッと押す。
瞬間、地面に穴が開き―――――――――――――――落ちた。
「あぁぁぁぁぁああああああ!!!!!」
「まぁー、成るべく早く終われゴミ♪」
「それはないわぁぁぁぁぁぁぁぁあああ!!!!」
そして、僕は為すすべなく穴の奥に吸い込まれていった。
×××
「はぁー、サンタも大変だなー」
彼を送り出した後、私は部屋の中で一人呟いた。
汚い部屋だなーと思い……まぁ、若干異臭がするが寛容な私は気にしな……いや、やっぱ臭いもんは臭い。
あまりの異臭に私は鼻を摘む。 ……て、話が逸れた。 修正修正。
なぜ、私がこんな事をしているかと言うと、ちゃんとした理由があるのだ。
十三年前に届いたある一通の手紙。
切手の貼ってないその手紙の宛先は『サンタさん』と表記されていた。
彼が七歳の時に書いたサンタ宛の……私、宛ての手紙である。
『
サンタさんへ〃
サンタさんまいとしプレゼントをくれてありがとうござます。
でも、ぼくはことしからプレゼントはいりません。
だいじないもうとができたのでいもうとにぼくのぶんをあげてください。
でも、さいごにサンタさんにたのみたいことがあります。
それは、【ぼくがりっぱなおとなになるのをみまもってください】。
いもうとのたよりになるおにいちゃんになりたいです。
おねがいします。
』
まぁ、誰が聞いても立派な大人なんて自分で努力しろよ……と思うだろう。
でも、そこで見捨てないのが神様仏様サンタ様である。 えっへん。
ニートになった彼をどん底から引き上げるチャンスを上げた私って素敵。 まさに神!
……と、まぁ、一人ではしゃいでて恥ずかしくなったのは内密に……。
彼にも、転落には理由があるんですよ……小さな悲劇……と表現があう…かな。
簡潔に話すと、文面の通り彼には妹がいました。
けど、その妹は病弱で入院がほとんどだったそう。
彼は毎日のように妹の見舞いに訪れた。
そんなある日、彼は妹と些細なことで喧嘩してしまった。 ほんの小さな事。
翌日、妹は病魔によって死んでしまった。 悲劇の始まりである。
それから彼は毎日、妹の墓に参ってはごめんねと謝り続けた。
だけど、無論、死者から返事など返ってくるわけもなく肉体、精神と共に彼は衰弱していった。
やがて、彼は引き籠るようになり今に至る。 ……と、言う訳だ。
そして、私が幼い頃の彼の手紙を見つけチャンスを与えたってわけ。
『立派な大人』
今の、彼じゃなるのはそうとう難題、無理ゲーに近いだろう。
だが、人間は努力次第でどうにかなる………はず。
私は信じてる! ……なーんて。
「はぁ、」
私は天井を仰ぎ見て溜まった吐息を漏らす。
新しい空気を吸い込むとその異臭からか吐き気がしたが、まぁ、いいだろう。
人間、そう簡単には変われない。 でも、変わろうとしなければ変われない。
矛盾に感じるが、きっと気のせいだろう。
「さぁーて、と!」
なんだか胸がもやもやとして来たのでその場で伸びをして気を紛らわせる。
出来る出来ないとかじゃなくて彼なら出来ると思い込む。
落ちたならまた、這い上がればいい。 何度でも、何度でも。
失敗しない人間なんていないのだから。
時計を確認する。 ぁ………。
時刻はすっかり草木も眠る丑三つ時を指していた。
「ヤバい、酔狂な餓鬼どもにとっととプレゼント配らなくちゃ」
そう、私はサンタ。
皆に夢と希望を与える使者。
なら、一年に一度の夜くらいはしゃいだっていいじゃないか。
「頑張って少年」
外はまるで聖夜の夜を祝福するかの様に白い、空のプレゼントが降り注いでいた。
×××
「ふぅ……」
額から流れる汗を袖で拭い辺りを見渡す。
突然と始まったゲームは難なくと進みこれといった事もなく終盤へと差し掛かっていた。
「おかしい……」
僕は疑心を抱きまた、作業の様にダイスを振りかぶる。
6……ダイスは六の目を指し僕は足元に表示される光のパネルを順に進む。
おかしい。
ここまで目立ったイベントが起きてない………。
まぁ、確かに就職面で面接試験や上司の下でヘコヘコとゴマを擦って自宅で悪態付きながら自分へのご褒美とビールの一杯を仰ぎ飲むとかやたらリアルだったが…。
僕は顎を掴みどこまでも続く白色の空を眺め…思考を巡らす。
「あー………ぁ」
ある事に気づく。
僕はここまでのゲームを思い返し一つ一つを振り返って見る。
大学受験や就職面接、会社での何気ない日常……etc……。
「………そっか」
僕は自分の額に甲を乗せ吐息を吐く。
今更ながら気付いた自分はやはり【ニート】がお似合いなのだろうか?
そう、全部これは僕が実現出来得なかった普通の日常ではないか。
あの日から、狂った日常。 それを体験している。 まるで夢か何かだ。
きっとあの出来事がなければ僕はこんな――――――――――。
「――――――――――と、」
ダイス通りパネルを進み自分がいた場所から六マス目のパネルに着く。
僕はそのパネルの表示を見て首を傾げた。
「あ?」
パネルには【?】と表示されていた。 どういう意味だ…。
今まで【?】などの表示のパネルはなかった……じゃあ、これは一体。
……ん、今何か光って――――――――――、
「て、うおっ!?」
眩い光が視界を染め一瞬で世界が暗転する。
数分後、視界が映え目の刺激が和らぎ重く閉じられた瞼を開き僕は言葉を失った。
微かな薬剤の匂いが染みついた四畳程の狭い一室。
白く塗られた壁は清潔感を表し、ならい狭い空間は清潔に保たれている。
そこは病室だった。
そんな普通の病室となんら変わらず置かれた一つのベッドに僕の視線は釘づけにされた。
そりゃあ病室なら患者くらいいるだろう……と、思うのが普通だが……僕はこれが普通だとは思えなかった。
簡潔に言えば、『妹がいた』。
もっと濃く言えば、『成長した妹がいた』。
これは異常だ。
脳が僕に警告を示すかの様に激しく頭痛がした。
ありえない。 あの日、今から十年前………、
僕は思考を回し現状を把握しようとするが、それは次の瞬間弾け飛んでしまった。
「久しぶりあーちゃん(・・・・・)」
「………っ!」
嘘だろ………。
あーちゃん、それは紛れもなく僕の妹が僕を呼ぶ時に使っていた愛称。
なんで、
「、なんで……」
自然と口から漏れていた。
彼女はそれにぎこちない笑顔を作り応答する。
「なんでって……んー難しいかな……まぁ、私も突然過ぎてびっくりしてるし……」
「何も、知らないのか?」
「うん」
なんだこれ。
僕は何と喋っているのだろうか? 妹なのか? いや、おかしいだろ。
だって僕の妹は――――――――――、
「死んだんだよ……」
「ぁ」
彼女はふっと笑い涙を流した。
死んだ、そうだ……あの日、ここと似た病室で僕の妹は……。
「ぁ、ぁ……」
涙が流れた、理由はわからない。
あの時の後悔からか、悲しさからか、理由はわからないが僕は泣いていた。
「あーちゃん泣き過ぎ」
と、妹は言うが彼女もまた泣いていた。
あれからいくらかの月日が経ち、時を貪った。
でも、時は僕のこの悔いは同じように貪ってはくれず深々と心に残していった。
そう、だから僕は……今、彼女が妹の形をしている何かだったとしても言っておきたい事がある。
あの日から、心に蹲ったこの思いを言葉の風に乗せて。
「………ごめん、」
「……え?」
「ごめん、あの日、あんな事言って本当にごめん」
脳裏であの日の言葉が浮かび上がる。
今でも、後悔が絶えないずっとずっと、思っていたんだ。 謝りたかったんだ。
「うん、私もごめん…本当はあーちゃんが毎日来てくれてとっても嬉しかったんだ」
「……え、」
「でもね、」
彼女は涙でしわくちゃになった顔をさらに涙でしわくちゃにする。
「私は、あーちゃんに皆と、友達と遊んで欲しかったの。 私なんかの為にあーちゃんの大事な人生を棒に振らないで欲しかったの」
彼女は言うと、また泣き出す。
僕は彼女の居座るベッドに近づきそのか細い虚弱な手を上から包む。
「それは違う」
彼女は僕の否定に顔を上げ、その大きく見開かれたドングリの様な目で僕を見つめた。
僕はその瞳に見つめられ、優しく微笑んだ。
あの日、あの場所で言いたかった事を…彼女に伝えるべくゆっくりと震える唇を動かす。
「僕はね、」
「うん」
「君の立派なお兄ちゃんになりたかったんだよ」
「……へ?」
僕の阿保らしい言葉に彼女はポカンと口を開ける。
でも僕は止めることなく惜しみなく彼女に伝える。
「僕は君が生まれた時、とても嬉しかった。 初めての妹で大事にしてあげたいと思った。 そして、僕は『この子の尊敬できる立派なお兄ちゃん』になりたいとも思ったんだ」
「………」
彼女は俯き何かをもじもじとしている。
何を言っているのかはわからない。
構わず僕は続ける。
「だから、君が病弱で入院生活を余儀なくされたあの時、僕は毎日君のお見舞いに行くと決めていたんだ」
「で、でも!」
妹がそこで声を上げ、割り込もうとするが、気にしない。
「でも、じゃなくて、僕がそうしたかったから。 君が大事な妹だから僕はそうしたんだ友達とかと遊ぶより……家族だから」
「ぁ、ぁ、」
彼女は咽び布団に蹲る。
僕は彼女のその柔らかな髪を撫で、優しく笑いかける。
「君にとってあの時の僕は立派になれたかな……?」
彼女は顔を上げると、強く強く何回も頷いた。
「うん、あーちゃんは私にとって立派……だよ。 今もずっと……」
「いや、今、僕ニートだし……」
「それでも私にとっては立派だよ」
彼女は微笑む。
なんだろうか……凄くいたたまれなかった。
うん、ニートで立派になんてなーあはは。 ヤバい、真面目に就職先探そう………。
「ぁ、」
気づく。
体が薄く光り始める。
「あ、あーちゃん」
彼女も自分の体の異変を感じたらしく透け始めた体を見て顔を暗くする。
僕はそんな妹に最後と知り話しかける。
「なぁ、」
「……なに? あーちゃん」
「最後に言っとくよ。 君は僕にとって一番の宝物だ……絶対忘れない」
「あ、ありがと……その、」
彼女は笑った。
「立派だったよ……あーちゃん」
「あ、あぁ」
「だから今まで ″ ″ 」
彼女の言葉は最後まで僕の耳には届かなかった。
でも、何となく彼女の言った言葉はわかった。 きっと………。
光り、粒子が咲き誇る病室で僕は泣いていた。
薄く消えかけている腕で涙を拭う。
そして、僕は満面の笑みで答えた。
「あぁ、 ″ありがとう″ 」
目の前には【ゲームクリア】の文字がポップに表示されていた。
×××
目が覚めると見知った天井が視界を埋め尽くしていた。
「あぁ、終わったのか」
「あ、おっ帰り~」
「………」
シリアスな空気に重ねられるアホサンタの能天気な声。
「おい、僕のシリアスを返せ」
「ん? シリアル? ごめんね~生憎今、配っちゃったとこなんだよねー」
「てか、シリアル頼んだ奴いんのかよ!?」
「うん、五十人は軽く」
「五十人も!? ……て、そんなことどうでもいい…」
「ん? あー、なるなる。 約束ね、はいはい何叶えましょうかゴーミ?」
「あ、いや……そのさ約束より……」
「約束より?」
彼女は不思議そうに首を傾げる。
何だか気恥かしい気もしたが正直に伝える…腹を括った。
「その、さ……ありがとな」
「………え、キモ」
……もう正直に言うの止めようかな…。
てか、コイツに礼を言った僕が悪かった、そうだ、うん相手を間違えただけだ。
なんだか、テンションがだだ落ちしたので話題をシフトする……。
「あー、何かもうどうでもいいや約束か………」
「そうそう、社会復帰とー何でも一つ叶えるのねー」
「その事なんだけどさ…社会復帰は自分で何とかするよ」
「……は?」
彼女はこれでもかと目を見開き口をあんぐりとしている。
僕は、そんな彼女に想いの胸を伝える。
「僕さ、立派な「知ってる知ってる」……は?」
「だからー、立派な大人になるんでしょ?」
「……あ、あぁ……(なんで知っている……)」
「いやー、な い しょ ☆」
だから、思考を読むなよ……。
僕はまたなんか毒気を抜かれた気がした。 そう、例えば、マジックを見る前にネタばれされた様な感覚に近いだろう。
……はぁー、と僕がうな垂れていると彼女はずずいと顔を寄せると上目づかいにもう一つの話題を切り出してくる。
「それじゃー、お願いはどうする? これも要らない?」
「いや、それは――――――――――、」
僕は、彼女の耳を借りまるで内緒話のようにお願いをした。
すると彼女は顎に手を当て考える所作をする。
「うーん、ま、いっか……それでいいの?」
「あぁ」
「そっか、んー、じゃあまたね♪ メリークリスマス」
刹那、冷たい冬の夜風が部屋に吹きこむ。
僕はその勢いに押され瞼を閉じた、風が止み、平穏が戻る。
そこにサンタの姿はなかった。
まるで、さっきまでの出来事が夢であるかの様に………。
僕は部屋に振り返りあるものを見つける。
「あいつ、袋忘れてるし……はぁ」
そっと着いた溜息は白い靄を生み冬の夜空に消えていく、そしてその靄を凝固し持ち主に返すが如く空からは白い雪粒が降り注いでいる。
僕は、その夜空を見上げどこかにいるであろうサンタに空の上にいる妹に語りかけるように、
「メリークリスマス。 君に最高の夜を………」
いつまでも、いつまでも遠く暗い空を名残惜しく見つめ僕は開いた窓をゆっくりと閉ざすのであった。
だって、溶けた雪粒の様に決心が溶けたらたいへんじゃねーか(笑)
燈めだかです。
えー、色々と書きたいことはあるのですが、
ここは最初から僕が出しゃばるのではなく〆の螺子君に素晴らしい後書きを期待する事にしましょう。
皆様、よい一夜を! メリークリしゅマス!!!