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真冬の夜の夢でなく@臨也サンタ

「あ、今日は24日か」

 いつも自己主張のうるさい街の灯りが一層煌びやかだとは感じていたが、周りに目を向けると確かに二人連れのカップルが多い。

 ま、確かに独り身には肩身が狭いか……とマフラーを鼻まで上げて歩幅を大きくした。

 ちょうどケーキ屋の大きなサンタ像を左に曲がろうとした時である。

「うぉぁっ! 」

 通行人とぶつかってしまった。

「お嬢さん、大丈夫? 怪我はないみたいだけど」

 顔を上げると、先程ぶつかったのであろう人物がこちらを伺っている。細身の優男といった感じだろうか。

 いかにも女にもてそうだが、全身黒づくめの格好でなんとも表情の読めない顔をしていた。

「あ、大丈夫です。すみません」

 できるだけ目を合わせないようにそう言うと私は足早にその場を去ろうとした。が、

「ねぇ、ちょっと僕に付き合わない? 」

 すれ違いざま、右手首を掴まれていた。

「え ?」

 見知らぬ男に、しかも夜の街中で女子高生が手首を掴まれ話しかけられている。これだけでも十分犯罪の香りがプンプンするが、この男はナンパまがいのことをしてきたのだ。

「君、退屈でしょ?  面白いもの見せてあげるよ」

 そう言うと何がそんなに楽しいのか、口角を上げたまま男は、私の手を引いて人混みをすり抜けていく。

 暫くして手を離されたのは、歩道橋の真ん中だった。

「なんなんですか、一体!? 」

 私は少し声を荒げていうと、男は黙って歩道の方を指差した。

「ねぇ、あのカップル見てよ。どう思う?」

「どうって……幸せそうだと思いますけど」

「ふーん」

 男はまた楽しそうに口角を上げると、今度はカップルとは反対側の歩道でホームレスのような、いかにもみすぼらしい風体のお爺さんを指差した。

「じゃあ、彼のことはどう思う? 」

「寒そうだなと。あと、大変だろうなと」

「へぇ。君は彼等の名前や生い立ちを知ってるのかい? 」

「まさか。知ってる訳ないですよ」

「じゃあ、どうしてそう思ったの? 」

「どうしてって、大体想像はつくじゃないですか」

「想像ね……じゃあ、君はクリスマスイブに恋人とイチャつく人間は幸せでホームレスは不幸せって勝手に思い込んでる訳だ」

「別にそうとは言ってません。一般的に……」

「一般的。それは誰が創り出した基準なんだろうね?  個人の責任や思想をいとも簡単に塗り替える魔法の言葉だ。そもそも僕は君にどう思うか聞いたのに、私はこう思ったっていうのが理由じゃない所もなんとも滑稽で素晴らしいよ。」

 唖然。その一言だった。

 男が一息で紡いだ言葉は私を苛立たせると共に不安を駆り立てた。

 なんだこの男……まるで私の心を見透かされているような……。

「帰ります」

 このままここに居てはいけないような気がして、踵を返すと

「そうやって、人との接触を随分嫌うんだね。さっき僕とぶつかった時も目を逸らしてすぐに去ろうとした。本当は一人でいるのが怖くてたまらないのに」

 だめだ、挑発に乗ってはいけない。このまま帰ればなにも起こらない。

 そうは思っていても口に出さずには居られなかった。

「あなたに私の何が分かるんですか。さっき会ったばかりのあなたに分かったような口をきかれる筋合いはありません」

 男に背を向けたまま静かに、でもしっかりと私は言葉を発した。

 しかし、その言葉は直ぐに男によって返される。

「分かるよ。君のその、ちっとも期待してない退屈した目を見ればね。君はどうせ世界はこんなもんだと見切ったつもりでいるんじゃないのかな? 」

 心情を言い当てられ、少なからず動揺する。

「だから必要以上に他人と関わりを持とうとしない。違う? 」

「……だったら、悪いですか? 所詮はこんな世界楽しんだ所でたかが知れてる。さっきの質問、どう思うかって、どっちも最後にはつまらない人生だったって終わる。どっちも不幸せですよ」

「そうかな?  信じる者は救われる~あ、あったあった、はい、これ」

 すると男は鞄から何か小さな箱を取り出し、差し出してきた。

「なんですか?  いりません」

「クリスマスプレゼント。開けてみなよ。いい事が起こるかも」

 その言葉にまた忘れていた今日がクリスマスイブだということを思い出す。

 半ば諦めてその箱を開けると

「は?  な、なにこれ……」

 一瞬の眩い光に目を閉じて、再び開くとそこには少し小さくなった街の灯りが見えた。

「どう?  これが君の言うこんなもんだ。綺麗だろう? 」

「何!? これ、どうなってんの?  なんで浮いてるんですか!? 」

「そうだなぁ……クリスマスの魔法とか言ってみたりして~」

「ふざけないでください。あなた何者なんですか?」

「さぁね。曖昧な方が想像できる。想像できれば夢は広がるだろう?  僕が何者かという事実は君の知らない事。つまり、君の知らない世界だ」

「知らない、世界……? 」

「そう。君はまだまだこれから知らない世界を旅するのさ。ずーっとね。見切ったつもりで生きていくには退屈すぎる。ご覧、見方一つで世界はこんなに変わる。君が自己主張のうるさいと言っていた灯りも、少し高みから望めば綺麗に見える」

 そう言うと上昇を続けていた体はゆっくりと下降しはじめ、やがて、元いた歩道橋に着地した。

「さて、そろそろ僕は戻らないといけない。最後にいい事教えてあげるよ。君が望めば世界は変わる。じゃぁねー」

 そう言うと男は何かを呟き、歩道橋の上から勢いよく飛び降りた。

「えっ! ちょっと待っ……」

 驚いて下を見ればそこにはいつもと同じ交通渋滞。

 あの男は一体なんだったのだろう。名前も言わず、正体も明かさず去っていった。

 ただ、最後に呟いたあの言葉……。

『全身赤って目立つから嫌いなんだよねー……』

 すれ違いざまでよく聞こえなかったものの、確かに彼はこう呟いた。

「まさか……ね」

そう言うと私は、いつも通り人混みの中、家路を急いだ。

 ただ、いつもよりほんの少し前を向いて。

 最後まで読んで、お気付きになった方もいるかと思いますが、実は最後の方の男のセリフ“君が自己主張のうるさいと言っていたー“とありますが、実は主人公言ってないです。冒頭の男と会っていない、しかも心の内で思っている事なので、なぜ男が知っているのか……は皆様のご想像にお任せします。

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