第一話 ギルド本部の酒場
第一話です。
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冒険者ギルド『新世界』本部。
一階酒場。
そこに一人の男が現れた。
黒髪黒目。
浅い彫の顔。鋭いというか悪い目つき。体には獣皮製の軽装備の、20歳前後の男だ。
肉付きも冒険者にしては細く、一見駆け出しの冒険者にも見えるが、この男こそ「世界最強」、「異世界チート以外お断り」なギルド『新世界』のサブギルドマスターであり、ゴールドランクの冒険者である。
名前はトンボ。
もちろん彼も「異世界チーター」の一人だ。猫科の大型動物は関係ない。
トンボが飲み物を注文しようとカウンターに近づくと、テーブルを囲っていた酔っ払い三人が、すぐさまからみ始める。
「やっほー、トンボさん久しぶりー! まあ一杯飲みなよー! あ、もちチートオフにして。「不死身」状態で酒飲んでも楽しくないでしょー?」
と甘ったるい声で自分の酒を差し出したのは、ゴールドランクの冒険者であり、「聖女」の二つ名を持つ、光・治癒系魔法のエキスパート、セーラである。
その二つ名通り、修道女のように楚々とした雰囲気の女性だ。
酒さえ飲まなければ。
特注の、修道服に似た服も、今では着崩され肌は露わ。いつもは優しげな笑みを浮かべている顔は、真っ赤になりあちこちが緩んでいる。
「トンボ、金貸してくれ。サブマスなんだから金持ってんだろ? この前新しい魔剣買ってさあ。今日の飲み代も実は無えんだ」
いきなりトンボに、金をせびりだしたこの男は、剛力、怪力を超えた「神力」のベン。または「脳筋」のベン。二つ名の通り、身体能力、特に筋力が飛びぬけている戦士だ。武器コレクターで珍しい武器に目がない、ゴールドランク冒険者。
そしてロリコンである。
「トンボ先輩お久しぶりです。まあまずは一杯どうですか? まさか偉大なるトンボ先輩が後輩のお酒を断ったりしませんよね? というか私と、セーラ姉さんという美女のお酒を断ったら男失格ですよ? さあ飲んでください。十秒以内に!」
鈴を転がした様な声で、勢いよくまくしたてるこの少女は、召喚術師のココ。この中で最年少。見た目10歳、実年齢15歳、精神年齢35歳のロ○バ○ア予備軍だ。
シルバーランク冒険者で、まだ二つ名は無いが、一部の紳士(ベンを含む)からは「マジ天使」と呼ばれている。
ちなみにその他ギルメンからの呼び名は「魔王(笑)」。
「ああうるせえうるせえ! 一度に喋んな! 今行くから待っとけ!」
トンボが怒鳴るととりあえず静かになったので、注文したアイスコーヒーを受け取り、三人の輪に入り座る。
「ココ、お前まだ体できてねえんだから、酒飲むなっていつも言っているだろうが。セーラも、もう飲むの止めとけ。顔真っ赤じゃねえか! そしてその服をどうにかしろ。ベンは金は貸せねえが、サブマス権限でツケにしといてやるから、明日適当な依頼受けて即払いに来い。一日遅れるごとに、お前のコレクション一つ売っぱらう」
酒を取り上げられたココとセーラは抗議の声を上げるが、トンボの世話焼きにどこか嬉しそうだ。ツケにしてもらえたベンは、早速カウンターに行き追加注文をしている。
「今日本部に飲みにきているのは三人だけか? ずいぶん少ないな」
トンボが酒場を見まわすと、このテーブル以外人はいない。
「みんな忙しいのよー。ほら、最近魔獣が増えてるからー。依頼受けた子や、故郷を守るんだーって頑張っていることかでー。また魔王が出たってもっぱらの噂よ?」
「ん? 「魔王(笑)」なら「ここ」にいるじゃねえか」
「ちょ! トンボ先輩ひどい! わたしは魔王じゃなっていつも言ってるじゃないです! こんないたいけな少女をよりにもよって魔王だなんて……」
「自分で言うかそれを……。いや、でもなあ。お前の召喚獣みんな禍々しすぎなんだよ。どっからどう見ても高位魔獣じゃねえか。それを操っているお前を見たら、その辺の魔王よりよっぽど魔王らしいぜ」
と、トンボがにやにやしながらココをいじる。
「うう、禍々しくなんかないですよ……。皆可愛いじゃないですか……。うわーん! セーラ姉さーん! トンボ先輩が虐めるよー!」
「よーしよし。悪いお兄ちゃんだねー。お姉ちゃんの胸でたんとお泣きー」
「ぐすぐす。(ぽよんぽよん)えぐえぐ。(ふやんふやん)びえーん!! トンボせんぱーい! セーラ姉さんが虐めた!!!」
「なんでー!!??」
「……俺の方には来てくれないのか……。」
セーラが驚愕している傍ら、酒とつまみを持ってきたベンが一人落ち込んでいた。
「え? だって、ベン先輩わたしを見る目がやらしいから」
素に戻ったココの発言で、ベンがさらなるダメージを受け、テーブルに突っ伏す。
「まあベンは自業自得だ。で、まじめな話、俺の話もそれに関係あるんだが、この中で西の大陸行ける奴いないか? あっちまだ冒険者自体少ないし、そろそろ魔獣の数減らしとかないと、こっちでもし魔王騒動でも起きたとき、いろいろ面倒なんだ」
「あれー? あっちの大陸は確かうちのギルメン二人ぐらい、常駐してなかったっけー?」
「そうです。確か、ハンターのリュートさんと、最近は入った女の子がいたと思います」
「ああ、あの子か。歓迎会以来見ていないが、なかなか可愛らしい子だったなあ」
「だまれロリコン。まあ、新人の子は置いとくとして、リュートの奴がなあ……今使い物にならないんだ」
「リュートくんって、確か今シルバーランクだったよねー。長期以来でも受けているのー?」
西の大陸には冒険者が少ないから、高ランクの冒険者ともなれば引く手はあまただろう。
にしては歯切れの悪いトンボの様子に、セーラ達は説明の続きを促す。
「まあ、そのなんだ……。今、あいつ傷心中らしくてな。なんでも結婚を約束した故郷の幼馴染が、あいつが冒険者としてあっちこち飛び回っているうちに、これまた故郷の親友に寝とられたらしくて……」
「ちょ、なにそれー! 詳しく訊きたーい! 詳細プリーズ!」
トンボが気まずそうに眼をそらす中、セーラとココは目を輝かせる。
一方、ベンは自身の胸に手を当て、何か嫌な記憶を思い出したかのように苦しみ出した。
ベンに似たような過去があるのを、トンボは知っていたいたが、今それに触れるのは酷だろう。
「よくある話だ。冒険者になって一旗あげて帰ってくると約束したリュート。それを信じて待つ幼馴染。そして密かにその幼馴染に想いを寄せるリュートの親友。リュートがめったに顔を見せない中、寂しさが募る幼馴染。それを優しく慰める親友。そしていつか、幼馴染の心はその親友に。……リュート哀れ」
ちなみにトンボの言葉は、ベンの古傷を的確に抉っていたが、わざとである。
「あー、冒険者にはよくある話ですよね。というか、いつも思うのですが、男はなんで女がいつまでも自分を待っていてくれると無条件に信じているのでしょうか。そりゃ、待つ人もいるでしょうが、大概の人は遠くにいる男より、近くにいてくれる男の方がいいと思うのは当たり前だと思うんですけど……今回も、リュートさんが油断しすぎです」
「幼女が恋愛を語ると、違和感ありまくりだな」
「幼女じゃないです!」
「もう、トンボさんちゃかさないでー。でもリュート君は確かに可愛そうねー。前に惚気話聞いたとき、あんなに一途だったのにー……。今度会ったとき、それはもう面白おかしくいじって……じゃなくて慰めてあげなくちゃー」
「手加減はしてやってくれ。再起不能になると面倒だ」
「「はーい!」」
セーラとココがいかにリュートをいじり倒すかを相談している横で、ベンのダメージがどんどん蓄積して言っている。そろそろ限界っぽい。
「あー、それで話は戻るが、誰か西の大陸に行ってくれないか? ギルドから特別手当も出す。あと、例の新人の指導も一緒にしてもらえると助かるんだが」
「美少女とのマンツーマンの指導! 師弟から始まる恋! 俺! 俺がやります! やらせてくださいお願いします!! ツケも払えるし一石二鳥!!」
ベンが急に元気を取り戻し挙手しているのを、冷やかに見ながら、セーラが確認をする。
「魔獣を間引くのはいいけどー、その新人のこと、もう少し詳しく教えてくれなーい?」
「名前はチナ。日本人の転生。享年15歳で現在14歳。話した感じ素直ないい子だったな。冒険者になってまだ2カ月。ランクはアイロンランク。キョウにこのギルドを紹介されて、入団してから冒険者になった。チート能力は高い魔力と、一般属性の全適性。身体能力チートは低。典型的な魔法特化タイプだな。万能型っていえば聞こえはいいが、一点特化しているセーラとかと比べると、やはり器用貧乏感は否めないな。現在斡旋所の指導員から、ブロンズランク相当の基本技術指導を受けている。こんなものか」
何のメモも見ずに、空でそれだけの情報を出すトンボ。
だてにサブマスターを長年やっていない。
「技術指導を受けているなら、わたしたちからの指導はシルバーランクになってからでいいんじゃないですか? ブロンズランクの指導なら、戦闘までしっかり教えてもらえますし。なにより、アイロンランクの戦闘経験で、いきなり魔獣の大量虐殺をお見せするのは正直気が引けます」
「なに大丈夫だ! その弱った心を俺が優しく癒してあげるさ!」
「死ねロリコン。まあ、あっちは人手不足だから早く一人前になってほしいというのが本音だがな。うちのギルドにいる以上必ず経験することだかし、ココと同じく精神が肉体年齢にあまり引っ張られていないタイプみたいだから、たぶん大丈夫だろ」
「トンボ先輩失礼ですよ! それではわたしが見た目が幼いのをいいことに、それらしく振る舞ってはいるが、実は精神的にかなりのおばさん、ってキャラみたいじゃないですか!」
「説明どうも」
「むきー!」
「はいはいじゃれてないでー。そういうことなら、私が行くわー。同じ魔法特化だし、私、歓迎会に参加できなかったからちょうどいいわねー」
「ちょ! 俺は!」
「ロリコンはお帰り下さい。チナの方には、斡旋所を仲介して、明日夜に本部に来るよう伝えとく。そこで細かい打ち合わせをしてくれ。頼むぜ「聖女」様。じゃあ俺はこれで」
「ええ、任されたわー、「不死身」さんもお仕事頑張ってねー」
「えー! もう帰っちゃうんですか!? 飲みましょうよ、お酒飲みましょうよ! 浴びましょうよ、溺れましょうよ!!」
「お前は本当に自重しろ。いくら身体がチート性能でもがたは来るんだぞ。魔獣が増えてるせいで事務仕事から、各所連絡事が山ほどあるんだ。マスターがもうちょっと働いてくれりゃ、楽になるんだが。また今度、落ち着いたらゆっくり飲もうぜ。ただしココはジュースな」
「一応こっちでも成人しているんですけど」
まだぶーたれているココを無視し、セーラとベンに軽く手を振り、トンボはその場から消えた。
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