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決意

 2067年、5月26日、午後4時39分、アメリカ合衆国により、世界全体に向け、『Prison of hell』日本語に訳して『地獄の牢獄』という名の法が発布された。

 「法」とはいったのもの、それは、まだ成人していない少年少女の中の「危険分子」とされる特定の者たちを投獄しておく万国共有の牢獄を作る、という、到底「法」とは呼べない「提案」だった。

 そして今日、2067年、9月27日、午前1時00分、第1回の模範囚を元の生活に一時的に戻す措置が取られた。いや、そうではない。元の生活に戻す、というのは間違いだ。彼らを同じところに住ませ、それを監視した上でしばらくの間自由にしてやる。と言ったほうが合っている。


 *****地獄の牢獄/日本ブロック*****


 そこでは6人の男女が一列に並び、牢屋と牢屋の間を獄卒に連れられ、歩いていた。

先頭を歩くのは白い髪をした、身長160㎝程度の少しやせ気味の少年だった。それに続き、背の高いメガネをかけた金髪の青年、ごく普通そうな黒髪の少年、黒髪を腰辺りまで伸ばした少女、理由の分からない笑顔を浮かべた茶髪の少女、そして黒髪を後ろで束ねた少女と、計6人の模範囚が並び、束の間の快楽へと、足を進めていた。

彼らは獄卒に連れられ、更衣室に行き、それぞれ適当な服を選び、獄卒に言われるままに今度は黒いトラックに乗せられた。

トラックでは獄卒が運転をしているため、少しだけ会話の自由が与えられる。が、それぞれが初対面も同然だったため、話出そうとする者はおらず、6人は気まずい沈黙に覆われた。

「自己紹介をしませんか?」

と言い出したのは、インテリ風の金髪の眼鏡の少年だった。

「僕の名前は、高木 洋介。年は17だ。」

「佐田 和義…。14歳。」

と、白い髪をした少年。

「俺は、山岡 秋一。」

と、ごく普通に見える少年。

「私は、香城 未菜よ。」

と、長髪の少女。

「私は、藤盛 勇美と申します。」

と、笑顔の少女。

「あたしは、木谷 紗代」

と、黒髪を後ろで束ねた少女。

全員の自己紹介が終わり、話題は、「牢獄」へと変わった。

「一体何の目的があるんだろ…。そもそも危険分子ってなんだよ。俺らが?あり得ねえって…。」

秋一がぽつり、と呟くように言った。

「さぁ、僕にも分らないよ…。ただ、奴らに従わないと命が危ないってこと以外はね…。」

「牢獄」では、獄卒に逆らうとポイントがつけられ、それが1か月のうちに3つ以上たまると、罰が与えられ、その中には命にかかわるものもある。

「っていうかさぁ…あたし達今、どこにいこうとしてるの?目的が見えないんだけど…。」

「…目的が見えないのは今に始まったことじゃない……」

佐田は、暗く、憎しみのこもった声で答えた。

「あいつら、俺の人生を変えやがった…。俺だけじゃない…。俺の家族、友達まで巻き込みやがったんだ…。」

「失礼ですが、過去にどのような事があったのですか?あなたの様子を見ていると、あの方々を相当強く憎んでいらっしゃるようですが…。」

相変わらず、理由の分からぬ笑顔を浮かべたままの藤盛が回答を求めたが、その答えを聞くことができなかった。佐田が口を開こうとした瞬間に、トラックが止まり、獄卒が扉を開けたからだ。

「諸君、目的地に着いた。ここが君たちの家だ。中で一人一人に携帯電話を配る。そして生活費もこちらから送る。言うまでもないとは思うが、くれぐれも逃げようなんてことは考えないことだ。逃げれば、どうなるかわかっているだろう……。

ここでのことは全くの自由だ。遊んでもいい、出かけてもいい。だが、犯罪には手を出すな。我々は常に君たちを見張っている。もし、そのような現場を見かけることがあったらなら、不本意だが、君たちを殺さなければならなくなる。」

獄卒はそれだけ言うとトラックに戻ろうとしたが、佐田の言葉によって、動きが止まった。

「不本意ながら、だと?」

獄卒は振り返り、もう一度言った。

「あぁ、そうだ。好んで君たちを殺そうとはしていない。」

「はっ、だったら『牢獄』でのあの扱いは何だ。下手すりゃ死ぬぞ。」

ぴくっ・・・・

獄卒は内ポケットから拳銃を取り出し、佐田の額に突きつけた。

「言葉を慎み給え。私がここで君たちを処刑する権限を持っていることを忘れるな。」

たらり、と佐田は自分のこめかみに冷汗が流れるのを感じたが、引こうとはしなかった。ここで死ねるなら本望、とさえ思っていた。

「やってみろよ・・・・。この、クズ野郎!!」

引き金が引かれた。佐田は、もうだめだ、と思う反面、何故かとても愉快な気分だった。

――――――死んじまえ!

自分が死にそうだというのに、相手に向かってそう思ったのは、彼自身、自らの力に気付きつつあったからかも知れない……。

引き金が引かれて、2秒近くたっていたが、佐田はまだ立っていた。それどころか、血すら出ておらず、外傷はなにもない。代わりに、拳銃を発砲した本人は、頬から血を流し、驚愕していた。

――――――何が起こった。…なぜ銃を撃った私が怪我をしている?

獄卒が状況を理解しようとしている間に佐田は無意識のうちに獄卒の拳銃を奪い、獄卒の額に拳銃を突きつけた。

「地獄に送ってやろうか・・・・・。」

次に冷や汗を流すのは獄卒の番だった。

「ま、待て・・・。落ち着けよ。・・・・」

「俺はいたって冷静だ。」

「そうか…。なら聞け、私を殺すと君は殺されるぞ・・・・確実に。」

「ほう・・・・だったら何だ?。それが脅しになるとでも?」

二ヤリ、と佐田は笑みを浮かべたが、獄卒も同じだった。

「君だけじゃない。他の5人もだ。君はまた周りの人間を巻き込むのか?分かったら、さっさと銃を返し給え。」

佐田は表情を歪ませ、舌打ちをしたのち、拳銃を獄卒の額から外し、返した。

「悪かった。」

獄卒は口をさらに歪ませた。

「今度からは気をつけ給え。」

佐田は拳を握りしめ、獄卒がトラックへと戻り、帰っていくをにらんでいた。

「・・・・殺してやる。」


***その晩***


「皆に話がある。」

と、佐田が言ったのは、6人全員で夕食を食べているときだった。

すでに盗聴器、監視カメラがないことを確認し、話そうと決断したのだった。

「『牢獄』に攻めに入ろうと思う。持ちろんすぐにってわけじゃない。準備をして、武器を手に入れて、力を使いこなせるようになってから・・・・。」

洋介以外の4人は驚愕の表情を見せた。

「やっぱりか・・・。」

彼はそう言いながらメガネを外し、言葉をつづけた。

「で、力ってのはなんなのかな・・・。さっき見た所じゃ、弾丸を跳ね返す、とかそんなのなのかな?」

「私も気になるわ。教えてくれるかしら?」

と、香城も加わる。

「俺にもまだ分からないんだ・・・。でもそのうち、突き止めるつもりだよ。」

「ふーん。でもそんなんじゃ心配だな。手伝ってやろうか!」

と、秋一。

「え!?そんなのダメだ!皆を巻き込むことになる!!」

佐田は激しく断る。が、秋一と同じ意見の者があらわれてしまった。

「あたしも手伝うよ。あいつらにはいい加減我慢の限界だし。」

「そうですわ。ひとりでしょい込むこむはありませんよ。」

「確かに、僕も刺激がほしい。」

「他のつかまってる人たちも助けてやりたいわ。全員でやりましょう。」

「・・・そんな、」

と、言いかけて、やめた。

彼らの思いを止める権利は自分はないし、味方は多い方がいいと思ったのだ。

こうして、彼らの復讐劇は始った―――――――――


「っていう夢を見たんだけど、どう思う?」

最後まで読んでいただきありがとうございました。

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