腹が減ると戦はできないものです
そろそろ、おなかがすく頃合いかな…という時間になって。
安くて美味しくて、なおかつ手軽となれば。
「うめえ」
勅使河原さんの大きな手につかまれたおにぎりは、あっという間に口の中に消えた。
「ふむ」
木崎さんも、頷いて、忙しく口を動かし、あっという間に二つ目を平らげる。まあ、基本的に何を食べても気持ちのいい食べっぷりを見せる人だけど(正月の餅の食べ方は圧巻だった、どうやらポテトチップス同様お気に召したらしい)。
「ちゃんと食ってるか?」
「食べてる食べてる、ってかあんた達早すぎ」
ちょっと、げんなりした気分で、ペットボトルのふたを開けると、グイッと中身を飲んだ。
お昼ご飯は、テイクアウトの肉巻きおにぎり。
ご飯をどうしようかと、歩いている最中。評判の屋台の前を通りかかった時に、勅使河原さんがその行列に興味を示した。
「何だあの列?」
「ああ、今結構人気なんだよね」
「食い物か?」
「うん、薄切り肉を巻いたおにぎり」
へーっと、返事をしたかどうかのうちに、勅使河原さんは、列の後ろについていた。
「ちょっと!?」
「美味いんだろ?」
ケロッと彼は言う。
「だったらこれにしようぜ」
「え」
買って帰っても構わないのだけど、でもどうだろう。おなかがすくと実は一番不機嫌になって手におえない木崎さんを、振り返った私はおどおどしていたのかもしれない。
「フン」
愉快そうな眼をして、木崎さんは笑った。
「構わぬわ」
性格が本当に出るというか。
勅使河原さんの食べ方は豪快だ。片手でひょいとつかんで、まるっと口へ、というペース。
一方木崎さんは、綺麗な食べ方をする。手でつかんで食べているだけの筈なのに、仕草が優雅で、つい、ぼうっと見とれてしまいそうな。
二人に共通しているのは、どちらも見ていて気持ちがいいくらいに、すっかりお皿を空にしてしまう事だろう。
「毎度の事だけど……いい食べっぷりだね」
苦笑しながら、私は二つ目のおにぎりをかじった。
「外というのも悪いものでもないな」
木崎さんがぼそりと言って、勅使河原さんが、だろ、と伸びをしながら笑う。
「天気のいい日にゃ、こういう食事も悪くないぜ」
「……ああ」
珍しい。二人の意見があっている。
もしかして初めて見る光景かもしれない。
かじっていたおにぎりが落ちかけて、慌てて両手で押さえる私に。
「……何を見ている」
いささか温度の低くなった木崎さんの声。
(2011/2/27)
別に私がおなかすいている訳では…(笑)