一度ある事は二度あるものです(上)
クリスマスが終われば、来るのはそう、正月。
「なるほど、これが正月というものぞ……」
「そこ! 餅いくつ目だよ」
「細かい事を気にするでないわ」
「そうだそうだ、ちっちぇえ事言ってると、早くふけるぜ」
「ってか、増えた居候! でかい口きくな!!」
増えた居候?
それは、大晦日の夜の事。
部屋の隅から、なんか音がする事に気が付いた。最初は、風でも出てきて、外で音がしているのかと思っていたのだけど、よくよく聞いていると、かりかりって、誰かがひっかいているような感じにも聞こえるそれ。
「き、木崎さん……」
「何ぞ」
顔色が悪い、と彼が振り返る。
「なんか、音してるよね?」
「ああ、あれか」
「あれかって、そんなあっさり流さないで下さいよ」
ベランダでなんか引っかかって、あんな音がする、とかいう落ちならいいけど、動物とか、まさか人がいるとかね。ドキドキするじゃないの。
そりゃあ此処には、魔王(候補)と名乗るものがいて、そう考えたら、この上なく強いボディガードがいるような感じもするけど、どっかずれてるこの相手が、本当に頼りになるのかどうか……そう思うと、どんどん不安が募る。
「それよりも、年越し蕎麦とやらは、まだか?」
「食べる事だけかよ」
言いながらも、このままじゃ伸びてしまうので、茹で上がった蕎麦を冷水で引き締めて。
薬味など並べつつ、私は木崎さんを伺い見た。
「一応さ……音の発生源を見てきてくれませんかね?」
「何故私が」
ああ、そう言うと思ったよ!
「だって、私が見に行って、対処しきれない相手とかだったら」
「……つまり怖いのか」
「そうだよ! 悪いか! なんか怖くて落ち着かないんだよ!」
と、木崎さんは。
フンと、何故かいつもよりも柔らかく、笑った。
「素直にそう言えばいい」
へ?
するりと立ち上がった彼は、あっさりと、まだかりかりと音がし続けている一角へと歩いていく。
何その反応。
何その顔。
不意に紳士的な行動されると、思わず別の意味でドキドキするじゃないか。
そんな私をよそに、木崎さんは手を伸ばして、こつこつと、壁を叩く。
と。
こんこん、とまるで返事をするかのように、音が。
「ひ……人!?」
「黙っておれ」
静かだけど、威圧するような声。
思わずびしっと固まった。
そして……木崎さんは。
ばきっ
……ばき?
壁に手がめり込んでいるように見えるんですけど、目の錯覚ですかね?
ごしごしと目をこすって、前の情景から逃避を図る私を放っておいたまま、先方は勝手になんか進めていく。どんどん、めり込んでいく、彼の腕。
「き……き、きざ、き……」
口をパクパクさせ、それでも、損害を受けている壁について、問いたださなくては、と口を開こうとした。
「そ……その穴については」
彼は、ふうっと溜息をついた。
「やはり、貴様か」
ぐいっと、何かを掴みだすように。
「何しに来た」
「いてえいてえ!! 木崎! もうちょっと加減しろ!!!」
叫びながら出てきたのは。
やはり小さなサイズで(あ、木崎さんは基本的に、生活するのに面倒だから、普通の人サイズになってもらっている)、それなのに、妙に態度のでかい……それが、こっちをみて、にっと笑った。
「……お、人か!」
「……あんた、誰?」
(2011/2/23)