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後からするから、後悔

一人暮らしが戻ってみると、落ち着いて考える余裕が出てきた。

日常は、つつがなく、変わりなく。

まあ、食費とかは減っただろうか。それと、会話の数。

帰ってくれば、相手がいないのだから、圧倒的に口数が減る。

深夜の訪問以来、木崎さんはおろか、勅使河原さんからのコンタクトも一切なく、私の部屋は酷く静かだった。

二人とも何も言わなかったけど、留守にするって事は行く先は多分、魔界なのだろうし、二人揃って、普段なら戻れない筈の道を戻っているって事は、かなりの緊急事態――例えば世界の存続にかかわるような、そのくらい大きな何か――が起こっているのだろうというのも予測はついた。

二人が教えない理由は、そう、例えば、心配をさせないように、か。

それとも、部外者なので口にする必要がない――もっと積極的に、言えない、そのあたりか。

其処まで考えて。


つきん、と痛みが走った。


「んっ」

思わず押さえたのは胸だけど、別に怪我をしているとか、病気をしているとかそういう訳じゃない。

わかっている。

ずっと認めないで来たけど。

でも、ずっと前から、わかってた。

あの人が――あの人達が。

好き、なのだと。

部外者、なんて思っただけで、痛い、そのくらいに。

好きにも、種類があって、likeとloveじゃ、温度も違う。どの種類の好きなのかと問われると、正直自分でもわからない。友情というか、家族愛的な、好きなのかな、とは思うが、それだけと言い切るには、何かがおさまらない。

あやふやで、もやもやとしている自分の気持ち。

もう一度彼らの顔を見たら、答えは出るんだろうか。

ただ、一つだけ。

このまま、彼らとの接点が一切無くなったとしたら。

苦しい。

私の中の何かが――それは、名前はわからないけれど、私という人間を作っている大事な一つで、欠けたらきっと、私は私じゃなくなる――消えてしまう。

そんな、確かな予感があった。

そんな事言ったら。

木崎さんは、きっとあの無表情で冷ややかな目をして、「フン」って笑うんだろう。

勅使河原さんは、「なんだぁ、恋か?」って豪快に笑って、違ーう!と、その背中を思いっきり叩いて。そうすると、木崎さんが不機嫌になる。

「喧しい」って。

ああ。

本当に、そんな声が、聞こえてくるようで。

握りしめたのは、木崎さんから受けとった、あの、赤の石。

不思議と冷たくなくて、かといって、熱い訳でもなく。肌に馴染むような温度のそれは、今日もゆらゆらと光が中で遊んでいる。



「出来ぬ事は言わぬ」

ふっと、記憶の中から蘇った声。

やっぱり三人で話していた時だった。

何でそんな話になったのか、遅刻についてから始まって、約束する意味とかいう、妙に高尚な話題になった。

その時、木崎さんがそう言ったのだ。

「おー、自信満々」

くすっと笑った私の頭をぴしっと指先で弾いて、フン、と顔を背けた木崎さんに、勅使河原さんが。

「まあ、そうだよな」

うんうん、と頷いた。

「守れねえ約束なんて、しないに越した事はない」

「まあねえ、だけど、不測の事態ってあるじゃないの」

「それくらい見通せぬでどうする」

勅使河原さんと顔を見合わせた。

自信満々どころか、不遜の域だね、これは。そう目で話しかける。そうだなと、相手の目が頷いていた。

「それにさ、守れないとしてもだね、約束が、励みになるっていうか、あるだけでいいってケースもあるじゃない?」

それだけで生きていける事だってある、そう言いたかったんだけど。

「好かぬ」

木崎さんが頭を振った。

「策としての口約束なら幾らでもするが……そうではない場合、そのような言葉は口にせぬわ」

「木崎の場合は、策略だって人を騙すもんな」

「人聞きの悪い、嘘は言っておらぬ」

真実も言ってはおらぬが、と木崎さんは、口元を歪めた。

「うっわあ、悪党」

笑いが止まらないのは、きっと、お酒が入っている所為だ。そう、単なる酒の席の雑談。

「必要な場合は、という意味ぞ」

「なるほど、必要なら悪人でも何でもなる訳ね」

「……ああ」

頷いた木崎さんの手にあったグラスの中身が、一気に空になった。

見据えるという表現がふさわしい視線で、此方を見る。

ああ、この目を何処かで見た事がある。

あれは、年末だっただろうか。勅使河原さんが来た日。

「そなたとの、此処での暮らし、悪くない、という事よ……」そう言って、私を見た時、木崎さんはこんな顔をしていた。

等と思っていたら、目の前の形のいい唇が、開いた。


「私とて、騙したくない相手もいる、という事ぞ」


なんだか疲れた声だった。

木崎さんらしくない、と思える声だった。

私はあの時、なんて返しただろうか。

難儀だねえとかなんとか、そう言って、木崎さんの視線を外して、自分をグラスを干した気がする。

勅使河原さんは……そう、勅使河原さんは、珍しく何も言わないで手酌で自分のグラスを満たしてた。

思い出した場面が、ざざ、と頭の中を流れる。

口の中が苦い。後から悔やんだところで、何も変えられないというのは、なんてまずい味がするんだろう。

何を言ったらいいのかはわからないけど、でもわかる。

あの場で言うべき言葉は、そんなものじゃなかった。何か、あの人に届けなくちゃいけない気持ちがあった。そんな気がして、それが苛むので、口の中の味は、ますます苦くなっていく。

せめてどうして。

この間来てくれた時に、もう少し何か言えなかったのだろう。

次が、もしも次があるのなら。


出来ない約束はしない。

だとしたら。

先日の訪問で。

またね、とか次を予想させる言葉を何も言わなかった。

かといって、これで最後だという言葉もなかった。

あの人との約束は、只二つ。

一つは、誕生日におめでとうと言ってくれる事。

もう一つは。

大事に持っていろと言われた石が、またゆらゆらと、光った。

「ねえ」

返事はないとわかっていても、口にせずにいられなかった。

「大事に持ってるよ、持っていたら」


――私達の繋がりは、切れない、そう思っていても、いいのかな――

(2011/6/28)

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